岩手県釜石市〈唐丹地区〉学校等建設工事設計業務委託プロポーザル二次審査

乾久美子建築設計事務所・東京建設コンサルタント設計共同体

プロポーザル



乾久美子──本日は発表の機会を与えていただきましてありがとうございます。本計画の本旨を成すのは、「浜/山/まち/こどもたちをつなぎ、ひろがる学校」というアイデアです。このアイデアを具現化するために、5つの理念を立てました。まず、1──小中連携校としての快適さ・居心地を追求します。次に、2──子どもたちや地域の安全・安心を支える学校づくりを目指します。3──地域へと開かれた生活の拠点をつくります。さらに、4──復興や地区のシンボルとなる学校のあり方を考えます。5──本計画によって浜の復興だけではなく山の復興も目指すことを考えます。こうした理念についてひとつずつ説明していきたいと思います。

まずは、快適さ・居心地についてです。本計画を特徴づけるのは、地形に沿った建物の配置です。このような小さな造成だけでつくることで、土地や風景の履歴を大切にした計画とします。地形に沿った建物の配置は、さらに多くの教室が庭を持つような自然との触れ合いの多い学校づくりにも役立ちます。また、建物は山の斜面に沿って配置されるため、一見複雑に感じられるかもしれませんが、動線はとても単純なものとなっています。各階は階段に直行する水平廊下で接続されており、とてもわかりやすい建物になっております。もう一つの特徴は一体感を生み出すおおらかな屋根です。各棟の屋根のラインが揃っているため、唐丹地区の拠点らしいおおらかな包容力を感じさせる外観をつくり出します。また、リアス式らしい唐丹地区の風景と一体化したような姿によって道行く人々にその姿をアピールできます。また、各棟から屋根越しに海への眺望を得ることもできます。



次に計画の特徴となるのは、学校の中心となる「だんだん広場」です。下から、お神楽舞台、多目的ホール1、多目的ホール2、図書室、唐丹歴史資料ホールと、共有スペースを階段状に集めて学校の中心をつくっていきます。「だんだん広場」を室内から見るとこのようになっています。それぞれを結ぶ階段や視覚的なつながりがあって、皆が自然と集まってくるような楽しさがあります。また「だんだん広場」は普段は教室に近接するオープンスペースとしても使います。




次に普通教室です。普通教室は特に環境の良い場所に配置しており、木造屋根やハイサイドライトを持つ気持ちのよい空間を目指します。また小中の普通教室を3つのゾーンに分け、傍らにはそれぞれに庭を用意します。その庭を積極的に利用できる状況をつくり、また迅速な避難の観点から、靴箱は教室の前の廊下に設けることが有効だと考えています。見守りの観点からすべての子どもたちが毎朝職員室の前を通るような動線を確保しつつ、そのような個別の昇降口を考えました。

さて、小学校と中学校は授業時間が異なるため、それぞれでゾーニングするのが一般的だと思います。しかし、唐丹小中学校は全校生徒が100人程度というとても小規模な学校です。ゾーニングによって交流する生徒の数を減らすよりも、小中が混ざり合った賑やかな環境で社会性を学ぶことのほうが重要だと考えました。そこで普通教室は小中学校でゾーニングし、落ち着いた環境を保ちつつも、特別教室は小中学校を一体的に整備するのはどうかと考えました。具体的には同機能の小中学校の特別教室を並列させています。それにより準備室を一体的に整備して道具の共有やスペースの縮減を図ったり、反対に教室同士をくっつけて一体的な利用を考えたりできます。あるいは究極的には小中学校で一つの教室を整備して建設費削減を図ることも可能かと思います。そのような特別教室を分散的に配置しています。それぞれのゾーンは普通教室と同様に庭を持つなどの特徴があります。例えば食育ゾーンでは、ランチテラスや体育館への近接が特徴です。音楽ゾーンはお神楽の舞台と隣接しており、発表のしやすさや、楽しさを追求できます。理科ゾーンの前には薬草園があります。ものづくりゾーンの前には、創作テラスを設けます。またパソコン室には図書室が隣接されており、全体でメディアゾーンとして形成できます。児童館については、工期短縮やコストダウンを考慮して合築にしています。学校と児童館の管理区分は明確になるようにいたします。

次に、子どもたちや地域の安心・安全を支える方法についてです。3月11日の震災以降、この学校の裏山の上を走る国道が一時避難場所になりました。また国道への避難経路として、路地が有効に利用されました。そのような避難ネットワークをより強化するため、敷地内にも避難経路を設けることを考えています。具体的には、敷地内の外部施設をつないで、避難経路をつくります。さらにそうした避難経路は、日常生活のなかで地域の方々に利用されていることが大切です。本計画では避難経路に隣接するように地域開放施設を配置することや、その他の地域へ開くことのできる施設を散りばめて避難経路の存在をアピールしていきたいと考えています。

つづいて、子どもたちのセキュリティについてです。本地区は、普段家に鍵をかけないような開放的な風土があると聞いています。そのため、ここでも塀で防御するような学校はふさわしくないと考えました。ただし最低限のセキュリティは担保する必要があります。メインの内部通路沿いに職員が常駐する部屋を配置し、子どもたちを見守ります。またメインの地域開放施設は他の部分と明確にゾーニングできるようにして、管理のしやすさを考えました。避難所としてのあり方については、必要諸室を近づけて運営のしやすさを追求するだけではなく、学校運営と両立できるようなゾーニングを保つ機能配置に努めました。なお、インフラの二重化を図り、災害時の機能停止時間を最小限にすることも予算の許す限り検討していきます。


そして、地域活動の拠点としての学校のあり方についてです。すでに先の説明にでてきましたが、一般的に考えられる地域開放施設だけではなく、そのほかにも地域開放すると良さそうな場所を積極的につくっていきたいと考えています。これらの多くはグラウンドや国道などから直接出入りできるため、地域開放がしやすいです。お神楽や虎舞なども、学校で存分に催せるような地域に開かれた学校づくりを目指します。地域開放のあり方は市民の方々にワークショップで大いに意見を伺いたいと思っています。

次に地域のシンボルとなる学校のあり方についてです。本計画の特徴であるおおらかな屋根の佇まいは、学校の存在感を地域にアピールできるものだと思います。その他にも唐丹地区に見られる石垣を利用した庭造りや、昔の地域のイメージを踏襲した基壇づくりで地域の方々に受け入れていただきやすい学校づくりを目指します。また唐丹中学校史で特徴的な階段における記念撮影という文化を継承したいと考えています。

本計画では敷地である浜の復興だけではなく、建設を通して、山の産業の復興を目指していきたいと考えています。本計画では規模の問題からすべてを木造とすることは難しいのですが、所々を鉄筋コンクリート造などの耐火構造とすることで、部分的に木造とすることが可能です。またこの図のように、地場産の木材の使い分けをし、棟ごとの特徴を出すということも考えられます。やはり木々の気持ち良さを味わうには、木造の屋根の下にいることが一番です。その他にもフローリングや木製家具などにより安らぎのある環境づくりを目指します。屋根は木、壁は鉄筋コンクリートと適材適所の素材選定を考えています。



次に環境への配慮です。冬の厳しい卓越風は受け流しつつ、夏の心地良い風の取り入れを考えたり、太陽に対しては庇やライトシェルフなどによって暖かさを保ちつつ、室内の環境を整えます。各棟の両側にある庭も環境調整に役立ちます。その他にも造成で生まれる三角形状の半地下スペースを利用したクールチューブや、快適なパッシブソーラー、真昼時の散水利用、LEDや太陽光発電、風力発電などを検討して環境に配慮した建築を目指します。

最後に工期計画についてです。体育館と校舎を同時に建設し、平成28年4月の共用開始を目指します。また造成についてですが、最初にもお伝えしたとおり、今回最小限の切り土となるように努めています。切り土によって安定地盤を出し、その上に建物をそっと載せるイメージです。建物が低層であるためにそのようなことが可能だと思っています。また切り土のみなので工期を短縮できます。造成期間の短縮分を建設工事に回すなど、市と検討しながら進めていきたいと思っています。

質疑

小野田泰明──非常にわかりやすいご説明でしたね。ありがとうございました。先生方から質問をいただきたいと思いますが、まず私のほうから簡単な質問を。国道45号線沿いに山がありますよね。全体の建物に関する切り土量が14,000立米ということでコンパクトに抑えられているのですが、一方、山については20,000立米もあって、それを取り払わないといけないというのは、工事全体のバランスから見て重いと思うのですが、そのあたりどのようにお考えでしょうか。国道なので東北地整の三国事務所と協議が必要で、やれるかどうかも難しい面があるのですが。

──計画では山を切って駐車場にしています。それは国道側からのアクセスがしやすいと思ってのことで、どうしても難しいようであれば駐車場を下にもっていくことも考えられると思っています。


若崎正光(釜石市副市長)──非常に素晴らしいプレゼンをありがとうございました。全部が非常によく検討されているので、今お話をされなかった点について質問します。プールは一番下のほうに配置していて、それを防火用水に使うということをご提案いただいているのですが、中学生は年頃ですので高い遮蔽壁などが必要ですよね。下のほうでは具合が悪いとなった場合に代替スペースのお考えはありますか。

──今はここがいいかなと思っているのですが、この建物の仕組みがけっこう柔軟といいますか、建物の形が絶対にこうでなくてはいけないということではないので、組み合わせながら協議して検討していきたいと思います。

若崎──更衣室などを考えると少し動線が長すぎて、プールが遠い感じがすることは指摘をさせていただきます。あと、トラック150mという記載ですが200mは取れなかったですか。

──200mは取れますが、プロポーションが非常に悪いのでひとまず150mで抑えています。

佐藤功(釜石市教育委員会教育長)──特別教室につきましては、小中学校が隣接するのは良いと思います。ただ、普通教室につきましては学年の成長の段階がございますので、小中学校それぞれを離す方向がいいんだろうなと私は考えておりました。体育館についてはどうでしょうか、小中学校合同でひとつの体育館ですね。

──体育館は二つの体育館を合築して山の下に配置しています。

佐藤──武道場はまた別に?

──武道場は第二体育館として南側の2階に位置させています。

小野田──教室は小学校1年生から4年生までと中学校でそれぞれゾーニングされていて、特別教室は一体だけど成長段階に合わせてそれなりに考えられていますね。

長澤由喜子(岩手大学教授)──私も体育館のことが気になったのですが、体育館がひとつしかないとやっぱり体の大きい中学生が主に使って、小学生は小さくなっているという実態を聞くことがあります。どうでしょう、やはり小学生にとって使いにくいのではないでしょうか。

佐藤──それに関連して中庭の通路の広さはどれぐらいになりますか。

──体育館については、今2階に武道場があって2段になっており、使い分けはできるようになっています。中庭の通路はだいたい30mです。

伊東豊雄──たいへん明快な説明で考えていることがよくわかったのですが、ほかの方と同じく屋根はそっけないですよね(笑)。屋根についてはどう考えておられるかをお聞かせください。

──斜面に沿って非常におおらかな屋根を架けたいという思いがありました。この地域の集落に妻入りの建物が多いということも理解しています。しかし学校らしいシンボリズムが必要だと思っているので、やはり単に妻入りの屋根を重ねるようなことではなく、すこしずつ異なるスケールの屋根がおおらかに地形に沿ってふわっと架かっているのがいいのではないかと考えまして、このような形にしました。


遠藤新(工学院大学准教授、釜石市復興ディレクター)──非常によく考えられているなと感心して聞いておりました。避難経路を日常動線としても使ってもらえるように考えられているのが非常に良いなと思いました。ただしその分、日常的な階段での移動が大変かなとも思ったりするのですが、この点については柔軟に変えることもできるのでしょうか。

──今は普通教室を最も環境の良い場所に配置することを重要視しているので、どうしても普通教室が奥へ奥へといってしまうということがありましたが、これから協議で、どうしてもこの教室が前だというような要望があれば変更もできます。

小野田──細かい所も整理されているし、構造から地形まで丁寧に統合もされているので、好意的に受け止めておりましたが、地形に合わせるため廊下が片廊下で連なっていることが気にもなります。地形のために、上下に隣接する教室ともオープンな関係にはなっていません。ということは、生徒はかなりのレベル差を移動しなくてはいけないわけです。しかもかなり大きいエリアなので、低学年生にとっては移動は厳しいと思われます。そうしたことを乗り越えるこの学校のメリット、こういうふうにうまくいくんだということがあれば教えてください。

──なるべく「だんだん広場」に共有のスペースを設けています。それぞれの共有スペースは廊下でしか繋がっていないのですが、機能が廊下だけという部分はかなり少なく、廊下に対して部屋が左右に展開するようになっていますので、単なる片廊下の教室にはない体験ができると思っています。同時に、各場所からはつねに外部がぱっと見えるので、生徒さんの学校体験は相当豊かなものになるだろうと思っています。低学年生の移動については、特別教室への移動機会はまだ少ないと思いますので、そこから解消する方法を考えることもできるとに思っています。今のところ低学年生でも使うような特別教室は低学年生のゾーンに近づける努力はしています。

若崎──国道45号に隣接する山を切り出して駐車場を整備するというのは住民から喜ばれるでしょうし、防災上からも大変ありがたい話です。そこで予算額を提示させていただいていますが、この予算内に事業すべてが収まるという理解でよろしいでしょうか。

──予算内に収まる目安はつけています。

小野田──山の切り土量20,000立米をどこに搬出するかによっては、予算内では済まないことも考えられますね。もし選ばれたら、そうした対策は詰めなくてはいけないでしょう。はい、ここで時間となりました。どうもありがとうございました。


日時:平成25年6月12日(水)
場所:釜石市役所第4庁舎3階第7会議室
審査委員:
伊東豊雄氏(建築家、釜石市復興ディレクター)
小野田泰明氏(東北大学大学院教授、釜石市復興ディレクター)
遠藤新氏(工学院大学准教授、釜石市復興ディレクター)
若崎正光氏(釜石市副市長)
佐藤功氏(釜石市教育委員会教育長)
長澤由喜子氏(岩手大学教授)


◉釜石市唐丹地区及び鵜住居地区学校等建設工事設計候補者選定簡易プロポーザルのお知らせ
http://www.city.kamaishi.iwate.jp/index.cfm/12,24114,118,html
◉プロポーザル実施応募要領
http://www.city.kamaishi.iwate.jp/index.cfm/12,24114,c,html/24114/20130406-125147.pdf
◉唐丹地区の計画概要
http://www.city.kamaishi.iwate.jp/index.cfm/12,24114,c,html/24114/20130406-125434.pdf
◉唐丹地区敷地図
http://www.city.kamaishi.iwate.jp/index.cfm/12,24114,c,html/24114/20130406-113740.pdf
◉唐丹地区必要諸室の規模・面積
http://www.city.kamaishi.iwate.jp/index.cfm/12,24114,c,html/24114/20130406-125456.pdf


201308

特集 復興のゲートウェイ──建築と被災地を結ぶ仕事


発災から2年後における復興の課題
対談:復興のゲートウェイ──建築と被災地を結ぶ仕事
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