第5回:YCAMの運営に学ぶ
地域とともにつくる文化施設の未来形

伊藤隆之(YCAM R&Dディレクター)+渡邉朋也(YCAMアーキビスト)+菅沼聖(YCAMエデュケーター)+西澤徹夫(建築家、西澤徹夫建築事務所主宰)+浅子佳英(建築家、タカバンスタジオ主宰)+森純平(建築家、PARADISE AIRディレクター)

大学や地域との関わり方

浅子──次に大学や地域との連携についてお聞きしていきたいと思います。大学についてはこれまでどのような連携がありましたか。

菅沼──最近は近隣大学の先生が生徒さんとともに訪ねていらっしゃる機会が増えている印象です。YCAMのような領域横断的な場所が、いままさに求められているのだなと肌で感じています。ただ個人的には、YCAMはひとつのプロジェクトとがっぷり四つになることよりも、あくまでプラットフォームであることのほうが大事だと考えています。YCAMがプレーヤーになってしまってはイベント的には盛り上がりますが、その後が続きません。僕らはあくまでもサポート役として、市民が主体的につくり出せる環境づくりを目指したいですね。

西澤──スタッフがコラボレーションする話は出ましたが、その一方で市民や子どもたちと一緒になにかをするときのチームや人間関係のつくり方はどのようになっていますか。

──じつはこのインタビューの前に曽田元子さんのお話を聞いたんです。

伊藤──市民によるYCAMプロジェクトをつくる、市民委員会に入っていた方ですね。彼女がYCAM初期の頃に企画したコンサートのイベントは高い集客力をもっていて、広いホワイエが大勢の人でびっしり埋め尽くされていてびっくりしたことを覚えています。

菅沼──曽田さんのような個々の優れた人に加え、その輪をさらに広げるにはどうしたらよいか、未知の人たちも含めて大きな流動を呼び起こすことが今後の課題になります。
さきほど少しお話に出ましたが、その取り組みのひとつとして、メディア・テクノロジーを使って新しいスポーツをつくっていくイベント「スポーツハッカソン」を学校教育の現場で実施する出張授業を行なうなど、公教育という大きなフィールドでYCAMのコンテンツがどのように共生できるかを模索しているところです。今後求められるプログラミング教育の分脈でも他地域との差別化につながるといいと思います。ただスケールが大きくなるとマネジメントの負荷やリソース不足といったさまざまな問題が出てくることも忘れてはいけません。YCAMでは地域の大学生の人材育成事業と絡めて、彼らにワークショップ・ファシリテーションを引き継げるような仕組みづくりも並行して進めています。

渡邉──地元のプロジェクトの話に戻るのですが、山口市の中山間部、阿東での取り組みがいくつかあります。

菅沼──阿東という地域では竹害が問題になっています。そこで、竹を資源とみなしてなにかできないかということで「Spedagi Ato(スペダギ阿東)」が立ち上がりました。山口市の市民のみなさん、宇部市のオープンハウスというデザイン会社と一緒に竹の自転車をつくる取り組みです[fig.03]。インドネシアで「Spedagi」というプロジェクトを行なっているプロダクト・デザイナーのシンギー・カルトノさんをはじめとする方々と、阿東を巡る見学ツアーを開催したことがきっかけとなって生まれたものです。

fig.03──「Spedagi Ato」(2016− )
撮影=田邊るみ
写真提供=山口情報芸術センター[YCAM]
Photo by Rumi Tanabe
Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]

渡邉──その地域には、旧亀山小学校という廃校があって、そこを活用した「阿東文庫」という私設図書館があるんですね。そこのかつて図工室だった部屋を「Spedagi Ato」のスタジオとして利用させていただいているんですね。

浅子──竹を集成材にするんですね。しかも自分たちでつくると。

渡邉──大量生産し販売しようというのではなく、ワークショップを通じて参加者自らが竹の自転車を制作できるようなプラットフォームの構築を目指して、いまは地元の住民の方を中心にプロジェクトが進められています。

浅子──YCAMはこのプロジェクトにはどのように関わったのでしょう?

渡邉──--基本的にはプロジェクトの成果の発表やイベントの開催、資金調達といったプロデュース的な関わりと、クリエイターをはじめとする国内外のさまざまな専門家とプロジェクトのメンバーをつないでいくコーディネーション的な関わりをしていました。

西澤──YCAMと阿東文庫の人たちのあいだにクリエイターをいれるかたちでプロジェクトにしていったわけですね。毎回思うんですけれども、面白いプロジェクトの影になぜこうした面白い人がちゃんといるんでしょうか。

渡邉──そうした方々は本来どこにでもいるのだと思います。

西澤──それを発掘するということですね。

菅沼──YCAMの徒歩圏にあるファブラボ山口を開設された河口隆さんもそうした方たちのひとりといえます。立ち上げから現在までYCAMとはさまざまな事業を協働していただいています。YCAMの実験性に共鳴した市民のおひとりだと思います。

浅子──なるほど、以前に蒔いたファブラボという種が、まさに実ってきているわけですね。

菅沼──そうですね。公共が先進性や実験性を担う社会がありうるのだと思います。少なくとも硬直化が進む地方都市においてこそ、意味のあることだとYCAMの活動を通じて証明したいですね。こうしたことがより広範囲で起こるような機構をつくり、自走化させるようなサイクルを生み出せればと思います。

西澤──地方の課題を解決したり、デザインするだけでは遅いわけですね。それではマイナスがゼロになっているだけの状態でしかないですからね。

菅沼──欧米の文化施設には、課題解決型──たとえば社会的包摂や格差問題、人権問題を解決する拠点としての──文化施設に投資が集まっているのですが、そのような課題解決型にすらなれていないのが国内の文化施設の現状です。「文化は文化予算で」といった縦割りの行政の感覚だとなおさら歩みは遅いでしょう。
今後、押し寄せる社会課題の受け皿として文化施設が活用されていくことは間違いないとは思いますが、「課題解決」という枠組み自体が前提をつくってしまうことでアート制作など表現にまつわる限界を生んでしまうことも指摘したい点ではあります。YCAMはその一歩先の、実験と表現によって新たな価値の発見、提案を行なうラボ駆動型文化施設として成立するのではないかと考えています。

浅子──ほかにラボ型の文化施設にはどのようなものがあるでしょうか

菅沼──サンフランシスコのエクスプロラトリアムという博物館は、YCAMをつくる際に参考にされたようです。この施設について詳しくは「artscape」の記事(「『実験場としてのミュージアム』のつくりかた──科学博物館エクスプロラトリアム」)に書いたのですが、子どもたちが科学を学ぶプロセスがきちんとデザインされていますし、多民族の子どもたちが言語ではなく体で感じられるようにするためのさまざまな試みが行なわれています。200人ほどのラボのスタッフが650個の展示を毎日毎日試作し、修理し、展示しています。行ってみるとたしかにその躍動感がよく伝わってきました。アートや人間の知覚を中心に据えて科学を伝えるその手法はYCAMとも類似しています。

浅子──周辺地域や施設との連帯の方法について、ほかになにか活動はされていますか。

伊藤──周辺地域ということでは、千年以上続いている村について調査する「千年村プロジェクト」の招聘もあります。大学(早稲田大学、千葉大学、京都工芸繊維大学など)の研究者の方々と連携し、山口市の鋳銭司という地域の詳細調査のほか、地元で説明会を開いたり、調査報告の展示もYCAMでやりました。

渡邉──「調査地被害」という言葉もありますが、フィールドワークは知らず知らずのうちに対象の地域の住民にデメリットを与えたり、傷つけてしまうリスクが避けられません。そういうリスクをなるだけ低減させるため、YCAMでは調査に先立って住民のみなさんと調整を重ねるなど、地ならし的な準備をおこなってからフィールドワークに臨んでいました。

西澤──YCAMとしてはだいぶ毛色が違うプロジェクトに見えますが、どのようなもくろみがあったのでしょうか。

渡邉──YCAMは2013年から韓国のアーティストのムン・キョンウォンと「プロミス・パーク・プロジェクト」を展開してきました[fig.04]。このプロジェクトは、「未来の公園」を主題に、ムンやさまざまな分野の研究者とともにリサーチを重ね、最終的には2015年にインスタレーションを制作し、発表しました。このリサーチの過程で、古今東西の公園、ひいてはコミュニティにおける公共空間についてのリサーチを行なうことになり、そこで「千年村プロジェクト」とつながり、双方のプロジェクトが並行して進行していきました。

fig.04──「プロミス・パーク──未来のパターンへのイマジネーション」(2015)
撮影=田村友一郎
写真提供=山口情報芸術センター[YCAM]
Photo by Yuichiro Tamura
Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]

伊藤──千年村プロジェクトでは、詳細調査でも展示でもメディア・テクノロジーはかなり積極的に導入しようという提案はしていて、アクション・カメラをつけてリサーチャーの視点を記録することを試したほか、ドローンなども使いました。

菅沼──展示のようなかたちで研究成果のアウトプットをつくっていると研究者からは「なにをしているの?」と不思議に思われたりするのですが、異なる志向性で同じ対象を見ることは刺激的ですし、それこそ作品制作の知識や経験を蓄積する意味でもあると思います。


201803

連載 学ぶこととつくること──八戸市新美術館から考える公共のあり方

第6回:MAT, Nagoyaに学ぶ
街とともに歩むアートの役割
第5回:YCAMの運営に学ぶ
地域とともにつくる文化施設の未来形
第4回:学ぶ場の設計から学ぶ──
ラーニング・コモンズと美術館
第3回:美術と建築の接線から考える
美術館のつくり方
第2回:子どもたちとともにつくった学び合う場
──八戸市を拠点とした版画教育の実践
第1回:森美術館からの学び
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