第4回:学ぶ場の設計から学ぶ──
ラーニング・コモンズと美術館

岩崎克也(建築家、日建設計)+西澤徹夫(建築家、西澤徹夫建築事務所主宰)+浅子佳英(建築家、タカバンスタジオ主宰)+森純平(建築家、PARADISE AIRディレクター)

コモンズ空間における「四つのS」

岩崎──学修環境、とくにコモンズ空間に関していくつか参照すべきキーワードがあります。1980年代には、マサチューセッツ工科大学(MIT)のドナルド・ショーン(1930−1997)によって、学びにおける「リフレクション」の重要性が説かれていました。リフレクションとは、自らが学んだことを他者との対話を通して振り返り、より深く学ぶことです。
そしてこの理論をさらに推し進めた「プレイフル・ラーニング」という考え方を同志社女子大学の上田信行先生が提唱されています。これは、たんに他者との対話にとどまらず、大勢が集まり本気でものごとに取り組んだ結果感じられる、わくわくとした高揚感があふれる学びのことなんですね。上田先生は「学び」の風景を次の四つに分類されています。
ひとつは「SCHOOL型(get)」です。これはわれわれも経験的に知っている、従来型の学びの場ですね。つまり「教える−教えられる」関係がはっきりとしている、いままでどおりの教室型のことです。
つづいて「STUDIO型(make)」は、アトリエやラボといった体験型学習を行なえる場です。いわば建築学科の製図室のようなところですね。
三つ目は「STAGE型(perform)」です。グループのみんなや大勢の観衆に向けてプレゼンテーションすることで得られる学びです。
最後は「STREET型(clash)」で、これまでの環境では遭遇しなかった異なる文化と出会い既成概念が壊されることで受けるショック体験です。不安定な環境で新たな発見をしながら学び続けていくようなかたちです。以前はこの「STREET」は「MOVE」とも定義されていたようです。
これら「四つのS」をいかにバランスよく教育環境にちりばめていくのかが大事だと上田先生はおっしゃっています。
この上田先生の四つのSを聞く前は、僕は別の四つの言葉を使っていました。「SCHOOL型」にあたるのが「学修」で、「STUDIO型」が「実践」、そして「STAGE型」が「発信」、「STREET型」を「交流」としていたんですね。
この「四つのS」をどのようにすれば建築になるのか、ラーニング・コモンズの空間はどういう場であればうまくいくのかを、僕なりに考えてみました。

マグネット効果

岩崎──ひとつは「マグネット効果」です。人が集まる場所であること。順を追って実例を見ていきましょう。
主要な動線にコモンズを隣接させている例です。ニューヨークにあるSOMの設計した《ニュースクール大学センター棟》では、避難階段とオープンな階段が平行してらせん状に上がっていくつくりになっています。オープンな階段の周囲にカフェなど人が集まるような空間を配しているんです[fig.07]

fig.07──《ニュースクール大学センター棟》階段そばのカフェ
写真提供=岩崎克也

岩崎──《ウィーン経済経営大学》は、阿部仁史さんをはじめ複数の建築家が設計を手がけているのですが、バスアルヒテクトゥールが設計した講義棟ではやはり動線の周囲に自習スペースを設けています[fig.08]。あちこちで自習をしている人の姿が見えますので、お互いに刺激し合って学習意欲が増すような仕掛けといっていいと思います。階段室が6階まであって、その周囲を自習スペースが取り囲んでいますので、階段を上っていると、どこで誰が勉強しているかが見えています。また、上階に行くにしたがって、静かな空間になっていくのも大きな特徴です。ファサードを見てみると、コモンズ空間だけがガラス張りになっていて、それ以外の場所は窓はあるにはありますが、サッシの外側をコールテン剛の表層で覆って隠している[fig.09]。言い換えると人が集まる場所だけを外部から見えるようにしているんですね。

fig.08──《ウィーン経済経営大学講義棟》自習スペース
写真提供=岩崎克也


fig.09──《ウィーン経済経営大学講義棟》外観
写真提供=岩崎克也

岩崎──次は食堂、学生会館、図書館にコモンズを隣接させているものです。カリフォルニア大学サンディエゴ校では、大きなカフェテリアにガラスのボックスがあって、だれかがご飯を食べている近くに勉強する場所があるのは不思議でしたが、その中ではいくら騒いでもいいし、ほかがうるさくてもこの中では静けさが保たれています[fig.10]。

fig.10──カリフォルニア大学サンディエゴ校 カフェテリアのガラス・ボックス
写真提供=岩崎克也

岩崎──ワシントン大学の図書館はもともとは本だけのスペースでした。ですが、改修され図書スペースというよりも、それぞれのスタイルで学修するような空間になっています[fig.11]。議論をするような空間もありますし、やはり上階に行くほど静かな場が用意されています[fig.12]。たとえば、3階の開架ゾーンは「Quiet Study Area」と扉に明記されています[fig.13]。さらに最上階はセキュリティがかかっていて、写真を撮るときのシャッター音ですら目立つような静かな空間でした。この建物は入った瞬間に吸音しているという感じは受けませんでした。人が集まる設えということでいうと、他の大学でもカフェだけでなくバーがあったり、さらにはほかのキャンパスとのあいだで行なうTV会議システムが構築されていました。

fig.11──ワシントン大学の図書館 ラウンジ的に利用される1階吹き抜け
写真提供=岩崎克也


fig.12──ワシントン大学の図書館 上階ほど静かになる空間構成
写真提供=岩崎克也


fig.13──ワシントン大学の図書館 3階開架ゾーンのクワイエット・スタディ・エリア
写真提供=岩崎克也

居心地がよいこと

岩崎──二つ目は「居心地がよいこと」です。入ったらその場所にとどまりたいと感じること。人が集まるのはどういうところなのかを見ていくと、やはり自然採光の明るい場所なのです。
ワシントン大学のスチューデントセンターでは、吹き抜けやガラス越しに学生の姿が多く見えました[fig.14]

fig.14──ワシントン大学スチューデントセンター 吹き抜けを介して現われるアクティビティ
写真提供=岩崎克也

岩崎──フランク・ゲーリーの設計したMITの《スタタ・センター》はところどころに高さのあるヴォイドがあり開放的な縦の空間をつくっています。これも自然採光のひとつの例だといえます[fig.15]。廊下の膨らみの黒板は、一見するとオブジェのようでもあるのですが、数式などが書かれていて実際に使われていました[fig.16]

fig.15──フランク・ゲーリー《MITスタタ・センター》縦につながる空間
写真提供=岩崎克也


fig.16──フランク・ゲーリー《MITスタタ・センター》内観廊下
写真提供=岩崎克也

岩崎──先ほどからいくつか例を出していますが、やはり音環境も居心地のよさという点では重要です。人それぞれに好みがありますから、たんに静かであれば集中できるというわけではありません。ザハ・ハディドの設計した《ウィーン経済経営大学》の図書館は、階ごとに音環境が違うことが明確にわかるほど、意識的に床や天井、壁などの吸音性能を変えています。ここでは、「周りがうるさいほうがよく、かつ自分も騒ぎたいタイプ」(騒×騒)、「外は静かでグループで勉強したほうが効率よく勉強できるタイプ」(静×騒)、「周りに人がいたほうが落ち着くのだけれどプライベートなスペースがほしいタイプ」(騒×静)、「外も内もしんと静まりかえった空間を好むタイプ」(静×静)というように、四つの異なる好みが想定されており、それぞれに適した音環境に分けられています。こうした区分けはほかの大学でも見られるものでした。
次に屋内外の空間の連続性にも着目しました。《ウィーン経済経営大学》のロビーなのですが、奥まで視線が抜けるようにつくられており、誰がどこでなにをしているかが一望できるようになっています[fig.17]。各部屋をガラス張りにして、お互いが刺激し合えるようにすることも多く行なわれています。最近の小中学校では、廊下との境の壁をガラス張りにしてほしいという要望が増えてきています。一方で、開放的につくったとしても、大学の研究室の場合だと、先生が閉じてしまうこともあります。スタンフォード大学ジェン・スン・ファン・エンジニアリング・センターでは、磨りガラスの間仕切りがホワイトボードのように使われていました[fig.18]。視覚的には閉じているにもかかわらず研究室の活動が外部に見えている例ですね。

fig.17──《ウィーン経済経営大学》奥まで視線が抜けるロビー
写真提供=岩崎克也


fig.18──スタンフォード大学
ジェン・スン・ファン・エンジニアリング・センター
ホワイトボードのように使われている磨りガラス
写真提供=岩崎克也

仕掛けがあること

岩崎──三つ目が「仕掛けがあること」です。たとえば《港区立白金の丘学園》では、昇降口のそばに図書館を配しています[fig.19]。なぜかというと、教室までの順路の途中に図書館があると本の貸し出し率が上がるという統計があるからなのですが、振り返ってみるとそれは図書館に子どもたちが立ち寄っていることの現われでもあります。また、大学などでは、コーヒー・サーバーやコピー室があると、あちこちから自然と人が集まってきます。そこでは異なる研究室の人たちによる交流が生まれますので、インフォーマルな会話から新しい発想が生まれることが期待できます。

fig.19──《港区立白金の丘学園》4階平面図
図版提供=日建設計

岩崎──先ほど建築空間と家具のあいだの領域の空間づくりが重要なのではないかとお話ししましたが、そういった事例を見ていきましょう。まずは、スタンフォード大学ジェン・スン・ファン・エンジニアリング・センターにある、ヒューレット・パッカードの創業時のガレージのレプリカです[fig.20]。ガレージからスタートした研究室ということで、レプリカをつくってしまったんですね。共用スペースでは、机、イス、ホワイトボードがすべて可動式になっており使い手の意志で自由に動かすことができます[fig.21]

fig.20──スタンフォード大学ジェン・スン・ファン・エンジニアリング・センター
ヒューレット・パッカード創業時ガレージのレプリカ
写真提供=岩崎克也


fig.21──スタンフォード大学ジェン・スン・ファン・エンジニアリング・センター
共用スペースの可動式の家具
写真提供=岩崎克也

岩崎──カリフォルニア大学サンディエゴ校プライスセンター東館でも同じく自由にイスがレイアウトできる場所がありました[fig.22]
建築や家具でさまざまに設えても、やはり人によるサポートは欠かせません。カリフォルニア大学サンディエゴ校プライスセンター東館にはワン・ストップ・カウンターというものがありましたが[fig.23]、PCの貸し出しなどを行なう同様のサポートセンターはそれぞれの大学で見られました。

fig.22──カリフォルニア大学サンディエゴ校プライスセンター東館
イスは自由にレイアウトできる
写真提供=岩崎克也


fig.23──カリフォルニア大学サンディエゴ校プライスセンター東館
ワン・ストップ・カウンター
写真提供=岩崎克也


201802

連載 学ぶこととつくること──八戸市新美術館から考える公共のあり方

第6回:MAT, Nagoyaに学ぶ
街とともに歩むアートの役割
第5回:YCAMの運営に学ぶ
地域とともにつくる文化施設の未来形
第4回:学ぶ場の設計から学ぶ──
ラーニング・コモンズと美術館
第3回:美術と建築の接線から考える
美術館のつくり方
第2回:子どもたちとともにつくった学び合う場
──八戸市を拠点とした版画教育の実践
第1回:森美術館からの学び
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