パタン・ランゲージの今日的意義
──新たなコラボレーションのかたち

藤村龍至(建築家/東洋大学理工学部建築学科専任講師)
井庭崇(慶應義塾大学総合政策学部准教授)
難波和彦(建築家)

プレゼンテーション:創造的コラボレーションのデザインとメディア(井庭崇)

1. パタン・ランゲージの目的

井庭──パタン・ランゲージとは、「いきいきとした質」を生み出すための言語です。過去の成功に潜む共通パタンを言語化し、なにかをつくるときや実践するときの判断のセンスを共有・活用する方法です。
ある状況において問題が生じるときには、いくつかの「力(Force)」が働いていて、解決する発想がうまく思い浮かばないと問題のままとどまります。そうした状況のパタンは「状況(Context)」「問題(Problem)」「解決(Solution)」の三つで記述することができます。たんに「解決」を共有するための方法ではなく、どんな「問題」が生じやすいか、またはどう「解決」している人がいるかを知るための手段です。それが独立したテクニックではなく、最終的に全体性をともなった「質」を生み出すものとしてパタンが書かれています。


1──「状況」「問題」「解決」のパタン

この質のことをアレグザンダーは「名づけ得ぬ質(Quality Without A Name)」と呼びました。あの街は良い感じがするという質や、あのプロジェクトはすごく良かったというときの質は、どうやって出てくるものなのか──。それ自体は名づけ得ないし言語化できないけれど、それがどのように生み出されたのかは理解できるかもしれません。アレグザンダーは建築についてその問題を考えましたが、僕は社会的な活動や行為についての質も同様に考えることができると考えています。その質そのものは基本的に名づけ得ぬものなので言語化はできませんが、それを生み出す方法については言語化できるのではないか。もちろん、その方法も完全に記述することはできませんが、そもそも人間は世界を分節化しなければ理解できないので、あえて言語化することに意味があります。その言語があることでコミュニケーションや思考が可能になるからです。そういう期待を込めて、パタン・ランゲージをつくっています。

2. パタン・ランゲージ3.0へ

井庭──アレグザンダーが提唱したのはまちづくりや建物についてでしたが、この約40年を振り返ると、「パタン・ランゲージ1.0」と呼びうる建築のパタン・ランゲージの時代があり、「パタン・ランゲージ2.0」と呼びうるソフトウェアのパタンを経て、僕らがいまつくっている人間行為のパタン・ランゲージを「パタン・ランゲージ3.0」と位置づけています。1.0から3.0と言っても、上書きされるわけではなく、重層的な進化です。


2──パタン・ランゲージの三区分

もともと建築分野での方法として考案されたパタン・ランゲージは、ケント・ベックとウォード・カニンガムによって、ソフトウェア分野に応用されました。ケント・ベックはアジャイル開発──小さな漸進的成長のプロセスで総体をつくっていくこと──を提唱し、ウォード・カニンガムはWiki──みんなでひとつのウェブ上のドキュメントを改変できるシステム──をつくっています。これらはともにアレグザンダー的な方法・仕組みだと言えます。
その後、ソフトウェア分野のなかからパタン・ランゲージ3.0の動きが出てきました。そのひとつが教え方のパタンで「ペダゴジカル・パタン(Pedagogical Patterns)」と呼ばれています。ヨーロッパを中心に論文が書かれてきましたが、一昨年それをまとめた本が出ています(Pedagogical Pattern Editorial Board (eds.), Pedagogical Patterns: Advice for Educators, Joseph Bergin Software Tools, 2012)。また、マリリン・マンズとリンダ・ライジングによる、組織に新しいアイデアを広めるパタンの本も、昨年日本語訳が出版されています(『Fearless Change:アジャイルに効く──アイデアを組織に広めるための48のパターン』、丸善出版、2014)。マリリン・マンズはペダゴジカル・パタンの提案者でもあるので、パタン・ランゲージ3.0のキーパーソンといえる方です。僕らが招待して今年(2015年)3月に来日します。


3──パタン・ランゲージ3.0の展開例

そのような状況のなかで僕らは、「ラーニング・パターン」を皮切りに、「プレゼンテーション・パターン」「コラボレーション・パターン」、防災の「サバイバル・ランゲージ」、社会変革の「チェンジ・メイキング・パターン」、自分らしさをどう育てていくかという「パーソナル・カルチャー・パターン」、いきいきと美しく生きる「ジェネレーティブ・ビューティー・パターン」をつくりました。最新の「旅のことば」は認知症とともに生きるためのパタン・ランゲージです。
このほか、ワークショップで使うツールとして「コラボレーション・パターン・カード」(クリエイティブシフト、2014)などもつくっています。これは、創造的コラボレーションをどう実現するかという34のパタンを組み合わせたパタン・ランゲージをカード化したものです。
たとえば「アイデアをカタチに」というパタンがあります。プロジェクトのなかで新しいアイデアを思いついたとき(状況)、アイデアが革新的であればあるほどに一生懸命説明しても他のメンバーに理解してもらえないこと(問題)がよく起きます。そこでアイデアを目に見えるカタチにして、それを見せながら説明する(解決)というパタンです。「コラボレーション・パターン」の記述には「力(Force)」や「解決」の具体的な記述など、もっと詳細な情報が書かれていますが、パタン・カードはワークショップで使うものなので、情報量を最小限にとどめてあります。
もうひとつ例をあげると、「活動の足あと」というパタンは、プロジェクトにおける情報共有の仕組みを考えているとき(状況)に、作業の進捗情報を共有するだけでは他のメンバーがやっていることをきちんと理解することはできない(問題)ので、自分たちの活動の軌跡を残す(解決)というものです。それぞれの作業の成果や記録をメンバー全員で共有し、誰でも必要なときに時系列でたどり直せる仕組みをつくることです。
これらはまさに藤村さんの『プロトタイピング』でやっていることそのものです。僕と藤村さんは別々のところで考えて実践してきましたが、大切だと考えていることが重なっているのは興味深いところです。
こうしたパタンが34あるので、質の高いコラボレーションを考えるときの足がかりとなり、自分たちでパタンを組み合わせて実現することが可能になります。


4──「アイデアをカタチに」(「コラボレーション・パターン・カード」より)

5──「活動の足あと」(「コラボレーション・パターン・カード」より)

3. パタン・ランゲージの進化──学び方のデザイン

井庭──パタン・ランゲージの活かし方も変わってきています。パタン・ランゲージを、「パタン・ランゲージを読んで学ぶ」メディアとして用いるのではなく、「パタン・ランゲージを用いて他者の話を聞いて学ぶ」ためのメディアとして用いるということです。その活かし方について、創造的な学び方のパタン・ランゲージである「ラーニング・パターン」を例に紹介したいと思います。
慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパス(SFC)では、現在、何百もの科目から好きなものを組み合わせて履修できるカリキュラムになっています。ほぼ必修がなく、どの学年にどの科目をとってもよいようになっているのです。つまり、自分で自分の学び方をつくることが求められているわけです。そこで、僕らは「ラーニング・パターン」を用いて学生の支援をしています。何千人という大学生に対してパタン・ランゲージによる支援を行なっているというのは、世界でも珍しいことではないでしょうか。
どのように活用しているのかというと、入学してすぐの学部1年生約900人全員に対して「ラーニング・パターン」を用いた対話ワークショップを実施しています。はじめに、「ラーニング・パターン」の40パタンを読んで、自分が経験しているものをリストアップします。その上で、未経験のなかから取り入れたいパタンを五つ選びます。そして、ワークショップ中は、取り入れたいパタンを経験している人を探し、経験談を聞きます。抽象的に書かれているパタンについて、対話を通して具体的な経験談を聞いて理解し、イメージをもつわけです。1時間ぐらいの対話をすると、自分と同じ世代の人が自分とまったく違う経験をしていたり、同じパタンでも人によって違う事例が出てきたりすることで、そのパタンについての理解が深まるとともに、自分ならどうするかという考えが形づくられていきます。
このようなパタン・ランゲージを用いた対話ワークショップは、学外でも展開していて、社会人の方にもかなり受けています。昨年はアメリカのノースカロライナ大学アシュビル校でも新入生に向けて実施しました。ほかにも国際学会や、高校生向けに実施したこともあります。


6──湘南藤沢キャンパスでのワークショップ風景

ここでのパタン・ランゲージは、「共通の語彙」として機能するとともに、「認識のメガネ」としても機能しています。自分の経験というのは全体的なものなので、それがどのような要素で成り立っているのかというのは捉えにくいものです。しかも、自分にとって当たり前のことはそのすごさには気づかず、できていないことばかり気になってしまうものです。ですが、自分の経験をパタンに照らして捉え直すと、すでにいろいろな経験をしていることがわかり、それを他の人に話すことで、自分の経験についての新しい発見につながったりします。そして、自分への自信にもつながるのです。
もちろんパタン・ランゲージは「デザインの支援」としても機能します。井庭研究室では、全員が学期のはじめに「今学期の学びをどうしたいのか」を「ラーニング・パターン」の言葉を使って書きます。自分はこれまでこの部分は良くできていたが、これからはこういうことをしていきたいと、文章で書くのです。そのなかで「ラーニング・パターン」のパタン名を使って書くのです。そして学期末には、自分の学びを「ラーニング・パターン」によって振り返ります。これはまさに、アレグザンダーのいう「診断と修復」のプロセスです。しかもそれをひとりでやるだけでなく、「コラボレーション・パターン・カード」などを使って複数人で自分たちのプロジェクトのデザインをしたり、途中で振り返りの機会を設けて診断・修復することもできます。こうしたことを通じて、パタン・ランゲージが「Wholeness(全体性)」の「Piecemeal Growth(漸進的成長)」へと「Participation(つくることへの参加)」することを支援するのです。
僕が日本で始めたこのようなパタン・ランゲージの活用方法は、海外でも注目され始めています。たとえばコミュニケーション革命のパタン(Liberating Voices: A Pattern Language for Communication Revolution, The MIT Press, 2008)を書いたダグラス・シュラーも、昨年オーストリアで開催された国際学会の基調講演で僕の対話ワークショップのことに言及してくれていました。

4. 発見の連鎖をどう起こすか

井庭──最後に述べておきたいのは、コミュニケーションの生成・連鎖の重要性です。ドイツの社会学者ニクラス・ルーマンは、「社会とはコミュニケーションの連鎖である」と言いました。そして、社会はコミュニケーションを要素とするシステム(オートポイエティック・システム)であり、それは人間やその思考とは別のシステムとして存在していると捉えました。ここから発展させて、僕は創造のプロセスも人間やその思考とは別のシステム(オートポイエティック・システム)であると考えています。創造システムは発見が連続していくシステムであるという点は、2009年に「10+1 website」で書いた「自生的秩序の形成のための《メディア》デザイン──パターン・ランゲージは何をどのように支援するのか?」という論考でも触れました★1
僕がパタン・カードを導入してやろうとしていることと、藤村さんが模型を使いながらやっていることの関心の先は、まさに発見の連鎖をどう起こすかです。コミュニケーションが連鎖していても、発見の連鎖なくしては創造は進んだことにはなりません。コラボレーションでは、コミュニケーションしつつ、発見の連鎖を進めていかなければなりません。ルーマンはオートポイエティック・システムとして「心的システム」と「社会システム」を考えましたが、僕はそれらに加えて「創造システム」を考えています。
そして、パタン・ランゲージが重要なのは、発見の連鎖を支援し、コミュニケーションの連鎖を支援し、意識の連鎖を支援するからです。つまり、パタン・ランゲージは、創造システムと社会システムと心的システムをつなぐメディアなのです。同様に、藤村さんの『プロトタイピング』における模型もそういった三つのシステムの連鎖を促進させるためのメディアだと感じました。


7──思考、コミュニケーション、創造を支援するメディア

★1──井庭崇「自生的秩序の形成のための《メディア》デザイン──パターン・ランゲージは何をどのように支援するのか?」(「10+1website」2009年9月号、LIXIL出版)
URL=http://10plus1.jp/monthly/2009/09/post-2.php


201503

特集 再考・集団設計の思想
──集合的クリエイションの実践とその源流


パタン・ランゲージの今日的意義──新たなコラボレーションのかたち
インサイド/アウトサイド──レファレンスから《Dragon Court Village》へ
生成力を設計せよ──1968年のC・アレグザンダーへ
サステイナブルな芸術の共同体──山口文象ノンポリ説からみたRIAの原点
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