第6回:建築情報学の教科書をつくろう

池田靖史+豊田啓介+石澤宰+木内俊克+角田大輔+堀川淳一郎+藤井晴行+渡辺俊+中西泰人+三井和男

コアメンバー4名による目次の提案

堀川淳一郎──堀川です。普段は個人のプログラマーとして建築に関わったり、さまざまな活動をしています。そうした立場から、教科書の構成案をご紹介します。

池田先生からお題をいただき、最初は建築情報学の定義がまだ定まっていないなかでそんな大層なものはつくれないと思いました。自分が関わっている技術や見ている範囲も限られていますので、それを補うために「建築」と「情報」という単語を分離して、「建築のための情報」、「情報のための建築」の二方向を受け入れられるような目次構成を考えました。教科書的な本をいくつか読んでみましたが、その結果、Glenn BrookshearとDennis Brylowによる"Computer Science: An Overview"(1985)の目次が、建築情報学としても利用できるのではないかと思いました。目次のキーワード自体は情報系の方に寄っていますが、それぞれが建築や都市の情報との関係を示すという意味で踏襲できそうです。ここで気をつけたいのは、建築情報学の範疇の研究や実例を切り取るために利用しているだけで、コンピューターサイエンスの基礎技術やコンセプトまでも扱うのではないということです。スケールはディテールから地球単位まで、またデジタルもフィジカルも、そして基礎研究から実務まで扱える、オープンなものであったほうがよいだろうと考えてこのようなかたちにしました☆6

☆6──[池田]コンピューターサイエンスを概観する構成をそのまま建築関連分野に当てはめると建築情報学が見えるという非常に面白い試み。実際にまったく違和感なく見えるし、「はじめに建築ありき」ではない視点を鍛えるという意味での有効性もよくわかる。[角田]コンピューターサイエンスとの比較をしていくことで建築のアプローチを再構築する。相対化によって、何ができて何ができてないかを把握しやすい。

>>> 教科書目次案|堀川淳一郎

1「ストレージ」という章では、建築や都市を介することで可能になるデータの圧縮や暗号、データセンターなどによる情報ストレージ、あるいは建築のためのさまざまなデータのストレージを扱います。2「データ」も重要で、例えば建築や都市の諸々のデータ形式に始まり、センサー含めたデータマイニング、建築・都市にまつわるネット上の情報収集や検索などもここに該当します。3「オペレーティングシステム」という章では、OSとしての建築や都市を考えてみたいと思います。複雑な要素を連携するモビリティなどがありますし、そのためのセキュリティプロトコルも関係してきます。世界的にはすでにAmazonやGoogleが取り組んでいる可能性があります。4「ネットワーク」の章では、「IoT」と呼ばれているような建築や都市に関わる通信や、デバイスによるネットワークの問題、また地下空間などの空間的制限があるところでの通信やGPSの話が関係します。5「アルゴリズム」は、解析や最適化アルゴリズム、建築や都市の諸々の手続き化に関する章です。6「言語」という章では、建築や都市におけるビルディングコードやBIMスタンダードなど独自の言語や、解析のための単位を扱います。あるいは建築や都市のためのプログラミング言語が考えられるかもしれません。7「エンジニアリング」の章では、構造や環境の情報を利用したエンジニアリング、あるいはソフトウェア開発のためのエンジニアリング、ものづくりやファブリケーションのためのエンジニアリングも考えられると思います。8「コンピュータグラフィックス」の章では、造形、CADやBIMのソフトウェアやその歴史、建築や都市の可視化やシミュレーション、最近であればARやVRによるインタラクティブなものも考えられます。9「情報管理」の章では、建築や都市を管理するための情報プラットフォームについて、また建築や都市のバージョンコントロール、いかに履歴を残すか、改変していくことができるかなどのトピックを扱います。GPSに依存したデータベース、あるいは建築分野における情報共有のためのドキュメンテーションもここに入ると思います。10「オートメーション」の章では、人工知能を使った最適化、建設ロボット、プロシージャリズムなどの諸々を扱います。以上の10章です☆7

☆7──[豊田]まさに今、既存の建築領域の「外側」に拡張しつつある領域の構造を網羅するとこうなります、という見本のような内容。この「未知」領域の体系化を示して探索の地図をつくるというのは重要な役割のはず。[石澤]情報における「体系」を体得するうえでこの構成は有効だなと。教科書としてフリーズしたかたちにしたとき、個別の内容や順序だけでなくその体系や関連付けから背後にある思想も学ぶことができ、多角的に刺激を与えられてよいと思う。

堀川淳一郎氏

石澤宰──竹中工務店の石澤と申します。今日は遠いところまでありがとうございます。先ほど堀川さんから、「建築のための情報」と「情報のための建築」の二方向があるという話を聞いて「しまった」と思いました。事前にそのことに気づいていればまた違ったものになっただろうと思います。

私は13年間、ゼネコン設計部にいて、実務のなかで情報について考え、取り組んできましたが、今回、教科書を構成するにあたってのポイントは「在来建築手法からの拡張をめざす」です。建築の世界は、幅広く、いろんな年齢層の人がいるなかで、建築情報学のような新しい技術、話題をいかに既往の手法と接続するか。私の立場からは、今、そうしたことが特に必要とされているように感じます。

意識したことは三つあります。一つ目は「守破離」です。コンピュテーショナルデザインやBIMの領域では、「破」や「離」に関心をもった人が多いと思いますが、教えたり学ぶのであれば「守」からだろうと思っています。「守」を学ぶことで、今後さらに新しい技術が出てきても見通しがよくなるだろうと考えました。二つ目は、教科書と授業の関係です。大学の授業でできることは本当に限られているので、基本的に取捨選択が必要なのですが、今回それはいったん忘れて、たとえ500ページになったとしても長期間読むに耐えられるもの、あとで戻ってこられるようなものとして考えました。また、演習によって身につけられるほうがよいので、問題がつくれるようなセクションを設けています。三つ目は、教科書という系が閉じていないことです。ここで参照したのは、オーストラリアとニュージーランドで採用されているBIMのスタンダード「NATSPEC」です。これはとてもうまくできていて、世の中ですでに確立されているスタンダードは導入しながら、自分たちの地域性や文化に合ったものを接続するかたちです。編集の手間を減らし、互換性が必要になるスタンダードを増やさないという点でメリットがあります。無償で手に入るデータを多く参照し、世界的にオープン化が進む情報の流れに合わせるとともに、自分でデータや標準を探してこられる力を身につける、勘を働かせる力を養うことを考えました。

>>> 教科書目次案|石澤宰

まず、全体は授業の回数を意識して、14セクションにしています。1は「基礎知識」で、ほかの人からどんな反対意見があろうと入れたいものです。1.1「系の獲得」は、建築を地面に置く時の置き方で、敷地を座標系で定義し、通り芯を振っていくわけですが、その記述方法はひとつではありません。あるいは地名地番と住所表記との違いや、建築の原点をどこに置くのか。面積も通り芯によるものと壁の内法では違います。単位系や縮尺の問題もあります。そして、サーフェイスやソリッドなどのオブジェクトの類別と定義もここで併せて扱ってしまいます☆8

☆8──[堀川]「系の獲得」など、非常に面白いテーマだなと思いました。バーチャルな空間の系もまた、物理空間とは少し違った独特なものがあって、それらと比較しても面白そうだなと。[木内]「系の獲得」いいですよね。世界の別の見方がいくらでもある、設定ごとに同じものから見えることが変わってくる。環世界的な話にも接続する奥深いトピック。

2は「デザインの拡張」ということで形を意識しています。2.1の「マス・カスタマイゼーション」は演習問題向きですが、乱数やランダム性を扱います。2.2の「シミュレーション」は、風や熱を扱うためのセクションです。2.3は「構造の解析と実装」です。構造解析は、申請に必要なものというだけではなく、応力やたわみの確認というレベルでも使えます。2.4はまだ私も噛み砕けていないのですが、「解法の習得」です。機械学習や最適化手法、有限要素法などの原理を知っておくことが大事です。2.5は「造形数理」ということで、曲線や面の定義や合理化などです。2.6が「可視化と出力」で、少し要素が多いのですが、レンダリングやVRやAR、3Dプリンタまで入れています。

3は「コラボレーション」で、建築において必ず必要になるのですが、特に今の学校であまり取り組まれていない部分だと思います。3.1は、ルール設定、オブジェクトの分類や名前のつけ方、保存のしかたなど「標準の導入」です。3.2は「BIM」です。ここは個人的に書きたいことはたくさんありますが、BIMの概念からはじまり、LOD(Level Of Detail)やBEP(BIM Execution Plan、BIM実行計画)といった指標、さらにその先に協業があって、図面をつくることまでです。3.3が「データ管理・セキュリティとアーカイブ」で、データ管理の法的責任、保存手法、セキュリティの問題などについてです。建築のデータは、漏洩だけではなくそれ以上にセンシティブな部分があります。そして、つくったデータを社会に活かしていけるかどうかも重要です。3.4は「非ジオメトリデータ」で、その1として「属性」。いろいろな施設のデータや数量、マテリアルなど、形以外の情報の扱いについてです。その2は「ビッグデータ」です。多くの場合、そもそものデータが十分に整備されていないのですが、ここまで教科書を進めてくることで、ようやくビッグデータを考えることができます。

最後の4は「歴史的位置づけ」で、4.1は「建築とコンピュータの歴史」です。建築においてどんな情報処理、情報伝達、情報管理がなされてきたか、体系をもって書かれているものは少ないと思います。あとはその限界を考えるうえでも「人間の処理の優位性」や「美学の記述不可能性」「人間の創作意欲」といった項目を入れています。そして、4.2「今日の社会的課題への解法の適用」では、「スローなメディア」である建築に何ができるかを考えます。最後は「建築情報は職能たりうるか」という問いを投げて終わりたいと思います☆9

☆9──[豊田]石澤さんはやっぱり実務の体系をしっかり解像度高く見ている感じ。BIMを基軸に今まさにより明確で具体的な実務の拡張に必要な教科書はこれ、という感じ。[角田]こんな本があったら個人的にぜひ欲しい、という内容。建築設計資料集成のよう。[池田]ご自身の立ち位置を考えて、あえて実務的なベースからの建築情報学を考えてくださったのだと思います。それでいて最終章に至ると「創造論的側面」によってもう一度混ぜかえすあたり確信犯だなあと思った。[石澤]「確信犯」はご指摘の通りで、思考を拡張したうえで主体を取り戻す、ということは教えられるし、教えておくべきだと思いました。

石澤宰氏

木内俊克──私は2018年3月まで東京大学の建築学科で助教をしており、小渕祐介先生のもとでコンピュテーショナルデザインを扱いながら、情報と建築という問題に関わってきました。石澤さんのあとでは、もはや何も話すことがないという感じもありますが(笑)、私の案も紹介します。

私の立場は、きちんとした教科書を組み立てるという発想ではなく、いかに実際に学会を立ち上げるか、関わるかを考えたものです。やはり各時代にはそれぞれのモチベーションが核にあるので、その周りにある知見のネットワークをなんとか手繰り寄せ、結果的に何かしらのまとまりとして見えてくるようなかたちが理想的なのではないかと考えました。そして、学会と教科書が並走しながら、ダイナミックに更新されているもの、随時編纂されているようなかたちが面白いと思います。そういう意味で今回の教科書は、初学者のためではなく、ある程度実務や研究をやっている人の掘り下げや、伸びしろの開拓をするために特化したものとしてレベル設定をしました。

>>> 教科書目次案|木内俊克

一つ目のセクションは、1「情報と媒体」と2「デジタルアーカイブ」です。そもそも情報というものの概念をきちんと掘り下げておかないと、一般的理解の先にいけないと思います。「記号表現と記号内容」や「絵画と支持体」、「セレンディピティ」などと書いていますが、どこに情報が発生するのか、人にとって情報とは何かといったところからスタートしています。2017年に「デジタルアーカイブ学会」が設立されたばかりですが、あらゆるものがデータになり、ストレージに入れられ、解析の対象になりうる現代に、それを特化して掘り下げるイメージです。

二つ目のセクションは、3「CAD」と、4「測定/表記法」です。やはり建築にとっての大事な情報として、数値で表せるものと仕様のようなテキストの両方を見ていく必要があると思います。歴史的に見返していく部分も組み合わせています。

三つ目は、5「プログラミング」、6「データマイニング」、7「モデリング」で、データの取り扱いや、それによって可能なことを考えるセクションです。プログラミングの言語の種類から、パタンを見出すこと、モデルとして組み立てることを原理的に考える章です。例えばモデリングといってもさまざまなので、ラスター/ベクターや、縮尺などといったキーワードを入れています。

次の四つ目は、8「BIM」と9「シミュレーション」で、モデルやパタンを獲得したあとに、現実のデータとどう突き合わせて、何をしていくかに関わる章です。このあたりのことは石澤さんにお任せしたいと思います。

五つ目のセクションが、10「ファブリケーション」と11「インターフェース」です。現実に情報をアウトプットし、それをさらに読み込んでは情報化するというインタラクティブな方法論が、特に建築をつくる、あるいはつくりながら考えるレベルでは非常に重要ですし、実際に今、このあたりがアツいところだと思います。

最後のセクションが、12「ゲーム」、13「サイバネティクス」、14「コミュニケーション」です。これらは、さまざまなインタラクション以後の話で、情報を介したインタラクションが集積したり反復していくなかで起こる変化を語るパートです。それぞれ非常に重要なのですが、説明しはじめるときりがないので、項目をご覧いただき、中身を察知していただければと思います。私がこのキックオフ準備会議の第3回でやろうとした議論も、このセクションに関係していました。身体が情報の系のなかでどのように働いていて、そこにいかに介入していくか、身体や人工意識の研究者のお話も聞きながら考えていました☆10

☆10──[豊田]木内さんの志向を反映した、デジタル技術が切り開く意味論的な領域や認識、コミュニケーションに接続しようという意図が見える内容。むしろ抽象的な議論が扱いやすくなる可能性に期待する大事なスタンス。[角田]まさに「知見のネットワーク」で、現段階で建築情報学の核となるようなキーワードを選定したようなイメージ。それぞれを深堀りしていくだけでも、さまざまな領域に接続していく発展性を感じる。[池田]あとで挙げた「認知論的側面」を最も明確に意識しているのが木内さんの案でした。もともと人間の身体と情報的(観念的)存在のあいだを捉えていたのが「建築」の根源的な哲学性であって、それが情報論によって展開されたのが建築情報学ということになります。[堀川]それぞれのセクションが、現代におけるモチベーションの高いテーマだと、個人的には即時性(リアルタイム性)や統計(データマイニングだとデータ集めのみだと思ったりもするので)に関わるものもほしいところですが、木内さんの考える現代の建築情報の核のかたちと考えると面白いです。

最後に、こうした分野の学問は情報技術が建築にどう使えるか以上に、建築と情報について掘り下げて考えることにより、分野自体の刷新や需要を押し広げていくものでもあることを指摘して終わりたいと思います☆11。その具体的例としてひとつ挙げるとすれば、建築家のエヤル・ワイツマンが率いる研究組織「フォレンジック・アーキテクチャー」でしょうか。人と環境を包括的に記述する建築的視点を情報技術により掘り下げ、戦争犯罪の法定調査に協力したり、さまざまな活動を行っていて、2018年にはターナー賞の候補になっていました。より詳しくは、中村健太郎さんが書いている書評もご参照ください。一つひとつのトピックについて掘り下げたい人たちが集まり、特化したものをネットワークさせ、新しい知に繋げていく一例としても面白いと思い、紹介しました☆12

☆11──[石澤]10,000「いいね!」したい! 建築の世界では、読み替え・誤読による発展があちこちに見られる。誤読と言うと印象が悪いけれど、周辺分野のさまざまな要素を勝手に引用・解釈して新しいものをつくる雑食なクリエイティビティは建築の原動力のひとつ。つい建築情報はツールかスキルかといった話に陥りやすいけれど、ファームウェアの更新に繋がる類であるという視点を求めたい。
☆12──[池田]建築情報学の可能性を考えるうえで象徴的な例。建築の知見が情報の枠組みで新たな利用価値があることを示している。

木内俊克氏

角田大輔──日建設計のデジタルデザインラボというところで働いている角田です。日常的に建築情報学に関連する実務に携わっています。今回の開催に至るまでのコアメンバーのやり取りはメールで行われていて、僕が最後に目次案を出したのですが、その時すでに提出されていた堀川さん、石澤さん、木内さんの目次案を見ながら、少し違った視点の提供を意図しました。

普段の仕事で特に意識しているのは、道具を自由に使いこなして分野を横断することです。デジタルかアナログかということは関係なく、その両方があるなかで思考をドライブさせていくことが大事だと思います。デジタルデータをつくってはそれをアウトプットして、フィードバックをくり返すラピッドプロトタイピングを普段から心がけていますが、そうした流れのなかでは、やはりすべての核に情報があり、いかにさまざまな物事に繋げていくかが重要です。

建築情報学は、これまでとこれからのハブとしての学問になるべきだと思います。今後も新しい技術や知識がどんどん出てきますが、それらを闇雲に導入するのではなく、背景を理解し、相対化する必要がありますし、起こる問題をどう認識してどう対応するかについてのリテラシーを身につけることを考えながらつくりました。目次のコンセプトは「建築と情報に関する認識の共有基盤構築を目指して」です。技術が必要とされる背景への認識を共有できていれば、領域横断が可能であり、時代の変化にも対応できると思います。詳細な知識については各自がここに接続していくことを前提として、最初の核をどうつくるかがポイントです。

ティム・インゴルド『メイキング──人類学・考古学・芸術・建築』(金子遊・水野友美子・小林耕二訳、左右社、2017)に、「単に情報を提供するだけでは、知識を得ることはおろか物事を理解することすらできない」(pp.13-14)と書かれています。まさに今言ったことで、釘を差されたようでした。何かを知ることによって学んでいくというループが建築情報学の教科書でも重要です。

また、MITメディアラボのニール・ガーシェンフェルド教授による「ほぼ何でも作る方法」という有名な授業があります。ものづくりのために必要な知識を14週という短い期間で学ぶというハードな授業で、すごく勉強になるため、いろんな人が授業を受けています。こうしたアプローチが頭の片隅にありました。

>>> 教科書目次案|角田大輔

目次は10章で構成しました。1章は「History:テクノロジー、ものづくりと建築の歴史」で、建築とテクノロジーとツールの歴史や互いの関係性についてです。2章は「Input:考えをインプットする」です。項目を挙げると、Drawing、Modeling、Coding、Procedural、Generation、Modificationで、線から立体になり、言語的に書くこと、さらに生成やその編集までの流れがあります。3章は「Import / Export:多様な環境を構築する」です。外的な環境へ拡張していくために、周辺データや環境データなどを取り込んでいきますが、そこではやはりフォーマットの知識も重要です。4章は「Predicion:シチュエーションを想定する」で、前提条件を知るためのResearch、予測のためのSimulation、そしてAnalysisという項目があります。

5章は「Connection:環境を拡張する」です。ここまでの4章では自分のパソコンでできることが主でしたが、以降はほかのデバイスと関係性をもち、段々と世界が広がっていくイメージです。いかに接続するかというExtension、データを通信していくためのProtocol、デバイス間をまたぐためのConvert、外部からデータを取ってくるためのScanning、センサーを使ってデータになっていないものを入手するSensingという項目があります。6章は「Output:データをアウトプットする」で、フィジカルに表現することにまつわるToolや、分解してつくるFabrication、Printing、材料、素材の話としてMaterialがあります。ここまでは、ものをつくるためのさまざまなツールの話が多く、それらがなくても可能なことかもしれませんが、使うことで世界が広がっていくと思います。

7章は「Collabolation:みんなでつくる」で、共有のためのRuleやNotation、それをシステムにしていくことについてです。8章は「Communcation:アイデアを伝える」で、つくったものを他人に伝えるためのセクションです。最近では、Webのブラウザやゲームエンジンというのも重要になってきていると思います。9章は「Archive:保存と再利用」で、バージョンコントロールやデータクレンジングが必要になってきますし、最近だと機械学習やAIも関係してきます。最後の10章は「Copyright:権利と継承」で、建築情報学的にはおそらくつくって終わりではなく、保存して第三者と共有したり、継承していくことも非常に重要なところだと思います。以上です☆13

☆13──[豊田]角田さんも、クリエイションを明確に目に見えるかたちに落とし込む普段の実務の延長線上にある必要性、可能性を切り開く内容。これほどきれいに各様の方向性や違いが見える提案になるとは、このたたき台自体にとても価値がある。[池田]本当にそれぞれの方向性が出ていて、わかりやすかったですね。ものをつくるという「技術的側面」を基軸とすることで、不定形で捉えどころの情報というものをわれわれに理解・定着させるアンカーポイントになることがよくわかる。[木内]9章は実務的である一方、非常にクリエイティブな展開可能性も含まれているという印象。堀川さんの回でいえば、「ストレージ、データ、OS、情報管理」あたりに対応する部分、僕でいえば「情報と媒体、デジタルアーカイブ」あたり。まさにいま本当に面白いところですね。[堀川]角田さんの案は建築実務者による情報時代の建築の教科書という感じがよく出ていて、本当に存在しそう。[石澤]堀川さんは情報の獲得と演算に適した体系、石澤は在来建築スキルの拡張方向、木内さんは概念のコンポーネントを相互参照しやすく並べた順、角田さんはひとつのプロジェクトにも適用できそうなリニアに整った系。

角田大輔氏


201902

連載 建築情報学会準備会議

第6回:建築情報学の教科書をつくろう第5回:エンジニアド・デザイン
──一点突破から考える工学的プローチ
第4回:コンピュテーショナルデザインの現在地第3回:感性の計算──世界を計算的に眺める眼差し第2回:BIM1000本ノック──BIMに対する解像度を上げるために第1回:建築のジオメトリを拡張する
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