都市を変えるいくつもの戦術的方法論
──アイデア、スケール、情報工学

泉山塁威(東京大学/ソトノバ)+笠置秀紀(建築家)+竹内雄一郎(Wikitopia)

──10+1web siteでは2017年3月号で「タクティカル・アーバニズム──都市を変えるXSサイズの戦術」を特集し、対談では、アメリカのシカゴ学派都市社会学による1930年代の「アーバニズム」という概念の形成を始まりとして、50年代の「アーバンデザイン」の概念、90年代の都市再生を謳う「ニュー・アーバニズム」までを整理し、そのうえでマイク・ライドンとアンソニー・ガルシアの著書『Tactical Urbanism: Short-term Action for Long-term Change』(Island Press、2015)に話を移し、公共空間の戦略・戦術的プランニングについて俯瞰しました。今回の特集では、既往のタクティカル・アーバニズムの実践に、情報工学という第3項を加え、方法論の多様性を拓きたいと思います。今日は本鼎談に、「ソトノバ」編集長でタクティカル・アーバニズムの研究者である泉山塁威さん、建築家でありアーティストの笠置秀紀さん、そして「Wikitopia」プロジェクトを主宰する情報工学研究者・竹内雄一郎さんをお招きしました。まずはみなさんの近年のご活動からお聞かせください。

戦術的に都市変化を志向する

泉山塁威──私は都市計画という分野のなかでエリアマネジメントや公共空間の運営などを専門としています。まず、私が関わったいくつかのプロジェクトをご紹介します。学生から社会人にかけて2008-2015年の6年間、JR姫路駅北駅前広場と大手前通りのプロジェクトに関わっていました。駅前はバスやタクシーのロータリーが大半を占めることが一般的ですが、ここでは広場やサンクンガーデン(半地下広場)を中心とした空間になりました。公共空間のプロジェクトに最初から最後まで関わった初めての経験です。そのなかで少しだけ違和感を感じたのは、日本の都市計画や公共空間整備の進め方でした。市民参加を進めながらの公共空間整備プロセスとしては先進的ではあるが、マネジメントの時代と言われているなかで、どうしてもスケジュールがタイトなこともあって、計画や設計の議論の優先順位が高く、運営のあり方の議論はどうしてもあと回しになっていた。これは日本の公共空間整備や都市計画の縮図であるとも言えます。その後、2014-15年に池袋駅東口の「グリーン大通り」でオープンカフェの社会実験を行ないました[fig.1]。行政主導だから行政と地域との会議でオープンカフェについて話しても、なかなか決まらない。並行して既存のカフェテナントの人たちに「オープンカフェをしませんか」と声を掛け始めたのですが、どんどん乗ってくれて、オープンカフェ社会実験の運営について議論しながら実験をし、地域の方々にも見に来ていただいた。会議をたくさんするよりもアクションしてみたほうが早いことを経験しました。のちに、タクティカル・アーバニズムを知り、この経験と共通していることを知りました。

fig.1──池袋駅東口グリーン大通りオープンカフェ社会実験[提供=Knit Green実行委員会]

それから数年間、多くの社会実験を行ないました。いまソトノバ・ラボ★1で、タクティカル・アーバニズムの研究をしています。マイク・ライドンとアンソニー・ガルシアによる『Tactical Urbanism』(Island Press、2015)は副題に「Short-term Action for Long-term Change」つまり「長期的な都市変化に向けた短期的アクション」を掲げており、私たちもこれに共感しています。タクティカル・アーバニズムとはつまり、戦術的に都市変化を志向することです。ですから、あくまでも都市が変わること、都市の価値を上げていくことがゴールなので、従来の都市計画の手法はひとつの選択肢にすぎません。既存の都市計画ではない都市変化のあり方がタクティカル・アーバニズムの可能性だと考えています。

『Tactical Urbanism』にもある「Build-Measure-Learnサイクル」というデザインプロセスがあります[fig.2]。シリコンバレー企業で有名な「リーン・スタートアップサイクル」を採用していて、アイデアを構築し、プロジェクトを計測し、データを学習し、次のアクションやプランに反映させていく──この一連のサイクルを回していくことが重要です。このサイクルをぐるぐると回しながら、小さな実験やアクションを重ねていくことを意味します。一般にタクティカル・アーバニズムはボトムアップ型と言われますが、ソトノバ・ラボで各国の状況を調べていると、オーストラリアはどちらかと言えばトップダウン型のタクティカル・アーバニズムだったり、国によって考え方や状況が違うこともわかってきました。

★1──ソトノバ・ラとは、パブリックスペース特化型ウェブマガジン「ソトノバ」のなかに設けられた、パブリックスペースの現状や課題、未来に対して、アイデアや研究、調査をする研究所。

fig.2──Build-Measure-Learnサイクル[作成=泉山塁威]

また「プロジェクト進行の反復」のアプローチを示したチャートも重要です[fig.3]。いきなり広場整備などの「長期スパン」のプロジェクトから始めてしまうと、その評価は空間整備されてからでないと検証ができません。先の姫路駅前広場のプロジェクトのような駅前広場整備の機会は50年に1度ぐらいなので、そのデザインや考え方が失敗すれば、50年間も負の遺産を抱え続ける可能性がある。それはあまりにリスキーですよね。「短期的イベント」と呼ばれる相対的にコストが低く期間の短いプロジェクトは今の日本の社会実験に該当します。今の日本の社会実験の状況では、「短期的イベント」と「長期スパン」が乖離してしまっているように思います。「短期的イベント」だけではやはり単なるイベントに終始してしまい、ゲリラ的に見せられたとしても、本当の意味で都市変化につなげられた事例は、日本にはあまりないのではないかと思います。ですから、行政の単年度予算のシステムを乗り越えて、もう少し期間の長い実験をしながら日常的な公共空間の整備につなげていくことが大事です。例えば、表参道の「COMMUNE 2nd」は民間の運営ですが、場のあり方や店舗の商業的な面でもとても興味深いと思います。2年間の期間限定の実験を継続して行なっていて、こうした複数年度の期間の長い実験事例がさらに増えたらいいと思います。

fig.3──ITERATIVE PROJECT DELIVERY(反復プロジェクトの配信)[翻訳・作成=泉山塁威]
(画像をクリックして拡大)

日本の社会実験などのアクションは、行政や企業、エリアマネジメントなどが道路占用許可などを受けて認可的に行なわれています。しかし、アメリカのタクティカル・アーバニズムはもう少し幅が広く、アーティストやコミュニティグループ、地域活動者によるゲリラ(不認可)的なアクションが波及してムーブメントにつながっていくことがあります。こういったアクションを日本のなかでどう考えるべきか。議論しなくてはいけない問題だと思っています。

またソトノバ・ラボではタクティカル・アーバニズムのガイドの翻訳を行なっています[fig.4]。このガイドは全部で5つリリースされ、北米が2つ、南米、オーストラリアとニュージーランド、イタリアの事例を紹介するもので、これらのPDFはオープンソースで誰でも参照でき、TwitterなどSNSを中心に英語圏で広まっています。さまざまな地域の背景や事例を知っていくなかで、国によって問題意識が異なっていることがわかってきました。例えば、ラテンアメリカでは地方都市や市民社会の課題を特に重視していたり、イタリアでは政府に対する反対運動としての意味合いもあるようです。それらを参照し、ソトノバ・ラボでは現在、日本版のタクティカル・アーバニズムのガイドをまとめています。

fig.4──Tactical Urbanism GuideおよびBookの位置付け[作成=泉山塁威]
(画像をクリックして拡大)

泉山塁威氏

アートの立場から公共空間をハックする

笠置秀紀──私は2000年からミリメーターという建築家のユニットで宮口明子とともに活動しています。肩書は建築家ですが建築物はあまりつくらず、建築的なアプローチで都市の公共空間をどうつくるかを考えています。ミリメーターの最初期の作品で、最も純粋なプロジェクトが《MADRIX》(1999)です[fig.5]。当時、渋谷のセンター街でギャルが路上にレジャーシートを敷いて楽しそうにプリクラを交換しているのを見て、彼らの存在や振る舞いが新しい公共空間の芽生えになっていることに気づきました。それに建築の空間よりも楽しそうにその場所で過ごしている。ここにヒントを得て、間取柄のレジャーシートをプロダクトとしてつくりました。

fig.5──《MADRIX》(1999)

都市計画は大きい施設をどーんとつくるし、建築は敷地に応じて一戸ずつ個別につくります。でもプロダクトなら大量につくることができる。生産設備と予算の都合で実現はしませんでしたが、小さなものでも1万個つくれば1万人の人に空間の変化を与えられるのではないか。そんなコンセプトでした。なので、タクティカル・アーバニズムの象徴的な実践である、コインパーキングに一時的に芝生を敷く「Park(ing)」(2004)にも非常にシンパシーを感じていました。

2014年には、アーティストとしての活動から得た知見を社会に実装させるため、「小さな都市計画」という法人をつくりました。2017年には、「SHINJUKU STREET SEATS」というパークレットのような空間を新宿通りの2カ所で制作しました[fig.6]。歩行者環境を改善する目的で車道上につくったベンチがある仮設の歩行者用空間です。オリエンタルコンサルタンツという総合建設コンサルタントから、パークレットを設計してほしいという依頼で、私たちは設計とクリエイティヴディレクションを担当しています。路上の荷捌きや違法駐車の課題に対する社会実験の一部として実施されたものです。私たちがこれまで蓄積してきたアーティスティックな視点やゲリラ的なまちづくりに対する意識をもちながらも、より確実に社会への実装を試みました。当初は5日程度の予定で企画されていたのですが「どうせお金をかけるなら、もう少しやったほうがいいのでは」という話になり、1カ月半のあいだ設置することになりました。この事業主体は新宿東口エリアの商業・ビルオーナー、道路管理者、警察関係者をはじめ、学識者及び有識者から構成される協議会です。企画時には泉山さんからもアドバイスをいただきました。各方面の関係者による尽力ではじめて成り立ったプロジェクトだと言えます。デザインとしては都市に座る・佇むという体験を、高さや方向と距離感をコントロールして設計を行なっています。素材はサンフランシスコの「Parklet」が持つDIYの雰囲気を伝えたいと思い、いかにも合板という感じの針葉樹合板を使っています。木口が直角に合わさっていたり、ディテールもあえてDIYっぽさを残していました。

fig.6──「SHINJUKU STREET SEATS」(2017)

もうひとつ、ロフトワークという会社とともに渋谷をフィールドにした「SHIBUYA HACK PROJECT」を紹介します。路上を封鎖する音楽イベントに乗じて、ストリートファニチャープロジェクトを行ないました[fig.7]。よく、公共空間に「ここで立ち小便しないてください」とか「禁煙」といった注意書きがテプラで貼られていますよね。このテプラをポジティブな意味合いにして「ご自由にお座りください」と印字して渋谷の路上に良く見かける台車とかビールケースに貼りつけてファニチャー化する。どうしたらメッセージによって街のオブジェクトを変化させて、人々の座るという意識を変えられるのか。そんな実験でもあります。また「SHIBUYA109」の横にある花壇でのプロジェクトでは、ワークショップ参加者のアイデアをもとに、プラスチックのコンテナを転用した鉢植えを寄せ集めたかたちにデザインしました[fig.8]。渋谷の花壇はずっと昔から商店会がメンテナンスをしているんですね。一方で商店街だけでは負担も少なくない。なので商店会だけではなく、渋谷で働く人や住む人、学生たちが気軽に花壇づくりに参加できるように、コンテナをひとつずつ各参加者が世話をする仕組みになっています。

fig.7──「Found Chair」(SHIBUYA HACK PROJECT、2017)

fig.8──「DOGENZAKA URBAN GARDEN」(SHIBUYA HACK PROJECT、2017)

2017年に「URBANING_U」という都市の学校を始めました。十数名の参加者が雑居ビルの屋上に2日間泊まり込んで、「街が小さく感じられるまで歩きなさい」とか「普段登らないところを登りなさい」といった単純なインストラクションの実践を通して、街を自分の体に近づけるようなプログラムを実施しています。公共空間に介入するための本質的な素養を醸成する必要性を感じて自ら始めたプロジェクトです。

笠置秀紀氏

201802

特集 戦術的アーバニズム、Wiki的都市──場所と非場所のタクティカル・アーバニズム


都市を変えるいくつもの戦術的方法論──アイデア、スケール、情報工学
シリコンバレーの解決主義
何かをハックすること
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