テキスタイルが見た建築、建築が見たテキスタイル──
現代建築家コンセプト・シリーズNo.20
安東陽子『テキスタイル・空間・建築』刊行記念

安東陽子(テキスタイルデザイナー・コーディネーター)+伊藤暁(建築家)+藤原徹平(建築家)


現代建築家コンセプト・シリーズ No.20
『安東陽子|テキスタイル・空間・建築』
(LIXIL出版、2015)
司会──2015年9月1日に、テキスタイルデザイナー、コーディネーターの安東陽子さんによる初の単著『テキスタイル・空間・建築』が刊行されました。2008年にスタートした「LIXIL 現代建築家コンセプト・シリーズ」は、「建築」が意匠・デザインだけでないさまざまな要素から構成されているということを表現してきました。その20冊目の節目となる最新刊のテーマがテキスタイルであるということは、とても意味深いと感じています。
本日は安東さんとともに、建築家の藤原徹平さん、伊藤暁さんをはじめ、これまで安東さんと協働された建築家、照明デザイナー、家具デザイナーの方々などに、建築にとってテキスタイルとはどのような存在か、そしてその重要性が増している現状について語っていただきたいと思います。

テキスタイルが建築空間をゆるやかにつなぐ──
《みんなの森 ぎふメディアコスモス》の試み

安東陽子──私が初めて建築家の方と仕事をしたのは、「NUNO」にいた頃に担当した長谷川逸子さんの《すみだ生涯学習センター》(1993、[fig. 1])です。テキスタイルを現場でかけた瞬間、光や風によって生地がきれいに見えただけでなく、空間自体も見違えたことを鮮明に覚えています。それ以来、テキスタイルによって変化する空間の関係性に魅力を感じ、建築家と一緒に仕事をしたいと思うようになりました。

[fig. 1]長谷川逸子《すみだ生涯学習センター》
提供=安東陽子デザイン

2011年に六本木にあるテキスタイル制作会社・NUNOから独立して事務所を立ち上げました。その年に、NUNOで同僚だった大谷敬司さんとの小さな2人展「布から生まれて...」を行ないました。NUNO時代から建築家の方々と協働していたので、建築家に「新しい空間に使えそうなおもしろい素材の提案だ」と思ってもらえるようなものをモック・アップ的に展示したいとずっと考えていました。出展したのは、ガラス窓に貼付けることができる《Sticky Fabric》という作品です。貼ってはがせるマイクロ吸盤のシートを特殊加工して布地に合わせ、雪の結晶をモチーフにレーザーカットを施し、自由に切り取りました。直接ガラスに貼れる「カーテン・レールのいらないカーテン」というコンセプトのもと、これまでにないテキスタイル・デザインを実現させる楽しさを実感しながらつくりました。
この展覧会で試みた「貼るテキスタイル」は、最新プロジェクトである伊東豊雄さん設計の図書館《みんなの森 ぎふメディアコスモス》(2015)でも生かされました。

《ぎふメディアコスモス》の元になったもうひとつの経験は、《今治市伊東豊雄建築ミュージアム》(2011)で行なった伊東建築塾企画の子どもたちとのワークショップです(「すけすけハウスをつくろう!2013」[fig. 2、3])。このワークショップは、布地を使って空間をつくるという非常にシンプルなもので、薄い生地にシールのようなファブリックを貼って柄をつくりました。ワークショップの目的は2つあり、ひとつは、床で作業してつくった生地がミュージアムのなかに立体的にたちあがることで、自分たちのデザインによって空間が変わるということを子どもたちに体験してもらいたかったということ。そしてもうひとつは、《ぎふメディアコスモス》でのデザイン・プロセスを伊東さんに事前にプレゼンテーションし、見ていただきたいという思いからでした。

[fig. 2]「すけすけハウスをつくろう!2013」1
©Kai Nakamura

[fig. 3]「すけすけハウスをつくろう!2013」2
©Kai Nakamura

《ぎふメディアコスモス》の大きな特徴のひとつとして、照明・空調・サインを兼ねた「グローブ」という大きなランタンのようなオブジェが、大空間に浮かんでいることが挙げられます[fig. 4]。2階の大空間には、直径8mから14mの4種類のグローブが11個点在しています。グローブのベースとなる生地は三軸織りという織物でできていて、この生地に熱加工を施すことで、ゆるやかな曲面をつくりだしています。その上に、シールのようなファブリック──建築素材として使えるように開発した不織布に、糊をつけたもの──を貼ってパターンをつくっています。サイン計画の担当者である日本デザインセンターの原研哉さんと協働し、グローブの表面一つひとつに、異なるデザインを施しました。それぞれのデザイン・パターンは、モック・アップをつくり、適した大きさや形状を検討しました[fig. 5]
また、空間の主役である、幅120mm、厚さ20mmのヒノキを集積させた緩やかにうねる天井とグローブのある広い図書室を心地よく散策できるよう、カーテンやカーペットをうまく利用する必要がありました。図書室のまわりにある小部屋のカーテンは、二重織りの半透明素材の布にボーダーをプリントしました。そのプリントの色は一番近いグローブの真下に敷いてあるカーペットの色と対応しています。これらの色彩は、グローブがメインの広い空間のなかで、向かう方向を示す要素になっていると思います。

[fig. 4]伊藤豊雄《みんなの森 ぎふメディアコスモス》
©Daici Ano

[fig. 5]グローブのパターン検討
提供=安東陽子デザイン

《ぎふメディアコスモス》では新しい試みをしているため、いろいろな規制や制約があり、耐火の問題をクリアするために、テキスタイルに不燃や防炎加工などを施す必要がありました。不燃加工できるテキスタイル素材は少ないのですが、和紙やシルク、レーヨンといった自然素材であれば可能です。そこで、以前からお付き合いのある和紙工場に製作を依頼しました。この工場は、スジや雲龍の入った手づくりの風合いを残したまま、工業製品のように100m単位で越前和紙をつくる技術を持っています。その和紙を不燃加工して、窓際のデスク上部にかけるスクリーンに用いました。

また、空調の問題で、グローブ上部の半分以上を不織布で覆わなければならなかったため、デザインの自由度はあまり高くありませんでした。なるべく単純な方法で複雑な模様に見える仕組みとして、15cmくらいの円と六角形の2種類のパーツを、ベースとなる生地に貼付けることを考えました。すべてのグローブに対し、合わせて約60反、約3,000mの布地を10万枚以上のパーツに切り分けて、手作業で貼っていきました。このとき、私が重要だと考えたことは、パターンにランダムさを出していくことです。パーツの間に隙間をつくる事で光の通り道ができます。また、ファブリックには縦と横の目があり、この向きを綺麗に揃えないほうがテキスタイルの色に幅を持たせることができます。作業者ごとに貼り方が変わることで、見る角度によってランダムさが出てテキスタイルらしくなります[fig. 6]。しかし、こうしたやわらかい素材を使い、こうした立体的な形を保持するのはとても大変で、いま綺麗に立ち上がって見えているのは、現場の一人ひとりの玄人努力があったからだと実感しています。

[fig. 6]グローブのテキスタイル
提供=安東陽子デザイン

1階部分は、公開書庫やスタジオ、ミーティングルームがあり、2階に比べると空間自体はとてもシンプルなので、家具やテキスタイルに明るい色がついています[fig. 7]。ミーティングルームのカーテンは、部屋の窓の外側から織物のような派手なパターンをプリントしていますが、部屋の内側からは白っぽく見えるように工夫しています。ミーティングルームの外側から見たときには、ガラスが反射するので、プリントの画像は少し粗いぐらいの大胆なものの方がきれいだと考え、カーテンの幅に合わせて柄を拡大しています。このパターンは、実際の織物の写真を取り込んだわけではなく、編みの組織と色、素材の情報を入力してどのようなパターンで編んでいくかをシミュレーションする技術を用いて作成した画像です。コンクリートやレンガなど周辺の素材の色とも対応させて、同じ技法で別の色彩のカーテンも作成しました。また、外からも見える大窓のカーテンには、外壁のフレームに合わせたデザインが白の濃淡で見える模様の生地を制作しました。建物の外観をイメージして、室内にいても屋外にいてもフレームが見えるように、生地を横張りにして、屋外から見たときには、ガラスに反射して室内への視線を閉じてしまわないよう、透ける素材を用いています。キッズルームにも同じカーテンを使っていますが、子どものスケールに合わせてパターンを少しだけ小さくしています。それから、あまり外から見えない部分ではあるのですが、事務室への入り口のカーテンには鳥やキリンなどのイラストをプリントしています[fig. 8]

それぞれのテキスタイルは、非常にシンプルに見えますが、一つひとつのパーツには、すごく手をかけています。多くの場合、引き立て役で控え目な存在のテキスタイルですが、日中の優しい光を室内へ通し、空間を陰ながら演出しています。私は、そういった空間への足し算と引き算の効果や工夫を考えることが非常に好きで、この仕事を続けているのだろうと思います。

[fig. 7]《みんなの森 ぎふメディアコスモス》1階から2階の眺め
©Daici Ano

[fig. 8]キッズルームのテキスタイル
©Daici Ano

建築的思考を導くテキスタイル

司会──ありがとうございました。では、本書でもプロジェクトが紹介されている建築家の伊藤暁さん、藤原徹平さんのお2人から、本の感想を交えてお話を伺えればと思います。

伊藤暁氏
伊藤暁──僕がaat+ヨコミゾマコト建築設計事務所にいたとき、《富弘美術館》(2005)のカーテンをつくっていただいたことがきっかけで、安東さんと知り合いました。そのカーテンがある部屋は、ステンレス鏡面張りの円筒状の壁で構成され、周りの風景が写り込んで酔ってしまうくらいの強烈な空間でした。しかし、安東さんが持ってきたカーテンをかけた瞬間、「ヨコミゾさんの思惑はこういうことだったのか」とみんなで納得する空間に仕上がったことをよく覚えています[fig. 9]

僕が建築を考えるとき、ここには安東さんのテキスタイルが欲しいな、と設計段階でイメージすることが多いのですが、とはいえ、それは具体的に「こういうもの」としっかり言語化できるようなものではなく、もっとぼんやりとしています。そんな状態でも安東さんと現場で言葉を交わすと、いつも素晴らしいものを提案してくれるので、頼りになるというか、ものすごく甘えているような感じです。本書に掲載されたさまざまな建築家との仕事を見ても、じつに多様なアプローチからテキスタイルをつくられていることに改めて驚きました。どのような対話の上でこのテキスタイルが生まれたんだろう?と想像しながらページを捲るのが楽しくて、また早く安東さんと次の仕事がやりたいな、と感じました。

[fig. 9]ヨコミゾマコト《富弘美術館》
撮影=伊藤暁

私が独立してから安東さんと協働したプロジェクトのひとつが《半丈の書架》(2013)です[fig. 10]。木造住宅のたった一部屋を改装する仕事で、安東さんには一カ所だけ、小さい窓にかけるカーテンを制作していただくというとても贅沢な仕事でした。9.5帖程度の空間に大量の本の収蔵してほしいという依頼だったので、小さな部屋を本棚でさらに小さく間仕切ることにしました[fig. 11]。そうすると収蔵できる本の数は増えるのですが、細分化された個々の空間は1帖以下の窮屈な空間になってしまいます。そこで、部屋の入口から南側の窓と東側の障子へ向かう視線の抜けをつくることにして、安東さんには南側の窓に取付けるカーテンをお願いしました。安東さんからは、布地が二重になっていて、2枚の布の透過性を操作することで、真ん中部分は向かいの隣家からの目線をカットしつつ、上下は透けて空や庭が見えるような、袋状のテキスタイルの提案をいただきました[fig. 12]
おもしろかったのは、安東さんは「このカーテンは視線を調整し、南側の窓から入る光を拡散させ、窓まわりだけでなく、部屋全体を明るくする効果がある」という非常に論理的かつ機能的な説明をするんです。私と施主さんはそれでわかったような気になっていたのですが、しかし、実際に完成するとその説明をすべて忘れてしまうくらい、言葉で表現しきれない現象が起こってびっくりしました。カーテンがつくと外の景色は見えなくなりますが、それによって、より外の世界への意識が強くなり、むしろつながっていくような感覚を覚えます。カーテンがゆれ動くことで、空間全体に光のゆらぎが拡散し、本棚で区切られた小さな空間同士の輪郭が曖昧になるような不思議な状態が立ち現われ、改めてテキスタイルのすごさを実感しました。

[fig. 10]伊藤暁《半丈の書架》
撮影=伊藤暁

[fig. 11]《半丈の書架》平面図
提供=伊藤暁建築設計事務所

[fig. 12]《半丈の書架》スケッチ
提供=伊藤暁建築設計事務所

次に紹介するのは書籍でも掲載されている《横浜の住宅》(2014、[fig. 13])です。これは北側傾斜地に建つ住宅で、架構があらわしになっていてその間に床や壁が引っかかっているような建物です。しっかりと場が定められているというよりは、部屋や階の分節が弱く、一部スキップフロアになっていたりもするので、どうとでも境界が設定できてしまいます。北側には階を跨ぐように開口部があるのですが、階段の踊り場からちょうど上下の開口が同時に見えます[fig. 14]。安東さんはその様子を見て、1階と2階の開口がひとつの窓に見えるようにカーテンをつけよう、と提案してくれました。結果的に上下階の開口を跨いで縁取りをしたカーテンを取付け、ますます境界の重層性が感じられるようになりました。こういうかたちで建物の構成とテキスタイルが安関係しあうというあり方はまったく想像していなかったので、安東さんにはまた新しいテキスタイルのあり方を教えてもらったと思います[fig. 15]

[fig. 13]伊藤暁《横浜の住宅》
©Takeshi Yamagishi

[fig. 14]《横浜の住宅》踊り場からの眺め
©Takeshi Yamagishi

[fig. 15]《横浜の住宅》カーテンが搬入された後の踊り場からの眺め
撮影=伊藤暁

状況としての建築

藤原徹平氏
藤原徹平──僕は修士研究で60年代後半のパリの5月革命に重要な役割を果たした「シチュアシオニスト・インターナショナル」という芸術家・建築家・思想家集団の作品を研究していました。彼らは、構築物だけでなく、そこでおきる出来事も含めた「状況」をデザインしようとした。ものとしては、演劇の舞台美術や、空間装置と呼ぶべきものかもしれないですが、以来ずっと「建築物ではない状況としての建築」を重要なキーワードとして活動しています。安東さんの扱うテキスタイルはやりようによっては、ちょっとした操作で人の活動を変えていく、つまり「状況」を生みだしていきます。おそらく、それが安東さんとコラボレーションし続けている理由のひとつでもあると思います。

安東さんと最初に出会ったのは、僕が隈研吾建築都市設計事務所でルイ・ヴィトンの本社が入る《ONE表参道》(2003)を担当していたときでした。おそらく他の建築家、設計事務所にとっても同じだと思いますが、新しいプロジェクトにチャレンジしていく上で、安東さんは重要な相談相手でした。《下関市川棚温泉交流センター川棚の杜》(2009)では、目の前の広場と連続する多目的ホールのガラスファサードにつける重要なカーテンを制作いただいたのですが、それはとても興味深いコラボレーションでした[fig. 16]。安東さんにお願いしたのは、土木的なスケール・質感の空間の中で<空間の一要素>として機能する、金属と布の中間のようなカーテンでした。完成まで、何度も何度もテキスタイルの「硬さ」、鋼度について議論しましたし、僕の極めて抽象的なリクエストに対し、安東さんはいくつものサンプルをつくり、あるいはスケッチを描いて提案してくれた[fig. 17、18]。できあがったカーテンは、まさに、布でも、金属でもない不思議な質感です。最小限の要素からなるこの建築において、空間の場面を転換させる重要な役割を果たしています。

[fig. 16]隈研吾《下関市川棚温泉交流センター川棚の杜》
提供=藤原徹平

[fig. 17]《下関市川棚温泉交流センター川棚の杜》模型
提供=藤原徹平

[fig. 18]《下関市川棚温泉交流センター川棚の杜》テキスタイルのスタディ
提供=藤原徹平

僕が独立した頃に設計した《等々力の二重円環》(2011、[fig. 19])も、安東さんと「硬さ」についてひたすら議論したプロジェクトです。これは内部に壁のない建築で、木造の構造フレームにLow-Eペアガラスのスキンで外周をぐるっと囲んだような建築です。ガラスの色が少しグレー味を帯びていて格好よかったので、昼夜問わずガラスの色が一定にみえるようにしたかったのと、内部の透け感も昼夜問わず変わらないようにしたかった。それに対し安東さんは、シルバーと白のテキスタイルを組み合せて、狙った通りの見事な存在を実現してくれました。また、この住宅ではお風呂場もガラス張りになっているので、お風呂場への心理的な距離を保てるような、壁のようなしっかりしたカーテンをというリクエストに対して、車のエアバックをリサイクルしてつくったユニークなカーテンをつくってもらいました。

[fig. 19]藤原徹平《等々力の二十円環》
©Takeshi Yamagishi

建築の現象のエレメント

藤原──ある規模以上の「建築」をつくるとき、構造体という要素だけでは空間をつくることができなくなります。例えば10万㎡を越えるような巨大な建築を設計していると、自分たちの考えていることもどんどん見えなくなるし、建築の構成する要素が、空間の経験の要素とずれてくる。そういうときに安東さんのテキスタイルが果たす役割は大きい。安東さんとの対話によって、建築と身体の中間的な空間要素について考えがまとまり、それを頼りにデザインをまとめていくということが何度かありました。それは、テキスタイルが身体に近いやわらかな存在で、人間の居場所を創ることができる素材だからではないでしょうか。「カーテンのやわらかさ」が身体と建築を仲介してくれると思います。

『Studies in Organic
Kengo Kuma & Associates
──スタディーズ・イン・オーガニック』
2009年に、海外コンペにチャレンジしていた時代の多様な設計プロセスを集めた『Studies in Organic Kengo Kuma & Associates──スタディーズ・イン・オーガニック』(TOTO出版、2009)という本を私のチームで担当して隈事務所でつくりました。この本には安東さんとチャレンジしたプロジェクトもいくつも含まれています。タイトルからもわかるように、当時有機性──オーガニック──へ向かうことに取組んでいて、隈さんもどこか織物に通じるものをずっと志向していました。

また、私が理事を務めるNPOで、オランダのテキスタイルデザイナー、ペトラ・ブレーゼの日本で最初のレクチャー「空間を広げていく新しい方法」(ドリフターズ・インターナショナル企画・主催、2011)を日本で企画したとき、安東さんとの相違点について話しました。ペトラのカーテンは彫刻のようなもので、Space(空間)&"Track(軌跡)"をデザインするという考え方がベースにあります。空間のなかをペトラのテキスタイルは踊るように動くわけです。
一方で、安東さんのテキスタイルは、カーテンが「空間の質」――"Phenomena"(現象)――を細やかに変化させ、テキスタイルが「建築の現象のエレメント」――"Architectural elements"(空間言語)――になることではないかと考えています。ペトラはのカーテンは新しい要素として建築に介入してきて、安東さんのカーテンは空間の質を光とか空気に影響を与えることでふんわりと変容させるという印象です。2人を比較することで、安東さんとのコラボレーションのおもしろさを自分自身でも深く自覚しました[fig.20]

[fig. 20]テキスタイル考──建築におけるテキスタイルの定義
提供=藤原徹平

いまなぜ建築にとってテキスタイルが重要なのか

会場風景(以上、特記のない画像は、編集部撮影)

司会──藤原さんのお話をきっかけに、いまなぜ建築にとってテキスタイルが重要なのかというお話を考えてみたいと思います。今日は会場に安東さんと協働されてきた建築家、デザイナーの方々にお越しいただきました。皆様から、安東さんとのお仕事についてお話を聞きながら、建築にとってテキスタイルがいかに重要な存在であるかをお聞きしたいと思います。

安東──はじめに、照明デザイナーの岡安泉さんをご紹介します。岡安さんとの最初の現場は、青木淳さんの《白い教会》(2006)でした。岡安さんは、それまでテキスタイルと光がうまく組み合わさって新しい現象が生まれるという体験をされたことがなかったのではないかと思います。だから、現場にお伺いしたとき、岡安さんはテキスタイルがなくても成立する想定で照明設計をされていました。一方で、青木さんは光とテキスタイルという空間を最初から考えて設計されていましたね。

岡安泉──たしかにそれまで、テキスタイルの仕事のことは、窓にちょっとした簡単なカーテンをかける程度にしか考えていませんでした。《白い教会》の時は、空間を均質に照らすためのストラクチャをものすごく苦労してつくりあげたのですが、やっとできたと思っていたところに、安東さんのカーテンをかぶせることになったので、そのことをしばらく受け入れることができませんでした(笑)。

安東──その時に使ったのは、二重織になっていてモアレができる生地でした。でも、ピンと張りすぎてしまうと、モアレは消えてしまいます。施工方法は事前に考えていったものの、実際に現場での作業の段階になって、きれいなモアレを出す仕組みづくりに難航してしまいました。それを横目に岡安さんは黙々と脚立に乗って照明の調整をしていたんですが(笑)、ある日下へ降りてきてくれて、床下にバネを仕込んで、モアレを出したい部分の生地をたるませるストラクチャを提案してくださいました。その時にはじめて、お互い歩み寄って努力すれば、空間はさらに良くなるということがわかったわけです。私も光を美しくみせるためにきれいな生地をつくったりしているのだから、お互い協力し合うということが大事だと思いました。

岡安──それ以来、ずっと一緒に仕事をしています。空間の一要素として照明を計画する上で、私はテキスタイルをカーテンとしてではなく、光をあてる対象として捉えています。そうすると、テキスタイルがある時、ない時、そして昼と夜で、空間の見え方が複数存在し、異なった光で異なった解像度を持って空間を感じることができます。伊藤さんが《半丈の書架》について話されていたこととも通じるのかもしれませんが、テキスタイルをとおして入ってきた自然光には質量が感じられ、素材化・物質化する印象を持っています。テキスタイルが自分と光のあいだにあることで、ものとものの関係性や空間の解像度を変えているような気がするのです。日中は安東さんのテキスタイルを通してそれが体験できるので、私は夜の人工光のもとでも似たような体験を与えられないかと試行錯誤しています。

伊藤──光に質量が感じられる、というのはとてもしっくりくる表現で、本当にその通りだと思います。その「質量」とは、形が定まらず、輪郭もはっきりしないけれど、なにかが身体に引っかかるような、ボリュームのようなものだと捉えています。

安東──その要因は、カーテンと光の関係ではないでしょうか。窓にカーテンがかかり、人が近寄ったりすると、カーテンが揺れ動き、人との関係性が生まれます。そうすると光は単なる粒子ではなく塊となって、触れ合えるような関係性が生まれてくるという感覚が近いように思います。
岡安さんとは、青木淳さんのプロジェクトでご一緒することが多いのですが、他の建築家と仕事をする時は、また違ったふうな考え方をしているのかもしれません。書籍にも2つプロジェクトを掲載させていただいた平田晃久さんから、テキスタイルをどう考えているかお聞きしたいと思います。

平田晃久──僕が初めての安東さんと協働したのは、伊東豊雄事務所に入所したばかりの頃に担当したアルミ構造の《桜上水K邸》(2000)でした。おそらく安東さんが建築家とのコラボレーションをはじめられた最初の頃だと思います。入所1年目でしたので伊東事務所への安東さんからの電話に応対したりしていて、よく話していました。そのとき聞いておもしろかったのは、布そのものや成り立ちも、実は建築的にできているというものです。たしかに建築的だと驚いたのですが、しかし、重力ファクターの比重においては、建築と大きく異なっている。もしかすると、重力のパラメーターが変わると、安東さんのつくるテキスタイルが建築になるのかもしれません。だから僕は、テキスタイルのことを違う惑星上の建築のように感じていて、少しでも近づきたい、あこがれの対象として見ています。伊東事務所で《プルージュ・パヴィリオン》(2002)《TOD'S表参道ビル》(2004)や、のちに《台中国立歌劇院》になるような提案を担当したとき、いつも布みたいに自由に造形できるものに建築を近づけることを頭の中にイメージしていました。

藤原──平田さんのおっしゃる通り、縦糸と横糸、あるいは編み方というような構造性があるなど、「布」の成り立ちそのものが建築的というのは確かに僕も感じていたような気がします。相当に建築家を刺激する部分があるのでしょうね。安東さん自身は、建築家からあこがれの対象としてテキスタイルに熱い視線が向けられていることを聞いてどう思われますか?

安東──テキスタイルがあこがれの対象になっているかどうかはわからないのですが(笑)、建築家の方はコンマ何mmの世界で戦っておられます。それに対してテキスタイルのスケールは、1cm単位の竹尺を基準にしています。そのスケールはゆるやかで、伸びたり縮んだりするものです。建築にテキスタイルが入ると、光や時間で見え方が「変わる」とか、人の動きで「揺れる」といった不安定な要素が建築空間に入り込み、建築家も想像できないようなムラが生まれるところに、みなさん楽しさを見出しているような気がします。

平田──テキスタイルによって、自分たちが考えていた夢が白黒からカラーになるような印象を受けることがあります。それは理屈ではなく、感覚的な部分に気づかされるからかもしれません。《かまいしこども園》(2015)では、表と裏で異なる色を重ねて袋状になっている薄手のカーテンを提案していただきました。成り立ちそのものは複雑ではないけれど、ふわふわと揺れるテキスタイルが入るとがらっと雰囲気が変わりました。

安東──《かまいしこども園》の場合は、建築の内外の関係を色分けしながら繋ぐという平田さんが提示した明快なコンセプトがありました。内壁や外壁で使われているはっきりと空間を分ける強い色に対して、中間の場所をテキスタイルでつくりたいと思いました。そこで、外部に面した窓には外壁と内壁に使った色を2枚内側と外側に重ねたりしました。それも最終的にどちらの色を内側にするかで大きく印象が異なりますし、また昼間と夜でも大きく変わるんですよね。平田さんの建築の提案は、カーテン、家具や人が入って初めて成立するような、すごく寛容で素敵なものでで、空間に対する多様な答えを導いてくれます。建築家と協働するなかで、当初私が考えていたよりも、もう少し良いものが出てくるという楽しみもあります。

平田──《東戸塚教会》のプロジェクトも、グラデーションで青から白になるという椅子のクッション生地のデザインを安東さんに提案いただいたときに、自分が空間を捉えていた位相が変わった感じがして、おもしろかったです。

安東──実を言うと、《東戸塚協会》のテキスタイルは、《桜上水K邸》で仕事をしていたころ、平田さんと話したことがもとになっています。現場での待ち時間、徐々に変化する景色や雲、空の話をしました。その時に垣間見えた平田さんの空気感や好きな世界の印象がこのテキスタイルの発想源です。
私は、空間だけでなく、それをつくる建築家自身の人となりや個性に興味があるし、建築家その人との関係もすごく大切にしています。その人ならではの考え方に共感しそれに沿うように提案するようには心がけています。

藤原──藤森泰司さんは安東さんとお付き合いが非常に長いと思いますが、彼女の作品、考え方にはどのような変化がありましたか。

藤森泰司──僕が長谷川逸子さんの事務所で働いていた頃、《すみだ生涯学習センター》の大空間のなかに小さな空間をつくりたいと考えた時に、布で何かできるのではとひらめき、安東さんとそこで初めて一緒に空間をつくりました。空間をまず体験して、そこで何かを感じ取って、建築家たちと話しながら提案するという彼女のスタイルは当時から変わっていません。しかし、対話という行為を繰り返すなかで、それが蓄積されてさらにスケールアップし、より感覚が研ぎすまされたようにみえます。
家具をデザインする私にとって、「布」と言われてまず思い浮かべるのは、椅子の張地です。硬い素材とやわらかい素材をどのように合わせていくかは、家具職人にとってつねに挑戦でした。家具に生地を張る技術は、とてつもなく古く、何百年も前から行なわれていることで、それが未だに変化していない。その間、ウレタンスポンジなど他にもやわらかい素材はたくさん生まれたのですが、そうした素材と布を張った家具を比べると、みんな布のほうがいいと言います。以前安東さんと身体とテキスタイルについて話した時、人間の体も生地に近いのではないかという結論になりましたが、布のもつ不思議な力を家具を通しても、空間を通しても感じています。

安東──藤森さんは家具デザイナーですが、空間全体を見ている人です。私と藤森さんは全然違うものをつくっていますが、空間に対する向き合い方や関わり方は近いところがあり、建築家の空間をよくするためには、私たちは何ができるかということを、お互いにずっと話し合ってきました。これからも一緒に考え続けていきたいですね。

司会──では最後に、シーラカンスアンドアソシエイツの小嶋一浩さんから、一言いただきたいと思います。小嶋さんたちは、現在、現代建築家コンセプト・シリーズの次号(「現代建築家コンセプト・シリーズ No.21」)でいらっしゃいます。

小嶋一浩──自分たちも同じシリーズを制作していることもあり、非常に興味深く読みました。この『テキスタイル・空間・建築』は、一見ぱらぱらと本をみた印象と違って、実は明快に4章に分割され、ロジカルにできた本ですね。特に、写真をプレビューするために、ページをいったりきたりする構造になっていてすごくおもしろい。青木淳さんが冒頭に「くうきを伝える、くうきのような生き物」というエッセイを寄稿されていますが、安東さんのお仕事はまさに「くうき」のようだと思っています。書籍の刊行に合わせてはじまった展覧会(nani、2015年10月17-31日)では、書籍の表紙に使われたテキスタイルが窓際にかけられていて、風や人の動きで揺れているのが印象的でした。その動きのあるテキスタイルを、うまく紙に定着させたのがこの本だと思います。
僕は、空間や空気を〈小さな矢印の群れ〉と捉えたりしていますが、空気だと透明だったり、粘っこかったりして、実態がよくわからない。しかし、エーテルが動いたときに、その目には見えないエーテルがちょっと動いた感じと安東さんのつくるファブリックがちょっと動く感覚はなんとなく似ています。その動きがある様子を、いかに本という媒体に落とし込むか、とてもうまい表現方法を見せてもらいました。今日はこの本で見たプロジェクトの背景に、建築家とのどんなやり取りがあったのか、楽しく聞かせてもらいました。ありがとうございました。

安東──皆様からのコメントで、改めて、テキスタイルと建築のあいだにあるさまざまな関係について考える機会をいただきました。今回の出版を通じて発せられたメッセージが、多くの人にテキスタイルの別の一面を感じるきっかけとなればとてもうれしいです。どうもありがとうございました。


[2015年10月21日、LIXIL:GINZAにて]


安東陽子(あんどう・ようこ)
東京都生まれ。テキスタイルデザイナー・コーディネーター。株式会社 布での勤務を経て、2011年安東陽子デザイン設立。http://www.yokoandodesign.com/

伊藤暁(いとう・さとる)
1976年、東京都生まれ。建築家、伊藤暁建築設計事務所主宰。2011年より東洋大学非常勤講師。須磨一清、坂東幸輔とともに建築ユニット・バスアーキテクツを結成。http://www.satoruito.com/

藤原徹平(ふじわら・てっぺい)
1975年、横浜生まれ。建築家。2009年よりフジワラテッペイアーキテクツラボ代表、2010年よりNPO法人ドリフターズインターナショナル理事。2012年より横浜国立大学大学院Y-GSA准教授。http://www.fujiwalabo.com/


201512

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