takram Directors' Dialogue 03:田川欣哉 × 緒方壽人

ただいま「現代建築家コンセプト・シリーズ No.18|takram design engineering」編集中。2014年8月までのプリプレス連載企画「takram Directors' Dialogue」。
takramの4人のディレクターが語る「デザインエンジニアリングの思想と未来」。



連載「takram Director's Dialogue」第3回は、田川欣哉と緒方嘉人の対談を掲載します。
今回は、彼らの経験がtakramの思考の軸のひとつである「プロトタイピング」にどのように結びついているのか、そして情報の複雑化と多様化が進む社会のなかで、「プロトタイピング」がどのように活かされるか、対談しました。


LEADING EDGE DESIGNでの学び

緒方壽人──私と田川さんが知り合ったのは大学卒業後の偶然の出会いがきっかけなのですが、さかのぼると高校も大学の研究室も一緒でした。私は東京大学で山中俊治さんの授業を受けてデザインに興味を持ち、山中さんの主宰するLEADING EDGE DESIGNへ、まったく無知の状態で遊びに行きました。山中さんに「どうしたらデザイナーになれるのですか」とピュアなことを尋ねたりもしました。大学を卒業する頃には山中さんの事務所に行きたいと考えてはいたものの、まだまだ自分のスキルが足りないと感じ、IAMAS(現・情報科学芸術大学院大学)に進学しました。IAMASという場はtakramと少し似ていて、アートとサイエンスの融合を理念に掲げています。その後、LEADING EDGE DESIGNへの誘いを受けて、参加する運びとなりました。
工学部を卒業後、基礎的なデザイン教育を受けない状態でLEADING EDGE DESIGNに入社しましたから、インダストリアル・デザインの基本はすべてLEADING EDGE DESIGNで学んだといえます。

田川欣哉──インダストリアル・デザインができるようになるためには、スケッチから始まり、図面、3Dモデリング、モック製作、素材質感の指定、製造メーカーとの共同作業、などが必要となります。私もLEADING EDGE DESIGNでの経験のなかで本当にたくさんのことを学ばせてもらいました。

緒方──そうですね、一言で言えば「どうすればアイデアからモノを作りだせるか」というノウハウですね。

田川──私は山中さんが描くコンセプトやスケッチ・図面を引き継いで、ワーキングプロトタイプ(実作に近い試作)に仕上げていくという役割を担っていました。エンジニアリング要素も濃厚に含まれる仕事だったと思います。そこではトップレベルのデザイナーがどのようなクオリティの仕事をしているのか、どのレベルであればハイクオリティと言えるのかという部分についても、たたき込まれたように思います。結局、そのレベルをはっきり認識できない限り、自分でジャッジができせんから。見習いの頃はわかりませんでしたが、経験を重ねるにつれて、山中さんがどのレベルであれば納得するかという経験が蓄積され、そのレベル感が少しずつ体に染み込んでいったように思います。

Design Engineerの確立──スケッチとプロトタイピング

緒方──ユーザーやクライアントに届けるための最終形を作っていくことがデザイナーの職能だとすると、形により根源的な変化を与える可能性を広げるという意味で、デザインもエンジニアリングもできたほうがよいと思います。ただ、takramはデザインとエンジニアだけでなく、すべてに携わることを理想としていますが、今の段階では「Design Engineer」という言葉を使っている、ということですね。

田川──Design Engineerはプロトタイプを作るプロでもあります。プロトタイプのなかにはスケッチもあれば、ペーパープロトタイプ、ムービープロトタイプ、クールモック、ホットモックなど、さまざまな種類のものがあります。どれがよいということはなく、場面に応じて適材適所で使い分ける必要があります。

緒方──そうですね。たとえば、山中さんのスケッチの精細さは、3DCADで試行錯誤するのと同じようなレベルで、ある意味スケッチがプロトタイピングの役割を果たしていると思いますが、そこまで至るには長年の修行が必要です。しかし今日では、スケッチだけではなく、さまざまなツールを用いて効率よくプロトタイピングを繰り返すことも重要だと思います。
それは、サービスやプロダクトが非常に複雑で高度なものになり、新しい製品が出るスピードも速くなってきているからです。思いついたアイデアがそのまま世の中に出ていくことも実際に起きていて、マーケットを使って壮大なユーザテストを行なうようなことが増えています。そういう状況を見ていると、マーケットに出す前にきちんとプロトタイピングを行なうことで未然に防げる大きな失敗が、現在の市場には潜在的にたくさんあるように思います。

田川──「百聞は一見に如かず」という言葉がありますが、とにかくプロジェクトが複雑になり、全体を網羅的にイメージするのが難しくなると、百回見ることは一回体験することに勝てない、「百見は一体験に如かず」になります。そうしたことが、プロトタイプが必要とされている背景にあるのではないでしょうか。

緒方──今まで誰も体験したことがないことであればあるほど、プロトタイプが重要となります。なぜなら誰も体験したことがないものを作るときには、皆が勝手に過去の経験を照らし合わせて想像でものを言うので、必ず齟齬が生じるからです。齟齬が生じる相手が意思決定権のある人である場合、採用・不採用に直結してしまうことも懸念されます。しかし、その場に実際の体験ができるもの=プロトタイプがあれば齟齬は生じにくくなります。プロトタイプは少し未来の体験を共有するためのツールとして有効ですね。

産業・デザイン史からみたtakramの新規性

緒方──過去のデザイナーが必ずしもエンジニアリングがわからないというわけではなく、優れたデザイナーは設計技術や生産加工といったエンジニアリングの要素を熟知してデザインしていたように思います。しかし現代のプロダクトデザインは、ひとつのプロダクトが、ハードウェアだけではなくエレクトロニクスやソフトウェア、ネットワーク、サービスといったものをハイブリッドに包摂してできているので、付随するエンジニアリングすべてを取り込み続けていかないと、良いものが作れなくなってくると思っています。
勘案しなければいけないレンジが広くなっている分、同時にそのレンジを幅広くカバーする技術も必要になってきています。

田川──デザインとエンジニアリングという2つの領域にまたがる専門職を新しく定義した「Design Engineer」という発想は新鮮なものでしたが、takramはすでに「Design Engineer」の一歩先を考え始めていると思います。デザインとエンジニアリングに限らず、異なる分野を繋ぐことで領域が広がるような、複眼的視野を持った人たちが集まって仕事をしているところがtakramのユニークさに繋がっていくのではと考えています。

緒方──グラフィックデザイナーがグラフィックデザインで問題を解くことももちろん大事なことですが、しかし、自分が専門とする軸を持ちつつ、その他の解決方法をどれだけ多く知っているかがとても重要だと考えています。今後、たくさんの引き出しを持っている人がさまざまな分野からtakramに参加し、より多様になっていくことが理想的な将来像ですね。

田川──それは第2回でカズ(takramメンバー)に話したことに似ているかもしれません。たとえば建築を専門としている人が建築へのピュアな愛を持ちながら、その建築を愛している自分を一旦相対化することが重要だということです。自分の専門を絶対だと思う部分と、その絶対性を自分のなかでより広い枠組みで相対化する感覚の両立がtakramらしさのひとつでしょう。

プロトタイピングの大きな可能性

渡邉康太郎──ものづくりに携わるあらゆる組織や個人は、われわれに限らずとも、無数のプロトタイプを作るものです。プロトタイピングを創造の基本的な作法のひとつとしたとき、「takramならではのプロトタイピングの特徴」を挙げるとすれば、どんな点でしょうか。

田川──建築家は模型を作りますし、デザイナーはスケッチやモデルを作ります。そしてエンジニアは試作を行ないます。それらは全てプロトタイプと呼べるもので、クリエーションを行なううえで不可欠なものだと思います。takramのプロトタイピングは、細かく一つひとつ見ていくと、ほかのどこでもできない特別な内容というものはありません。ただ、そのクオリティ・バラエティ・スピードの3点は非常に優れていると思います。クオリティが高いということはあまり説明はいらないかもしれませんが、バラエティとスピードの2点はとても重要です。バラエティという面では、スケッチから簡易な試作やモックアップ、電子回路やソフトウェアの搭載されたホットモック、動画を用いるムービープロトタイプなど、さまざまなプロトタイプ制作の引き出しをtakramは数多く持っています。そして、経験豊富なDesign Engineerがプロトタイピングを行なうことで、プロトタイピングのスピードを高く保つことができます。プロトタイピングは反復的な試行錯誤のなかからアイデアを生み出し育てていく手法なので、繰り返すことができるかが、プロジェクトの質に直結します。エクスペリエンスが価値となる時代において、プロトタイプは強力です。コンセプトメイクから量産試作まで一貫したプロセスとしてプロトタイピングを行なうことは、とても現代的な方法だと思っています。

緒方──私もほとんど同意見です。やはりプロトタイピングにおいて重要なのは、いかにプロトタイプの体験のクオリティを実現したい製品の体験に近づけられるか、ということです。それはなかなか特殊なスキルで、量産可能なものや技術的に正しいものを作るスキルとも少し違い、体験の表現についての発想とノウハウをどれだけ持っているかがとても重要なのです。
これに対して、エンジニアは真面目に作ろうとしすぎるし、デザイナーはビジュアル的には本物に近いものを作れますが、機能するプロトタイプの作り方はわからないといったことがしばしば起こります。われわれはそれらの中間でしょうか。時には手品のように種を明かせばとても単純なことでも、それを体験した人が完成品を体験したように感じられればよいのです。それをさまざまなレベルで実現できるということがわれわれの強みだと考えます。

渡邉──田川さんと緒方さんは、教育・職歴それぞれのバックグラウンドが似ているように思います。一方でお互いが相手を見たときに感じる、自分との違いについて教えていただけますか。

田川──LEADING EDGE DESIGNで濃厚に受けた影響、山中さんから仕込まれた基礎体力の部分は同じですが、スタイルやアプローチという点では個々の味がかなりあると思います。

渡邉──スタイルやアプローチには、どういった違いがありますか。

緒方──良い悪いはもちろん別として、やはり、田川さんは計画を立ててそれを実行していくタイプだと思います。しかし私は、より良い方法を最後の最後まで模索するようなやり方をとっていることが多いと思います。もちろんそれではリスクがあるので、保険案を確保しつつ、さらに良い方法や簡単な方法を粘って考え、最後のジャンプへと辿り着こうとします。これまでの経験では、結果的に保険案に落とし込むことはあまりありませんでした。周りの人からは、最後に突然良いものができたように見えているかもしれません。

田川──緒方君はtakramに参加する際に、「震災もあったし、ひとりでやっている場合じゃないと思う。皆の力を結集して取り組むほうがよい」という内容のことを言っていましたね。それについて少し聞きたいです。参加して1年が経ち、どういうことを考えたかということも含めて教えてください。

緒方──私は7年間LEADING EDGE DESIGNに在籍したあと、一度独立してみようと思い、ひとりで3年間くらい「ON THE FLY」という会社を運営していました。
2012年にtakramに入ろうと決めた理由のひとつには、東日本大震災の影響があります。震災が起こったのは、会社を立ち上げてすぐの頃でした。それまではひとりで気楽にやっていけばよいという心持ちでいましたが、震災を経て「自分が世の中に役に立てる仕事をしたい」という思いが強くなりました。そして最大限に自分を活かすためにひとりよりも仲間で集まって力を合わせたい、と田川さんに相談しました。これがtakramに参加するに至る直接的なきっかけでした。
単に食べていくだけであれば、ひとりのほうが気楽ですが、気楽にやれるというのは社会全体が豊かだからこそ許されることでもあります。震災を受けて、日本はこれからどうなってしまうのだろうという危機感を抱くなかで、自分の力がもし役に立つとするならば、それを最大限活かせる活動をしたいと考えるに至りました。ひとりでカバーできる仕事の規模や、世の中や社会に対して与えられる影響は限られていると感じたのです。 この1年で関わったプロジェクトでは、ひとりでは絶対に実現できなかった規模のものが多くあります。そうした経緯を思い起こし、これからも社会に対して何らかのよい影響を与えられるような仕事をしていけたらと思っています。



2013年12月6日、takram表参道オフィスにて


田川 欣哉(たがわ・きんや)
takram design engineering ディレクター/デサインエンジニア。1999年東京大学工学部卒業。01年英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート修士課程修了。デザインエンジニアリングという新しい手法で、ソフトウェアからハードウェアまで幅広い製品のデザインと設計を手掛ける。07年Microsoft Innovation Award 最優秀賞、独red dot award: product design 2009など受賞多数。

緒方 壽人(おがた・ひさと)
takram design engineering ディレクター/デサインエンジニア。2000年東京大学工学部卒業。2002年IAMAS卒業後、2003年よりデザインエンジニアとして、リーディング・エッジ・デザインに参加。2003年文化庁メディア芸術祭審査員推薦作品賞受賞。「NTT DoCoMo OnQ」にて、2004年グッドデザイン賞、2005年iFデザイン賞受賞。2008年ミニマム・インターフェイス展(YCAM)にてナビゲーションデザインを担当。2009年5月29日〜8月30日開催の「骨」展(21_21 DESIGN SIGHTにて)にてナビゲーションシステムを担当。同展覧会にてインタラクティブ映像作品「another shadow」も東京大学五十嵐健夫氏と共同出展。

201406

連載 現代建築家コンセプト・シリーズ No.18

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