第2回:BIM1000本ノック──BIMに対する解像度を上げるために

モデレータ:石澤宰(竹中工務店)
提坂(平島)ゆきえ(Autodesk)

2. 教育系

Q2.1 学生の時からBIMを使っていれば建築の工法も視覚的に理解しやすい、など教材としてのメリットはあると考えますか。


提坂──南カリフォルニア大学では先進的にさまざまなソフトウェアを取り入れていましたし、それらに詳しい学生も多かったです。怖いもの知らずで吸収が早い学生のうちからそうしたものに触れておくことは有効だと思いますが、ソフトウェアそのものには栄枯盛衰がありますから、ある特定のソフトウェアを学生にお薦めすることはできません。私が学生の時にレンダリングに使っていた「Form Z」を使う学生はいまでは少ないと思います。次々に新しいソフトが登場するので、特定ソフトウェアに特化した知識そのものは、就職してから役に立たなくなります。学生にとってより本質的なのは、新しいツールを怖がらない姿勢や、知らないなりに何に使えそうなのかと勘を働かせ、実際に使ってみるというフットワークの軽さだと思います☆22

私が学生にお勧めしたいのは、特定のソフトウェアに精通することではなく、コラボレーションの環境での共同作業に慣れておくことです☆23。あるプロジェクトを複数人でやるときに、メール添付や学校のサーバーを介して情報をやり取りするのではなく、Googleドキュメントやドロップボックスなどを使いながら、自分たちで共有の環境や仕組みをつくることに慣れておくことにこそ意味があると思います☆24

☆22──[木内]これはBIMに限った話ではなく、情報技術全般に言えること。自分自身、3Dモデラーとそこに差し込むビジュアルプログラミング環境は常日頃使っているが、ネット検索とのあいだを行き来しながらとにかく色々試してみることで「なんとかなる」感覚が身についてから、圧倒的に視野が広がったと感じている。
☆23──[池田]ひとりですべてのことをするわけでない。それがBIMを含めたデジタルデザインの本質。BIMは共同作業ツールであるということを肝に銘じなくてはならない。
☆24──[角田]これは目から鱗。確かに1人より2人、2人より複数人で関わることで「データをどうやり取りするか」「このやり取りが効率がいい」などと考えるようになる。それによって情報管理のリテラシーが高くなる。[堀川]考えもしなかったことだが、確かに一番重要なスキルかもしれない。自分のようなフリーランスであっても今時オンラインサービスを利用した協業は当然のように行われているので、それができないまま学生を卒業して社会人になると、いまはその共有のスピード感においていかれてしまい、苦労するかもしれない。

石澤──私がすごく好きなRevitの教科書 Eddy Krygiel & Phil Read『Mastering Autodesk Revit Architecture』では、最初の章が「コラボレーション」です。普通は敷地の線をなぞるとか、壁を立てるとか、モデリングから教えそうなものですが、そうではなくて、データをやり取りして協力関係を立ち上げるというところから始めていて、本当にその通りだなと実感します。

Q2.2 京都の学生です。いまはArchiCADを使用しているのですが、BIMを最大限に活用できず、3Dモデリングまでしか作成できていません。そこで、3D CADを使っているという感覚ではなく、BIMを使っているという感覚を養うにはどういったトレーニングを行なっていくべきですか。そのトレーニングの優先順位なども教えてください。

石澤──遠方から質問が来るとリアリティが感じられて嬉しいですね、ありがとうございます。率直に言って、そこまで気にしなくても大丈夫だと思います。BIMは、建築のワークフローを良くするためにみんなで同じツールを使おうという約束の下、プロジェクトに実装していくべきものです。おそらく属性や数量などの要素をもっと使うべきなのではないかというのが質問の趣旨だと思いますが、それが本当にできるとアドバンテージになることは保証しますが、いま気にしなくても問題ありません。学生の方は時間があるので、楽しいと思える機能を使い倒すとか、ツールがなぜそういうふうにできてるのかを何となく知っておくとツールが変わっても対応できるようになると思います。

提坂──トレーニングという切り口ではないですが、ひとりでコツコツと3D CADモデルをつくっている状況からの飛躍のきっかけとして思い当たるのが、変更への対応です。例えば、AutoCAD 3Dでつくったモデルは、軸線間隔の変更には対応できませんが、設計実務では次から次にやって来るデザイン、条件、情報の変更に、プロジェクト開始時につくったモデルで対応していかなくてはなりません。変更対応こそがBIMモデリングの醍醐味でもあります☆25。また、上級編としては、ソフトウェア内だけで変更に対応するのではなく、そのモデル作成に必要なインプット情報、あるいは次に必要な人に渡すアウトプット情報も変更に対応可能にすることです。例えば設計者からもらう更新(インプット)情報のExcelフォーマットを一定に保ち、特定の行を順番に読み込めば、繰り返し情報の更新に対応できるようになると、自分のスキルの成長を感じられると思います☆26。

☆25──[堀川]ソフトウェアエンジニアリングと同じだ。[石澤]ウェブサイトをつくったことのある人なら、テーマ設定をきちんとつくっておくと、サイトデザインをどれだけ変更してもかなり楽に追随できるという、あの感じ。
☆26──[角田]確かに、変更に対してデータをいかに対応可能な状態にするかを考えていくことが、スキル上げていく近道。

Q2.3 広島から質問です。大学でBIMの授業を担当しています。現在の日本の建築教育において、BIMやコンピュテーショナルデザインを普及させていくには何が重要だと感じますか。


提坂──設計を学ぶ学生に特定ソフトウェアのトレーニングをするのはもったいないので、設計の授業では設計を教えてほしいです。共有PCなど、学生が自由にソフトウェアを使える環境があれば十分だと思います。

先ほどの回答と被ってしまいますが、BIM普及のためには、特定ソフトウェアのトレーニングよりも、複数人で課題に取り組むためのコラボレーション環境を作るところからスタートさせてはいかがでしょうか。敷地を見学して情報を集める前に、集めに行く情報をどのように管理しシェアしていくのかというところから授業を始めるのが良いと思います☆27

☆27──[堀川]確かにこれはとても良い。

石澤──「BIMは怖くない」というのは地味だけど重要なキーワードだと思います。私の周りを見渡してみても、9割の人はソフトウェアを開いたことがないというのが実情です。教育現場では、学生が漠然と持っている「こんなものをつくってみたい」という思いに対して、そのソフトウェアは何をしてくれるのかを感覚的に掴むことが重要だと思います。スピードは実務やコンペなどで急かされてやっているときに早くなりますから、そういうところではなく、まずは道具を手なずけておくことが大切です☆28

☆28──[豊田]BIMソフトに閉じることなく、さまざまなソフトを気軽に使い倒せることが大事。音や映像の編集ソフト、ゲームエンジン、もしくはスキャンの点群データや3Dプリント向けのデータ出力などで、データの扱いや相互変換の感覚、さらにその結果としてプログラミングがいかに大事を感覚として理解できる人、もっと育ってほしい。[石澤]その点でOpenBIMのコンセプトはきわめて重要。専門家には専門の道具があるので、それを尊重しつつそれぞれデータを出し入れできるように持っていきましょう、という。


201807

連載 建築情報学会準備会議

第6回:建築情報学の教科書をつくろう第5回:エンジニアド・デザイン
──一点突破から考える工学的プローチ
第4回:コンピュテーショナルデザインの現在地第3回:感性の計算──世界を計算的に眺める眼差し第2回:BIM1000本ノック──BIMに対する解像度を上げるために第1回:建築のジオメトリを拡張する
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