第4回:学ぶ場の設計から学ぶ──
ラーニング・コモンズと美術館

岩崎克也(建築家、日建設計)+西澤徹夫(建築家、西澤徹夫建築事務所主宰)+浅子佳英(建築家、タカバンスタジオ主宰)+森純平(建築家、PARADISE AIRディレクター)

変わりゆく普通教室のあり方

岩崎──先ほど西澤さんからも説明があったように、《港区立白金の丘学園》は港区立の学校なのですが、小中一貫教育を行なっています。二つの小学校とひとつの中学校が統合されたことを機に校舎を新築しました。小学校課程6年間と中学校課程3年間の合わせて9年間を、子どもたちの心と体の成長にあわせて、小学1年生から4年生までのI期、小学校5年生から中学1年生までのII期、そして中学2、3年生のIII期というように分けています。元の地形を活かすかたちで坂を主動線とし、地下1階、地上6階建てで、学年が上がるにつれ教室も上階に上がっていきます[fig.02, 03]。低学年用と高学年用とでグラウンドを分けています。
教室のコンセプトについてなのですが、特別教室は、専門性を求められている部屋です。実際に教える先生ごとの色がかなり出るような部屋であり、該当教科に特化した教育を行なうための空間です。つまり専門性がありながらも、各先生がご自身の使い勝手でアレンジを加えられるようなバッファーをもたせています。

fig.02──《港区立白金の丘学園》動線のダイアグラム
図版提供=日建設計


fig.03──《港区立白金の丘学園》断面図
図版提供=日建設計

岩崎──普通教室とオープンスペースに関してはセットで考えており、その関係はそれぞれの学齢期に応じて変化をもたせています。
I期は学び方の基本と団体行動を覚える時期と捉えています。オープンスペースはありますが、教室に付随するかたちでクローズドになっており「家」のような空間と位置づけています[fig.04]

fig.04──《港区立白金の丘学園》1階平面図
図版提供=日建設計

岩崎──II期は、子どもたちが先生から離れて行動する時期と捉えており、オープンスペースが学年全体で共有されています[fig.05]。いわば「広場」のような空間であり、学年間の交流が盛んになることが期待されています。オープンスペースには、病院におけるナースステーションのように、担任や副担任の方が待機できるコーナーを設けています。

fig.05──《港区立白金の丘学園》3階平面図
図版提供=日建設計

岩崎──III期では、子どもたちは自らの意志で自由に行動できるだろうと、「街」になぞらえ、廊下は街路であり、学校が小さな街であると捉えています[fig.06]。この期では国語や数学も含め各教科ごとに教室が分かれており、したがって授業ごとに特別教室へと移動することになります。

fig.06──《港区立白金の丘学園》6階平面図
図版提供=日建設計

西澤──見学した際に教えていただいたことですが、《港区立白金の丘学園》では、普通教室においても、教える先生によって、机の配置などがその都度変わるとのことでした。われわれの子ども時代は、どの普通教室においても、黒板を背にして先生が立ち、子どもたちは先生に向かって一方向に対面して並んで座っているのが一般的でした。

岩崎克也氏

岩崎──いろいろと使いこなせる普通教室なのですが、先ほども言ったとおりオープンスペースとセットで考えています。なぜなら、クラスの半分がオープンスペースに行き、残りの半分が普通教室に残って、別々に課題を解いた後に、その内容をそれぞれ説明し合うというような授業が行なわれているからです。こういった授業のためにも小学4年生から中学1年生くらいまではオープンスペースが必要になります。普通教室の家具は、子どもたちが自由に動かせるようになっています。オープンスペースに自分たちの机を持ってきて議論を行なう。あるいは普通教室においてコの字型に机を並べて、その中心に先生が立って授業を行なう場合もあるようです。別の学校の例では、ある問題を考えてみようというときに、前の人が後ろの人と机を対面させて議論するようなことも行なわれているようです。

浅子──なるほど、授業というソフトのほうも非常にオープンな使われ方をしているわけですね。とはいえ、このような試みがすべての学校で行なわれているわけではないですよね。

岩崎──すべての学校ではないと思います。けれどいまは、ただレポートを書いてきなさいというのではなく、ある議題に関してグループでまとめなさいというような形式の課題が増えている。その結果として、グループで話し合いレポートをまとめられるような空間が、昨今の教育施設において求められている状況です。

西澤──たとえば普通教室というと、僕らの世代では、後ろの壁にはいろいろな掲示物を張れるようになっていて、ロッカーがあり、前には黒板があって、その脇に先生の机があるというように、使い方が固定されていました。一方、《港区立白金の丘学園》では、ロッカーは教室にはなくて、オープンスペースにあり、教室はもっと開放的な印象を受けました。つまり教室はがらんどうで、前と後ろはとくに決まっておらず、方向性がないようにつくられている。

岩崎──先生がパソコンを使って授業を行なうケースが増えていますが、新しい授業は前の黒板で行ない、以前の授業を振り返る場合に横の壁面や後ろの黒板を活用するというように、学校によっては、前方の黒板あるいは白板だけでなく、後ろと横の壁面の三方を使っている場合もあるようです。

浅子──そういった設えをつくるきっかけは、学校の先生からの要望なのでしょうか。それとも海外などの先進的な事例を取り入れているというかたちなのでしょうか。

岩崎──海外の事例を参照していると思います。アクティブ・ラーニング(主体的・協働的な学修)やラーニング・コモンズ(アクティブ・ラーニングを可能にする場)は、カナダやアメリカから起こっていて、文部科学省がここ数年それらを推進しようとしています。日本においては、家具メーカーが先行して、こういった教育に適した机やイスを開発していました。ただし、やはり家具のみでは限界がありますので、建築空間と家具のあいだの領域の空間づくりをしていかないと、なかなか心地のよい空間にはならないのではないかというところまではきています。ここ数年、何度か海外の事例を見て回る機会がありましたので、いくつか紹介していきたいと思います。


201802

連載 学ぶこととつくること──八戸市新美術館から考える公共のあり方

第6回:MAT, Nagoyaに学ぶ
街とともに歩むアートの役割
第5回:YCAMの運営に学ぶ
地域とともにつくる文化施設の未来形
第4回:学ぶ場の設計から学ぶ──
ラーニング・コモンズと美術館
第3回:美術と建築の接線から考える
美術館のつくり方
第2回:子どもたちとともにつくった学び合う場
──八戸市を拠点とした版画教育の実践
第1回:森美術館からの学び
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