都市を変えるいくつもの戦術的方法論
──アイデア、スケール、情報工学

泉山塁威(東京大学/ソトノバ)+笠置秀紀(建築家)+竹内雄一郎(Wikitopia)

「みんなでつくる」未来の都市

竹内雄一郎──僕はお二人と違って建築や都市計画分野の出身ではなく、ずっと情報工学の研究を専門としてきました。現在はソニーで研究員として勤務するかたわら、「Wikitopia」という国の研究プロジェクトの代表を務めています。Wikitopiaプロジェクトは、オンライン百科事典Wikipediaのように「みんなでつくる」未来の都市を、新しい情報技術を使って実現することを目的としています。Wikipediaでは、記事に間違いがあったら該当箇所をだれでも簡単にエディットすることができます。同じように「ここの広場に緑があったらいいのに」とか「ここの歩道がもっと広かったらいいのに」と思ったら、誰でも自由に現実の街をエディットできればいい。そんな発想から始まったプロジェクトです[figs.9,10]

fig.9──Wikitopiaのコンセプト図

fig.10──Wikitopiaロゴ(ver.1.0)
道路や緑など街を構成するさまざまな要素を表わしたピースが組み合わさり、Wikitopiaの頭文字である「W」を形成する。ピースの置換や追加が自由に行なえそうなモジュラーな形状を採用することで、Hackableな街の実現を目指すという本プロジェクトのコンセプトを表現している。

Wikitopiaプロジェクトは2017年11月に正式スタートしたばかりで、これから4つの方向で活動を進めようとしています。

1つ目は、ソフトウェア・プラットフォームの開発です。先ほどお話に出たタクティカル・アーバニズムは、多数の人が自発的に協力してものづくりを行なうという点で、Wikipediaやオープンソースのソフトウェア開発などといったインターネット上での集団的なものづくり、専門的に言えばヨハイ・ベンクラーの言うコモンズ・ベースド・ピア・プロダクションという生産様式と構造的に似通っています。したがって情報技術との親和性が高く、ソフトウェアによる支援が有効なのではないかと考えています。例えば街が抱えている課題と、それをハックする気概のある人たちを結びつけたり、ステークホルダー間で対立が起こった場合に調停を手助けしたり、市民参加のハードルを低下させたり。こうした機能を提供するソフトウェアの開発を目指しています。

2つ目は新しい空間改変技術の研究開発です。「空間改変技術」というのは僕の造語で、環境にデジタルメディアのような可変性を与えるさまざまな先端技術を総称した言葉です。例をひとつ挙げると、今われわれは光の色や質、広がり方などを細かく制御できる照明装置をつくっています。こうしたプログラマブルな照明を街灯に応用すれば「ここは人通りが少ないから、大通りよりも早い時間から点灯させよう」とか「お祭りの日は、普段より光を華やかにしよう」というように、地域の照明計画をみんなでつくることができます。つまりIoTやデジタルファブリケーションといった新しい技術を使うことで、「Parklet」などとは違うかたちで「みんなでつくる」街を実現できるのではないかと考えていて、そのための基礎研究を行なっています。

3つ目は先行例の調査と実践活動です。積極的に街のなかで実証実験などを展開し、今述べたようなソフトウェアやその他の新しい技術がどのように現実の問題解決に役立てられるか、既存のまちづくりのプロセスとどのように組み合わせられるかを探っていきたいと思っています。

そして4つ目はプロジェクトの周知とコミュニティの拡大です。出版物や映像を用いた広報活動、Wikitopiaをテーマとした国際コンペの開催などを予定しています。日本ではアメリカなどと比べて、IT系の新しいアイデアがなかなか一般に広まっていかないんですね。ですので技術開発を行なうだけでなく、その技術によって実現される未来の都市や生活のビジョンを示していくこともわれわれの責任だと捉えています[fig.11]

fig.11──Wikitopiaのミーティングの様子

せっかくなので少し昔の話もすると、Wikitopiaプロジェクトを始める以前から、都市と情報技術の関係には長く興味を持っていました。例えば5、6年前にはツイッターの解析に凝っていて、リアルタイムで人々が発信するツイートを解析することで、その瞬間における渋谷や品川といった場所の群衆の分布やその年齢・性別構成などを自動的に推測するソフトウェアをつくったりしていました。あるとき、ツイートから推測される街の人々の感情を生き物っぽく表現する大型の構造物なんかがあれば面白いんじゃないかと思って、街の感情に連動して色が変わったり、霧を噴き出したりする生命体のようなバルーンをつくったこともあります[fig.12]

fig.12──ツイッターの解析に基づいて街の感情を表現するバルーン
© Renee Jones Schneider, Star Tribune

竹内雄一郎氏

解決主義とカリフォルニアン・イデオロギー

──本特集では、ベラルーシ出身のジャーナリストのエフゲニー・モロゾフ(1984-)の「シリコンバレーの解決主義(Silicon Valley Solutionism)」という論考を翻訳掲載しています。モロゾフの問題提起は、Wikitopiaのような情報工学分野のアプローチを考えるうえで、ひとつの論点になるのではないかと思います。

竹内──今回のお話の礎石になると思いますので、「シリコンバレーの解決主義」とその背景を簡単にご紹介します。シリコンバレーを中心としたITの世界では、世界を本質的にはフラットなものと捉えています。つまり、国境や地域差といったものがあまり考慮されません。同じアプリケーション──例えばGoogleでもInstagramでもなんでも──を全世界に浸透させることで、世界中の問題を解決できると考えている。モロゾフはこうした姿勢に疑問を呈します。シリコンバレーの連中は、自分たちの身の回りのことしか知らず世界に存在する問題をきちんと理解できてもいないのに、なぜ世界中の問題を解決できるなどと考えられるのかと。情報工学者のポール・ドーリッシュ(1966-)も、彼らの姿勢は、自分たちのイメージ通りに世界をつくり変えようとする、かつての帝国主義と重なると批判しています(「Ubicomp's Colonial Impulse」Scott D. Mainwaringとの共著)。ITをまちづくりに活用しようと画策するなかで、こうした議論に関心を持っています。

笠置──シリコンバレーの解決主義(ソリューショニズム)批判を読んで思い出したのは、リチャード・バーブルックとアンディ・キャメロンの「カリフォルニアン・イデオロギー」という論考です★2。ここでの解決主義批判はおそらくハッカーたちに向けられていると思いますが、同じくヒッピーの反権威主義な「世界を変えようぜ」という意気込みが、やがてカルト的、全体主義的なイデオロギー性を帯びてくる。シリコンバレーのハッカーたちも実力主義かつ帝国主義的な性格を帯びる。一方で、タクティカル・アーバニズムの核には、ヒッピー的な側面があるのではないかと思います。ゲリラ・ガーデニングやクリティカルマスといったタクティカル・アーバニズムの源流には、ヒッピー文化の影響があるからです★3。一方で、今タクティカル・アーバニズムが注目を浴びているのは、携帯電話やSNSといったITが生み出したネットワークの影響があるのではないかと思っています。それによって各地の活動がつながることができた。そう考えると、タクティカル・アーバニズムの背景には、ITとヒッピー文化の両面があります。タクティカル・アーバニズムは都市計画分野の人から見ればニュー・アーバニズムの潮流のひとつだし、僕らから見るとアメリカのカウンターカルチャーにも見える。その両面性を抱えています。ですから、解決主義批判や「カリフォルニアン・イデオロギー」を、今どのように理解すべきかは、ひとつの論点ですね。

★2──『10+1』No.13(篠儀直子訳、INAX出版、1998年5月)153-166頁。
★3──笠置秀紀「〈タクティカル・アーバニズム〉──XSからの戦術」(10+1 website、2016年5月号)


201802

特集 戦術的アーバニズム、Wiki的都市──場所と非場所のタクティカル・アーバニズム


都市を変えるいくつもの戦術的方法論──アイデア、スケール、情報工学
シリコンバレーの解決主義
何かをハックすること
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