第4回:コンピュテーショナルデザインの現在地

モデレータ:角田大輔(日建設計 DigitalDesignLab室長代理)
石津優子(竹中工務店コンピュテーショナルデザイングループ)+杉原聡(コンピュテーショナルデザインスタジオATLV代表)

建築を情報の観点から再定義しその体系化を目指す建築情報学会。その立ち上げのための準備会議が開催されている。「10+1 website」では、全6回にわたってこの準備会議の記録を連載。建築分野の内外から専門的な知見を有するゲストを招き、建築情報学の多様な論点を探る。連載第4回は、角田大輔氏がモデレーターを務め、実務の側面からコンピュテーショナルデザインの現在地をテーマに議論する。

- 本記事は、当日の記録をもとにキックオフグループメンバー(池田靖史氏、豊田啓介氏、新井崇俊氏、石澤宰氏、木内俊克氏、角田大輔氏、堀川淳一郎氏)による事後的な注釈(☆印)を付している。
- 準備会議に先んじて、メンバーによる対談と論考を「特集=建築情報学へ」に掲載している。本連載と併せて参照されたい。

角田大輔プレゼンテーション

角田大輔──私は日頃、コンピュテーショナルデザイナーという肩書で仕事をしています。今日はコンピュテーショナルデザインに関して☆1、これまであまり表立って議論されていないことを、いいところも悪いところも含めて「現在地」を議論したいと思います。ゲストは石津優子さんと杉原聡さんです。石津さんは、プログラミングを用いたジオメトリデザインエンジニアとして、設計と生産・施工をつなぐ領域で活躍されています。杉原さんは、トム・メイン率いるアメリカの設計事務所モーフォシスで実務を経験され、長いあいだアメリカの大学で教育にも携わられてきたコンピュテーショナルデザインの第一人者です。

☆1──[豊田]「コンピューテーショナルデザイン」はもとより、その他この界隈でよく使われる「アルゴリズミックデザイン」とか「パラメトリックデザイン」とか、そもそも「建築情報学」も定義がなされていないわけで、今回はあえてその前提でこの回を持ったわけだけど、そのあたりのターミノロジーの厳格化の議論も進めていかないとね。[石澤]この近辺の用語が徐々に発生してきて定義があやふやになっているという問題は確かに認識されていて、なんとかしようという動きがありますね。私がけっこう納得している定義はここにあるものです。

角田大輔氏

まずは私から、今日のガイダンスとしてお話をします。そもそもコンピュテーショナルデザインとは何かは、現段階でその定義も人それぞれ違います。建築の外では「Design In Tech」というイベントが2015年から毎年行なわれており、デザインの領域で、いかにテクノロジーを使うのかが議論されています。

そのなかで、デザインには3つの種類があると言われています。1つ目は「クラシカルデザイン」。従来通り、ひとつのものをいかにして美しく、格好よくつくるかというもの。2つ目は「デザインシンキング」。ユーザー中心のビジネスを設計するための、ビジネスの領域でよく語られている方法です。3つ目が「コンピュテーショナルデザイン」。対象や領域を限定してデザインするのではなく、あらゆる人に向いたデザインを提供するために、コンピュータ的な処理を必要とするデザインの方法です。

例えば、ウェブの領域には「レスポンシブウェブデザイン」という、デバイスや視聴環境の違いに合わせてデザインを施すというものがあります。また、今年話題になりましたが、ファッションの領域では「ZOZOスーツ」があります。従来は、S、M、Lという規定のサイズから人が選んでいましたが、ZOZOスーツは着る人に合わせた服の提供を可能にしています。

つまり「1対1」のデザインではなく、デザインシステムとして「1対n」に対応しようとしています。ひとつのものから、いかに多様なものを生み出せるか。Design In Techでは「インクルーシブ(包括的な)」がキーワードとしてよく出てきます☆2。さまざまな人を取り込む、包括的なものを、ひとつのデザイン、いくつかのデザインで応えることが問われています。

☆2──[木内]2000年代初期にはmass customizationという言葉がありましたね。自由に調節可能なユニバーサルなものと見ればモダニズムの正統的な延長上にあり、一回性の強いall uniqueなものに回帰していくと見れば、手仕事の復権のようにも見える。実装のレベルでは、その当時の作業の成果がようやくデザインやファブリケーションのインフラレベルに浸透しつつあり、まさにいまそのどちらともつかない状況が随所にあらわれてきているのかと。あるいはそのハイブリッドこそが、そのどちらでもない新しい「次」を生み出すような期待がある、ということでもあるでしょうか。

従来のデザインは、まず問題に対して答えを出すという道筋です。そこでは往々にしてデザイナーのスキル、アイデア、経験に依存しているので、答えの導き出し方はブラックボックスです。どのようにたどり着いたかはわからないけれど、最終的に答えが出てそれを評価する。一方、コンピュテーショナルデザインは、この第1回の準備会議でもキーワードとして出ていますが「プロシージャル型(手続型)」にしていかなければ答えにたどり着けません。そもそもコンピュータが処理できないからです。これはプログラマブルシンキングとか、プログラミング思考とも言われます[fig.1]

fig.1──ノン・プログラマブルシンキング(左)とプログラマブルシンキング(右)

これを実現するためには、メカニズムやルールを発見することが非常に重要です。プロシージャル方式のデザインフローはじつは簡単で、つくって、評価して、その結果をフィードバックさせてつくり直す、というやり方です。

従来のやり方だと、アナログに「右に動かし、左に動かし」と修正をしていましたが、コンピュテーショナルデザインでは、何千回、何万回と繰り返すことが可能です。ただし、その最終的な評価を、人間がやるのか、コンピュータがやるのかでも変わってきますし、いかにシステマティックにやれるのかがひとつの肝だと思います☆3

☆3──[石澤]コンピュテーショナルデザインに関わる仕事は、プロセスを手続き的に書き下す(+例外処理と戦う)という逐語訳的な側面が強い仕事や、新しい言語(ツール)を使うことでの意味や解釈の拡大を求める仕事や、ある人と別な人との意思疎通を可能にする通訳・超訳的な仕事など、解像度を上げていくと多様性がありますよね。それらを区別するフレームワークが欲しいけれど、そうこうしているうちに仕事が先に進化しそうな気もするし。

建築が複雑なのは、そこに環境的な要素を含めたものを評価指標としてフィードバックさせたり、構造や人の動き、施工などの要素が関係するからです。こうして複雑な要件になると、とにかくたくさんの解がつくれるものの、結局何がよくて何がわるいのかという話になりがちです。ここで示す例のものは、レイアウトを幾通りも自動で生成できるデザインのシステムをつくりました[fig.2]。この際、システムから生成されたものから選ぶだけではなく、最終的に選んだもののなかから微調整が可能なデザインの余白を用意しました。この余白を可変にする仕組みをつくったことが重要で、結果的には微調整を少しすることですんなりと決定しました。

fig.2──日建設計の設計グループのプロジェクトとその手法を紹介した「山梨グループの設計手法」展(2012)のためのレイアウトシステム[提供=日建設計]

コンピュテーショナルデザインで解を膨大に生み出していくことは、インプットやアウトプットを含めたデザインプロセスのつくり方次第で、いかようにもできます。でも解が増えるからこそ判断が曖昧になり、いかに評価・意思決定するかが重要な問題になるのです。実務レベルでは、さまざまな指標のなかで、どれをトレードオフするのかという議論になります☆4。そうした意味で、おそらく個々人が悩みながらデザインプロセスを日々つくられていると思います。今日は、こうしたあまり表に出てきにくい葛藤の部分も含めた問題を議論できればと思います。

☆4──[豊田]諸々、探索領域や複雑度が広がっても、最終的にわれわれ人間が理解できる量と複雑さの次元、時間という制限がひとつの絶対単位として機能するから、そのなかでいかに可能な情報の組み合わせで新しい価値を生み出す可能性を見つけ出すか、というひとつのゲームだよね。


201811

連載 建築情報学会準備会議

第4回:コンピュテーショナルデザインの現在地第3回:感性の計算──世界を計算的に眺める眼差し第2回:BIM1000本ノック──BIMに対する解像度を上げるために第1回:建築のジオメトリを拡張する
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