[スイス]Hosoya Schaefer Architects

細谷浩美(建築家、Hosoya Schaefer Architects主宰)+合屋統太( 建築家)

1. 沿革

ホソヤ・シェーファー・アーキテクツは、細谷浩美とマーカス・シェーファーによって2003年に設立されて以来、国内だけでなく、各国の協働者とのネットワークを活かして、建築設計、アーバンデザインなどの分野で革新に取り組んできた。その根底にある態度は、ポジティヴで合理的な姿勢によって、空間や建築や都市を、総括的なシステムの一部として捉え、そのシステムを理解し、理知的に描き出そうとするものである。

Hosoya Schaefer Architectsオフィス(©Christof Seiler)

2. 国・都市の建築状況

その建築を建てるべきかどうかを、住民の多数決で決定する。直接民主制の連邦国家であるスイスでは、他の案件と同様に、建築や地区計画の実施の是非も、自治体の住民投票で決める。政治だけでなく建築や都市の問題にも、住民の意見がそのまま反映される社会といえる。そんなスイス国内における最近の国民の関心事は、人口増加による住宅不足、都市の高密化、スプロール化による農地の減少について、である。

世界経済においてスイスは安定している。そのため、欧州の自由な労働市場を背景とした単純労働だけでない知的専門職の移民の増加によって、さらには出生率の増加によって、主に都市部での人口が増加している。それに伴い、特にチューリッヒやジュネーブなどの大都市では住宅不足が大きな問題になり、都市を高密化すべく議論が行なわれてきた。一方、スプロール化も避けられない問題であり、チューリッヒ近郊では瞬く間に宅地開発が進んで農地が失われた。スイスは永世中立国であるため、自国の農業を積極的に保護し、高い自給率を保っておきたい。そのためにも農地は重要だ。その減少は主に宅地開発によるものなので、再び農地に戻るということは考えにくく、したがって回復させるのは困難であるという問題がある。

このような人口増による住宅難に対応すべく、新しい宅地開発が自治体の投票で決定され、実施されている。けれども、スプロール化や各自治体間をまたがる地区計画の問題は広範囲なため、自治体内の決定だけでは解決が難しい。しかし、現実には、州を越えて通勤や生活をするのが人々の日常になってきており、そのような"Agglomeration"(都市圏)と呼ばれる広域での問題を解決する必要が出てきた。そこで都市圏政策というものが打ちだされ、2001年に連邦議会を通過し、主に交通と居住についての都市圏プログラムが作成された。プロジェクトの資金は、全体の3-5割が連邦政府から供給されたもので、残りは、プログラムに参加している隣接するいくつかの州や市町村が、それぞれの居住人口に比例して支払う仕組みになっている。私たちのオフィスで手がけるプロジェクトのいくつかも、このプログラムの財源が使われている。

スイスの大学教育においては、これまでアーバンデザインが重視されてこなかった。それは、歴史的な都市のストラクチャーを基盤として、建築家はビルディングタイプの設計に従事し、近代以降の高密な都市の問題に取り組む必要がなかったからといえる。しかし、私たちの世代の建築家は、郊外の問題や高密化のなかでの都市の問題を考えないわけにはいかない。たしかにスイスの建築は世界で評価されてきた。それを支えるのは、職業教育の充実と、スイス連邦工科大学(ETH)のような高等教育が同時に存在することによる高い設計の品質、そして、あらゆる仕事に対応してくれるメーカーや業者の高い施工の品質である。
私たちは、これを享受しながらも、都市のより広い範囲の問題を解決すべく、建築と都市の設計に携わっている。

3. 「コンセプト」や「リサーチ活動」

ホソヤ・シェーファー・アーキテクツは、2003年からチューリッヒを拠点に活動している。しかし(リーマン・ショックを発端とする世界経済危機のあった)2008年以降は、意識的にスイス国内のプロジェクトに集中してきた。進行中のプロジェクトは現在、国内の都心や地方に12カ所ほど点在している。都心のプロジェクトでは、主に住宅や都市の密度の問題に、地方のプロジェクトでは、主に農地の喪失や都心部からのアクセスの問題と向き合うことになる。プロジェクトのスケールは、戸建住宅からホテルの改修、都市デザインと多岐にわたるが、それは依頼されたプロジェクトに真摯に向きあってきた結果である。日本のように建物が個人の私有財産と考えられ、敷地内では建物を自由に設計してよい状況とは違って、スイスでは、どんな建物も社会資産として考えられ、規制されている。プロジェクトのスケールはさまざまだが、それが個人の住宅であったとしても、社会性をもっていることは、すべてのプロジェクトにおいて一貫している。

プロジェクトのなかで大切にしていることがある。それは、機能の分離や、インフラの繋がりに依拠した近代的な都市をそのシステムから再考すること、そして空間や建築や都市を、総括的なシステムの一部として捉えることである。例えば、都市の構成要素である街区(シティ・ブロック)を再考し、小さく分割してみる。機能から強制された大きさから離れ、少し曖昧になることで、そこに共有スペースを生み出すことができる。そうすることで、逆に空間を大きく、より自由に使うことができる。もうひとつ大切なことは、設計プロセスには多くの人が関わるという状況を楽しむことだ。さまざまなアイディアを共有することで設計はより豊かになるからである。最後に、都市の根本には、かならず形式的(フォーマル)な部分と非形式的(インフォーマル)な部分が共存するということを理解すること。アーバンシステムは、大きな形式的な構造のなかで、そのなかにあるいくつもの非公式な存在を認めあうことで成り立っている。さまざまな植物や木々が、複雑で、多様で、しかもそれぞれが依存しあいながら生態系を形成している植物社会学の考え方に似ている。プロジェクトのなかでも、さまざまな外的・内的要因に対して形式的に対処するのではなく、矛盾する要素を同時的に共存させる方法を考えたい。未来の居住空間としての都市では、ランドスケープの要素は今まで以上に重要な役割を担う、と信じている。

©Luftbild Schweiz, 2006

STANDORTMOSAIC from Metrobils Project(©Hosoya Schaefer Architects AG, 2011)

4. 実践と作品

Herisau Bahnhofplatz
ヘリザウの駅前広場(2014年コンペ最優秀案)


《ヘリザウの駅前広場》模型写真(©Hosoya Schaefer Architects AG, 2014)

《ヘリザウの駅前広場》スタディ模型(©Hosoya Schaefer Architects AG, 2014)

駅周辺の再開発(延床面積=4万㎡)と駅前広場の設計プロジェクトである。
ヘリザウは、スイス東部の中心都市ザンクトガレンの近くにある。人口約2万人の基礎自治体である。2014年に、都市圏プログラムのプロジェクトのひとつとしてコンペティションが実施された。プロジェクトは、2つのパートに分かれており、駅周辺の再開発(延床面積=4万㎡)と駅前広場の設計からなる。駅周辺の再開発については、今月から、自治体、鉄道会社、バス会社、民間の土地所有者らと、全体案もしくは各々の区画についての協議が始まったばかりである。ここでは、すでに基本設計が始まっている駅前広場と大屋根のプロジェクトを紹介する。

最初に、このプロジェクトの協働者である構造家のユルグ・コンツエット氏と敷地を訪れた。「私はつねに伝統主義者でありたいと思っている」と言うコンツエット氏は、スイスのグラウビュンデン州のクールという町を拠点としている構造家だ。敷地の印象は、不連続な空間というものだった。 歴史的な土地の特徴が残ってはいるものの、パーキングやバス停、電車の車庫などのインフラ施設が必要に応じて断片的に並んでいるだけで、統一性がない。

私たちが提案する広場は、屋根を挟んで2つの広場に分かれ、プラン全体の基幹となる。中央に位置する大きな屋根は、地上レベルでバスに乗り降りする人々のための空間を、雨や雪などの自然環境から保護する役割をもつ。その一方で、駅前の断片化した空間にアイデンティティを与える役割を兼ね備える。この屋根によって、人々が"場"を緩やかに共有し、繋がることを考えた。2つの広場とともに、駅前のさまざまな事柄を許容する場にしたい。屋根は幅21.3m、長さ120.5m、高さ7mで、厚さ15cmから37cmの薄いコンクリートの曲面でできている。8本の柱で支持されており、最大スパンは47.5mとなる。薄いコンクリートの屋根の下面が浮いているような4つの大きなスカイライトがある案と、コンクリートの型枠をそのまま仕上げ面とする案の2つを、スタディしている。

V-Zug Areal
ツーク・マスタープラン(2013年コンペ最優秀案)


《ツーク・マスタープラン》マスタープラン(©Hosoya Schaefer Architects AG, 2015)
《ツーク・マスタープラン》プログラム配置(©Hosoya Schaefer Architects AG, 2015)

《ツーク・マスタープラン》開発フェーズのスタディ(©Hosoya Schaefer Architects AG, 2015)

《ツーク・マスタープラン》パース(©Hosoya Schaefer Architects AG, 2015)

敷地のあるツーク市は、チューリッヒ南方にある小さな州の州都である。ツーク湖の北東岸に面し、湖畔の旧市街は中世都市の面影を残しているが、周りには工業地域が多く見られる。ツーク州の税率の低さは有名で、外資系企業や高額所得者が多く集まっている場所としても知られている。このプロジェクトのクライアントは、ツーク市とVZugというスイスの電機メーカー、行政と民間の両方だ。敷地面積は全部で16.6万㎡と広い。延床面積は、シナリオによって変わるが、約20万㎡である。工場での生産を止めず、エリア全体を住宅、オフィス、プロダクション、輸送などの施設が混在する高密度のクラスターに転換することが求められている。2013年にコンペが実施され、私たちの案が最優秀賞に選ばれた。

プロジェクトでは、与えられた敷地を閉じられたエリアから、開かれた場所に転換することを試みている。VZugの敷地内に誰もがアクセスできるという意味で、地域に開かれた21世紀のプロダクティヴ・シティの設計を提案している。クライアントにとって、このエリアの開発は単に不動産価値を高めるためだけのものではなく、企業間や地域ネットワークから得られるアイディア、情報の交換、相互学習する経験などを再構築するためのプロジェクトである。

長期的なプランニングのなかで、変化や変更に対応できるようなシナリオをどう描くか。その点については、エリア開発が始まっても工場は閉鎖されず、つねに稼働しているべきだというクライアントのリクエストに助けられた。エリア全体を、多くの段階を経て、少しずつ別のプログラムに置き換えていく。日本のリーン生産方式を取り入れることでも、将来的には、工場での作業時間や在庫量を大幅に削減できる。都市がインタラクションの場であることを再認識するとともに、引き続き、プロダクティヴ・シティにおける人と人、人と機械の関係性を見直す提案を続けていきたい。

Swiss National Innovation Park
スイス・ナショナル・イノベーション・パーク(2014年コンペ最優秀案)


《スイス・ナショナル・イノベーション・パーク》マスタープラン 
(©Hosoya Schaefer Architects AG, 2014)

《スイス・ナショナル・イノベーション・パーク》プログラム・プロポーザル
(©Hosoya Schaefer Architects AG, 2014)

《スイス・ナショナル・イノベーション・パーク》イメージ・スタディ
(©Hosoya Schaefer Architects AG, 2014)

国立のイノベーション・パークの提案である。コンペティションの後すぐに、デザインガイドラインの設計が始まった。クライアントはチューリッヒ州だが、次のステップは、連邦政府での多数決である。
マスタープランの構成要素である交通ネットワークとランドスケープの高度なハイブリッド化に挑戦しているプロジェクトと言える。

企業、大学、公的機関などが連携した同パークの建設予定地として、国内のさまざまな敷地が検討されてきた。その結果、スイス北部のチューリッヒ州デューベンドルフ市にあるスイス陸軍航空隊の航空基地に隣接した敷地が選ばれた。基地は、現在も使われており、デューベンドルフ市内の中心部から北東へ約2kmの場所にある。敷地面積は71万㎡。コンペ時の要項にはプログラムは含まれていなかった。問題点となったのは、プロジェクトのスケールが非常に大きい、ということ。また、都心部から離れた場所に建設されるイノベーション・パークのような施設やエリアを、つねに賑やかで活気のある場所にすることは難しい、ということだ。

私たちは、リサーチセンター、教育機関、サービス、商業施設、レクリエーション、国際会議場、住宅、文化施設などのプログラムを提案するとともに、敷地と航空基地の境界に、いくつもの公園やストリート、オープンスペースを連続させた緑の空間(=ランドスケープ)を提案した。具体的には、都市の中心部で日常よく見かけるタイポロジー、広場や公園の類型パターンなどをプランに取り入れている。ヨーロッパの都市を例に考えると、私たちは、教会や時計台、プラザなどの公共の広場を目印に、自分がいまどこにいるのかを意識しながら行動していることがよくある。同じように、ここでは、サンティスというスイス人にとって親しみ深い山がよく見える場所をプラン全体の中心部分とすることで、"場所性"や、居住者または利用者にとっての"日常"を大切に考えている。

上記のプロジェクト以外にも、2012年から実施したサンモリッツにあるホテルの改修工事がようやく竣工、ローザンヌ駅再開発のコンペ(1次審査通過)、エビコン郊外の集合住宅、チューリッヒ郊外のアパートメント、ライカ(LEICA)工場、2027年に開催されるスイス国民博覧会のコンペ(2次審査中)などが進行中である。



細谷浩美(ほそや・ひろみ)
1998年ハーヴァード大学大学院建築学科卒業。伊東豊雄建築設計事務所に5年間勤務したあと、2003年にマーカス・シェーファーとともに、ホソヤ・シェーファー・アーキテクツを共同設立。2005年米国コーネル大学客員教授、2007年から2012年までウィーン芸術アカデミー教授。2011年ハーヴァード大学大学院建築学科にて講師を務めた。現在進行中の主な作品=《ヴァウ・ツーク社複合施設》(2013-)、《スイス国立イノベーションパーク》(2014-)、《チューリッヒ郊外のアパートメント》(2015-)、《ライカ工場》(2015-)、《ヘリザウ駅前広場》(2015-)など。事務所web site=www.hosoyaschaefer.com

合屋統太(ごうや・とうた)
1980年福岡生まれ。東京大学工学部建築学科卒業。パリ・ラ・ヴィレット建築大学、ミュンヘン工科大学留学を経て、2005年東京大学大学院工学系研究科建築専攻修了。2005年より坂茂建築設計(東京)、Hosoya Schaefer Architects(チューリッヒ)、Daniele Marques(ルツェルン)を経て、現在、Miller & Maranta (バーゼル)勤務。


201509

特集 いまだから知りたい海外建築の実践 2015


いまだから知りたい海外建築の実践 2015
[イギリス]Caruso St John Architects
[スイス]Hosoya Schaefer Architects
[中国]MAD Architects
[フランス]Moreau Kusunoki Architectes
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[ヴェトナム]Vo Trong Nghia Architects
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