近代建築と文化から読み解く都市のコード

中川理(建築史家、京都工芸繊維大学教授)+山盛英司(朝日新聞大阪本社生活文化部長)

コードなきコード

山盛──橋下市政は、納税者の意思を最大限尊重しようという姿勢だと思います。その場合、文化の中身が形式的にしか議論されないまま、ポピュリズムに流れる危うさがあると思います。われわれは政治と文化の距離感に戸惑ってしまうわけですね。たとえば文楽は、国が保存すべき文化なのか、市が振興すべき文化なのかといった極端な選択肢しかなくなってしまいかねません。もちろん、歌舞伎のように、その時代、時代にさまざまなかたちで適応したように、これからも対応していくべきだとも思います。

中川──それがポピュリズムにならないためには、大阪の文化とは何物かということを客観的に調べて分析することが必要になるわけです。たとえば、東京だと建築史家の陣内秀信さんの東京を読み解く調査活動などが大きな意味を持っているのだけど、大阪ではなかなかそうした調査研究が表に出てこないという現状がありますよね。橋爪紳也さんの研究はあるのだけど、彼は行政の中枢に入ってしまっている。もう少し客観的な立場からの評価や発言がほしいところです。

大谷晃一『大阪学』(新潮社、1996)
山盛──大阪府立大特別教授の橋爪紳也さんは「なにわなんでも大阪検定」など、大阪らしさの検証はずっと続けられていますが、アカデミズムだけでなく、大阪市の文化振興会議の委員など行政の仕事も多く関わっていて、行政側のプレヤーにもなっていて立ち位置をよく見る必要がありますね。
ひとつ前の世代では、大谷晃一さんの著書『大阪学』シリーズもあります。大谷さんは朝日新聞の記者から大学へ移られた方で、学問的な位置づけをジャーナリストの視点で行なったのだと思います。『大阪学』は楽しんでやっているようなところがあって、それゆえそれが大阪の見方として定着したかというと必ずしもそうではないように思う。関西には旧来のアカデミズムではすくいきれない風俗文化を取り上げようという「現代風俗研究会(現風研)」の活動も以前からあるのですが、もともとフランス文学者の桑原武夫さんを中心に京都で発足した組織なので、そこでは大阪が主体になることは少ないのかもしれません。

中川──たとえば大阪の都市や建築を考える際には、住友財閥、淀屋、鴻池などは欠かせない存在です。文化財調査や経済史などでは研究は進んでいますが、彼らが都市や建築の中で果たした役割やその意味のレベルまで立ち入った分析は少ない。
鈴木博之さんの最後の著作になってしまった『庭師小川治兵衛とその時代』は、戦前に成立した日本の財閥・貴族階級が、どのような文化が築いたかを、京都岡崎の邸宅街を中心に丹念に追ったものですが、大阪でもこうした視点からの研究がほしいですね。

山盛──東京は帝都・首都ですからさまざまな研究が行なわれ、多くの「東京論」が生まれましたが、それは同時に帝都・首都の特殊性でもあって、ほかの圧倒的多くの地域にとってのモデルにはなりにくい側面がある。帝都・首都モデルとは違う、新しい言説をつくっていかなければいけないでしょうね。

中川──帝都モデルではないとすると、帝都ではない地方行政の実態と、実際に街を作る主体でもあった資本家たちの動向を知ることが重要となるはずなんです。

山盛──一方で、時代を逆行して、近代的な文化に潮流を求めると、いまの大阪は本来の「大阪」ではないといった、「純粋化」も起こりがちで、そのあたりがなかなか難しい。ですから、それぞれの都市で共有できるコードがいくつかあればいいですよね。大阪で言えば、豊臣秀吉だけでなく、旧財閥系、地理的な条件やそれらから生じる大阪商人のコードなどを用いて《グランフロント大阪》や《あべのハルカス》をどう位置づけることができるかといったことの考察ができるとよいですね。そのほかにも、橋や私鉄沿線開発などといったコードが、なにかを創造するときに浮上してくるというのも面白い。

中川──大阪の街は、空間的にも時間的にも多様な要素が重層しているのが特徴です。ですので、いろいろな場所からいろいろなコードを引き出せるわけで、それがおもしろいと思うのです。

山盛──そうですよね。そのときに注意したいのは多文化主義の罠のようなもので、多文化を認めるのはもちろんよいことだけれど、それらを一緒の平面上に並べることは言うほど簡単ではないということです。それらは均質な空間に並んでいるわけでないので、一種のフィクションになりかねないですから。

中川──私のイメージとしては、多様な文化が何らかの関係性を持って成立しているという状況が作られればよいのではないかと思います。さっきから出ていた、個々に完結しているけど、それらがずるずるつながっているという様態。そうしたあり方こそが、大阪の本質なのだと思うのです。そして、それは大阪だけでなくこれからの都市が目指すあり方だとも思います。


[2014年8月16日、大阪中之島にて]


中川理(なかがわ・おさむ)
1955年生まれ。建築史家。京都工芸繊維大学教授。著書=『偽装するニッポン 公共施設のディズニーランダゼイション』(彰国社、1996)、『近代建築史』(石田潤一郎共編、昭和堂、1998)、『京都モダン建築の発見』(淡交社、2002)など。

山盛英司(やまもり・えいじ)
1963年生まれ。朝日新聞大阪本社生活文化長。著書=『奇想遺産──世界のふしぎ建築物語』(鈴木博之、藤森照信、隈研吾、松葉一清と共著、新潮社、2007)。


201409

特集 大阪、その歴史と都市構想 ──法善寺横丁、ヴォーリズから《あべのハルカス》まで


近代建築と文化から読み解く都市のコード
(ポスト)モダン大阪の「路地」と「横丁」
大阪の近現代建築と商業空間──「近代建築」と「現代建築」の対立を超えて
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