【第4回】[訪問後記]富山の都市再生から建築を考える

都市再生という試みが、複数のプロジェクトの効果的な重ね合わせに尽きるということが、富山市を訪れるとよくわかる。広く知られているのはポートラムとセントラムの2つのLRTだが、前者は廻船貿易で栄えた岩瀬地区の景観保全とリンクしており、後者は大手モールやグランドプラザの整備、自転車共同利用システムのアヴィレと連動している。ポートラムとセントラムは2015年の北陸新幹線開業と連動していて、開業に合わせて駅舎・軌道が高架化された暁に、両者は接続されることになっている。そればかりではなく、中心市街の松川にはサンアントニオのような遊歩道の整備によって中心市街~富岩運河環水公園~重要文化財の中島閘門を結び、徒歩と遊覧船とLRTによる大きな回遊性を実現しようという「神通回廊」と名付けられた構想もある。遊覧船は岩瀬まで通じているから、いずれ、街の真ん中から遊覧船に乗って岩瀬まで行き、帰りはLRTで帰ってくるというルートが実現されるだろう。

プロジェクトの重ね合わせというと味気なく聞こえるが、実際に重ね合わされているのはプロジェクトを進める人々の思いである。岩瀬での踏ん張り、LRT実現への情熱、グランドプラザへの志、実は30年に渡る神通回廊への夢などなど、人間くさい、熱い話がたくさんあって、こうした思いがあちこちで持続されていることにまず驚かされる。さらに「コンパクトなまちづくり」という目標のもと、これらの熱いプロジェクトの間にシナジーが生まれている。グランドプラザの前にアヴィレがあり、セントラムの電停があり、駐車場と商店街を結んでいることは偶然ではなく、大きな目標に対して最大限の応答ができるように、考え抜かれた結果なのである。こういう複雑なプロジェクトの仕立ては、一朝一夕に実現できるものではない。サッカーに譬えて言えば、ほかのポジションにいつでもパスが送れるように、自らの役割を俯瞰的に見る能力がなくてはならない。ほかのポジションもつねに動いているから、全体戦術への高い理解度も、状況を読む動体視力も必要となってくる。そこまでの力があったとしても、情熱がなければ何も動かない。こうした動きが街の文化になっているのが富山なのだが、ここに至るまでの道のりは簡単ではなかったはずである。意思疎通のために、調整のために、公式・非公式の集まりがどれだけ重ねられてきたかを思うと少し気が遠くなる。これから富山を訪れる方には、一つひとつのプロジェクトの強度もさることながら、それらがフォーメーションとして機能している様を見ていただきたい。都市再生の醍醐味がわかるはずである。

ほかにも触れておかなければならないことがある。下の写真を見て、読者諸兄はどう感じるだろうか。これはセントラムがオープンした日の大手町通りの様子なのだが、街全体でLRTの門出を祝うこのムードは、日本ではなかなか目にできるものではない。そのひとつの理由は制度上のもので、公共交通と歩行者が共存するトランジットモールは、日本ではバスでは可能ではあるが、LRTと歩行者の共存はまだ許されていないということにある。写真に映っているセントラムは実は止まっていて、よく見ると試乗を待つ人が列を作っている。「街のペット」のようなLRTが、チンチンと鐘を鳴らしながら歩行者の間を通っていく風景を日本でも見たいから、なんとか大手町通りには日本初のLRTトランジットモールを実現してほしいと心から思う。

セントラム開通を祝う人々[クリックで拡大](提供=富山市企画管理部広報課)

もうひとつの理由は都市の文化に関する話なのだが、公共事業をこのように市民に届ける=デリヴァリーするイヴェントは日本ではたいへん珍しい。公共建築や公共空間、もしくは公共交通など「パブリック」なものに、いかに「プライヴェート」な関わりが持てるかどうかで、プロジェクトの愛され方は違ってくる。この日、セントラムを間近で見て、触り、走り出すのをドキドキしながら目撃した人たちは、一生そのことを忘れないだろう。そのように街に自分の気持ちを重ねていく機会がなければ、街に文化は生まれない。富山が特筆されるのは、ポートラムの開業以降、そのアニヴァーサリー・イヴェントやバレンタインデー仕様のラッピング企画など、市民がLRTと関わり合えるプロジェクトが毎年行なわれており、新しいLRTの誕生はすでに「自分事」になっていたということである。皆がオープニング・イヴェントで楽しそうに笑っているのはそれが理由である。これも一朝一夕では成立しない都市の文化である。

さて、乾さんとの対談でも触れたのだが、今後の富山において一番気になるのは、建築は期待されているのか、ということである。富山市は2008年より景観形成基本計画を定めているのだが、中心市街での推進地域は大手町通りのみとなっている。実は再生の真価は、大手町通り東側にある総曲輪通りと中央通り沿いの再開発と、それに付随する「まちなか居住」の実現にかかっているのだが、この「まちなか居住」がどのように建築化されるかがたいへん重要なポイントだと私は思う。ひとつには大きなヴォリュームの建築群が既存商店街と共存できるかという課題、もうひとつはグランドプラザやセントラムが示している新しい公共空間の文化を「まちなか居住」のコミュニティ形成につなげられるか、という課題があるように思われる。富山には身振りの大きな建築が多く、ヒューマンスケールの建築はまだまだ少ないので、総曲輪通りと中央通り沿いを本当に歩いて楽しい空間にするために、今までとはまた別の、建築政策のようなものが必要になるのではないだろうか。水辺、交通、広場などがつくる富山のフォーメーションのなかで、建築も確かな役割を持って機能してほしいと心から思う。

結論すると、建築を志す者は是非とも富山に足を運び、現在進行形の都市再生において、建築に何が可能かを考えてほしいと考える。富山がその野心とは不釣り合いなほど建築の世界で知られていないのは、コンペティションやワークショップが少なかったこともひとつの理由となっているので、若い世代が都市を学ぶ小さな機会を設けながら、中心市街や郊外居住の建築のイメージを育てていくのはどうだろうか。富山ほど、それに相応しい場はないと私は思う。

201205

連載 Think about New "Urban Design"

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──まちはデザインで変わる
【第4回】[特別寄稿]富山市の都市特性と都心地区の活性化概要 【第4回】[特別寄稿]まちなかの超一等地を「広場」にする
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