近代建築と文化から読み解く都市のコード

中川理(建築史家、京都工芸繊維大学教授)+山盛英司(朝日新聞大阪本社生活文化部長)

グレート・大阪

橋爪節也『大大阪イメージ
──増殖するマンモス/モダン都市の幻像』
(創元社、2007)
山盛──美術史家で大阪大学教授の橋爪節也さんが『大大阪イメージ──増殖するマンモス/モダン都市の幻像』に書いているところによると、この時期盛んに言われていた「大東京」、「大名古屋」といった「大◯◯」の原形は欧米の、例えば「大ロンドン」(グレーター・ロンドン)などにあるそうですが、都市計画では本来面的な広がりを示す比較級の「Greater」が、大阪ではいつの間にか「Great」=「偉大な」という質的なものへと呼び方が変わって、「大きな大阪」から「偉大な大阪」へと変容していったそうです(笑)。

中川──たしかに、この頃の新聞を見ていると「グレート」という言葉をよく目にします。都市を大きくする、ということが共通の価値として認識してされていたわけです。ただし注目したいのは、そうしたはっきりとした政策目標がある中で、なぜ大阪だけが10年以上、助役の時代も入れると20年近くも關という一人の市長にその具体的な舵取りを任せることになったのか。そこには、大阪の特徴的な政治的基盤があったわけですよね。それは近代に台頭してきた産業資本家を中心にした勢力であったわけです。關は東京人で、大阪へ来た当初は大阪の体質を批判していましたが、その批判も含めて大阪の商人・資本家たちが受け入れるようになる。關が面白いことを言っていて、経済人には金儲けのことを考えてばかりの〈資本家〉と、公共的精神を持った〈企業家〉の2種類があるというのです。これは現在の言葉の定義とは違うでしょうし、あくまでも關の言葉なのですが、彼が上手いのは、そこでどちらか一方──たとえば〈企業家〉だけが必要というのではなく、両方が必要だと言ったのです。確かに、大阪にはその2種類が揃っていたということでしょう。そこが大阪のすごいところですね。

山盛──ええ。たとえば、鉄道会社の創業者たちや住友をはじめとする旧財閥の人間ですよね。

中川──しっかりとした文化的素養を持つ人たちです。小林一三(1873〜1957、阪急東宝グループの創業者)などは数々のビジネスモデルを創出しながら、同時にそれによって確実に新しい文化を根付かせていて、文化的戦略の才能も持ち合わせていとも言えるのです。

山盛──小林一三の宝塚開発とか、近鉄による生駒トンネルや遊園地開発といったことは、大阪の都市開発をめぐる典型的な語られ方をつくっていていますよね。さらに歴史を遡っていくと橋の建造へとつながっていきます。「浪華八百八橋」などと言われますが、大阪の橋はほとんどすべて、豪商の篤志家が造ったものだという自慢話です。

中川──そうした意味で、最も印象深いのが、《中之島公会堂》の建設でしょう。それは株式仲買人の岩本栄之助(1877~1916)の寄付金によって建設されたのです。株で儲けたお金を《中之島公会堂》建設のためにつぎ込んだのですが、その後、第一次世界大戦景気で相場を読み誤って苦境に立ち、竣工の前にピストル自殺をしてしまう。大阪の人にとって《中之島公会堂》はそうしたストーリーとともにあるのです。隣にある《大阪府立中之島図書館》(1904)も住友の寄付によって建造されていますよね。このように大阪では民間が出資して公共施設をつくってきたという歴史があるわけです。

《中之島公会堂》©Mc681


山盛──戦後では、経営破綻した安宅産業の貴重な東洋陶磁コレクションを、住友グループが大阪市に寄贈したことを機に《大阪市立東洋陶磁美術館》(1982)が、建設されました。民間が蓄積した文化を市が美術館を建てて保存するという、大阪市が誇るべき事例でもあります。

中川──そうした民間による公共への出資というのは、戦後には必ずしも受け継がれたと言えない部分があります。資本家の体質が変わらざるをえなくなりましたからね。

山盛──大阪を東京と比較する以前に、大阪市の面積は20の政令指定都市のうち17位とまず狭さが際立っています。また人口も他都市が飛躍的に増加しているのに、大阪は211.4万人だった「大大阪時代」から現在の268.3万人と、そう大きく変わっていないということも際立っています。最近次々に高層ビルが建ってきている一方で、都市の力はそう変わっていないのかもしれません。

中川──最近のコンパクトシティの流れからいくとむしろ、大阪は適しているのかもしれませんよ(笑)。しかし「グレート」という言葉が価値を持ちづらくなったにもかかわらず、戦前からの都市基盤の建設の勢いを維持し続けてきたというのはすごいですよね。

山盛──近年のうめきたの再開発も、JR大阪三越伊勢丹の事業縮小という問題はあるにしろ、活気を呈していることは間違いありません。

中川──その近代的開発事業の原点となったのが、關が主導した一連の開発事業だったわけです。それは実に多面的な事業でありました。たとえば大阪城の再建のような街のシンボルを作り出すような事業を行なったりもしている。しかし一方で、城下町の都市構造は大胆に改変しています。大阪城が東側にあるので、もともとの街路の構造は東西の通りが中心でした。東西の通りを「◯◯通り」、南北の通りを「◯◯筋」ということからもそれはあきらかです。ところが現在は、御堂筋、四つ橋筋のように南北の通りの方が中心になっていますよね。その嚆矢は明治後期に堺筋に市電を走らせたことですが、關がやった御堂筋の整備により、東西から南北へというその街路の構成の改変は決定的になったのです。

201409

特集 大阪、その歴史と都市構想 ──法善寺横丁、ヴォーリズから《あべのハルカス》まで


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