岐路に立つ公共図書館──集客施設か、知的インフラか

猪谷千香(ジャーナリスト、作家)

そもそも図書館とはどのような施設なのか?

さて、武雄市図書館と伊万里市民図書館について言及してきたが、あらためて図書館とはどのような施設なのかを考えてみたい。図書館と美術館、博物館、水族館は似たような公共施設として多くの人に受け止められているかもしれない。しかし、前者は図書館法、後者は博物館法によって定められているという違いがある。そして、図書館法の第十七条にはこう明記されている。「公立図書館は、入館料その他図書館資料の利用に対するいかなる対価をも徴収してはならない」
ユネスコの「公共図書館宣言」でも同様だ。「公共図書館は原則として無料とし、地方および国の行政機関が責任を持つものとする。それは特定の法令によって維持され、国および地方自治体により経費が調達されなければならない。公共図書館は、文化、情報提供、識字および教育のためのいかなる長期政策においても、主要な構成要素でなければならない」とある。
図書館はそもそも、より広い地域からの集客が望まれてきた有料施設である美術館、博物館、水族館とは異なる公共施設として運営されてきた。民主主義社会における知的インフラとして、広く市民に無料で提供されるべきとの思想がそこにあるのだ。
しかし、その無料原則のために日々の活動から収益を上げることが難しく、自治体にとっては運営コストばかりがかかる施設ととらえられがちだ。さらに、図書館に「集客施設」としての役割が期待されることからもわかるように、自治体の現状は厳しさを増している。

「図書館化」と新しい公共への志向

情報ステーション
以上、撮影=猪谷千香

今年8月に刊行された増田寛也『地方消滅──東京一極集中が招く人口急減』(中公新書)では、このまま東京の一極集中と少子高齢化が進めば、2040年までに896の自治体が「消滅」するということが指摘され、地方自治体の関係者に大きな衝撃を与えた。
多くの公共図書館が自治体の公立である以上、この余波は免れないだろうと予測される。しかし、先述した通り、図書館は市民の知的インフラであり、自治体格差が図書館格差につながってはならない。そのためには、これまで以上に強い図書館づくりや運営が必要とされているのは明らかだ。
たとえば、オープンデータ化が進めば、市民の力を借りることが容易となり、伊万里市民図書館でみたような「協働」がひとつの解決につながるだろう。また、最近では地域に散在する本がネット上で可視化されるサービスもある。「リブライズ」(https://librize.com/ja)というサービスは、Facebookのアカウントとひもづけされ、本の貸し借りが個人で簡単にできるというもので、カフェやコワーキングスペース、大学の研究室などの本棚をあっという間に「図書館化」してしまう。
千葉県船橋市で広まっているのは、NPO情報ステーション(http://www.infosta.org)が運営する民間図書館だ。駅前ビルの一角や商店街の店舗、老人ホームなど町のいたるところに小規模な民間図書館を設置、コミュニティの場として活用されている。彼らは自分たちが進めるこの「船橋まるごと図書館プロジェクト」(http://www.infosta.org/campaign/funabashi30/)を「公立図書館ではないが、公共図書館である」と明言。最近、船橋市立図書館の返却ポストを民間図書館に置くなどの連携が始まったばかりだ。今後、こうした民間の動きと連携することにより、公立図書館の活動の幅はさらに広がり、「新しい公共」へと志向できるのではないだろうか。
今後、公共図書館とはどうあるべきなのか。私たちは「公共」とは何かを再考しながら、その未来を描かなければいけない時期にさしかかっている。




猪谷千香(いがや・ちか)
東京生まれ。ジャーナリスト、作家。明治大学大学院博士前期課程考古学専修修了。産経新聞記者、ニコニコ動画のニュース担当を経て、ハフィントン・ポスト日本版記者を務める。著書=『つながる図書館──コミュニティの核をめざす試み』(筑摩新書、2014)ほか。


  1. 多様化する各地の公立図書館
  2. そもそも図書館とはどのような施設なのか?

201411

特集 コミュニティ拠点と地域振興──関係性と公共性を問いなおす


「参加型アート」「アール・ブリュット」──コミュニケーションのためのアートと、これからの美術館のかたち
まちづくりと「地域アート」──「関係性の美学」の日本的文脈
岐路に立つ公共図書館──集客施設か、知的インフラか
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