【第3回】[インタヴューを終えて]あらためて歩行者空間を思う

太田浩史(建築家)

インタヴューでも触れたのだが、私は1998年に原宿のホコ天が廃止されたことには強くこだわっていて、どのようにすれば表参道の歩行者空間化が可能になるかをずっと考えている。歩行者空間化というのは日曜日のホコ天復活ということではなく、ウィークデーの朝も夜も、つまり恒久的に車を排除して表参道を広場のようにできないかと考えているのだが、周囲の交通事情を考えると、それには車道の地下空間化が必要である。しかし表参道の下には千代田線が走っていて、車道を通そうとすると駅のコンコースのレベルと重なってしまい、天井高がギリギリになるという困難がある。ただ、明治通りと表参道の交叉点には副都心線の駅ができたから、その出口を使えばコンコースを使わずに地上に出られるかもしれない。あとはJR原宿駅との接続なのだが、周りの建築群を取り込みながらアクセスを付け替えないと、このパズルはなかなか解けないようである。そこまでしないと、いや、そこまですれば、青山通りから代々木公園の脇くらいまで2kmほどの長大な公共空間ができるのだが、誰か、卒業設計で試してみようという人はいないだろうか。相談に乗ります。

こんな話はまったく夢想のように聞こえるかもしれないが、実は、この20年間、世界のあちこちで行なわれてきた都市再生プロジェクトは、このぐらい無茶に聞こえる都市改造に果敢に挑み、大きな成功を収めている。例えばボストンの「Big Dig」(1991~)は10兆円規模のスケールで高速道路を地下化して、地表部の12haを公園や歩道として整備している。対談でも触れられたデュッセルドルフの「ラインプロムナード」(1995年完成)では、ライン川沿いの自動車道を2kmに渡って地下に埋設して上部を公共空間とし、さらに隣接する中心市街も歩行者空間化して活性化の相乗効果を得た。人口50万人のヨーテボリではウォーターフロント沿い2kmの自動車道埋設を実現し、人口25万人のオーフスでは自動車道によって塞がれたオーフス川を500m開渠して、川沿いをすべてカフェと広場へと変えた。こうした試みが都市再生の常識であることは以前も書いたのだが(拙論「景観の先を見よ」『10+1』No.43、2006)、日本では未だに続くものが現われない。そんな予算はどこにあるのかという思いもよぎるが、例えば首都高速中央環状線の王子~品川間の事業費は約2兆円と、自動車道には途方もない投資がなされている。道路は人間のためのものでもあるから、都市空間を満喫できる歩行者空間が日本のどこかに一本くらいあってもよいのではないだろうか。サブカルチャーで満ちていた原宿のホコ天を思い出すにつけ、そのように考えてしまう。

今回の座談会の主題のひとつは、この歩行者空間の復権についてである。世界中でそれが広がったのは、都市空間が誰のものかという気恥ずかしいくらい根本的な問いを、それぞれの街が自問し、目標を見出し、都市再編の新たな実験に踏み切ったからである。ジャイメ・レルネルとヤン・ゲールが重要なのは、彼らこそが気恥ずかしさを物ともせず、歩行者の権利を謳い、公共空間をデザインし直し、それがいかに街に効果をもたらすかを世界に提示しえたからである。だから、私たちもこの気恥ずかしい問い、都市空間は誰のためのものか、という問いから始めたほうがよいのではないだろうか。そのためにも、ホコ天ではなく、恒久的な歩行者空間を具体的に提案できるわれわれでありたい。座談会を終えて、改めてそのように思った。

◉ 太田浩史 おおた・ひろし/建築家


※「新しい『まちデザイン』を考える」は隔月で連載を行ないます。


201112

連載 Think about New "Urban Design"

【第5回】[インタヴュー]新しい「まちデザイン」を考える 5──創造都市論の現在【第5回】[インタヴュー後記]小都市の実験可能性【第5回】[インタヴュー後記]多様で寛容な創造都市論、そして日本の文化【第4回】[訪問対談]Learning from 富山市
──まちはデザインで変わる
【第4回】[特別寄稿]富山市の都市特性と都心地区の活性化概要 【第4回】[特別寄稿]まちなかの超一等地を「広場」にする
──アイがうまれるグランドプラザ
【第4回】[訪問後記]富山の都市再生から建築を考える【第4回】[訪問後記]オーラを放つまちデザイン【第3回】[インタヴューを終えて]まちデザインを連歌のように【第3回】[インタヴューを終えて]あらためて歩行者空間を思う【第3回】[インタヴュー解題]ヨーロッパのアーバンデザインの歩み【第3回】[インタヴュー]新しい「まちデザイン」を考える 3──ヨーロッパの都市デザイン20年史【第2回】[インタヴュー]新しい「まちデザイン」を考えるための、アーバンデザイン20年史【第2回】[インタヴュー解題]第2世代の「アーバンデザイン」【第2回】[インタヴューを終えて]アーバンデザインの青春と私たち【第2回】[インタヴューを終えて]都市居住なくして都市の繁栄はない、のかも【第1回】[連載にあたって]建築やアートでは限りがある【第1回】[連載にあたって]建築家、まちへ出る【第1回】[対談]新しい「まちデザイン」を考える
このエントリーをはてなブックマークに追加
INDEX|総目次 NAME INDEX|人物索引

PROJECT

  • パブリック・トイレのゆくえ
  • TOKYOインテリアツアー
  • 建築系ラジオ r4
  • Shelter Studies
  • 再訪『日本の民家』 瀝青会
  • TRAVEL-BOOK: GREECE
  • 4 DUTCH CITIES
  • [pics]──語りかける素材
  • 東京グラウンド
  • 地下設計製図資料集成
  • リノベーションフォーラム
『10+1』DATABASE

INFORMATIONRSS

SPACE DESIGN TOOL BOX VOL.1 「空間デザインの道具箱」(渋谷区・11/21)

「空間デザイン」をもっと面白くするための道具や知恵を集めて、共有したい! 働く空間は、オフィスだけ...

保存再生学特別研究会「20世紀建築遺産の積極的保存活用に向けて」(千代田区・11/9)

都市内には、日々使い続けられている20世紀建築が多数存在するが、それらの保存活用における課題、それ...

上妻世海『制作へ』刊行記念トークイベント 上妻世海×門脇耕三×木内俊克(千代田区・11/30)

『制作へ』の表題論考「制作へ」は一種の身体論であり、身体拡張論である。制作を通じて身体を〈作品〉...

分離派100年研究会 連続シンポジウム第5回「分離派登場の背景に見る建築教育と建築構造」(文京区・11/3)

分離派建築会(1920年 東京帝国大学卒業・結成)を、日本の近代建築におけるモダンデザインの鼻祖と...

東京大学HMC企画研究「学術資産としての東京大学」/シンポジウム「本郷キャンパスの形成とそれを語る学術資産」(文京区・10/28)

本シンポジウムでは、2018年6月に出版された東京大学キャンパス計画室編『東京大学本郷キャンパス――...

ケンチクトークセッション「都市のパブリックをつくるキーワード」(港区・9/24、11/18)

建築家が公共的な建築に取り組むとき、どんなことを考え、何を理想としているのでしょう。 1985年に...
建築インフォメーション
Twitter Feed
ページTOPヘ戻る