特集にあたって

門脇耕三(明治大学専任講師、建築構法、建築設計)
近代社会は、機械の力を借りてはじめて実現に至ったからだろうか、そのデザインは、あたかも機械を模倣している。

都市は住居地域、商業地域、工業地域などにゾーニングされ、特定の役割を担わされたそれぞれの地域は、鉄道網や道路網で連結されることによってはじめて都市として機能する。したがって都市での就労は、住居地区と業務地区を往復する生活をその前提に置くこととなるわけであるが、これは同時に、仕事に専念する父親と家事と子育てに専念する母親のように、家族内での性別に応じた分業も発達させていくことになる。経済が要請するこの家族内性別役割分業は、家族の構成員がともに過ごす時間を大幅に減少させるが、しかしこうした状況に置かれた家族の接着剤として、近代的な家族愛という概念もまた要請されることとなり、さらに家族愛は、婚姻制や財産制などによって制度的にも補強されていく。

また、こうした都市をより俯瞰的に眺めてみると、それを成立させるため、都市の外部には農村や漁村といった食料生産地、あるいは発電所などのエネルギー・プラントが配置され、国土はこれらを連結する流通網やエネルギー網で一様に覆われていることに気づくだろう。つまり近代社会では、人も空間も全体の部分として、固定された単一の役割を担うのであり、その姿はさながら機械の部品のようである。
機械のように効率的にデザインされた近代社会は、だから生産性を高め、急速に拡大をはじめるが、それもいつしか縮小に転じる時を迎えることとなる。そのとき、この精密な機械に似た社会は機能不全を起こす。部品が縮み、部品の間に隙間ができてしまった機械は、むなしく空転するしかないからだ。

現代の日本で台頭しつつある「シェア」という考え方は、端的にいえばこの隙間を埋める補填材のように機能するものである。すなわち、機械の部品のように特定の役割を担わされたこの社会を構成する人や物や空間に、複数の役割を付与することによって、社会の空転を阻止しようとする考え方である。
ただし「複数の役割を付与」という表現は、おそらく正確ではない。人や物や空間の新しい役割は、都市や国家の中枢から与えられるものではなく、むしろ「シェア」という手段を用いることによって、その主体が自発的に獲得しつつあるようにみえるからだ。たとえば人口減少は、家族の姿を多様なものへと変貌させたが、しかし長らく核家族を標準的な家族としてきた日本の社会システムは、この変化にいまだ対応しきれておらず、その社会システムの不完全さを補うため、単身者や単親世帯の一種のセルフエイドとして生まれた暮らし方が、シェアハウスなどにみられる「住まいのシェア」であると理解することができる。そのようにして生まれた「住まいのシェア」は、現在のところ、その器を中古の戸建て住宅に求めることが一般的であるが、これは空き家の増加によってポーラスになりつつある都市が自律的に働かせるに至った、一種の防衛的反射と捉えることも可能だろう。しかしいずれにせよ、新たに発見されたシェアハウスという空間の利用法が、法制度によって規定される建物の用途区分との齟齬を来していることからもわかるように、「シェア」は社会のバランスを回復させるため、ボトムアップに生じつつある現象なのである。

だから「シェア」と呼びうる動きは、この社会のあちこちに見出すことができる。互いに独立した企業が仕事の場所を共有するコワーキングスペースと呼ばれる新しいオフィスのあり方も、働き方の多様化に応じて生まれた「シェア」のひとつのスタイルであるし、あるいはインターネットを介して活発に行なわれている二次創作などの原作改変形の創作や、さまざまな知識のオープンソース化の動きも、クリエイティヴィティや知性そのものの「シェア」であると捉えることができる。

この特集で第一に試みるのは、このように現代社会で散発的に起こりつつある「シェア」という動きを、社会史的・思想史的な流れのなかに位置づけることである。おそらく「シェア」の台頭は、社会が遂げようとしている大きな構造転換の一断面として捉えることが可能であるが、社会学者の宮台真司氏へのインタヴューは、「シェア」志向を生むに至るまでのこの社会の変遷を俯瞰的に明らかにするばかりではなく、そこに起きている変化を構造的に捕捉することによって、次なる社会像とそこに生きる人間像を予兆させ、さらにはそこで愛が果たしうる新しい役割にも迫るものとなるだろう。

また、すでにみたとおり、近代社会における空間と家族のあり方は、経済や制度を媒介しながら密接に結びついている。したがって、空間や物の所有や利用のしかたに大きな変化をもたらそうとしている「シェア」という現象は、家族という人間関係の再考をも促そうとしている。家族社会学者の久保田裕之氏による論考は、家族や恋人以外の「他人との同居」という第三の居住のかたちであるシェアハウスを皮切りに、近代における家族の意味を問い直し、現代日本的な人間関係と、それを規定している空間や物の所有・利用のあり方を示すとともに、その背後に潜む経済的・制度的枠組みを露見させるものとなるだろう。

「シェア」は空間や物の新しい占有のしかたを提示する概念であるから、この変化に即して、現代の建築家の活動を位置づけることも可能だろう。たとえば、現実にそぐわなくなった既存の空間を積極的に読み替え、その新しい意味を現在の社会的文脈のもとに再定位しようとする連勇太郎氏による試みや、空間ではなくマテリアルのフローのなかに建築という概念を発見しようとする403architecture[dajiba]による試みなどは、いずれも「シェア」という概念と地続きであるとは捉えられまいか。彼らの試みは、「シェア」という言葉が想起させがちなコミュニティやアソシエーションの変革を目指すものでは必ずしもないが、一方で、彼らは自身の試みを通じて、都市に言及する点で共通する。「シェア」は、業務地区と住居地区のゾーニングなどを前提とする近代都市の構造そのものの疲労を、そこに生きる人たちが自発的に乗り越えようとする動きであると理解することができるが、彼らのような若き建築家も、自らの身のまわりに生じている切実な状況から出発し、しかしその超克を通じて、したたかにも都市構造の改変を目指す。これらはいずれも、宮台氏が主張する「システムからの生活世界の奪還」の具体的実践なのである。

「機械」はいうまでもなく、「システム」の換喩である。来たるべき社会は、はたして機械のイメージから脱し、システムを上書きする原理を打ち立てることができるだろうか?「シェア」を鍵語に組み立てられたこの特集は、つまるところそのような問いを発するものなのだ。


門脇耕三(かどわき・こうぞう)
1977年生まれ。建築計画、建築構法、建築設計。東京都立大学助手、首都大学東京助教を経て、現在、明治大学専任講師。http://www.kkad.org/


201406

特集 「シェア」の思想/または愛と制度と空間の関係


特集にあたって
流動する社会と「シェア」志向の諸相
所有から共有へ? ──共同利用と共同管理の在処
建築デザインの資源化に向けて──共有可能性の網目のなかに建築を消去する
都市のイメージをめざして
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