「ままならなさ」へのまなざし

大山顕(フォトグラファー、ライター)
ぼくは工場、団地、ジャンクション、高架下建築などの写真を発表してきた。興味の趣くまま撮っていったら結果的にこれらのラインナップになっただけだが、あらためてこれらに共通するものは何なのかを考えたい。どう説明できるのか悩んでいたところで出会ったのが大阪環状線の高架下建築だ。これを見て「ままならなさ」というキーワードが浮かんだ。

兵庫県神戸市三宮駅高架下(クリックで拡大)

左は2階建てだが、右は3階建てだ(内部が実際どうなっているかはわからないが、少なくとも外見はそう見える)

兵庫県阪神線御影駅高架下(クリックで拡大)
東京都総武本線浅草橋駅高架下(クリックで拡大)
東京都秋葉原〜神田高架下(クリックで拡大)
大阪府JR阪和線美章園駅高架下(クリックで拡大)

収まっている高架が2階建てにしては少し高く3階建てにしてはちょっと低いという、なんとも中途半端なものになっている。高架下建築の高さを決めているのは、通常の建築の論理ではなく鉄道の論理だからこのようなことが起こる。デザインとはまったく関係ない別の論理が形を決めてしまう。ぼくにとってこれは衝撃的だった。都市でなにかをつくるとはこういうことなのではないか。この制約を「ままならなさ」と呼ぼう。



工場(クリックで拡大)



ジャンクション(クリックで拡大)

工場の形を決めているのは、熱や圧力や振動というままならなさだ。ジャンクションが複雑に立体交差するのも、土地収用の問題と交通の論理が決めていて意匠ではない。ぼくが興味を持つドボクはみんな「ままならなさ」と格闘していたのだ。そして団地の場合、棟のデザインを支配している「ままならなさ」は大量生産の論理で、そのレイアウトは地形など土地の論理に従う。

左=都営平井三丁目アパート、都営辰巳第一アパート(クリックで拡大)
左から公社新田住宅、公団光が丘団地(クリックで拡大)
公団豊島五団地四号棟、都営平井六丁目アパート(クリックで拡大)
東砂二丁目アパート、宇喜田第二住宅(クリックで拡大)
横川五丁目アパート合成
以上、すべて撮影=大山顕

航空写真で団地を見ると、周囲の街並みおよび敷地の形と一見無関係なように棟が建っている例がしばしばある。これは地形に加え太陽を読んだ結果だ。団地には「冬至4時間日照」という原則があった。文字通り、一番日の短い冬至の日でも、あらゆる戸に4時間は日が当たるように、というガイドラインだ。これによって棟間隔が決められ、地形の許す限りなるべく南を向く。いっしょうけんめい南を向こうとする団地は、まるでひまわりのようだと思う。

規模が大きいがゆえに、ままならなさをよく読み、引き受け、折り合わなくてはならないという点で、ぼくにとって団地は工場や高架下建築と仲間なのだ。団地に「インフラ性」を感じてしまう理由はここにあったのだな、と思った。


大山顕(おおやま・けん)
1972年生まれ。フォトグラファー、ライター。住宅都市整理公団総裁。著書=『団地の見究』(東京書籍、2008)『ジャンクション』(メディアファクトリー、2007)、『高架下建築』(洋泉社、2009)など。 http://www.ohyamaken.com/


201408

特集 風景としての団地


すまいづくりからまちづくりへ──団地の今昔
戦後日本における集合住宅の風景
団地の地理学
「ままならなさ」へのまなざし
花畑団地27号棟プロジェクト──部分から風景へ、建築を飛び越えてみること
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