【第3回】[インタヴューを終えて]まちデザインを連歌のように

乾久美子(建築家)

今回は海外の都市デザイン史を概観することができればと、服部圭郎先生に話を伺いにいきました。事前に読んだ著書やお話のなかで最も興味を惹かれたのは、世界的な脱車社会のトレンドがやってくる時期が国によってまったく異なっていることです。モータリゼーションが問題視されるようになった70年代に早々と歩行者天国化しているブラジル南部のクリチバのようなという都市がある一方で、人口減少時代に入ったにもかかわらずいまだに道路を旺盛につくり続けようとする日本が存在したり、ソウルの清渓川(チョンゲチョン)における高架の撤去という英断がいまだ東京の日本橋などで実現しなかったりと、日本は道路行政の後進国のようです。太田さんが発案した「まちデザイン」という概念には、「有形無形のさまざまなデザインの集合がまちをかたちづくるのではないのか?」という思いが込められているわけですが、そのなかに政治や制度のデザインが含まれていないといけないことが、こうした大局的な各国の比較からわかってきます。前回の中野恒明先生も、教え子を行政マンにして、行政側から都市のデザインを動かしたいというような内容のことをおっしゃられていたことも思い出しました。

日本のまちのあり方は意外と世界的評価が高いという服部先生のご指摘も興味深いものがありました。商店街が実質上の歩行者天国を形成して人間を中心とする濃密な都市空間を形成していることに興味を覚える人が多いとか。確かに欧米の街路のようなおしゃれさはないものの、歩行者ゾーンは結構多いかもしれません。空洞化している中心市街地にも、カラー舗装など「整備」の跡がみられるケースは多々あるように感じます。でもあまり使われていないのも事実。自然発生的に発展した商店街を事後的に歩行ゾーンにしただけで、それ以外のまちデザインの戦略と結びつかないことが理由のひとつなのでしょうか。延岡を見ていても、商店街の発展とともに整備された歩行者ゾーンは、空洞化した今となっては起点と終点に説得力を失い、さらにバスなどの公共交通機関とも連動していないので「なぜ、ここに歩行ゾーンが設けられているのか」というメッセージが見えにくくなっています。使い手に対する明解で緻密で用意周到なメッセージがあることはすぐれたデザインの条件と思いますが、そうした条件を満たしていない「メッセージが失われてしまったまちデザイン」は日本全国に蔓延しているように感じます。

建築ではリノベーションが、新築には達成できないような多様性や冗長性の創出の重要な手段として注目されていますが、それと同じような概念でまちをデザインできるという指摘が、今回ご一緒したバルセロナの都市計画に詳しい阿部さんから出たのも面白かったです。勇気のでる話でした。それまで使われてきた都市ストラクチャーを区画整理でクリアランスしてまっさらな場所をつくるのではなく、バルセロナのようにそれまでのストラクチャーを継承し「プランニングにプランニングを重ねていく」ことで、多様性を保存しながら変化に対応していくという考え方があるそうなのです。新しく付け足されるまちデザインが、それまでに適用されてきたまちデザイン群に新しい意味を加えつつ既存のデザインがもっていたメッセージをリフレッシュする、そんな連歌のような感覚が必要とされるまちデザインに必要なのはどういう感性なのだろうか、それはこれまでの都市計画に必要とされた感性とどう違うのだろうか、そんなことをいろいろと考えるとてもよい時間になりました。

◉ 乾久美子 いぬい・くみこ/建築家


※「新しい『まちデザイン』を考える」は隔月で連載を行ないます。


201112

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