【第2回】[インタヴューを終えて]都市居住なくして都市の繁栄はない、のかも

乾久美子(建築家)
私のような建築畑の人間にとって、「まちデザイン」に精通している方に出会えるチャンスなどなかなかありません。今回、事務所にお邪魔させていただいた中野恒明さんはそうした方のおひとりと思われ、大変、興奮しました。

2時間あまりのお話の骨格を成していたのは、CIAM の機能主義的なスーパーブロックへの批判と、ジェーン・ジェイコブズが提唱した混在用途への高い評価。この対立構図をベースとするお話は世代論的な回想から始まり、次第に日本の都市計画行政の構造的な欠陥に対する指摘へと向かっていきました。50年代にはじまった田中角栄による道路特別財源をベースとした道路行政の敷衍、豊富な補助金を前提とした道路中心の都市計画のあり様、60年代以降アメリカやヨーロッパで下火になりつつあったCIAM的な都市計画を、高度成長期の日本が取り入れてしまったという時代的なねじれなど、日本の都市計画行政の不幸ともいえる道程を解き明かしていただいたのです。
そのほかにも、かつて流行したウォーターフロントに見られる限界が臨港地区指定や小学校区によるものであることなど、私たちの望むまちの姿にとっていかに法律が足かせになっているか、そうした事例を次々とお話いただきました。どれも目からウロコが落ちるお話でしたが、同時に「やはり、まちを壊しているのは、暴走する法制度なのか」とおぼろげに予測していたことが的中してがっかりもしました。ただ、通常であれば諦観を覚えるはずの法律という名の障害に対して、冷静に切り抜けるのが中野さん流のやり方。法という毒を以て毒を制すという感じでしょうか、もしくは柔道的とでも言えばいいのでしょうか。都市にかかわる関連法令を網羅的に理解することで、さまざまな困難を柔らかく受け流しつつ、都市の公共空間の可能性を切り開いてこられたそうです。都市計画法のみならず、伝建(伝統的建築物群保存地区制度)、道交法、道路法など所管の違う法を駆使しながら、社会実験の名も借りつつ行なわれたさまざまな試みのあざやかさに舌を巻きました。

延岡駅周辺整備プロジェクトを念頭におきつつ聞いていたのは、中野さんの命題、都市居住なくして都市の繁栄はありえないというお話。「すべての消費は住から」というお言葉と「365日その場所で過ごすファミリー層1000人と2時間だけその場所ですごす100万人の観光客」を比較しつつ、地域振興を考えるのであれば「人数だけではなく、人・時間」という単位で考えよというお話は非常に説得力がありました。中野さんの主張を要約すれば、つねに人のいる状態をいかにつくるかが都市再生の鍵ということのようです。延岡駅周辺の空洞化した商店街を充填するのは住居以外にないのではないかとほのかに感じていた私としては、背中を押していただけるようなお話でした。駅周辺エリアの多くは商業地区指定を受けており、そのことに起因する地価に対する幻想、そしてその幻想を前提とした商業を中心とした大規模開発への欲望にブレーキをかけることは容易ではありません。しかし、この「すべての消費は住から」という理論をもってすれば、その欲望をほかの矛先に向けることができそうな気がしてきたわけです。

そんなふうにさまざまな立場、意見、欲望を包容するようなものとしての「まちデザイン」を中野さんこれまでの仕事のなかに見ましたが、その巧みな柔道的立ち振る舞いの根底にある膨大な量のデータベースの存在も垣間見たわけで、これからの道のりの遠さを知りました。しかしめげずにやっていこうとも思いました。

◉ 乾久美子 いぬい・くみこ/建築家



※「新しい『まちデザイン』を考える」は隔月で連載を行ないます。


201110

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