シン・ケンチク

青木淳(建築家)

2 その、全体において感覚される手続的幾何学性

fig.3──手前に児童館、奥に4棟に分かれた小学校・中学校[撮影=山岸剛]

明確なグリッドに乗っているが機械的ではない、ということは、建築全体にも見てとれる。

校舎全体(「全体」には、校庭に面して建つ体育館棟と児童館も含まれるべきだろうが、ここではそれらを除いた小学校・中学校部分を「校舎」と呼ぶ)の平面配置は、大まかに言って、4列の横長桝目による市松で、各列の建物の幅はどれもが同じ、27モジュールだ。長さは似通っているが、兄弟姉妹のようにちょっとずつ違う。88モジュール、84モジュール、78モジュール、79モジュール。
断面的には、1段を4mの高低差とする4段の仮想グリッドが引かれている。校庭から数えて最初の列の建物(第1列)が下から1段めと2段めを使った2階建て。次の2列は連結され一体の建物(第2列と第3列)となっているが、これは2段めと3段めの2階建て、最後の列の建物(第4列)が3段めと4段めの2階建て。
平面的、断面的に、すべてがきちんとグリッドに乗っている。

しかし注意して見れば、平面的な列の配置の層にもう1層、別の層が重なっていることに気づかされる。
まず、第3列と第4列が、5モジュール分、噛み合っている。この5モジュールというのは、先の「ワークスペース」の窓側の空間の幅。その幅が、第4列と第3列をまっすぐ串ざす廊下として使われている。つまりここで、5モジュール幅の糊代という層が重なっている。
その一方で、第2列の手前2階には、テラスが細長く、5モジュール幅で張りついている。テラスは海を望む格好の場所となるだけでなく、それがなければついつい無機的になってしまいかねない建物群の、校庭側からの姿に絢をつけている。
このテラスの下は、庇空間となった外廊下として使われる。そこに向かって、第1列の右端から、背の低い渡り廊下が伸びていき、その庇空間に吸い込まれる。5モジュール幅の内外の廊下が、こうして形成される。外付けされた縁としての、5モジュール幅の糊代がここに隠されている。

fig.4──手前が第3列、渡り廊下で繋がれた左奥が第4列、右下が第2列[撮影=山岸剛]

fig.5──右上がテラスの張りついた第2列。画面奥、中央に第1列、左に体育館[撮影=山岸剛]

このように、内挿された廊下と外挿された廊下が、対置されているわけだが、市松は、建物の市松とネガポジの関係で、中庭的外部空間の市松をももつ。そしてこの内挿/外挿の違いが、そのままこの外部空間の幅の差となって現れる。第2列と第4列との間の中庭の幅が22モジュールであるのに対して、第1列と第3列との間は27モジュールと広くなるのだ。
そして、その広さを利用して、第2列の幅11モジュールの「ワークスペース」がそのまま、第3列の手前まで延長され、テラスとなる。このテラスが、校舎全体の昇降口に面する前庭となる。ここにも糊代が、ただし今度は11モジュール幅のゆったりとした糊代が隠されている。

fig.6──正面に第2列と昇降口。左に第3列、右下に第1列[撮影=山岸剛]

テラスの第1列側には擁壁があって4m落ちる。そこが第1列1階にとっての、16モジュール幅の裏庭になる。その一方で、第4列の第2列側にはテラスはなく、すぐに擁壁になっているので、第2列の裏庭には22モジュール幅としっかりとした大きさが生まれる。糊代は、室内だけでなく、外構においても擁壁の位置に関わり、緑の庭のあり方に変化をつくりだしている。

fig.7──左に第2列、正面に第3列、右上に第4列[撮影=山岸剛]

糊代は横列方向だけにあるのではない。縦列方向にも、糊代が一箇所、ある。それが第2列の建物と第3列の建物がつながる箇所だ。外形としては、単に2つの列が横並びに接しているにすぎないように見える。しかし、その内部に2つの列を縦方向に貫く糊代が隠されている。

その糊代の幅は14モジュールで、教室と同じ幅だ。この糊代は、校舎全体のなかで要の位置にあるというだけでなく、ひとつの特異な空間となっている。まず、左右の壁が厚く、基本的に大壁で、白く塗られている。防火扉も見えるわけだから、それらの壁が耐火性能を持ってつくられたことは想像に難くない。
上階の天井では梁が隠され、シナ合板の天井面が、2(ふた)山分、切妻形が並んでつながった形で伸びている。中央の谷の部分は、滑らかな凸曲面として処理されている。この建物で(たぶん)唯一の曲面だ。頭スレスレのところにある、その曲面の、なんとも言えない艶かしさ!(頭がぶつかると危ないから曲面としたという、いたってプラクティカルな理由だっただろうこともまた、想像に難くないわけだが。)

fig.8──第2列と第3列の糊代、上階[撮影=筆者]

とはいえ、第2列の建物と第3列の建物の間で、防火区画を形成するということもできたはず。そうはせずに、こうして縦方向に伸びる空間が設けられたのは、糊代という層を横列で重ねた以上、縦列にも適用しないとおかしい、というような、首尾一貫性を求める論理が働いているからだろう。
形式的首尾一貫性の追求が、空間認識の捉えにくさ、こう言ってよければ、空間の読みの解放あるいは豊かさをもたらしている。
往々にして見られる「コンセプト」の可読化を目的とした一貫性の追求=単純化と逆の位相にある、形式的首尾一貫性である。

(蛇足になるが、この箇所の下階では、教室の前に設けられた、「ワークスペース」と同じ語法が見られる。幅広の長い空間のほぼ中央に並ぶ列柱が現れるだけでなく、その柱に挟まれるベンチという仕掛けもあるからだ。そのおかげで、空間の退屈な並置というのではなく、ワークスペースが、折り曲がりながら蛇のように続いていくという感覚が、校舎を貫くこととなる。)

fig.9──列柱間のベンチ[撮影=筆者]

こうして、建物の全体配置もまた、緻密に、繊細に、スタディされた寸法体系ばかりがある。それはなにをも伝えない。ただ「くうき」だけが伝わってくる。
機械的というのとは逆の、徹底的に調整された複雑なつくりである。


201908

特集 乾久美子『Inui Architects』刊行記念特集


建築のそれからにまつわるArchitects
シン・ケンチク
なぜそこにプーさんがいるのか──『Inui Architects──乾久美子建築設計事務所の仕事』書評
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