第4回:学ぶ場の設計から学ぶ──
ラーニング・コモンズと美術館
ラーニング・コモンズと美術館
港区立白金の丘学園におけるコモンズ空間
岩崎──大学を中心にいくつかの事例を見てきましたが、大学に限らず教育の場においては、一方的に先生から教わるのではなく、実践力を身につける学習環境が求められているのだといえると思います。そのためにはインプットの活動とアウトプットの活動をうまく連続させていくことが重要となります
。われわれが実際に「四つのS」を建築に盛り込んだ提案の例があります 。「学修」「実践」「発信」「交流」を行なう場の空間的な連携を念頭に置いています。この案ではひとつの建物にすべてを盛り込んでいますが、大きな大学などであれば、キャンパス全体に分散して配置することも可能でしょう。
- fig.24──「四つのS」のダイアグラム 実践力を身につける学習環境イメージ
図版提供=日建設計
岩崎──先日アジアに視察に行ったのですが、印象に残ったのが、トーマス・ヘザウィックが設計したシンガポールの《ナンヤン工科大学ラーニング・ハブ》です。方形ではなく円形で建物が構成されています
。すなわち教室が丸いのですが、なぜかというと、講義の形式が一方向に限らず、全員で議論するからなのだそうです。僕らからすると目から鱗が落ちるようなアイデアでしたね。教室の内部にはスクリーンがあちこちにぶら下がっていました。グループ・ワークの際に、あちこちがスクリーンとして使えると、「実践」「発信」「交流」の幅が広がっていくと思います。
- fig.26──トーマス・ヘザウィック《ナンヤン工科大学ラーニング・ハブ》外観
写真提供=岩崎克也
- fig.27──トーマス・ヘザウィック《ナンヤン工科大学ラーニング・ハブ》内観
写真提供=岩崎克也
浅子──ありがとうございました。学校はいままさに変化の時であり、さまざまな場で試行錯誤している状況なのですね。はじめに西澤さんからもありましたが、お話を聞いていて、改めて自分たちが「八戸市新美術館」で考えていることと似ていると率直に感じました。教育の現場が変化しているとのことでしたが、美術の現場においても変化の時を迎えているからこそ似ていると感じるのだと思います。これまで、美術館で扱われる作品は絵画や彫刻のように、静的で収蔵することを前提にしたものが大半だったのですが、現代美術においてはどのように収蔵すればいいのか頭を悩ませるような作品が増えてきています。ですから美術館というビルディングタイプが変化しなければならないことはわかっているのですが、では具体的にどのようにすればいいのかがなかなか見えてこない。こうした状況に対して「八戸市新美術館」では、なんらかのかたちを与えたいと考えています。その時に参照できる対象として学校があるという予感はもっていましたが、まさかここまでリンクしているとは予想していませんでした。
岩崎──海外視察を終えてから《港区立白金の丘学園》の設計を行なったのではなく、ほとんど同時多発的に動いていた結果として表われたものです。きょうお話ししたことは、海外視察の成果を発表する機会に合わせてまとめた内容で、ようやく自分のなかでも言葉になってきたというような状況ですね。
西澤──たとえば《港区立白金の丘学園》の図書館は4階に位置しているわけですが、5年生以上にとっては昇降口から教室に向かう「学びの大階段」と名づけられた主動線の途中にあり、非常に立ち寄りやすい場所にあるといえます。さらには、高学年用の運動場は4階のランチルームから観覧でき──海外事例で紹介のあった図書館とは意図が異なりますが──奥まで視線が抜けるようにつくられていました。いずれも「マグネット効果」が実践されていると言っていいのだと思います。
また、II期(4年生から中学1年生)の子どもたちが学ぶ5階のオープンスペースには、「仕掛けがあること」で紹介されたカリフォルニア大学のサポートセンターにあたるような、先生の待機コーナーがありました。
低学年向けの運動場は上級生とは切り離されており、登校した後は、上級生とは動線が切れるかたちで守られている。家というメタファーを使われていましたが、実際天井も低く、先生と生徒がファミリーのような感じで学ぶ場として設えられている。それぞれの階は学齢に合わせたスケール感にし、床の素材や色も変えていらっしゃいました。図書館における音環境の区分けに近い考え方で、ゾーンを分けているのだと思います。