【第5回】[インタヴュー後記]多様で寛容な創造都市論、そして日本の文化

乾久美子
今回は京都に足を運び、大阪市立大学想像都市研究科教授の佐々木雅幸先生に〈創造都市〉についてお話をうかがいました。 チャールズ・ランドリーやリチャード・フロリダなど創造都市論の本をナナメ読みしてインタヴューに臨んでみようとしたのですが、議論されている内容が実に幅広く、うまく咀嚼できないままで時間切れ、当日となってしまいました。予習の段階でわかったのは、研究者によって、創造性の捉え方も、創造性の矛先をどこに向けるのかも違っていて、つまりは創造都市像というものが相当多様なのだということ。例えば、〈創造階級〉という概念を考案したことで一世を風靡したフロリダがいうところの創造性は、経済活動に組み込まれうるプロフェッショナルなレヴェルのものを差しているようです。創造性が金融に取って代わる都市間競争のアイテムのように扱われている感じに違和感を覚えたのは筆者だけではなさそうで、一般的にもそうした批判の声はある模様。一方、ランドリーの本のなかで扱われているのは、ささやかなレヴェルの草の根運動に活用される創造性で、そこで生まれうる新しい都市像の多様性や可能性に筆者はむしろ興味を持ちました。

佐々木先生の著作『創造都市への挑戦』からはランドリー的な創造性を支持されているような気がしたのですが、しかし文化や創造性といったものを、個人的にどのように捉えておられるのかは、テキストではなかなか伝わってくるものではありません。筆者は特につくり手側の立場ですから、平たく言えば「芸術や創造性を心から信じてくれている人なのかなあ」というあたりをとても気にするわけです。佐々木先生は果たして実際はどうなのだろうと思案しながら京都御所近くの虎屋の喫茶部でお待ちしていたところ、登場された先生は近所にタバコを買いにきたかのようなラフなサンダル姿。しかもママチャリでいらっしゃったとか。虎屋菓寮一条店といえば内藤廣さん設計による精緻な現代風数寄屋が見物です。美しすぎる室内で提供されるのはもちろんお味もお値段も一級品の甘味なわけですから、日常着のお姿が逆に妙な迫力を醸し出しておりました。

インタヴューはいつものごとく太田さんがほとんどの仕事をしてくださったのですが(毎度申し訳ありません)、この日の太田さんはいつにも増して質問の切れ味が鋭かったように思いました。佐々木先生のサンダル姿が誘引したのでしょうか(?)、話題はフランスの文化政策の話へと突入し、五月革命やらギー・ドゥボールやらが登場して〈文化の民主化〉を語る議論が展開しました。まちデザインは形や仕組みのデザインだけでなく、政策までをも議論の対象にしなくてはならないことは理解していましたが、そのなかでも人々の心に直接訴える力をもつという点で、文化政策は特に重要なのかもしれません。佐々木先生も、都市問題を扱いつつも、これまで国交省ではなく文化庁に向けていろいろとアドヴァイスしてきたとおっしゃられていました。フランスの文化政策の話はしばらく続き、アンドレ・マルローによる教養主義型と、ジャック・ラングによる大衆文化までを含めたボトムアップ型の比較をする場面がありました。創造性と都市との関係の骨子となる理念の問題となりますから、自ずと緊張感の高いやりとりが交わされることになりました。筆者はその辺りの歴史認識が曖昧だったのでありがたく拝聴するばかり。ただ、こうした話と日本の大衆文化のユニークさとの間にどういう関係があるのかが気になったので、カラオケの質問を投げかけてみましたが、質問が下手すぎたのでうまく話が伝わりませんでした。反省しています。

文化的には周縁どころか辺境ともいえる日本では、よく言われるように、左派的な思想ですらも輸入されたものなので、教養主義的な様相を帯びているというねじれがあるように思います。さらに、教養主義的な芸術であればあるほど、マスメディアによるプロモーションにより実際には大衆化されているという、もうひとつのねじれも生じています。大規模な展覧会の方針が入場者数の見込みから割り出されているように、表向きはスペクタクル社会の様相を呈していても意外とボトムアップ的である日本の状況を見ると、理念的であるかどうかはさておき、〈文化の民主化〉という構図自体はかなりなレヴェルで進んでいると認めてもいいのかもしれません。また卑近な例かもしれませんが、コスプレなどを思い起こせば、大衆がかなりカジュアルに創作行為を楽しむことが当たり前になっていることも事実です。そうした不思議な想像性(創造性?)をもつ日本においての創造都市論はほかの国のものとは違ってくるのかどうか、その辺りをもう少しお伺いしたかったわけです。

しかし、インタヴューを思い出してみると、ヒントはあちこちに散らばっていたように思います。京都のお話からは創造性の摘要範囲の広さが浮かび上がっていました。また先生による『創造都市と社会包摂』というテキストでは、ボローニャにおけるホームレスの人々による即興仮面劇など、社会的弱者をエンパワーメントする創造活動がレポートされています。創造性豊かなプロの芸術家や起業家が集い経済や文化を牽引する構図があることをもって創造都市とみなすだけでは不十分で、創造性を利用した社会問題の解決に取り組む風土があるところもまた創造都市の(あるいは創造都市論の)重要な一側面であるようです。課題が山積みとなっている日本の都市においては、創造性を、経済の推進力にすることももちろん重要ですが、都市を治癒するための力として期待するべきなのかもしれません。そのどちらを選択するのかは状況によるのでしょうが、筆者は個人的に後者の方向性と日本の文化的ユニークさが重なり合う地平に、何か新しさを感じます。

このように、やはり創造都市とは幅の広い概念のようですが、近所のおじさん風の出で立ちで登場し、オペラから五月革命、そして福祉的な問題までを縦横無尽に語られる佐々木先生の振る舞いは、創造性のもつ奥行きの深さや多様性、そして寛容さなどを感じるのに十分で、そこにはまた、創造都市のもつダイナミズムが体現されているような気すらいたしました。

201210

連載 Think about New "Urban Design"

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【第4回】[特別寄稿]富山市の都市特性と都心地区の活性化概要 【第4回】[特別寄稿]まちなかの超一等地を「広場」にする
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