建築のデザインと本のデザイン
──『建築家・坂本一成の世界』制作チームによる座談

坂本一成(建築)+服部一成(ブックデザイン)+qp(写真)+長島明夫(編集・執筆)

建築と建築写真

長島──さて、この作品集は巻頭に16ページ、巻末に16ページ、qpさんの撮り下ろし写真が載っています。もちろん写真自体はほかにもたくさん載っていますが、撮り下ろしは基本的にqpさんだけです。ほかの写真はそれぞれの建築が竣工したときに撮られたものがほとんどなので、qpさんが撮った建築二つだけでも、現在の日常の姿の写真があることで、それ以外の建築もその後の日常の姿が想像しやすくなるのではないかと考えました。本としては断片化した要素が雑誌的にバラバラと載っているので、それを統合するようなつもりで、巻頭と巻末のqpさんの写真で全体をサンドイッチしています。
qpさんの写真を見ていく前に、今日はこういう場なのであえて坂本先生に伺いますが、坂本先生は、新しく写真を撮られることで自分の作品の認識が変わるとか、そういうことに対する期待があまりないように見えます。「この建築はこういうものである」という、ご自分のなかで確固たる認識があって、写真はそれをいかに的確に表現できるか。そういうものとして写真を考えていらっしゃるのではないでしょうか。ですから往々にして、竣工時のピュアな状態の建築が撮られた写真が優先される。

坂本──建築と写真というのは、僕ら写真の外側にいる人間からすると、すごく難しいですね。確かに僕はなるべく自然に撮ってほしい。結論的に言うと、今回のqpさんの写真は、なんでもない状態を自然に撮ってくれた。これは撮れそうでなかなか撮れないから、とてもよかった、満足できた。それを前提に聞いてください。例えば住宅の場合、住んでいる状態、あるいは人がそこで活動している状態をそのまま撮ることが、その場所をいちばん自然に表現できるという考え方をする人がけっこういる。ところが実際には、撮られたものは現実と必ずずれてしまう。だから現実を自然に見せたいと思ったら、例えば物を間引くとか、生活の動きを止めるとか、そこでコントロールをしないとならない。でもそれもやりすぎると逆にまた怪しくなってしまう。こういう問題があるわけです。だから結局、過去の写真のなかでいちばん自分がうまくいっていると思うものを使うのが、私がデザインしたものを表現するときにはベターであると。新たに撮ってもらおうとすると、場合によってそのコントロールをせざるをえないし、面倒だという気がするわけです。

長島──はい。そういうわけでともかくqpさんに写真を撮ってもらったのですが、それがこの二つの建築です。


ほかは家具や人が入っていない写真が多いので、ここではすこしテーマを明確にして、「建築と物」および「建築と人」と。《House SA》はコレクションがかなりあって、物がたくさん置いてある家。というよりも、そうした物を置くことを前提に設計されている家なので、その状態を撮る。《網津小学校》は小学校なので当然子供たちがいる。住宅で写真に人物を入れようとすると、わざとらしくなってしまいがちですが、小学校だと子供たちがワーワーいるのが普通なので、自然な状態で撮れるのではないかと。
ただ一方で、qpさんは専門の建築写真家ではないですし、今まで建築を作品としてきちんと撮ったこともない。そういう意味では、一人の建築家の50年におよぶ仕事をまとめるという作品集で、メインになる写真を依頼するのは異例なことだと思います。でも僕は以前からqpさんの写真を知っていて、一応の見通しはありました。これは普段qpさんがブログで公開している写真です。

写真=qp http://d.hatena.ne.jp/com/20150807

これはまさに物を撮っている。瓦礫みたいな物を撮っているわけですが、それと同時に、「ある世界の中にその物がある」という状態を撮っているという印象を受けます。物だけが特化されるのではなく、その物が存在する空間全体を写している。

写真=qp http://d.hatena.ne.jp/com/20130628

こちらは人です。これもスナップで人を撮っているのだけど、真ん中の女の子が、どういう空間、どういう世界に位置づけられているかということをすごく感じさせる。ですから物や人に対するこういったqpさんのセンスを発揮してもらえれば、今回の本の編集意図を満足させるのに適任ではないかと思ったんです。
服部さんはこういったqpさんの写真はどうご覧になっていましたか? qpさんはどちらかと言うとイラストレーターのほうがメインだと思いますが。

服部──そうなんですよね。僕は彼とはけっこう長い付き合いで、絵を依頼したことは何度もあるし、やり取りをしつこくしたこともあるのだけど、写真の仕事は今回が初めてです。写真について言うと、隠し撮りではないのだけど、対象との距離感がうまいと思います。ただ、こういうスナップ写真は見たことがありましたが、建築をどう撮るか。長島さんがつくっている『建築と日常』で撮った写真もありましたけど(別冊『窓の観察』2012年)、qpが建築作品を撮ったらどうなるのか、それは今一想像がつかなかったです。最初長島さんから提案があったときには。

長島──もともと今回の本では、服部さんとqpさんのお二人に頼みたいなと思っていたのですが、順番としては先にqpさんに頼んで、その後に服部さんに頼んだんです。もし先に服部さんに頼むと、「撮り下ろしはqpさんでどうでしょう?」と提案したとき、「いや、qpよりこっちの人のほうがいい」と服部さんに言われてしまったら、さすがにqpさんを推し切れないなと思って(笑)。「撮り下ろしはqpさんです」という既成事実にして服部さんに相談をしたという経緯があります。

スライドショー

長島──じゃあまず《House SA》のほうを見てみましょうか。かなり膨大に撮ってはいますが、これはもう服部さんが16ページに組んだ状態です[写真省略]。ちなみに小学校のほうは服部さんは行かれていませんが、こちらの取材には同行されているので、レイアウトの仕方にも、そのときの体験が反映しているかもしれません。

服部──そうですね。読者は体験しないで見るので、デザイナーも体験しないでレイアウトしたほうがいいという場合もありますけど、《House SA》は建築の成り立ちがある程度頭に入っていたから、組みやすかったとは思います。ただ、結局何ページだろうが、やっぱり写真で建築は説明できないんですよね。特にこの家は何階かわからないようなつくりだし、いくら写真で撮っても、この空間の構造を説明するのは無理だと思います。だから場面場面が写せていれば、別に全体を説明しなくてもいいかなとは思っていました。この建築自体を解説しているページは本編のほうにありますしね。

長島──はい。むしろ本編のほうと対比になればいいと思っていました。qpさんは撮ってみていかがでしたか?

qp──服部さんが仰ったように、建築を写真に撮るのは原理的にできないですよね。できないけどやるしかないというか。今回の場合は1枚じゃなくて複数枚で見せることで、この建築がどういう建築か、理解の助けになるかなというのはありました。ただ、自分は普段スナップ写真を撮っていると言いましたけど、それは撮りたいと思う瞬間に出会って撮ることがほとんどなんです。撮りたいときに撮る。でもこの家は依頼されて撮りに行ったので、そういう意味でも難しかったです。

長島──二つの建築をqpさんに頼むというときに、《網津小学校》のほうは多分いけるだろうなという感じがあったんです。もともとqpさんは子供を撮るのがすごく好きだし、建築の規模としても大きいので、子供を撮ろうと思えば自ずと建築も写ってくる。ただ、《House SA》は住宅なのでどうしてもサイズも小さいですし、建築の骨格をある程度説明しないといけないという意識がおそらくqpさんにもあったはずで、その辺が難しい気はしていたんですけど、結果的にはうまくいったと思っています。

qp──いいかどうか自分でも自信がないですね。坂本さんにも先ほどお褒めの言葉をいただきましたが、いま見ても、いいような気もするけど、これでいいのかなという気もします。

長島──作品集に掲載しなかった写真もいくつか見てみましょうか。


 これは東側から朝の光が入ってきている。この向きの写真は1枚は入れたいとqpさんと話していましたが、結局使われなかったですね。これは気に入ってましたよね?

qp──うーん、そうでしたっけ。


長島──これは坂本先生がよかったと仰っていた写真ですが。

坂本──いちばんよかったのは本に載っている写真で、何枚めだったかな(p.7)。手前に物が置かれた棚が写っていて、空間が複層化している。それはこの建物の大きな特徴だと思っているものですからね。部分的にガラスに映り込んだりして、空間が重なっていく、いくぶん日常からずれ始めたスペースの現れ方が楽しいなと思います。


長島──これは先ほどの話で言うと、物とそれが位置づく空間を撮っている。隙間に物が収まったこういう様子も坂本先生の建築らしい感じがしますが、それをqpさんが嫌らしくなく撮っているなと思います。



この2枚は本番の取材の前、たまたま見学できる機会があったので、qpさんに試しに撮ってもらったときの写真です。夕方で部屋の中が暗くなっていて。このときのほうがなんとなく非日常感が出ていました。
では引き続き《網津小学校》のほうも、16ページの完成版と未掲載分を見てみます[写真省略]。こちらはどうでしたか?

qp──こちらのほうが、撮りたいと思う瞬間に撮ったという感じはします。そういう意味では手応えはありました。

服部──あらためて見ると、未掲載のほうもけっこういい写真がありますね。たぶんqp写真集だったら選び方も変わってくるのだろうけど、今回は建築を見せるということで、ああいう定着になったと思います。僕も子供たちがいる小学校を撮るほうが、きっと向いているだろうという気はしていました。小学校のほうが、屋根のかたちとかも、パッと見て理解しやすいですよね。《House SA》のほうはそういう意味でもなかなか撮りにくいと思いましたが、結果的には16ページ費やした価値はあるものになったと思います。思ってますよ、qp君。

qp──ありがとうございます(笑)。

写真と現実のずれ

服部──でも建築って普通の人はほとんど写真でしか知らないですよね。世界中の建築で、現地に行くことはほとんどない。でも実際に行くと写真とは違うものだったりして、そういうのも面白いことだなという気がします。写真でどう写るかなんていうことは、設計されているときには考えられるんですか?

坂本──私の先生は篠原一男という建築家ですが、篠原先生はたぶん考えたと思います。よい写真、シンボリックな意味が凝縮された写真が1枚撮れればそれでいいのだと言われていました。そのために、よい写真が撮れるような状態を設定して撮影していた気がします。
そのことはこの本のつくり方と絡んでくる問題でもありますね。僕ももちろん弟子ですから、篠原先生の影響を受けている。先ほど、これまで出版されたものは作品集ではなく図録だったと言いました。だからこそかもしれませんが、基本的に一つの建物を外観1枚と内観1枚だけで表現する。そうすると外観も内観も、その建物を象徴するような写真がほしい。そういう必要から、無意識のうちにも一つの視点で全体が象徴できるような建築のつくり方をしていたという可能性はある気がします。
ただ一方で、それでは現実の建築は表現できっこない、部分の集合による、あるいは全体と部分の関係による、あるいはその相互作用による建築を表現しないといけないのではないか、そんな思いもあるわけです。さっき服部さんが仰っていましたが、今回の本はフォーマットに当てはめていくようなつくり方ではなかった。ちゃんと確認したわけではないですが、たぶん全ページ、フォーマットに沿ってやったというふうには思えない。それぞれのページの内容に対応しながらデザインされた。やはりそういうやり方と、長島さんが考えた今回の本の在り方、建築を関係のなかで見る見方とが、かなり重なっている。そんなふうに思います。

服部──例えば今回、僕はqp君たちと《水無瀬の町家》(1970)も見学させていただきましたが、あの建築の存在は以前から知っていて、外観の写真★4がかなり強烈な印象だったんです。かたちとしては家のかたちをしているのに、銀色でぶっきらぼうで、すごく存在感がある。非常にわくわくする気持ちであの写真を見た。でも実際に行ってみると、もちろん同じ外観なのだけど、もうすこし穏やかな感じの不思議な存在感というかな。むしろあの建築を経験した者としては、中に入ったときの空間のほうが圧倒的に、「いやあ、あの内部空間はとにかく素晴らしいよ」と言って回りたくなるような、強い印象を受けたんです。きっと《水無瀬の町家》も、あの外観写真が象徴するような存在として知られていると思うのだけど、写真で伝わることと実際の体験の違いを感じました。

《水無瀬の町家》見学の様子 写真=長島明夫

長島──《水無瀬の町家》の外観は、いま服部さんが言われた正面からの写真が代表的ですが、今回は昔の家並みのなかで撮られた写真を借りてきて、大きく使ったりもしています。

pp.32-33 写真=鈴木悠(初出『都市住宅 住宅第1集』1971年9月臨時増刊号)

服部──正面の写真だと左右にどんな家があるのか、どんな道路に面しているのか、ほとんど読み取れないですよね。それに対して長島さんはあえてこれを最初の見開きに持ってきた。その編集の意図はよくわかりました。

201611

特集 地図と都市のダイナミズム──コンピュテーショナル・マッピングの想像力


設計プロセスにおける情報マッピング
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