第1回:素材と構築が紡ぐ建築史

加藤耕一(西洋建築史、東京大学大学院教授)

プロローグ

みなさん、こんにちは。加藤耕一です。
「10+1 website」には、昨年2017年の6月に建築家の長谷川豪さんと対談して以来の登場となります(加藤耕一+長谷川豪「建築時間論──近代の500年、マテリアルの5億年」)。どうぞよろしくお願いします。

昨年の長谷川さんとの対談は、「時間のなかの建築、時間がつくる建築」という特集のなかで行なわれたもので、私は自著『時がつくる建築──リノベーションの西洋建築史』(東京大学出版会、2017)を簡単に紹介しながら、長谷川さんとの対話を楽しませていただきました。じつはこの対談の収録は、本書が書店に並んだ5日後に私の大学の研究室で行なったもので、私にとってはじつにタイムリーな企画だったことをよく覚えています。
「10+1」の記事は、多くの方から反響をいただきました。本は読んでいないけれど「10+1」の記事は見ましたよ、という人も多く、内心複雑な心境になったのも事実です......。スマホで手軽に読むことができるウェブメディアの力を強く感じさせられました。

記事の公開から3週間ほど経ったある日の晩、対談を担当してくれた編集者さんから電話がかかってきました。今月の特集、たいへん評判がいいので今度は「10+1」で全12回の連載をしてみませんか、というお誘いでした。書籍『時がつくる建築』のほうは、その後、ありがたいことに大きな賞もいただき、高く評価していただくことになりましたが、6月の時点ではまだあまり火が付いていませんでした。この段階で、連載企画を提案していただいたことはじつに嬉しいことで、二つ返事でお引き受けすることを決めました。

しかし......。連載というのは、私にとっては初めての挑戦です。最後まで書き上がっていない途中の段階で、自分の文章を茫漠と広がるインターネットの海の中に投げ込むということは、なかなかたいへんなことだと、準備を始めてみて気づきました。書きたいテーマは具体的に定まっています。けれど、それをどういう順番で論じていくべきか。

大学で学生に論文指導する際には、いつも目次の重要性を伝えることにしています。目次は論文の構造を示すものであり、その論理構造の構築は、論文の執筆においてもっとも重要なのだと強調しています。論文というのは、調べたことをただ並べていけばいいというものではない。論点をただ並列にならべただけでは、それは平面的な広がりしか持たないことになってしまう。建築の論文である以上、その論が大聖堂のように立体的に組み上がっていくことこそ、論文執筆の醍醐味ではないか、などなど。

私自身は建築の設計ができないので、文章の「構築」に、建物の「構築」とのアナロジーを見出しているのかもしれません。序章はエントランスホール、第1章でエントランスホールに接続する大広間の空間体験を愉しんでから、第2章では大広間の奥に隠されたプライベートルームを覗き見する。そこから一度エントランスホールに戻り、2階へと続く大階段が第3章。第4章は大階段に接続するギャラリー空間で、そこでは吹き抜けの大広間(第1章)を見下ろす劇的な空間体験をすることができる......。

「建築経験としてのテクスト」については、「10+1」2018年1月の特集ブックレビュー「シークエンシャルな建築経験と(しての)テクスト」で小澤京子さんが論じていますが、私はそういった建築的な体験を生み出すようなテクストの構築に、せめてもの建築設計の疑似体験を見出しているのでしょう。目次はその立体的な空間を構築するための設計図なのです。

それにもかかわらず、私の手元にはまだ、これからはじまる連載の設計図がありません。いくつかの部屋のイメージは具体的に定まっています。この空間とあの空間をこんなふうに立体的につなげてみたい、というアイデアもありますが、それらは混沌として複雑に絡まり合った状態です[fig.1]。はたして、「全部で12の部屋からなる建物(連載)」という設計条件にうまく当てはまるように、それらの部屋を配置していくことができるのか? それは現場で設計しながら考えていくしかなさそうです。

fig.1──連載全体の見取り図(筆者作成)
[画像をクリックして拡大]

さて、言い訳じみたプロローグはこのくらいにして、連載第1回では、全体を概観することで、この設計のコンセプトを示したいと思います(ということは、次回から具体的な建設の始まるこの建築は、「全部で11の部屋からなる建物」ということになりますね......)。


201804

連載 アーキテクトニックな建築論を目指して

第4回:21世紀のアール・デコラティフ(前編)第3回:建築史学の現代性第2回:マテリアリティとは何か?第1回:素材と構築が紡ぐ建築史
このエントリーをはてなブックマークに追加
INDEX|総目次 NAME INDEX|人物索引

PROJECT

  • パブリック・トイレのゆくえ
  • TOKYOインテリアツアー
  • 建築系ラジオ r4
  • Shelter Studies
  • 再訪『日本の民家』 瀝青会
  • TRAVEL-BOOK: GREECE
  • 4 DUTCH CITIES
  • [pics]──語りかける素材
  • 東京グラウンド
  • 地下設計製図資料集成
  • リノベーションフォーラム
『10+1』DATABASE

INFORMATIONRSS

戦後空間シンポジウム03「市民・まちづくり・広場──1960-70年代の革新自治体と都市・建築のレガシー」(港区・6/29)

1960〜70年代にかけて、東京都や横浜市など革新系首長が率いる自治体が全国に登場した。これらは高...

刊行記念イベント「建築のそれからにまつわるArchitects」乾久美子×中山英之(渋谷区・6/3)

乾久美子さん、中山英之さんの建築作品集が、それぞれLIXIL出版とTOTO出版から刊行されます。同じ...

「新しい時代のはじまり」展(神奈川県・4/20-5/6)

「旧神奈川県立近代美術館 鎌倉」が「鎌倉文華館 鶴岡ミュージアム」として生まれ変わります。 鶴岡八...

「ある編集者のユートピア──小野二郎:ウィリアム・モリス、晶文社、高山建築学校」(世田谷区・4/27-6/23)

編集者にしてウィリアム・モリス研究家の小野二郎(1929-1982)が生涯を通して追い求めたテーマ...

連続講義「建築とアーカイブズを巡る論点」(武蔵野市・5/11-)

近年、開催される大規模な建築展も多く、建築や建築に関する資料への関心が高まっているように感じられま...

シンポジウム「日本の近代建築を支えた構造家たち」(新宿区・5/18)

我が国の近現代建築の発展を技術的側面から支えた構造設計手法や施工法などに関する構造資料は、これまで...

「ル・コルビュジエ 絵と家具と」(渋谷区・3/29-5/18)

20世紀に最も影響を与えた建築家、ル・コルビュジエ。建築と都市計画においてのパイオニアであり紛れな...

「わたしはどこにいる? 道標(サイン)をめぐるアートとデザイン」(富山県・3/9-5/19)

「サイン」とは、人を目的地に導く目印のこと。普段意識することは少なくても、駅や空港、商業施設、美術...

「宮本隆司 いまだ見えざるところ」(目黒区・5/14-7/15)

東京都写真美術館では、現在も国内外の美術展などで発表を続ける宮本隆司の個展を開催します。宮本隆司は...

豊田市美術館リニューアル記念イベント「谷口吉生──美術館を語る」(6/15・愛知県)

豊田市美術館のリニューアルを記念して、同美術館を設計した谷口吉生のトークイベントが開催されます。 ...

日本橋高島屋と村野藤吾(中央区・3/5-5/26)

高島屋史料館TOKYOは、1970年に創設した高島屋史料館(大阪)の分館として、重要文化財である日...

NPO建築とアートの道場 2019春レクチャーシリーズ「これからの建築を考える──表現者と建築家による対話実験」(文京区・4/27-)

これからの建築を考えてみたいと思います 確固たるビジョンがあるわけではありません ただ葛藤や矛盾は...

シンポジウム「感性×知性=建築の新たなる可能性を求めて」 (港区・5/7)

21世紀も2020年代が近づき、AI、生命科学、宇宙といった新たなイノベーションが進行し人類のサス...

建築学生ワークショップ出雲2019開催説明会、講演会(東京・5/9、京都・5/16)

2019年夏、古代より現代に受け継がれてきた、わが国を代表する神聖な場所、出雲大社周辺区域にて、小...

杉戸洋「cut and restrain」(港区・3/16-4/13)

杉戸洋による展覧会が「cut and restrain」4月16日まで小山登美夫ギャラリーで開催し...

鏡と天秤─ミクスト・マテリアル・インスタレーション─(中央区・3/12-5/11)

私たちは非日常(ハレ)と日常(ケ)の境界が曖昧な社会におり、個々が非日常(ハレ)と日常(ケ)のバラ...

- Green, Green and Tropical - 木質時代の東南アジア建築展(品川区・2/6-5/6)

建築倉庫ミュージアムでは、2月6日より「- Green, Green and Tropical -...
建築インフォメーション
Twitter Feed
ページTOPヘ戻る