花畑団地27号棟プロジェクト──部分から風景へ、建築を飛び越えてみること

藤田雄介(建築家、Camp Design inc.)

木製サッシと標準設計仕様の壁

《花畑団地27号棟プロジェクト》(以下《花畑(はなはた)》)は、東京都足立区にある花畑団地のボックス型住棟(1966年竣工)の改修実施案を募った「UR団地再生デザインコンペ」★1で、最優秀賞を受賞したことから始まった。コンペでの提案をもとに、基本設計が始まったのはそれから数週間後の2012年6月である。プロジェクトの体制は、都市再生機構(以下UR)が全体を統括し、私はデザイン監修者として関わり、さらに実施設計事務所を加えた3社で進められた。

《花畑団地27号棟プロジェクト》コンペ時のパース

《花畑団地27号棟プロジェクト》コンペ時のパース

《花畑団地27号棟プロジェクト》コンペ時のパース

プロジェクトを進めるうえで最も課題となったのは、今回の重要な要素である木製サッシだ。アルミサッシと比べると、コストとメンテナンスに費用がかかることが問題となったが、高断熱性によるエネルギー効率の高さや居住環境の向上を考えると、けっして無駄ではないはずである。またURで使用できる建材の品質基準は厳しく、サッシはJIS規格相当であることが求められ、耐風圧・耐水性・高断熱性などの基準をクリアした性能試験結果が出ていることが必須だった。さまざまな木製サッシメーカーを調べ行き着いたのが、新潟県加茂市の地場の建具屋が組織して開発した木製サッシである。これは框の見込みが36mm、見付けが細い所で55mmと、木製建具と遜色ない寸法になっている。コンペ時より思い描いていた、端正な佇まいの木製サッシを実現できたことの意義は大きかった。

《花畑団地27号棟プロジェクト》工事中写真

《花畑団地27号棟プロジェクト》工事中写真 ©kentahasegawa

また設計段階で大きな制約となったのが、標準設計仕様の存在である。URでは、大量の賃貸住宅を一定の品質で供給するために標準設計仕様が定められており、これを遵守する必要がある。この内容は「機構標準詳細設計図集」として販売もされている。そこには、下地や枠の寸法から材料の取り合いなど事細かに記されており、設計施工上の指針となっている。《花畑》では、壁仕上げをクロス張りから塗装に変更したり、弊社がR不動産toolboxから出している「木のつまみ」を収納扉に使用するなど、いくつかの仕様変更は許されたが、基本的には標準設計仕様に則り、それらを編集・整理していく作業は、実はかなりの労力を費やした。しかし《花畑》では、ほかの団地再生における汎用可能性をつくることが重要であると考え、むしろ積極的にその扱い方を検討していった。このように通常手掛けている仕事と比べると、特殊な条件や制約が多くそのプロセスは困難を極めたが、UR担当者の熱意ある仕事ぶりにも助けられ、2014年2月末に無事竣工を迎えることができた。

《花畑団地27号棟プロジェクト》©kentahasegawa

《花畑団地27号棟プロジェクト》©kentahasegawa

《花畑団地27号棟プロジェクト》©kentahasegawa

建具が再編する風景

《花畑》の射程は、この一棟を再生させることに留まらず、URが日本全国に保有している約77万戸の団地風景を改変していくことに向けられている。団地の圧倒的な数と、供給量の多かった時期★2に建てられたものが同時期に老朽化していく状況に対応するには、特殊解ではなく汎用解となる設計手法を提示する必要があると考えた。そのための手立てとして、《花畑》では建具を設計の主対象としている。具体的には、まず既存のスチールサッシを木製サッシに取り替え、さらにスチールサッシを撤去したままの部屋を設けた。ここは半外部の部屋=ルームテラスとなり、テラスでありながら部屋のような、部屋でありながら穿たれた開口をもつ半外部という両義的な場所となっている。ルームテラスは各住戸異なる位置に設定され、それによって異なる機能の部屋が積層することになり、団地の立面に多様性を与えている。住戸は全4タイプあるが、階や方角の違いによってそれ以上のヴァリエーションを感じる。特にルームテラスは、周辺環境に呼応して各々が異なる場所性を獲得している。既存の部屋から引いてできた半屋外空間だからこそ得られた、外部環境との独特の距離感がそこには存在している。

《花畑団地27号棟プロジェクト》©kentahasegawa

《花畑団地27号棟プロジェクト》©kentahasegawa

木製サッシを用いた理由は、これからの団地再生において共有されるマテリアルとなり、鈍色の窓から木の表情を持つ窓になることで団地風景に人間性を与えることを目指しているからである。前述したように、今回用いた木製サッシはさまざまな基準をクリアした高性能な製品でありながらも、工芸的な佇まいをもつサッシである。これをアルミサッシの代わりに入れることで、団地という工業的な存在を人の手に引き寄せ、人間のための団地として現在的な価値を持つことができるのではないだろうか。団地の大量供給とともに普及したアルミサッシに代わり、高断熱性によりエネルギー効率を高める木製サッシを団地再生に用いることで、今後より普及し産業構造に一石を投じることができるのではないだろうかと考えている。

《花畑団地27号棟プロジェクト》©kentahasegawa

《花畑団地27号棟プロジェクト》©kentahasegawa

また木製サッシとルームテラスは、団地計画学を積極的に評価する存在になっている。南面採光・冬至日照4時間による住棟間隔は十分な日当りを室内にもたらすが、そこに木製サッシとペアガラスが嵌められることで、相乗効果的にエネルギー効率のよい室内が生まれている。ルームテラスは、既存間取り3Kのうちの1室を置き換えている。既存インテリアの老朽化や賃貸住宅としての品質確保のため、マテリアルレベルで既存を受け継ぐことはできなかったが、部屋の位置付けを変えながらスケールを受け継ぐことで、ささやかながら歴史性を継承しようと考えた。
《花畑》で目指しているのは、建具というひとつの構成要素の、扱い方やコンテクストとの関係性をスライドさせることで現在的な価値を獲得すること。そしてそれが敷地を越えて派生し、関係性の綾が織り込まれた風景へと再編することである。ただひとつの要素の操作にすぎないが、その広がりは既存環境の最適化に留まらず、産業構造や団地計画学の意味付けを変える可能性を持っている。

《花畑団地27号棟プロジェクト》©kentahasegawa

《花畑団地27号棟プロジェクト》©kentahasegawa

団地というランドスケープ

「団地設計とは環境をつくることである」という言葉が、公団の資料に残されているように★3、団地の主な設計対象は外部空間にあった。標準設計により建物のスケールが決められた状況下で、配置計画によって均質性を軽減し、豊かな生活の場をつくりだせるかが試行錯誤されてきた。そうして生まれた団地の外部空間は、約半世紀を経て樹木が大きく育ち、光と風の抜ける緑豊かなランドスケープとなった。団地の現在的な価値は、このランドスケープとしての素晴らしさにあるのではないだろうか。団地という形式は、社会や経済の状況によって大きく変化し、さまざまなかたちで受容されてきた。戦後の復興住宅、モダンリビングの象徴、nLDKと51C、タウンハウス等。筆者が学生だった2000年代初頭は、《東雲キャナルコート》の完成とともにSOHO化や核家族の解体にまつわる議論が盛んに行なわれた時期だった。そして2010年代の現在、津端修一氏★4はじめ公団黎明期の設計者たちから始まった、外部空間への試みが樹木の成熟とともに見直され、団地を豊かなランドスケープとして再評価する時代が訪れている。ところで、外部空間を設計対象として、決められたスケールの建築群の配置計画により素晴らしい外部空間をつくり出した団地設計と、建具を主対象としてそれ以外を標準設計仕様に基づいて計画した《花畑》は、建築と全体計画という領域の違いはあるが、制約の網目を最小の手立てで射抜き、空間性を獲得している点で共通している。そして、そこには設計対象をどこに設定するかという問題意識があり、根底には団地設計の普遍性が横たわっているのではないだろうか。

《花畑団地27号棟プロジェクト》©kentahasegawa

建築を飛び越えてみる

《花畑》での方法論は、これまでに手掛けたリノベーションの仕事で積み上げてきたことの延長にある。私は2010年よりCamp Design inc.という設計事務所を主宰している。始めてのプロジェクトは、《翠ヶ丘の住宅》という神戸にあるマンションの1室をリノベーションしたものだ。3LDK、約80㎡の部屋を、子供たちが独立し今後60代の夫婦で暮らすために改修を行なうことになった。2人では幾分広すぎることと、セカンドハウス的に使うことから、玄関を取り込んだ1室とダイニングキッチンを半屋外的な部屋=ルームテラスとした(ただし、このプロジェクトではマンションの規定によりサッシは撤去していない)。床材の切り替えや木製ガラス引き戸によって仕切り、外的要素を室内に引き込んだ部屋としている。2011年に手掛けた《日吉の住宅》では、60㎡程のマンションの1室のリノベーションである。部屋を分断していた壁と扉を、9枚連続の木製ガラス引き戸に置き換えることで、音や匂いなどを仕切りながら広がりを確保し、引戸の開閉によって部屋同士の関係がインタラクティヴに変容している。マンションの1室の仕切り方として、木製ガラス引戸を用いることは汎用性があると考え、この時開発した建具をR不動産toolbox★5を通じて販売している。流通を通すことで、ひとつのプロジェクトの分子が敷地を越えて派生させていくことが可能になるのではないかと考えている。設計をするうえでの発想は、個人によってもたらされ消費されるのではなく、多くの人々に共有されていくべきだろう。

《翠ヶ丘の住宅》©HATTA

《日吉の住宅》©HATTA

《R不動産toolbox》

このような試行の連続性のなかに《花畑》はある。団地設計に関わらず、あらゆる設計において重要なのは、ありふれた要素でも、コンテクストとの関係性次第で新しいものに変容を遂げることだ。木製建具という慣習的な要素を、マンションの1室のリノベーションという現在的なコンテクストにあてたとき、内外を見立てる透明な壁や、見えないものを仕切るインタラクティヴな境界となる。そして団地再生というコンテクストでは、団地風景を再編するためのマテリアルとして共有され、その配置によって生まれたルームテラスが、プランと外観に多様性を与える存在になる。建具という部分から、既存環境を最適化するだけでなく、流通や団地という形式によって派生し、風景を再編する広がりが生まれるのだ。

設計対象として部分と風景があり、その間に横たわっている建築を飛び越えてみる。つくろうとしているのは建築の全体性ではなく、多様な場所の連続であり風景の全体性である。そしてこのとき、部分と風景の間にあらわれる関係性の総体を建築と名付けたい。また、建築を飛び越えてみることで、逆に建築家が容易に踏み込めなかった領域への介入が可能になるのではないだろうか。これからわれわれが向き合わなければならない設計領域は、既存躯体や地域住民や制度など、つねに他者の存在が強い領域となっていく。それらはコンテクストにもなりえるし、大きな制約にもなりえるだろう。また個人住宅であっても、その敷地はスケールダウンして、建物自体が敷地となる状況(=リノベーション)がより増えていくだろう。そのとき私たちは敷地をひとつに限定せず、自ら遍在する場所を見出していくべきだろう。
制約でがんじがらめの状況や、縮小し続ける敷地から解放され、より自由により大きな関係性の網を風景に向けて広げよう。そのために、まず建築を飛び越えてみるのだ。



★1──「UR団地再生デザインコンペ」http://www.japan-architect.co.jp/ur/result/result2st.html
★2──団地建設戸数の最盛期は、1969〜71年でその数は毎年約75,000〜83,000戸に上っていた。花畑団地が建設された1964年以降から年間3万戸程度だった建設戸数が年間5万戸程に増え、大量供給の時期に重なっている。
★3──木下庸子・植田実 編著『いえ 団地 まち』(住まいの図書館出版局。 2014)511頁
★4──津端修一氏は、東京大学丹下研を出た後、アントニオ・レーモンドと坂倉準三の事務所に勤務し、1955年住宅公団の発足と主に入社。《阿佐ヶ谷団地》や《高根台団地》などの全体計画を手掛ける。敷地の地形や周辺環境のコンテクストを重視した「風土派」の団地設計者として、公団黎明期を支えた。現在は自ら関わった高蔵寺ニュータウン内で、半農生活の傍ら自由時間評論家として活動中。
★5──「R不動産toolbox」木製ガラス引き戸http://www.r-toolbox.jp/service/木製ガラス引き戸/


藤田雄介(ふじた・ゆうすけ)
1981年生まれ。2007年東京都市大学(旧:武蔵工業大学)大学院工学研究科修了。2010年よりCamp Design inc.主宰。2013年よりICSカレッジオブアーツ非常勤講師。建築作品=《珈琲店海豚屋》(2010)、《翠ケ丘の住宅》(2010)、《日吉の住宅》ほか。


201408

特集 風景としての団地


すまいづくりからまちづくりへ──団地の今昔
戦後日本における集合住宅の風景
団地の地理学
「ままならなさ」へのまなざし
花畑団地27号棟プロジェクト──部分から風景へ、建築を飛び越えてみること
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