岐路に立つ公共図書館──集客施設か、知的インフラか

猪谷千香(ジャーナリスト、作家)

多様化する各地の公立図書館

近年、従来のイメージを覆す公立図書館が各地に出現している。カフェがあったり、音楽が流れていたり。元日から開館している図書館もある。表面上、サービスの利便性が上がっただけではない。ビジネス支援などの課題解決や地域コミュニティの場としての役割を担う図書館も増えている。
その背景には、「無料貸本屋」批判からの脱却や、2000年代に進んだ地方分権化などの流れがある。特に、2003年に企業やNPOなど民間組織に公的施設の管理運営を委託する指定管理者制度がスタート。民間の参入により、図書館でも多様なサービスが展開されるようになった。
そんな指定管理者制度の開始から10年を経て、2013年4月には佐賀県の「武雄市図書館」がオープンした。レンタルチェーンのTSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が指定管理者となって運営。ポイントを貯められる「Tカード」を導入したり、スターバックスコーヒーと蔦屋書店を併設したり。これまでの公立図書館の常識をいくつも飛び越えている武雄市図書館について、「図書館革命」という評価と「公設民営ブックカフェ」という批判が、いまも平行線をたどっている。
一方、同じ佐賀県には武雄市と隣接する伊万里市に、図書館界から羨望のまなざしを受ける「伊万里市民図書館」がある。ここは図書館名に「市民」とあるように、1995年の開館以来、現在も市民とともに運営されている図書館として知られる。伊万里市では指定管理者制度の導入は行なわないと決断、市民ボランティアとの協働による実直な図書館活動を実現しているのだ。
地域の図書館が多様化するなか、「公共図書館」とはどうあるべきか。これまで「公共図書館」としての役割を担ってきた各地の公立図書館はいま、岐路に立たされている。武雄市図書館と伊万里市民図書館、また多くの公立図書館を取り巻く状況から、新しい「公共図書館」の姿を模索してみたい。

武雄市図書館──図書館と「経済効果」

武雄市図書館

武雄市は今年4月、武雄市図書館の開館1年にあたって、来館者数は92万人にのぼり、市外からの来館者増加による経済効果は20億円という試算を公表した。今年1月に上梓した『つながる図書館』(ちくま新書)を書くために、近年の図書館関係のニュースには積極的に目を通してきたが、「経済効果」とはっきり見出しのついた図書館の報道を見たのは、武雄市図書館が初めてだった。この見出しだけでも、武雄市図書館がどのような役割を持たされた図書館なのかがよくわかる。
武雄市図書館は2013年10月にも、金沢21世紀美術館(金沢市)と旭山動物園(北海道旭川市)という全国から観光客が訪れる集客施設と「文化施設連携パートナーシップ協定」を結んだ。既成概念を打ち破る取り組みで知られる「奇跡の公共施設」の連携と報道され、11月3日には金沢21世紀美術館の秋元雄史館長が武雄市図書館を訪れ、武雄市の樋渡啓祐市長とのトークセッションを行なったという。
先にも書いた通り、武雄市図書館には計画発表時より賛否両論が寄せられている。しかし、武雄市図書館が旗幟鮮明にした集客施設という公立図書館の方向性は、ほかでもフォロワーを誘発するほど自治体にとっては魅力的だったようだ。
今年4月から、神奈川県海老名市立図書館ではCCCと図書館流通センター(TRC)の共同事業体が指定管理者となった。海老名市立図書館は2014年度末から改築、2015年10月にリニューアルオープンする予定だ。新図書館建設が進む宮城県多賀城市では、CCCが指定管理者候補になっている。愛知県小牧市は新たに建設予定の市立図書館の設計にアドバイスをする事業者を、CCCとTRCの共同事業体に決定したと8月に発表。ほかにも、岡山県高梁市や山口県周南市、宮崎県延岡市などで、CCCが関わる図書館計画が報じられている。
これらのフォロワーの多くにみられるキーワードが「再開発」だ。厳しい財政状況のなか、図書館を集客施設化することによって、地域を活性化させようという意図がみられる。計画が本格化していないまでも、地方議会では武雄市図書館を引き合いに出し、自分たちの自治体における図書館の改革について発言する首長や議員が散見されることから、フォロワーは今後も増える可能性が高い。

伊万里市民図書館──図書館と市民の「協働」

伊万里市民図書館

一方、伊万里市民図書館は、地元の人々にこよなく愛されてきた公立図書館だ。設計段階から市民に丁寧なヒアリングを実施。その結果、随所に市民の声が取り入れられた図書館が完成した。例えば、布の絵本などを作っているグループからは、ミシンやアイロンを使うのでコンセントを多めに、腰の高さに設置してほしいという要望があり、作業のための部屋はそうした設えとなっている。
市民は1994年2月に行なわれた起工式にも参加、ぜんざい200杯がふるまわれたという。その後、まるで図書館の誕生日を祝うかのように、起工式が行なわれた日には毎年、市民が集まり、20回目となった今年は300杯のぜんざいをみんなで食べたという。
現在、伊万里市民図書館で活動している市民は400人を超える。古本市を開催したり、文化祭のようなイベントを企画したりと幅広い活動を行なっている。そのポリシーは「協力と提言」。ただ協力するのではなく、より良い市民図書館を実現するための提言も行なうという市民の人たちの矜持を感じさせる言葉だ。伊万里市民図書館では、「図書館と市民は車の両輪」とよくたとえる。お互い、適度な距離を保ちながら、同じ方向へと走って前へ進む。その絶妙なバランスは、伊万里市民図書館が市民の人たちとともに20年という年月をかけてつくりあげてきたものだ。
いま、あらゆる町づくりの場面で注目されているのが、まさに伊万里市民図書館で実践されている市民との「協働」だろう。伊万里市民図書館の活動は、ほかの自治体にとっても示唆に富んでいる。注目を集めている武雄市図書館とは立地も近いため、伊万里市民図書館にも全国から大勢の視察が訪れているそうだが、伊万里市民図書館は20年という積み重ねがあっての伊万里市民図書館であり、武雄市図書館はまだオープンしてから2年も経ていないという視点を忘れてはならない。

201411

特集 コミュニティ拠点と地域振興──関係性と公共性を問いなおす


「参加型アート」「アール・ブリュット」──コミュニケーションのためのアートと、これからの美術館のかたち
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