建築のそれからにまつわるArchitects

乾久美子(建築家)+中山英之(建築家)

「小さな風景からの学び」から建築をつくる

司会──LIXIL出版の長島と申します。今日は乾久美子さんの『Inui Architects──乾久美子建築設計事務所の仕事』(LIXIL出版)と、中山英之さんの『建築のそれからにまつわる5本の映画 , and then: 5 films of 5 architectures』(TOTO出版)、このTOTOとLIXILの2社による新刊の合同刊行記念イベントとして、乾さんと中山さんにお話しいただきます。

この2冊は、おのおの優れたデザイナーによって個性的なブックデザインがされているわけですが、同時にお二人の建築のあり方をよく反映しているようにも思えます。乾さんの作品集は、テキストと写真、図面のページをはっきり分けた明快な構成と、強い全体性を持っている。一方、中山さんの作品集は断片的なつくり方で、5本ぶんの映画のパンフレットをラフに束ねたようなかたちです。今日はこの2冊を起点にしつつ、お二人の建築観の深いところにまで話が進むことを期待しています。ではまず乾さんから、簡単に『Inui Architects』のご説明をお願いします。

『Inui Architects
──乾久美子建築設計事務所の仕事』

『小さな風景からの学び
──さまざまなサービスの表情』

──今日はお集まりいただきありがとうございます。まず『Inui Architects』の前に、それまでつくらせていただいた別の本の話をします。2014年に『小さな風景からの学び──さまざまなサービスの表情』(乾久美子+東京藝術大学乾久美子研究室編著)という本が、こちらはTOTO出版から刊行されました。建築家がつくったのではないけれども、誰しもが素敵だと思う建築や場所を「小さな風景」と呼び、それを全国各地で見つけては撮影した膨大な写真群を分類してまとめたものです。同時にTOTOギャラリー・間で展覧会「小さな風景からの学び」(2014年4月18日~6月21日)を行い、18,000枚あまりの写真を展示しました。この一連の活動は、自分にとってどういう建築をつくりたいのかを考える機会となり、たいへんに意味のあるものとなりました。

「小さな風景」の多くは、そこに住む人たちが日常のものを上手く利用して、楽しく場所を使っている事例です。このように偶然によって生まれた素晴らしい風景がある一方で、建築家はどうしても計画者の立場でしかものをつくることができない。とくに公共建築を設計する際には、計画者がどれだけいろいろなワークショップを開いても、ユーザーと100パーセント同調しながらつくることはなかなかできません。どうすれば「小さな風景」のような建築をつくることができるのか。《唐丹小学校/唐丹中学校/唐丹児童館》(2018)や《延岡駅周辺整備プロジェクト》(2018)、《七ヶ浜中学校》(2015)は、そのように悩みながら進めたプロジェクトです。今回の『Inui Architects』は作品集ですが、同時にこの「小さな風景」をどうやって建築設計に生かしていったのかを説明した本です。

『Herzog & De Meuron
1992-1996: The Complete Works』

『TYPOLOGIES』

菊地敦己さんにデザインしていただいた本は明快な形式を持っています。淡々と情報を網羅しつつ、見開きの2ページで一つひとつの情報が完結するように、なるべく正対称のレイアウトでつくられていることが特徴です。こうした完結性は、そこから何かを見出してもらう、つまり読者に受け取り方を委ねるようなつくり方でもあります。じつはこの形式は、雑誌『JA』87号(2012年10月)で私の建築作品を特集していただいたときに採用したもので、ヘルツォーク&ド・ムーロンの作品集『Herzog & De Meuron 1992-1996: The Complete Works』(2001)や、ベッヒャー夫妻の写真集『TYPOLOGIES』(2004)などに参照元があります。今回作品集をつくるにあたっていろいろな作品集の形式を調べましたが、作品集としての物語性をつくったりすることがどうしてもできないと思い、淡々と情報を載せるこの形式に落ち着きました。結果として、以前から感心していた作品集の形式を踏襲することになったわけです。


201908

特集 乾久美子『Inui Architects』刊行記念特集


建築のそれからにまつわるArchitects
シン・ケンチク
なぜそこにプーさんがいるのか──『Inui Architects──乾久美子建築設計事務所の仕事』書評
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