第4回:学ぶ場の設計から学ぶ──
ラーニング・コモンズと美術館

岩崎克也(建築家、日建設計)+西澤徹夫(建築家、西澤徹夫建築事務所主宰)+浅子佳英(建築家、タカバンスタジオ主宰)+森純平(建築家、PARADISE AIRディレクター)

学びの場と通底する八戸市新美術館の設計思想

浅子佳英氏

浅子佳英──この連載の第1回目は美術館においてラーニングプログラムを日本でいち早く始めた森美術館のキュレーターの高島純佳さんと白木栄世さんのお二人に、第2回目は八戸市において小中学生を中心に長年にわたって版画教育を実践されてこられた坂本小九郎先生に、そして第3回目は実際に美術館を使う側であるアーティストの田村友一郎さん、山城大督さんと、キュレーターの服部浩之さんのお三方にお話をうかがいました。今回はいよいよ建築的な──具体的には学ぶ場の設計について──お話をおうかがいしたいと思います。

岩崎克也──インタビュー・シリーズを通して、自分たちの作品を多方向から見てみたいということなのですね。

浅子──はい。そして設計だけにかぎらず美術館の運営プログラムにもみなさんのお話を反映させていければと考えているんです。

西澤徹夫氏

西澤徹夫──岩崎さんは日建設計に所属し、学校建築や福祉施設などの設計を主に手がけていらっしゃいます。当然ながら美術館と学校ではビルディングタイプが異なるわけですが、ではなぜわれわれが学校建築に着目したのかを、まずご説明いたします。
われわれが設計している「八戸市新美術館」は4,500平方メートルほどの小さなものであり、規模からみても、多くの作品をコレクションしていき、所蔵した作品を基に展覧会を開くだけということは想定されていません。
八戸市では、八戸三社大祭などのお祭りをはじめ、デコトラやB級グルメなど、街のみなさんが自らつくり上げるような文化が盛んであり、それらを八戸市に固有の資源として捉えることが可能です。鶴見俊輔さんによる「限界芸術」(『限界芸術論』[ちくま学芸文庫、1999])という定義があります。簡単にいうと、専門家によらない大衆によってつくられ享受される美的な経験のことなのですが、そういったものが地域の人たちにとって日常の生活のなかでいかに意義のあるものであるか、きちんと掘り下げて価値をつける場として必要なのではないかと考えました。
その過程で、「八戸市新美術館」では、すでに価値の定まった作品を展示するにとどまらず、まだ価値の定まっていないものを発掘しリサーチして価値づけし、それぞれの結びつきを探る。さらには、展覧会をつくる作業のプロセスそのものを資料や作品として位置づけていき、街の人も美術館の学芸員も、「教える側−教わる側」という区別なく展示をつくっていく。こうしたことをラーニングであると捉えました。
現在、教育の現場においては、お互いに学びを共有するという考え方が、世界的にも中心になりつつあり、したがってわれわれが「八戸市新美術館」で考えなければいけないことと学校建築は通底しているはずです。そこで、学校という学びの空間は実際にはどのように設計されているのか。その最前線を岩崎さんにお聞きしたいと考えたんです。
先日、岩崎さんの設計された小中一貫教育を行なう《港区立白金の丘学園》に見学に伺いました。そのときにいただいた資料のうち「基本構想におけるコンセプト」を見ると、「学びの心を耕す学校」「地域とともにある学校」「地域環境と共生する学校、地域とともにある『開かれた』学校」とあります。じつはこのコンセプトは「八戸市新美術館」でわれわれが掲げているものととてもよく似ていて、素直に驚いています。

浅子──具体的に「八戸市新美術館」についてご説明します。まずは、作品を制作、展示、収蔵するというサイクルをどのようにすればこの場所でつくることができるかということを考えました。最大の特徴は「ジャイアントルーム」と名づけた巨大な部屋です。エントランス・ホールでもあるのですが、たんに広い部屋ではなく、キュレーターや美術館スタッフが展覧会の準備をする場所でもあるんです。美術館を訪れた人と美術館を使う人が同じ部屋で同時に活動している状況を可視化したいとの考えから生まれたものです[fig.01]。「ジャイアントルーム」の周囲には、「ホワイトキューブ」「アトリエ」「スタジオ」など、学校でいうところの特別教室(音楽室や美術室など)にあたるものを配置しました。ここでいう「ホワイトキューブ」は、なんにでも使える抽象的な部屋ではなく、照明や壁のつくりなどは完全に展示に特化した部屋だと定義しています。また、「アトリエ」は作品制作向けの設えになっていて、たとえば床や壁にはビスが打て、水が使えます。このようにある機能に特化した部屋が「ジャイアントルーム」の周囲に複数あるんですね。

fig.01──「八戸市新美術館」模型
左上が「ジャイアントルーム」、その右隣が「ホワイトキューブ」
写真提供=西澤徹夫建築事務所・タカバンスタジオ設計共同体

西澤──それはいわば、「ジャイアントルーム」が、《港区立白金の丘学園》でのオープンスペース(多目的教室)であり普通教室であるという考え方に近いと思います。隣接して広場に面したファサード側に展覧会や調査研究などを行なう「プロジェクトルーム」、学校でいうところの準備室を設けました。スタッフが展覧会をつくっているさまそのものが、街と「ジャイアントルーム」の双方に開かれているようにしたいと考えたからです。

浅子──「ジャイアントルーム」は、外部からの訪問者が最初に訪れる場所でありながら、隅のほうではレクチャーが行なわれていたり、別の場所では作品解説を読んでいる人がいる。複数の活動が同時に並行して動いている状況をその大きさによって導こうというものです。

西澤──《港区立白金の丘学園》の資料には、特別教室に関する記述があり、「専門性とフレキシビリティーに富んだ学習を可能に」するとあります。これについてもわれわれが「八戸市新美術館」でやりたいと考えていることと一致します。


201802

連載 学ぶこととつくること──八戸市新美術館から考える公共のあり方

第6回:MAT, Nagoyaに学ぶ
街とともに歩むアートの役割
第5回:YCAMの運営に学ぶ
地域とともにつくる文化施設の未来形
第4回:学ぶ場の設計から学ぶ──
ラーニング・コモンズと美術館
第3回:美術と建築の接線から考える
美術館のつくり方
第2回:子どもたちとともにつくった学び合う場
──八戸市を拠点とした版画教育の実践
第1回:森美術館からの学び
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