情報化による「建築評価」の可能性

角田大輔(日建設計DDL室長代理)

情報の深層から考える

建築情報学と聞いて何をイメージするのだろうか? 現段階では多様な解釈が可能な言葉であるが、今後の議論のもとになることを期待し、現段階での考えをまとめてみる。

BIM、デジタルデザイン、コンピュテーショナルデザインといった横文字のワードは、昨今聞きなれた言葉となりつつあるが、それらを具体的に説明するのは難しい。そのどれもが情報もしくは情報技術をつかうことをもとにしているものであると理解している。道具としてのソフトウエアが機能的でかつ便利なモノであるがゆえに、そのベースにある「情報」という概念は忘れ去られ、可視化された表層的なアウトプットにのみ注目が行きがちである。しかし、そのアウトプットの優劣は、インプットされた情報をいかに操作したかによって決まるといっても過言ではない。一般的に、過去に蓄積されたアクティビティログや統計データを分析して導き出された結論は正しいものとして見られがちだが、やみくもにその結果を受け入れることは危険である。そこにたどりつくまでには、「〇〇のうち□を変数として使用する」などと、人が意志をもって情報を操作しており、けっして自動的に生み出されたものではない。われわれは、ソフトウエアの使い方に支配され、その中身である情報を無意識的に操作しがちである。しかし美しいビジュアルやシミュレーションを使った説得力ある資料などは、なぜそうした結果となったのかをきちんと知っておく必要がある。もはや情報というものに対して無自覚ではいられないのだ。「テクノロジーは決して廃れず、常に前進し続けるものである」とケヴィン・ケリーが述べるように、扱える情報はテクノロジーの進化とともに日々刻々と増えていくことは間違いない★1。われわれが目の前にある情報に溺れることなく、適切に情報をコントロールしていくためには、そのための知識と技術が欠かせなくなっている。

近い将来、世の中にあるすべてのモノを情報として認識することが可能になれば、分野はシームレスにつながり、建築という分野それ自体も意味をなさなくなるであろう。建築のあり方、空間の捉え方、さらにはビジネスモデルなど建築分野でも大きな変化が起こるはずである。社会の変化をただじっと待つのではなく、きちんと対峙するためにも、建築分野として情報という観点の視野と、情報技術に対する正しい理解が必要不可欠である。それゆえ、本稿では、建築の設計プロセスから建築、情報そして技術の関わりを紐解いていく。そして建築と情報の関わりの先にある、これまで語られてこなかった建築の評価の可能性について考えてみようと思う。

設計前──情報を引き込む

まず、設計をするうえで欠かせないことのひとつは、建築が建つその場所性を把握することだ。現地で写真を撮ったり、「Google Earth」や「ストリートビュー」を見ながら、敷地模型をつくることから設計がスタートするのが一般的だ。それが敷地周辺の情報を取得し、設計環境へ情報を引き込む行為である。昨今は、写真から高精度な3次元モデルを作成する技術や3Dレーザースキャンにより高密度な情報を取得することができる[fig.1]。どこがどのような素材であったか、植栽の高さがどの程度であるかなど、その場所の特徴や正確な寸法を現地さながらに把握することができる。また、センサーを使って人の動きを把握することで人の流れを設計に与件としてとり入れることや、EPWデータなどの気象情報を使うことで環境をシミュレーションする、GISデータを活用することで都市や敷地周辺エリアを分析することなどが可能となる。こうした都市や建築にまつわるアクティビティのより詳細なデータ活用に関しては、「SideWalk Lab」★2によるデータを活用した都市の分析や「Gehl Institute」★3によるセンシングデータのためのデータプロトコルの発表など、海外で活発化してきている。多様な情報を扱うことを可能にする情報技術によって、設計を行なう環境は、仮想の空間から、よりリアルな空間へと近づきつつある。

fig.1──3Dレーザースキャンによる点群データ[提供=日建設計]

設計中──情報を統合する

よりリアルな設計環境を生み出すために、多様な情報を詰め込んでいくことは、必ずしも良いことばかりではない。われわれは情報への認知限界があり、いくら3次元だからといってそのデータを見ればすべてのことが理解できるわけではない。3次元のデータを見たところで、多数設定された視点や不規則な大量のレイヤー、情報の閲覧のために設定された数々の設定など、見るべき点が不明瞭になる。そのため情報量の増加にあわせ、その中身を理解可能にするための編集作業が不可欠である。たしかに、図面という規格化されたノーテーションは建築のコミュニケーションをとるうえできわめて優秀であったが、それだけでは収まらないことが増えてきているのが現実だ。

日建設計の設計グループのプロジェクトとその手法を紹介した「山梨グループの設計手法」展(2012)[fig.2]での例を挙げる。この展示では、展示する写真の選定を投票制にし、その票数に応じて展示場所やサイズを決定するシステムを採用した。したがって展示レイアウトそのものではなく、レイアウトデザインの仕組みをデザインした。1回の投票が展示レイアウト全体に影響を及ぼす動的なデザインであり、何千パターンというレイアウトバリエーションがあるため、もはや図面では確認が難しい。すべてが詰め込まれたデータを見ても何が表示されているのかも把握するのが難しい。そのため展示物に関するすべての情報をひとつのデータの中に統合しつつも、確認するためツールとしてウェブ[fig.3]、レイアウトの確認のための3DCG、関係性を示すネットワーク図など、コミュニケーションの目的に応じたノーテーションを用意した。BIMをはじめとした多様な情報が内包されたデータには、さまざまな切り口で、統合したり切り分けるといった編集がなければ、データ量の大きな情報の塊となり、誰も使えないデータとなってしまいがちである。

BIMソフトウエアに限らず、「Grasshopper」や「Dynamo」「Flux」などを使うことで、さまざまな情報を大量にインプットすることが容易になってきているからこそ、われわれは、それを正しく使うための手法と結果に責任をもてるだけの考え方を身につけなければならない。しかしだからといって、使用することに萎縮する必要はない。逆に情報技術が現代においての社会基盤のひとつとなり、異分野間をつなぐ共通のプロトコルとなっているからこそ、多くの人が技術を手になじませ、積極的に多様な情報を自在に取り込み、その情報を統合させることで、建築そのものの可能性が大きく広がっていくことに期待したい。

fig.2──「山梨グループの設計手法」展(2012)[提供=日建設計]

fig.3──「山梨グループの設計手法」展(2012)[提供=日建設計]
展示物の有無を設計環境へリアルタイムに反映させるためにウェブ上で情報管理するツールを制作

設計後──情報を蓄積する

さまざまな情報を取り込み、つなぎ、統合させていくためには、情報の集約先が重要となる。先の展示のデザインシステムでは、情報の集約先としてデータベースを構築し、新たに生成された情報を蓄積し、情報を扱いやすくしている。これと同様に、毎回の設計のなかで生みだされる多くの情報をデータベースの中に蓄積していくことができれば、過去の情報へ容易にアクセス可能になり、設計がいまより飛躍的に効率化していくのではないだろうか。

元来、建築はスケール、期間やコストなどの幅が広い一品生産品であるがゆえ、1物1ルールが暗黙的に成り立ってきた。そのため、建築業界は過去の情報を「利用する」ということに無自覚であり、その知見や経験は、属人化されている。それゆえ、手間暇かかる部分も情報技術が発達した現代においても、その問題は一向に改善されていない。しかし知見や経験を外部化し、蓄積された過去の情報を活用することは、設計にかかる時間コストを圧縮することにつながっていく。そのストックデータを処理するだけのハードとソフトの環境は整いつつあるが、それを実現するための、情報を利活用していくための仕組みがないのが現状であり、今後は建築情報を蓄えるためのシステムの構築が必要だ★4[figs.4,5]。その先には蓄積された情報の共有と、機械学習によって情報がナレッジ化し、これまで属人化された知識や経験を第三者が利用することが可能となる。情報の蓄積は、効率化だけではなく、知能の拡張へとつながってゆき、分野全体の品質の向上というボトムアップも見込めるのではないか。

figs.4,5──《B.Information》(2017)[提供=日建設計]

情報で評価する

最後に、これまでの情報を「引き込む」「統合する」「蓄積する」ということをもとに、建築の群の視点に立ち「建築の評価」に焦点を当てる。建築は、「CASBEE」や「LEED」といった環境性能を評価する指標や、デザイン的な観点を含めた数々の賞が存在するものの、絶対的な指標や、相対的な比較を可能にする指標はほとんど存在しない。そうした評価の曖昧さから、建築そのものの価値を社会的に示すことが難しいといわれている。それゆえ、建築に関するあらゆる報酬を上げていくことが難しいのが現状だ。

一般的に経済におけるモノの価値は、市場における相対的な評価によって決まっているため、建築の比較を可能にする指標が必要なのではないだろうか。その問題意識から、《lmn architecture》(2014)[fig.6]のなかでは、建築をデザインの視点から体系化する仕組みを構築し、建築の相対比較と継承関係による建築評価のあり方を再考した。ここでは、相対関係が建築の評価を、継承関係がデザインの引用を可能にしている。継承関係を可視化することで、コピーすることが悪なのではなく、コピーされることが評価されるという建築の新しい価値を生みだそうとしたものだ。このシステムは学術論文の引用件数による評価システムや、「GitHub」などで使われている分散バージョン管理の手法を参考にすることで実現している。ここでの例は考え方のひとつにすぎないが、こうした情報技術の観点から建築の仕組みを考えることで、これまで難しかった「建築の評価」が現実味を帯びてくるのではないか。

fig.6──daisuke tsunoda + yasushi sakai《lmn architecture.com》[提供=筆者]
デザインの体系化を目的とし、2つのモデル間の違いや、継承関係を樹形図として可視化している。建築の相対的な比較と評価の仕組みづくりを目指した

先に述べたように、建築の周辺から情報を引き込んだり、得た情報を統合しながら設計する。そして、その情報を蓄積し、利用する。こうした個として建築の情報化をすすめ、それらを群として集めていくことが重要であり、そのとき初めて建築を評価することができるようになる。そのためには、これまでの常識にとらわれることなく、情報の視点から建築を再定義することが必要だ。情報技術をベースにしたナレッジプラットフォームとしての「建築情報学」が、これまで建築分野で顕在化されてこなかった建築の評価と価値を引き出すための議論と試行の受け皿になるはずである。


★1──ケヴィン・ケリー『テクニウム──テクノロジーはどこへ向かうのか?』(みすず書房、2014)
★2──Sidewalk Labsの具体的な活動はメディウムのなかで多数書かれている。
medium.com/sidewalk-talk
★3──Gehl Instituteでは、多様になりがちな、都市アクティビティのデータプロトコルのデザインを行なっている。詳細はそちらを参照。
gehlinstitute.org/news/launching-open-public-life-data-protocol-version-1-0/f
★4──建築情報を「B.Information」と名付け、建築情報を蓄積するための仕組みを検討中。
www.nikken.co.jp/ja/ideas/society_03.html

角田大輔(つのだ・だいすけ)
1977年生まれ。日建設計DDL室長代理。2000年東京理科大学工学部建築学科卒業。2002年同大学修士課程修了。共著=『Rhinocerosで学ぶ建築モデリング入門』(ラトルズ、2017)


201712

特集 建築情報学へ


建築情報学とは何だろうか
情報化による「建築評価」の可能性
MISC. DATA──情報以前の「雑多な質」を扱うために
これからの建築家に求められるもの
情報応用造形学のススメ ──情報技術を利用したジオメトリ操作
BIMの定着に必要なこと
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