近代建築と文化から読み解く都市のコード

中川理(建築史家、京都工芸繊維大学教授)+山盛英司(朝日新聞大阪本社生活文化部長)
日本の都市論は、その大部分が東京を中心として語られてきました。しかし東京の特殊性が語られることは多くありません。本対談では大阪を取り上げることで、逆照射的に東京を相対化することを試みています。
2011年以降、大阪では中心部である梅田、中之島、なんば周辺の大規模な再開発が進められてきました。それに伴い《大阪ステーションシティ》(2011)、《中之島フェスティバルタワー》(2012)、《グランフロント大阪》(2013)、《あべのハルカス》(2014)といった超高層・大規模な建築物の竣工と《そごう百貨店》(村野藤吾、1935)や《大阪中央郵便局》(吉田鉄郎、1939)など大小さまざまな近代建築の取り壊しが並行して起きています。
「大大阪」時代から現代まで、変わりゆく大阪の基盤にある「都市のコード」を読み解き、そこから見通せる大阪の前途について、近代建築史家の中川理氏と朝日新聞大阪本社生活文化部長の山盛英司氏に語っていただきました。



中川理氏(左)、山盛英司氏(右)

大阪の都市史を振り返る

中川理──今日はよろしくお願いします。今日の対談は大阪が舞台です。私の専門は都市、とりわけ日本の都市の近代化過程の歴史研究です。その中で最近強く思うのは、東京の相対化の作業が必要であるということです。東京という都市の歴史研究は、江戸・東京ブーム以来、大きな蓄積を遂げてきましたが、東京の特殊性についてはほとんど語られていないのではないか。ですから今日の大阪というテーマも、そうした視点から何か議論できればよいかなと思っています。

山盛英司──よろしくお願いします。まず「大阪の歴史とは何か」といったときに大阪の歴史的な「地図」を共有していない、可視化しづらいところがあり、今回改めて私なりの見取り図を作ってきました[資料1]

[資料1]大阪都市史と近−現代建築一覧表

大阪の変遷は、節目ごとに6つに分けることができると思います。代表的な建築とともに見ていきましょう。
近代的な大阪の幕開けとしてまず、《大阪港》が1868年(明治元年)に開港しますが、同年にできた《神戸港》(1868)のほうが便利だということで必ずしも経済的にうまくいきませんでした。
次に大阪が経済的に潤っていた時期、いわゆる「東洋のマンチェスター」と言われていた時期が1900~1910年代です。その時期に《日本生命本館》(1902)や、《日本銀行大阪本店》(1903)、《中之島公会堂》(1918)といった建築が建造されました。
そして最も重要な時代と思われるのが1925年(大正19年)にはじまる「大大阪(だいおおさか)時代」です。1925年には大阪市の人口が211.4万人に達し、東京市の199.5万人を抑えて日本で最も大きな都市になりました。この頃、大阪で生まれ育ったジャーナリスト大宅壮一は、「大阪は日本のアメリカである」と書いています。彼はアメリカ文化を「徹頭徹尾、実生活に即した文化」とした上で、大阪の気性と重ねていますね。現在まで続いている典型的な大阪のイメージは、この頃民間の資本主義の力で形成されたといえます。東京のように公共政策が牽引する形で文化・都市が形成されたわけではなかったのです。
その後、第二次世界大戦後がもうひとつの節目で、高度経済成長期を迎えます。一方、建築では70年の万国博覧会ではメタボリズムの建物が建てられましたが、そのほかに特徴的な広がりはみあたりません。
5つめの時代は、1990年の大阪花博をはじめとしたバブル建築の時代です。《キリンプラザ大阪》(高松伸、1987、現存せず)、風俗ビルなどと呼ばれている《バロン・ベール》(フィリップ・スタルク、1992)などですね。
6つめが東北大震災後です。世をあげて自然環境と共生するような建築が模索される時代において、大阪はいささか世間の流れに逆行するように次々に高層ビルができています。《大阪ステーションシティ・ノースゲートビルディング》(2011)、《阪急百貨店うめだ本店》(2012)、《グランフロント大阪》(2013)、御堂筋の高さ制限緩和(2013)、《あべのハルカス》(2014)の建設という動きです。

《日本銀行大阪本店》©wiiii

《阪急百貨店うめだ本店》
Original Update by takato marui
中川──自らの研究上、私が特に興味を持っているのは、そうした建築がつくりだされる前提となる都市計画や都市政策についてです。その関心から言えば、近代の大阪の最大の特徴と言えるのは、やはり大正から昭和初期の「大大阪時代」であろうと思います。それ以前の時代も、いま建築遺産となっている多くの様式建築がつくられていて、建築史といった視点からは重要なのですが、現在の大阪の都市空間の骨格を作り出したという意味においては、大大阪の時代に注目しなければなりません。言うまでもなく、その時代をリードしたのは、市長を務めた關一(せき・はじめ、1873~1935、社会政策学者・都市計画学者)です。關は11年間市長を務めたのですが、このあいだに東京では8人市長が変わり、京都でも5人変わっています。市長の任期が長く続かない時代において、關は10年以上も市長を務めることができた。そこには、彼を支えた大阪の特徴的な政治的基盤があったのですが、それはともかく、長い期間市長を務めることができたために、彼は独自の都市政策を実現させることができたのです。戦後の都市政策というと、社会政策的なものが主流になるのですが、關が都市政策を進めた時代には、それはもっぱら都市基盤整備でした。關により、御堂筋の拡幅、地下鉄の建設、大阪城再建(1928~31)といった大規模な事業が次々と実現したのですが、それらはすべていまの大阪の都市空間の骨格をつくっていると言えるものなのです。

山盛──現在の橋下徹市政が標榜している「大阪都構想」などもある意味では關が行なった市政の焼き直しというか作り直しとみるとわかりやすい。

中川──ええ、ただ「大阪都構想」は制度の改革・再整備といったところに主眼が置かれていて、都市基盤や都市デザインにはあまり目を向けていない印象がありますよね。実は、關が大阪に来る直前に大阪市会では大規模な市政改革運動があり「大阪市民会」というものが結成されていて、それが大阪維新の会の動きにとてもよく似ていますが、その後挫折してしまいます。

201409

特集 大阪、その歴史と都市構想 ──法善寺横丁、ヴォーリズから《あべのハルカス》まで


近代建築と文化から読み解く都市のコード
(ポスト)モダン大阪の「路地」と「横丁」
大阪の近現代建築と商業空間──「近代建築」と「現代建築」の対立を超えて
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