情報応用造形学のススメ
──情報技術を利用したジオメトリ操作

堀川淳一郎(建築系プログラマー)

情報技術の発達とともに、建築という分野のジオメトリの扱いに対する優位性は失われた。その一因に、業界全体が目の前の問題を解決するための技術にしか目を向けてこなかった点が指摘できる。特に日本の建築界ではジオメトリ操作(造形)に対する意識が希薄だ。本論考では、筆者自身がゲームや映像など業界の経験で触れた、「異業種だからこそ発展しえたジオメトリの技術」を紹介する。そして、ジオメトリに関する技術を建築に持ち込むために「情報応用造形学」を提唱したい[fig.1]

fig.1──筆者によるアルゴリズミック・デザインを利用してつくった銅器

アルゴリズミック・デザイン人気と造形技術の乖離

日本では、アメリカなどに遅れて2007年頃から建築デザインの分野に情報技術が本格的に持ち込まれ、「アルゴリズミック・デザイン」という言葉を知る業界の人が増えてきた。しかし日本でアルゴリズミック・デザインといえば、BIMのように情報をメタなデータとして建築や都市に付随させ、それを利用するシミュレーションの手法や、新しい生産・施工技術を利用することによるデジタルファブリケーションがとりわけ注目されているように見える。

一方で、米コロンビア大学やSCI-Arc、イギリスのAA Schoolで行なわれているような、CG業界の技術を建築の造形に応用するような学問は進んでいないように思われる。ここでいう造形とは、特に情報技術を用いた彫刻的・数理的な手法によるもののことである。複雑な形状・有機的な形状のデザインを実践的に行なっていると言われる日本の設計事務所でも、そのデザイン実施者の多くは海外の建築学科で情報技術を利用した造形技術を学んだ者たちで、多様な造形の術を持っている。対して日本で建築を学んだ者たちは、極端に言うと平面を垂直に立ち上げる造形手法しか知らないことが多く、例えばMark Foster Gageによる造形などを見てもそのつくり方でさえ想像することができない[fig.2]。日本でも近年はアルゴリズミック・デザインのツールとして「Rhinoceros」や「Grasshopper」を学ぶ人も増えているが、それさえも自由に扱えるだけのリテラシーは全体としてまだ低く、またそのツールに偏りすぎるきらいもあり、ほかの多様な情報技術はほぼ認識もされていない状況が続いている。

fig.2──Mark Foster GageによるHelsinki Guggenheim Museumのコンペ案

では、より自由に情報技術を用いた造形を自由に行なえるようになるためには、海外の大学で学ぶほかないのだろうか。私は必ずしもそうは思わない。コロンビア大学がCG業界の技術を輸入したように、じつは建築以外の業界に目を向けてみると、業界ごとにじつにさまざまなジオメトリを操作・生成する技術が育まれていることわかる。これらの技術は建築造形への手法として日本では注目されることはないが、コロンビア大学やAA Schoolのレベル以上の造形技術が、そこかしこに転がっている事実はあまり知られていない。生産技術の高度化に伴い複雑な形状を扱うことが求められ始めているなか、海外のアルゴリズミック・デザイン教育による造形技術に追いつくのはもとより、それ以上に自由な造形に対するアプローチの幅を広げる可能性がそこには眠っているのである。

他業種に見るジオメトリの技術

建築以外の業界におけるジオメトリ関連の技術を見比べてみると、各業界独自の「制限」が、そのままジオメトリの技術に反映されていることがわかる。こうした技術は、その業界でしか発展しえない特徴的な性格を帯びることになる。例えば、建築における制限とは「重力」である。形はつねに自立することが評価される。それゆえに、ジオメトリは形を自立させるための最適化の技術および生産技術として発展したとも言え、これはほかの業界にはない特異的な技術でもある。

他業種で言うと、例えばゲーム業界における制限とは「リアルタイム性」だ。リアルタイムに動かす・見ることのできないジオメトリは、どんなに複雑多岐な形状をしていてもゲームとしてプレイできない以上、評価されることはない。そして、その制限ゆえに建築業界とは異なるかたちでジオメトリを操作する技術が発達した。例えばゲームで使われる3Dシェーダーの技術は、もともとはGPUの並列計算能力を利用し、ジオメトリにテクスチャを貼り付けたりするなど、主に見た目をコントロールするために発展してきた手法だが、近年ではジオメトリの形状自体を、シェーダーを用いて操作することも行なわれている[fig.3]。リアルタイム性を保ったまま、解像度の高いジオメトリを操作できるというこの手法は、ゲームという業界のなかでこそ、驚異的な発展を遂げたのである。この技術を応用すれば、例えば大量の点群からなる建築のスキャンデータなどをリアルタイムに扱ったり、Ned Kahnの作品のような大量の要素で構成されたキネティックなファサードをリアルタイムにシミュレーションでき、より素早く意図したジオメトリの姿を得ることができる。

fig.3──高橋啓次郎氏によるシェーダーを利用したパーティクルシステムのソースコードのGitHubページ。「引用出典=github.com/keijiro/KvantSpray

ゲーム業界において特異な進化をとげた技術はほかにも多々あるが、人工知能もそのひとつである。ゲーム上で扱われる人工知能はいくつか種類があるが、機械学習とは別によく使われるのがキャラクタの挙動(ビヘイビア)を制御するもので、そのキャラクタ周辺の環境やほかのキャラクタとの関係に応じた挙動を記すルールとして扱われている。一つひとつのルールは小さいが、それらが複雑にからまりあうことで、あたかもキャラクタ自身に意識があるかのように振る舞う。このようなビヘイビアを記述する方法がゲーム業界では確立されており、その技術を用いると容易に人工知能、ないし人工生命とでも呼べるものが記述できる。例えばアルゴリズミック・デザインの手法のひとつに、以前の状態をベースとして一定のルールにもとづき徐々に形状を「成長」させるジェネラティブ・デザインと呼ばれる手法がある。この手法を用いることで、例えば成長するサンゴのシミュレーションなどが可能だ。しかし現状では、建築業界のなかでまだ一貫した記述方法が確立されておらず、多様なルールを複雑に組み合わせることは容易ではない。このジェネラティブ・デザインのルールの記述部分に、ゲーム業界で使われているビヘイビア記述の技術を持ち込むことで、より複雑なルールの記述が容易になり、人工生命を生成するようなアプローチで造形が可能になる。

また、写真や映像業界の技術もジオメトリを扱ううえでは無視できない。これらの業界での制限は、そのメディアが(少なくとも現状では)つねに2次元として扱われる点である。例えば画像処理の技術では、コンピュータ上の画像はピクセルという一点一点に情報を持った二次元の行列として表現される。そのピクセルを色情報や近傍情報を用いて処理をする。現在、私たちは「Photoshop」などのツールでぼかしやエッジ抽出など、さまざまなアルゴリズムに支えられた画像処理を手軽に扱うことができるが、じつはこれらは3次元にも応用が可能だ。2次元のピクセルに対して3次元の行列で表現される点をボクセルと呼ぶが、2次元のエッジ抽出のアルゴリズムを3次元用に翻訳することで、ボクセル空間にも適用できる[fig.4]。また、最近よく目にする機械学習による物体の認識なども、3次元空間上に適用することが可能だ。例えば、大量の家具のスキャンデータをボクセルとして記述することで、それを用いた家具の認識器を容易につくることができるだろう。あるいは、家具のメタデータとしてスタイルや用途、素材などがある場合は、そのデータを学習させ、それを元に人が入力したパラメータに応じて自動で独自の家具を生成することも可能となる。

fig.4──筆者によるボクセルを利用した造形例

さらに、ITの業界を中心とした2000年頃からのオープンソース化の流れにより、ほかの業界で培われたさまざまな技術を参照して、自らの本領に活かすことが容易になっている。しかし、建築業界においては、情報技術に対するリテラシーの低さが障壁となって、上に挙げたような宝の山に気づくこともできない状況が続いているのである。

情報応用造形学の必要性

ほかの業界の情報技術を認識するためには、まずは少なくとも業界間での共通言語を話す必要がある。比較的汎用性のある共通言語がプログラミング言語だ。プログラミング言語を習得することで各種業界で扱っているアルゴリズムの理解や、それを応用的に建築に取り入れることも容易になる。とはいえ最初から流暢に話す必要はない。ただ、各業界で扱われているデファクトスタンダードのツールを把握しておくとよい。ツールがその業界で扱っている情報技術の集大成というと大げさだが、少なくとも各業界のエッセンスが必ず含まれているため、そこからだけでも多くの情報を得ることができる。それらのツールを扱うなかで、少しずつに自分の業界とブリッジするための必要な言葉を汲み取っていけばよい。

プログラミングやツールの使い方は、専門学校などで学ぶことは可能だが、現在の建築教育のなかではその存在自体が黙殺されている。就職先の会社に教育するだけの体力がないのも原因だが、結果的に社会に出た学生は、造形において情報技術を取り入れるというメンタリティを持てず、仮に興味があっても学び方もわからないまま過ごすことになる。そこで、大学の応用学問として「情報応用造形学」を提案したい。他業種の技術を参照するための情報技術と、そこで得た技術を造形のプラクティスとして実践するための考え方の、両方を学ぶことのできる場を用意すべきである。一見すると関係のないように思われる分野から学ぶためのプラクティスこそ、建築業界に関わる多くの人たちにとって足りない、しかしこれからの時代にもっとも必要なリテラシーである。

堀川淳一郎(ほりかわ・じゅんいちろう)
1984年生まれ。建築系プログラマー。2008年明治大学大学院理工学部建築学修了。2009年コロンビア大学建築学部修士課程(AAD)修了。noiz architectsを経て現在フリーランス。コンピュータを利用した、デザインツールの開発、パラメトリックな家具・プロダクト・建築ファサード等を手掛ける。共著=『Parametric Design with Grasshopper』(ビー・エヌ・エヌ新社、2017)。


201712

特集 建築情報学へ


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情報化による「建築評価」の可能性
MISC. DATA──情報以前の「雑多な質」を扱うために
これからの建築家に求められるもの
情報応用造形学のススメ ──情報技術を利用したジオメトリ操作
BIMの定着に必要なこと
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