「ジャパンネス」展(ポンピドゥ・センター・メス) ──建築の展覧会はいかに成立するか

今村創平(建築家、千葉工業大学教授)

ポンピドゥ・センター・メスにて、現在「Japan-ness: Architecture et urbanisme au Japon depuis 1945」が開催されている(2017年9月9日から2018年1月8日まで)」★1

fig.1──第1室、磯崎新による《ふたたび廃墟となった広島》(1968)。室内には昭和天皇の玉音放送の音声が流れる。

ポンピドゥ・センター・メスは、建築家坂茂の設計により2010年に開館した美術館であり、フランスの高速鉄道TGVが止まるメス駅に隣接して建てられている。フランス北東部にあるメスは、日本人にはなじみが薄いかもしれないが、古代ローマ時代から続く由緒ある都市であり、街のシンボルであるゴシックの大聖堂はシャガールのステンドグラスなどもある壮麗な大伽藍である。プラットフォームの数に比して立派な石造りのメス駅舎は、印象的であるもののフランスらしい洗練さがみられない、いくぶん野暮ったい建物である。というのも、1908年の竣工時、メスはプロイセン領であり、第一次世界大戦後にフランス領に戻った。そのように、フランスとドイツ両方の文化を持ち、中世にはヨーロッパ経済の中心のひとつであり、長らく交通の要所であり続けてきたのが、このメスなのである。

今回の日本建築展覧会が、なぜパリのポンピドゥではなく、メスなのかと疑問に思う人も多いだろうが、それは展覧会の重要度が低いためとは言えない。少々フランスの文化政策の変遷に触れると、中央政権が国の根幹ともいえるフランスにおいて(それはルイ14世の頃に典型的であったが)、文化政策においてもそれは同様であった(各地方の連合からなるドイツやイタリアとは好対照である)。それが、数十年前から、地方にも文化施設を設け、活性化させるという大きな方針の変更がなされた。ポンピドゥのみならず、ルーブル美術館の別館がランスにつくられたのものそうした流れのひとつである(SANNA設計、2012年開館。ついでながら、ルーブル美術館の巨大な別館が、今年の11月11日、アブダビにオープンした。設計はフランス人建築家ジャン・ヌーベル。かつてのすべての美術品をパリに集めるという姿勢に対して、これらは拡散化が進んでいる証である)。また、ポンピドゥ・メスのあるメスは、単なるフランスの一地方都市ではなく、メスを中心とした同心円状にパリ、ブリュッセル、フランクフルト、チューリッヒがあるような、地政学的には北ヨーロッパの要所といえる場所にある。この地で展覧会を行なうということは、フランスのみならず、ヨーロッパ各国からの来場者も期待できるといえ、そのような地点にポンピドゥの別館は配置されている。ついでながら、同館の館長は女性であり(Emma Lavigne女史)、まだまだ世界の主要な美術館の館長は男性が多いなかで、同館の先進性を象徴している。

fig.2──第2室、1950年代、60年代の図面が4面を飾り、中央には丹下健三の《国立代々木体育館》(1964)と《東京カテドラル》(1964)の模型。

今年は、パリの日本文化会館で「坂倉準三展──人のための建築」展(4月26日-7月8日)が、同じくパリの建築展示施設アーセナルでは「Japanese Architecture in Paris(パリにおける日本人による建築)──1867-2017」展」(6月28日-9月24日)が開催と、ほぼ同時期に日本の近現代建築に関する展覧会が3つも行なわれており、かの地における日本の近現代建築への関心はかなり高いと言ってよい。ちなみに、私は今回の渡仏時に後者の展覧会を訪れる機会があったが、通り一遍の展示ではなく、かなりのリサーチに基づいた資料性の高い本格的な展示であり、日本で開催されても話題となるような質の高いものであった。この展覧会のゲストキュレーターを務めたアンドレアス・コフナーは現在ヴェルサイユの建築学校にて教鞭を執っているが、OMAに在籍していたこともあり、このリサーチの徹底さは、OMA/AMO流かと想像するところがある。

また、ポンピドゥ・メスは今回の建築展と合わせ長谷川祐子キュレーションの「ジャパノラマ──日本の現代美術への新しい視点展」(10月20日-2018年3月5日)を開催中である。こちらは、1970年以降の、美術、建築、演劇、モードといった幅広い日本のクリエーションを紹介する野心的な展覧会である。つまり、ポンピドゥ・メスでは、これらの2つの大規模な展覧会により、日本の現代文化を幅広く紹介する全館的な「日本シーズン」を行なっているのである(ついでながら、日仏友好160周年にあたる来年、パリを中心に大々的に日本の文化を紹介する「ジャポニズム2018」が、日本国政府主導で予定されている。建築展としては、安藤忠雄展が予定されている。★2

さて、前置きがかなり長くなったが、「Japan-ness」展について。この展覧会は、戦後の日本建築を総覧するもので、このように大規模な同様のテーマの展覧会は世界で初めてである。日本においては、本展の別バージョンといえるものが、2014年に金沢21世紀美術館で開催されており(「Japanese Architects 1945-2010」、2014年11月1日-2015年3月15日)、しかし日本においてもこのような展覧会はそれ以前には開かれていなかった。それだけに、きわめて重要な展覧会であるといえるし、またこうした建築の展覧会の実現がいかに困難であるかを物語っているともいえよう(補足するならば、ポンピドゥ・センターでは、1986年に「前衛芸術の日本 1910-1970」展を開催している。同展は1910年代以降の日本の前衛芸術を紹介する包括的な展覧会で、大きな話題を呼んだと聞いているが、その際は、建築は展覧会全体の一カテゴリーであった。こうして建築だけを扱い、70年もの期間を対象とする試みは、これまでにない)。

fig.3──メタボリズム。

「Japan-ness」を企画したのは、ポンピドゥ・センターの副館長を務めるフレデリック・ミゲルー氏であり、彼は10年にも及ぶ年月をかけてこの展覧会を実現した。ミゲルー氏は、数多くの日本の近現代建築の資料(ドローイング、模型など)をポンピドゥ・センターやオルレアンのフラック・センターに収蔵することに尽力し、ポンピドゥのコレクションは世界でも類を見ない日本建築のコレクションとなっている。本展は、そうしたポンピドゥ・センターが収蔵する膨大なコレクションと、所有者からの貸し出しによって実現されたものである。そして、ミゲルー氏の意図により、展示品のほとんどすべてがオリジナルのドローイング、模型である。通常の建築展では、建築というジャンルが一般の来場者になじみにくいこともあり、さまざまな展示物を駆使することで、建築の説明を試みている。だが、本展では、オリジナルに限っているために、例えばある建築では、断面詳細図しかなく、その建物を理解することは難しい。しかし、当時つくられたオリジナルだけが延々と並ぶさまは圧巻であり、それらを掲載したカタログは資料性が高い。

展示は、戦後から現代までが時系列に並べられ、最初の展示室の壁が真っ暗なのが、徐々に明るくなり、最後には真っ白となる。また展示室の形状も、最初は矩形なのが、途中から斜めの壁などが入り、最後は大きな空間にさまざまな作品がばらばらと並べられている。こうした展示方法は、日本建築の世代ごとの展開と同時に社会の動向を反映することが意図されている。

fig.4──進むにつれ、閉じた四角い展示室ではなくなる。両側に『都市住宅』の誌面のコラージュ。

さて、先に記したように、一昨年の金沢での展覧会との違いを挙げておこう。「10+1 website」の読者には、金沢の展覧会を観た方もそれなりに多いと思われ、また違いを見ることで今回の展覧会の特徴も伝わるかもしれない。
まず、タイトルを「ジャパンネス(Japan-ness)」とし、建築における日本的なるものをテーマとして掲げている。この「ジャパンネス」は、磯崎新の著書『日本的なるもの』にて展開された言葉である。カタログにも、ミゲルー氏と磯崎新の対談が掲載され(カタログはフランス語なので、私は未読)、今回の展覧会のテーマ設定には、磯崎の思考の影響があることがうかがえる。そして今回はこれもタイトルの副題にて「1945年以降の日本の建築と都市」とあるように、建築と都市を対象としている(金沢では、都市というテーマ設定はなかった)。そのため、例えば、磯崎新の広島の廃墟のコラージュ、『都市住宅』誌の都市に関する誌面を用いた壁面コラージュ、宮本隆司撮影の阪神大震災の巨大な白黒写真(震災直後のヴェネチア・ビエンナーレの日本館で展示されたオリジナル)、若手作家による東京の映像などが、各時代の展示に挿入されている。

金沢では展示の冒頭に鈴木了二による建築の遺品を集めたインスタレーションが置かれていたが、今回は会場に入ると磯崎の広島の廃墟のコラージュが真正面に飾られ、廃墟から復活した日本というストーリーが強調されている(戦後を廃墟から始めその復興と建築を結びつけることは妥当であるし、外国人には印象深く理解しやすい構成である。一方、このストーリーは磯崎により繰り返し語られ、また森美術館で開催された「メタボリズム展」でも同じような導入部であったため、既視感が強い)。金沢で展示されていた2000年以降の作品は大幅に減らされ、その代わりに2000年以降今日までの数多くの作品(特に若手の)写真が、藤本壮介のインスタレーションにて展示されている(金沢では2010年までであった。ただし率直に言うと、このコーナーはセレクションも展示方法も急ごしらえの感は否めない)。カタログは完全に作り直され、ハードカバーの立派な仕様となっている。

このように、展覧会、カタログとも、タイトルの名にふさわしい充実したコンテンツとなっており、日本の建築界がこの70年間途切れることなく、各世代がオリジナルな作品群を生み出してきたことを、あまねく紹介している。

fig.5──1980年代頃の作品群。左手上方は、今回再制作された伊東豊雄《遊牧少女の包(パオ)2》。

さて、そのうえでこの展覧会をどう評価するか。規模や内容、実現するに至る熱意に対しては、充分な賛辞が送られるべきだろう。作品のセレクション、テーマ設定に対しても、基本的には高い評価ができる。一方で、建築の展覧会は、同じ内容を対象としていたとしても、書籍とは異なる。明らかに展覧会のほうが扱える対象の制約が多いのだが、先の金沢の展覧会に対しては、そうした違いに無自覚な批評がいくつか見られた。例えば、戦後建築史といった通史を描き出すのに、必要とされる作品をあまねく展示することは無理であり、そうしたことを前提として、建築展はつくられるべきである(少なくとも、戦後日本建築展が、日本人の手によるよりも前にフランス人の手によって実現されたことに対しては、謙虚であるべきだ)。だとすると、建築の展覧会は、公平で網羅的であるよりも、企画者によるある特定な視点による方が利点を生かせるように思える。

今年、東京国立近代美術館にて、「日本の家 1945年以降の建築と暮らし」(7月19日-10月29日)が開催された際に、セレクションの偏りとある特定の系列の重視があるとの批判が多く聞かれたが、しかし建築展とはその性格上からして、独自の視点からキュレーションがなされたほうが、成立しうるのではないか。このことは、来年森美術館で開催される「建築の日本展──その遺伝子がもたらすもの」(2018年4月25日-9月17日)においても、必ず議論となるだろう。

このところ何年か、日本では建築の展覧会ラッシュともいえる現象が起きているが、建築展とは何か、いかに成立しうるのか、という議論のためにも、この「Japan-ness」は検証の機会を提供している。

fig.6──最近の作品群の写真によるインスタレーション展示。


★1──合わせて「美術手帖WEB」に掲載されている、本展についてフレデリック・ミゲルー氏へのインタビュー「ポンピドゥー・センターはなぜ日本建築史に注目するのか。「ジャパン・ネス」展キュレーターに聞く」を参照されたい。https://bijutsutecho.com/interview/8092/
★2──http://www.kantei.go.jp/jp/singi/japonism2018/




最後に、私のこの展覧会への関わりを記しておく。まずカタログに新しい論考を寄稿している。今回のテーマのひとつに都市があるので、戦後から現在に至るまで、各世代の建築家たちが都市に対してどういうスタンスを持ってきたのか、検証を試みた。また、研究室の学生たちと、カタログ内の作品と建築家の解説の7割程度を担当した。そして、『都市住宅』のかつての編集長植田実氏と、これも研究室の学生とともに1年にわたり同誌を研究し、会場での展示協力を行なっている。

fig.7──中央フレデリック・ミゲルー氏。その右手、本展覧会担当アソシエイト・キュレーター吉川由紀氏。ミゲルー左筆者。『都市住宅』の展示協力をした千葉工業大学今村研究室の学生たちとともに。

今村創平(いまむら・そうへい)
1966年生まれ。建築家、アトリエ・イマム主宰、千葉工業大学教授。作品=《神宮前の住宅》《富士ふたば幼稚園新園舎》《オーストラリア・ハウス》 《Corridor》ほか。著書=『現代都市理論講義』(オーム社、2013)、『日本インテリアデザイン史』(共著、オーム社、2013)ほか。訳書=アンソニー・ヴィドラ―『20世紀建築の発明』(鹿島出版会、2012)ほか。


201712

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