岩手県釜石市〈鵜住居地区〉学校等建設工事設計業務委託プロポーザル二次審査

株式会社シーラカンスアンドアソシエイツ+新谷眞人

プロポーザル



小嶋一浩──子どもたちの活動が、復興する街のシンボルです。8つの考え方をもとに提案します。景観を保持し、強化します。地形・植生の継承と、駅から学校までの軸の設定。子どもたちの姿と街との応答。沢と稜線を保持し、切り土の最小化、単純な構成と安心のできる高い宅盤設定です。

赤松佳珠子──子どもたちの元気な活動、アクティビティに溢れ、子どもたちが復興する街を見守っていく、そのような学校をつくりたい。子どもたちがいきいきとしていることが印象に残る、私たちはそんな学校こそがいい学校だと考えています。これはピーテル・ブリューゲルがルネサンス期の子どもたちが遊ぶ姿を描いた《子供の遊技》(1560)[fig.1]ですが、このように学校のなかで様々な活動が同時多発的に起こる、そんないきいきとした雰囲気の学校を目指しています。

fig.1──ピーテル・ブリューゲル《子供の遊技》(1560)

小嶋──100年を超えて街の風景を守る建築であるために、自然を活かして快適な環境をつくります。構造と仕上げを分けて機能的な長寿命化を図ります。
まずは配置計画です[fig.2]。駅前から続く緑道の先に学校の大階段があり、街とつながります。地形と造成を一緒に考えることではじめて可能になる計画です。駐車場は標高12m、グラウンドは15m、下の校舎は18m、沢をまたぐブリッジの高さは25mです。鵜住神社からの眺めを重視しています。造成量を抑えて法面の縮小による安全性、工期短縮、コスト削減を達成します。総量は136,000立米の規模になります。山並みの改変は最小限に抑え、鵜住居地区の景観を保全します。

fig.2──配置計画

階段棟と大階段とブリッジ棟というシンプルな構成です[fig.3]。階段棟に小学校と管理ゾーン、ブリッジ棟に特別教室と中学校、避難経路を配置します。学校は山すそに沿って広がり、街に対して顔を向けた配置です。駅から続く緑道の軸線上にある大階段が街の人々を校舎へと誘います。沢と峰がつくりだすこの鵜住居地区の風景のなかに子どもたちの活動が溢れ出ます。学校側からは街の復興していく風景を見届続ることができます。すべての教室の日当たりがよく、街を見下ろせるということを大事にしています。駅周辺と学校とが一体になって鵜住居の街を包み込む開いた構えです。

fig.3──階段棟と大階段とブリッジ棟

赤松──生徒数が少なくてもコンパクトになりすぎず、のびやかな空間に活動が広がり、学年が上がるごとに階段を上がっていく、成長を実感できる学校です。また異なる学年の子どもたちが自然に交流することができる計画になっています。また、断面を工夫していますので、2階建てのブリッジ棟の1階部は階段棟の3階と同じレベルです。学校では安心で安全であることが重要ですから、階段棟の1階に管理ゾーンを設け、通学動線とグラウンドをしっかりと見守ります。そしてエレベーターなどでバリアフリーを実現し、給食動線を確保しています。そして地域開放においてもゾーニングが明確な、管理しやすい構成になっております。
次に平面図を拡大してみます[fig.4-8]。1階に管理諸室を設けていて、大階段を上がっていくと1年生から4年生、そして特別支援学級のあるゾーンがあり、それぞれに昇降口があります。ブリッジ棟と同じレベルの階段棟3階には、5、6年生の教室、そして特別教室と図書室、小学校の屋内運動場があります。特別教室は、小中学校の同じ系を集めてコーナーをつくりやすくしています。そしてブリッジ棟2階部分が中学校のゾーンになっており、これから教員コーナーを設けるなども検討していきたいと思っています。ブリッジ棟の南端にはグラウンドへのショートカットの階段を付けています。





fig.4-8──平面図

教室ゾーンの構成は非常に重要です。1年生から4年生までの教室ゾーンはオープンスペースなどのコーナーを持ちながら、教室同士が可動間仕切りなどで一体的にも利用できるようになっています。5、6年生のゾーンは教室の間にオープンスペースがはさまり、少人数教室も一体となって低学年とは違った授業形態が展開できるようになっています。こちらは鉄骨木造仕上げの明るい空間のイメージです。中学校は学年ゾーンをひとまとまりにして、少人数でオープンスペースを活用する、多様な学習環境をつくりだしています。
このように、大階段の両側に教室がありますので、3、4階からは子どもたちのアクティビティが広がっている様子を見ることができます。また、子どもたちのアクティビティの向こうには街が、その向こうには湾の風景が広がっているのが見えます。また、敷地の北側には幼稚園を配置し、園児が遊ぶ園庭ごしにも海を臨むことができます。校舎からは背後の山側にもでられるようになっていて、沢にかかるブリッジ部分に子どもたちの活動が見えます。子どもたちにとっても、この日常の風景はしっかりと記憶に残っていくだろうと思っています。

小嶋──100年を超えて街を支える建築であるための提案です。切り土の最少化を検討していることは先に述べました。建物の主要な部分はすべて切り土の上に建てています。建築が土圧を受けないように、造成面から離しています。また、景観や植生を継承するため、造成時に樹木を選定し、元の樹々を新たな学校に移植します。クロベ、コナラ、クリなどの雑木を苗木から育てます。構造は、軽量でフレキシブルです。鉄骨プレース構造を基本とし、現場打ちコンクリートと仕上げを最小化します。内外装には地元産材である杉板を使用します。ブリッジ棟の屋根は木造です。構造と仕上げを分離して、施工の簡易化とともに空間をフレキシブにします。被災地での職人不足への対応です。沢をまたぐ構造は難しそうに見えますけれども、施工も入念に検討しています。屋根、庇、風、光、直射、太陽光を利用して快適な環境をつくります。セミオープンな教室ゾーンという構成に対して、冬は床下放熱機を用いた床下チャンバー式輻射暖房システムを利用して対策します。屋内運動場の屋根にOMソーラーシステムと太陽光発電システムを導入し、災害時にも自立して機能します。
最後にこちらの模型をご覧ください[fig.9]。学校をつくることと鵜住居地域をどのように復興させていくかということは、分けては考えられません。それゆえ、敷地や学校の内側のことも大事ではありますが、今回、学校は街とどう向き合えばいいのかということをいつにも増して考えました。その結果がこの緑道のつながりであり、大階段であり、ちょっと空中に浮かんだように見えるこうした空間です。安全な環境での子どもたちの元気なアクティビティが街の人々を勇気づけ、復興に希望を与える。鵜住居地区のみなさんは今も大変な状況だと思いますが、建築だけではなく街にも関わり、復興のために加わらせていただくことで少しでも力になることができれば幸いです。

fig.9──模型

赤松──子どもたちや先生方、そして地域の方々の鵜住居の記憶を継承した新たな拠点を築いていくためには、多くの方々と一緒になってワークショップを重ねていくことが重要です。今日のプロポーザルはあくまでもベースであります。これからみなさんと一緒に街の復興のために学校をつくり育てていきたいと思っています。

質疑

小野田泰明──ありがとうございました。では質疑応答に入りたいと思います。先生方にお考えいただいている間に、まず私から。全体に切り土も丁寧に検討されていますし、街そのものや地域の人々との一体感も非常によく考えられていて完成度は高いと思いますが、計画を見ると白山神社が体育館の裏にあるような感じがして、ちょっとそっけない気もするのですがどうお考えでしょうか。

小嶋──神社の存在は地域にとってとても大事です。一方、通常体育館は風通しなどに気を遣って設計することが多いのですが、2つの体育館の足元はともにガラスで、内側に木のルーバーを付けています。ですから、神社に対面する建築として体育館があり、例えばそこでお祭りをするなど、地域とつながっていけたらよいだろうと思っています。

若崎正光(釜石市副市長)──沢を残すブリッジ棟というプランは斬新で面白いと思います。そのため、この棟自体に橋と橋台のような強度が必要になりますが、山の地耐力のご検討はされましたでしょうか。そしてもう一点、小中学校が同じ階段を使うのは非常に良いことだと思いますし、成長にともなって遠くて高いところに行くのも非常に面白い案だと思いましたが、中学校の正面玄関がなぜ4階に計画されているのでしょう。3階を玄関にして内階段で4階に上がっていくストーリーとの相違を教えてください。

新谷──山の地耐力についてですが、ブリッジの支持地盤は切り土で、かつ、切った後にかなりしっかりした岩盤が出てきますので、地耐力は十分にあると考えております。

赤松──中学校の正面玄関は、おっしゃるとおり階段を上がっていった先の4階に計画していますが、3階の部分が小学校5、6年生の2学年で比較的昇降口が小さくてすみますので、場合によってはここに中学校の昇降口をいっしょにするということも今後の検討で可能かもしれません。

佐藤功(釜石市教育委員会教育長)──細部まで検討されていて素晴らしいなと圧倒されています。グラウンドは一周300mになりますか、400mになりますか。

小嶋──300mでとっています。

佐藤──その一方で、全体的に大きな容積に思いますが、予算内で収まるのでしょうか。

小嶋──模型が大きいのでそう見えるのかもしれません(笑)。概算は収めています。ブリッジ棟ではプレキャストコンクリートを使っていますが、あとは床スラブ以外はコンクリートを使わないようにしてデザインをコントロールしています。壁量は腰壁などを入れて増やしています。


長澤由喜子(岩手大学教授)──ブリッジ棟というのはかなりコストにも影響するのだろうと思うのですが、沢をまたいでつなぐことの意味について、どうしてこれほど手間をかけるのかというのがもうひとつよくわからないので説明をお願いします。

小嶋──ブリッジ棟の3階部分を小中学校両方で使えるように考えています。そして4階が中学校。もともと山なので盛らないで建てられるといったことや、ブリッジではなく地べたに下ろして建てると切り土量が増えるなど、いろいろなスタディを地形との応答関係のなかで行ない、このような解答を導きました。もうひとつ、特に中学生は夏のシーズンには3m張り出したバルコニーからつねに街を見ることができます。そのため、階段棟の屋根をフラットにして眺望を損なわないようにしています。子どもたちには、これから復興していく街を身近で見守りながら暮らしてほしいと思っています。

遠藤新(工学院大学准教授、釜石市復興ディレクター)──全体に地域との関係を重視しておられ、今後の計画に取り組みたいとおっしゃる姿勢が非常に心強いなと思いました。駅からの軸という話がでましたが、一方でこの地域も車の利用者が多いので国道45号線という軸もあると思うのですが、この横方向の軸についてはどうお考えですか。

小嶋──国道45号線にグラウンドの法面が意外と大きく出てくることに対してかなり気を遣いました。例えば法面の出角部分の下には緑地をつくるということをしています。あとは国道沿いに建物が立ち並び、街並みが形成されたときに学校がその背景になるようなイメージを持っています。学校が立派にできあがっても、街がどんどん魅力的になっていかなければ、そもそも設計をする意味がないと思っています。

小野田──街の復興とともにある、ということがこの学校の特徴でもあるということですね。

伊東豊雄──すごく堂々としていて素晴らしいと思いました。ひとつ、体育館の上方の半透明の素材はどういうものでしょうか。


小嶋──この面はOMソーラーを入れているので、下地が鉄板でその上をガラスにし、空気層を温めて屋根で回収して床下に回しています。寒冷期の体育館と図書室はこの方法で温めようと思っています。

伊東──震災時に、釜石の小中学生約3,000人が津波避難訓練通りにすばやく高台に避難し、生存率が99.8%にのぼったという、いわゆる「釜石の奇跡」がテレビを通じて有名になりました。これは市民にとってシンボルのような逸話ですが、この学校ができると、ここでのシンボルは一言で言うとなにになりますか。

小嶋──街から校舎へつながるこの大階段だと思います。子どもたちには夏の間は毎日、スクールバスも大階段の下に停車して歩いて上ってきてほしいのですが、子どもたちが校舎に入っていってそれぞれのゾーンに広がり、下校時にはまた降りてくる、その呼吸のようなリズムが街の人からいつも見えているというのは、シンボルになると思っています。

伊東──強いて言うと、この幼稚園が日陰になっているような気がしたんですが。

小嶋──北側にあるのでそのような印象を抱かれるかもしれませんが、幼稚園児が活動している時間帯はハイサイドライトから光を採り入れていますので、一年を通じて居心地の良い場所になりうると考えています。

赤松──階段棟2階が小学生低学年で幼稚園と近い位置関係になっていますので、幼稚園児と低学年生との連携も図れる配置計画になっています。

小野田──はい、ここで規定の時間になりました。どうもありがとうございました。


日時:平成25年6月12日(水)
場所:釜石市役所第4庁舎3階第7会議室
審査委員:
伊東豊雄氏(建築家、釜石市復興ディレクター)
小野田泰明氏(東北大学大学院教授、釜石市復興ディレクター)
遠藤新氏(工学院大学准教授、釜石市復興ディレクター)
若崎正光氏(釜石市副市長)
佐藤功氏(釜石市教育委員会教育長)
長澤由喜子氏(岩手大学教授)


◉釜石市唐丹地区及び鵜住居地区学校等建設工事設計候補者選定簡易プロポーザルのお知らせ
http://www.city.kamaishi.iwate.jp/index.cfm/12,24114,118,html
◉プロポーザル実施応募要領
http://www.city.kamaishi.iwate.jp/index.cfm/12,24114,c,html/24114/20130406-125147.pdf
◉鵜住居地区の計画概要
http://www.city.kamaishi.iwate.jp/index.cfm/12,24114,c,html/24114/20130406-125527.pdf
◉釜石市鵜住居地区学校等の敷地条件
http://www.city.kamaishi.iwate.jp/index.cfm/12,24114,c,html/24114/20130406-125552.pdf
◉鵜住居地区必要諸室の規模・面積
http://www.city.kamaishi.iwate.jp/index.cfm/12,24114,c,html/24114/20130406-125624.pdf
◉鵜住居地区の将来像
http://www.city.kamaishi.iwate.jp/index.cfm/12,24114,c,html/24114/20130406-113633.pdf


201308

特集 復興のゲートウェイ──建築と被災地を結ぶ仕事


発災から2年後における復興の課題
対談:復興のゲートウェイ──建築と被災地を結ぶ仕事
岩手県釜石市〈鵜住居地区〉学校等建設工事設計業務委託プロポーザル二次審査
岩手県釜石市〈唐丹地区〉学校等建設工事設計業務委託プロポーザル二次審査
〈唐丹地区〉〈鵜住居地区〉学校等建設工事設計業務委託プロポーザル二次審査評価
このエントリーをはてなブックマークに追加
INDEX|総目次 NAME INDEX|人物索引

PROJECT

  • パブリック・トイレのゆくえ
  • TOKYOインテリアツアー
  • 建築系ラジオ r4
  • Shelter Studies
  • 再訪『日本の民家』 瀝青会
  • TRAVEL-BOOK: GREECE
  • 4 DUTCH CITIES
  • [pics]──語りかける素材
  • 東京グラウンド
  • 地下設計製図資料集成
  • リノベーションフォーラム
『10+1』DATABASE

INFORMATIONRSS

SPACE DESIGN TOOL BOX VOL.1 「空間デザインの道具箱」(渋谷区・11/21)

「空間デザイン」をもっと面白くするための道具や知恵を集めて、共有したい! 働く空間は、オフィスだけ...

保存再生学特別研究会「20世紀建築遺産の積極的保存活用に向けて」(千代田区・11/9)

都市内には、日々使い続けられている20世紀建築が多数存在するが、それらの保存活用における課題、それ...

上妻世海『制作へ』刊行記念トークイベント 上妻世海×門脇耕三×木内俊克(千代田区・11/30)

『制作へ』の表題論考「制作へ」は一種の身体論であり、身体拡張論である。制作を通じて身体を〈作品〉...

分離派100年研究会 連続シンポジウム第5回「分離派登場の背景に見る建築教育と建築構造」(文京区・11/3)

分離派建築会(1920年 東京帝国大学卒業・結成)を、日本の近代建築におけるモダンデザインの鼻祖と...

東京大学HMC企画研究「学術資産としての東京大学」/シンポジウム「本郷キャンパスの形成とそれを語る学術資産」(文京区・10/28)

本シンポジウムでは、2018年6月に出版された東京大学キャンパス計画室編『東京大学本郷キャンパス――...

ケンチクトークセッション「都市のパブリックをつくるキーワード」(港区・9/24、11/18)

建築家が公共的な建築に取り組むとき、どんなことを考え、何を理想としているのでしょう。 1985年に...
建築インフォメーション
Twitter Feed
ページTOPヘ戻る