[特別寄稿]書評:レム・コールハース+ハンス=ウルリヒ・オブリスト『Project Japan, Metabolism Talks...』

ハンス・イベリングス(建築史家、建築批評家)
rem_book.jpg
『Project Japan: Metabolism Talks...』、全720頁。
『Project Japan: Metabolism Talks...』(Taschen、2011)。レム・コールハース、ハンス・ウルリッヒ・オブリストと彼らの編集チームがメタボリズムについてまとめたこの本は、コールハースの『S,M,L,XL』と『Harvard Project on the City』のような研究書と同様、威圧感さえ与えるような厚さとページ数を持つ。いや、この2冊と比べても『プロジェクト・ジャパン』は、徹頭徹尾、中身がぎっしり詰まっているといえるだろう。

『Project Japan』は、メタボリズムの中心人物たちへのインタヴューをコアに、メタボリズム的な構成を持ち、すべてのインタヴューに対して、上へ下へと註が付され、韻を踏むように図版が添えられ、話題は脇へ逸れ、逸脱し、暴露され、連想を呼び、代謝(metabolism)が豊かなコンテクストを与える。

コールハースとオブリストは、豊富な図版に彩られたインタヴューから得られた事実と主張の海に、20世紀後半の日本の建築における「最後の前衛」を描きだし、このムーヴメントの微妙な差異を浮かび上がらせる。

rem_all.jpg
菊竹清訓自宅《スカイ・ハウス》でパーティをする丹下健三、黒川紀章、川添登たち

インタヴューのあいだには9つの章が編まれる。法規に則って地上に建てられたものだけでなく、海上、空中に計画されたメタボリズム建築群の紹介、そして黒川紀章を筆頭にしたこのムーヴメントにおけるメディア進出と表現の分析、さらにメタボリストの運営と事業をつなぐコネクションについても概括できる。

rem_kakuei.jpg
田中角栄と対話する黒川紀章

総じて本書は3つの特徴をもつ。ひとつは、口述史として、すべてのメタボリズムの代表者とのインタヴューを行なった点にある。ただし、ひとりを欠く。この運動の中心人物であり、ゴッドファーザーであり、煽動者である丹下健三はインタヴューが始まる前に亡くなってしまった。インタヴュアーのひとりは世界的に有名な建築家であり、もうひとりはインタヴューに精通し、現代美術と建築界におよぶ包括的な年代記を書き上げる方法論を打ち立てた人物であったため、この口述史はふたつとなくおもしろいものとなった。彼らは、インタヴューを受ける人々の大多数が驚くべき率直さをもって語りだすことを知っているのである。

第2に、魅惑的なメタボリズム前史を紹介している点だ。平坦でまっさら、白紙状態(タブラ・ラサ)にあった満州への日本の進出は、大いなる建築的、都市的な実験機会となった。そしてこの実験は、戦後日本の代謝の活力を準備したのだ。 第3に、中東やアジアに拡大したメタボリズムのポストヒストリーが語られている点だ。70年代、とくに第一次オイル・ショックの後は日本のプロジェクトは実現性を失いはじめ、メタボリズムの活動はしばしばタブーとみなされることさえあった。

なにを隠そう、本書でインタヴューされた彼らが語ったメタボリズムの物語のほとんどが、1960年、東京における「世界デザイン会議」での船出から、1970年の「大阪万博」というクライマックス、つまり60年代の10年間で一致した。何度も何度も繰り返されるその10年のあいだの物語は、ときどき航路を外れるとはいえ、読者に徹底的に示される。またしばしばインタヴューと同じ内容が、歴史のテキストやキャプション、さまざまな挿話に入り込む。それを気にしない読者でいられれば、あなたは、菊竹清訓は地主という立場を追われたからこそ建築家として輝いたというような、真珠のような物語たちと出会うだろう。菊竹は、大地から離れ、空中へと向かって歌うメタボリズム建築の歩みは、もっぱら空間不足を解消するための戦略から始まったのではなく、むしろ一族が受けた剥奪に対する抗議活動だったと言うのだ。

rem_conf.jpg
世界デザイン会議(1960)

rem_expo.jpg
大阪万博(1970)

この本の強みのひとつは、菊竹清訓、黒川紀章、槇文彦、磯崎新[編集註:本書では磯崎は自他ともに傍観者として語られる]のようなよく知られたメタボリストだけではなく、たいていのメタボリズムに関する建築書では言及されてこなかった、1953年にGKデザイン機構を設立した栄久庵憲司のインタヴューがあるところだと言ってよい。加えて、メタボリズムの中心人物たちに舞台裏で指示を与え、きわめて重要な役割を果たしていた「創造的官僚」下河辺淳の登場についても同様のことが言える。

rem_kurokawa.jpg
黒川紀章

rem_ekuan.jpg
栄久庵憲司

720頁に及ぶこの『Project Japan』を読みこなすのは容易ではないが、それは重さや値段のためではなく──インタヴューはしばしばとてもおもしろく、収められた図版を見るのは大きな喜びである──、内容の大部分がある高みに達しているからである。私にとってコールハースの本はどれも、マルセル・プルーストやレイモンド・カーヴァーの読書感以上を与えてくれる。彼の書くものはどれも「Less is More」には当てはまらないし、なかでも『Project Japan』は出版されたもののうちでは疑いなく彼の仕事のハイライトである。逆説的に聞こえるかもしれないが、それは著者の存在がいくぶんか控えめであるためだ。コールハースのほかの本では、自信過剰、そして確信と修辞学的誇張によって読者はやがては疲れてしまい、ときにここから去ってゆく。さらに、歴史を主題にもつ彼のほかの本、『錯乱のニューヨーク』のようにパーソナル・ヒストリーがどうありえたのかという仮説の高度な構築ではなく、実際の歴史である点も、ハイライトな印象を高めている。彼のこれまでの仕事と評価を振り返れば、『Project Japan』は『錯乱のニューヨーク』ほど名声は得ないかもしれない。また、『S,M,L,XL』ほどの反響もないだろう。だが、私にとって、また多くの人にとってよりよい本だと言いたい一冊だ。

◉ 翻訳:ミヒールセン・エドウィン(Michielsen Edwin)

本書邦訳書は、2011年冬に平凡社からの刊行が予定されています。


201110

特集 新しい「まちデザイン」を考える 2


このエントリーをはてなブックマークに追加
INDEX|総目次 NAME INDEX|人物索引

PROJECT

  • パブリック・トイレのゆくえ
  • TOKYOインテリアツアー
  • 建築系ラジオ r4
  • Shelter Studies
  • 再訪『日本の民家』 瀝青会
  • TRAVEL-BOOK: GREECE
  • 4 DUTCH CITIES
  • [pics]──語りかける素材
  • 東京グラウンド
  • 地下設計製図資料集成
  • リノベーションフォーラム
『10+1』DATABASE

INFORMATIONRSS

第5回「吉阪隆正賞」授賞式/記念シンポジウム(千代田区・11/18)

第5回「吉阪隆正賞」を受賞した西沢立衛氏による記念シンポジウムが、11月18日にアテネ・フランセ文...

「構造展─構造家のデザインと思考─」構造家 佐々木睦朗 特別講演会(品川区・10/5)

建築倉庫ミュージアムで開催中の「構造展─構造家のデザインと思考─」(10月14日まで)の関連企画と...

建築レクチュアシリーズ217 槇文彦(大阪・10/4)

大阪を拠点に活動を行う2人の建築家、芦澤竜一氏と平沼孝啓氏が1組のゲスト建築家をお呼びして、年に7...

[磯崎新の謎]展(大分・9/23-11-24)

大分市が誇る建築家・磯崎新(1931~)は建築の枠を超え、思想、美術、デザインなど多岐に渡る分野で...

トークイベント「Snøhetta SMALL TALK」(港区・10/15)

世界的に注目されている北欧ノルウェー発祥の建築デザイン事務所「Snøhetta」は、ノルウェーのオ...

「磯崎新 觀海庵 縁起」(群馬・9/13-10/23)

黒い色調で統一されたシャープなフォルムが特徴的なハラ ミュージアム アーク(1988年設立・200...

シンポジウム「Village in Metropolis-都市内共同体のつくりかた」(港区・10/2)

現代社会において、私たちの多くは都市という不特定多数の人々が混在する空間の中に住んでいます。都市は...

展覧会「日本建築の自画像 探求者たちの もの語り」(香川県・9/21-12/15)

われわれがよく聞く『日本建築』とは、何なのか? そもそも、何が『日本的』なのか? 本展では『日本建...

403architecture [dajiba]が設計している時にどうしてもこだわってしまう「建築」のこと 第3回(彌田徹)(静岡県・10/11)

「建築」とは建物そのものだけを指しているわけではありません。周辺の環境や歴史的な文脈、そして概念的な...

「New Nature/ 御手洗龍展──新しい幾何学でつくられる小さな生態系としての建築」(港区・9/7-10/26)

東京都港区のプリズミックギャラリーで、建築家の御手洗龍による展覧会「New Nature / 御手洗...

ケンチクトークセッション「都市のパブリックをつくるキーワード」第4回 大西麻貴/第5回 猪熊純(港区・8/25,10/26)

illustration: Mariko FUKUOKA 建築家が公共的な建築に取り組むとき、どんな...

東京ビエンナーレ公募プロジェクト"ソーシャルダイブ"(募集・-9/23)

東京ビエンナーレでは、公募プロジェクトである"ソーシャルダイブ"に参加するアーティストを募集します...
建築インフォメーション
Twitter Feed
ページTOPヘ戻る