ソーシャル・ファブリケーションに向かって
──テン年代のクリエイティヴィティ

田中浩也(慶應義塾大学環境情報学部准教授、FabLab Japan 発起人)

デザイン・ツールをつくる

3次元プリンタやカッティングマシンなどの〈デジタル・ファブリケーション」技術は昨年頃より日本の建築系大学でも注目され始めた。これまで、コンピュータ上のアルゴリズムで生成された複雑な形状の多くはCGどまりであったが、ファブリケーション技術によって物質化までの一連のプロセスを統合的に扱うことが可能となった。そうした技術の深化に後押しされるように、設計と工法、あるいはコンピュテーション(計算)とマテリアリティ(素材感)の融合によって、新たな造形表現を模索する動きが世界的に活発化している。先日筆者は、国際会議Fabricate 2011(Digital Fabrication Conference)★1に参加した。そこでは、MIT(米国)、AA School(イギリス)、Arup(イギリス)、ETH(スイス)、IAAC(スペイン)、Stuttgart University(ドイツ)などから、アーキテクトならぬ「アーキテクチャル・エンジニア」が参集し、次世代のクリエイティビティに関して討議が行なわれた。
ゼロ年代はソフトウェアベンダーのような「ツール・メーカー」の提供する範囲内でしか、「ツール・ユーザー」であるデザイナーが創造性を発揮できないという状況が続いてきた★2。現在起こっている動きはその乗り越えであり、デザイナー自身がアルゴリズムを記述することで「オリジナル・ツールクリエイター」へ進化すると同時に、ソフトウェアベンダーは、デザイナーがプログラミングやスクリプティングをしやすくするインターフェイスを提供する「デザイン・プラットフォーム産業」へとシフトすると言われる。そうした動きのなかで、「デザイナーが理解しやすく学びやすい形式の」プログラミング・インターフェイスはどのようなものかというテーマに関心が集中しており、一例としてヴィジュアルを重視したGrasshopperが普及しつつあるのである。
もともと、料理人や大工といった優れた職人(デザイナー)は、自らのものづくりのためのツールそのものを自ら作り出したくなるものである。コンピュータを用いたデジタル・デザインの分野でも、ようやく「デザインのためにツールから自分でつくる」文化が本格的に到来したかのようだ。その動きはソフトウェアのみならず、工作機械であるファブリケーション技術にまで広がりつつある。ETH Zurichのマティアス・コーラーは、かねてよりロボット・ハンドを用いたアルゴリズミックな工法を実践していた先駆者だが、今回は既成のロボット・ハンドをハックして自らレーザーセンサを取りつけ、オリジナルのデザイン・マシンへと進化させていた[図1]

1──ロボット・アームを用いた工法のデモンストレーション(Fabricate 2011にて)

また、AA SchoolとIAACでは学生がオリジナルの工作機械をつくるワークショップ「(FAB)BOTS展★3」も開催されている。エンジニア的なクリエイティビティが直接デザインにまで反映される状況が生まれているのである。
アーキテクチャル・エンジニア/デザイン・エンジニアとして、私自身も現在、新方式の「環境志向」デザイン・マシンの開発をこれからの研究活動の中核と考えている。現在のデジタル・ファブリケーション機器は「素材を加工する」一方向のみであって真の意味の「デジタル(離散)」ではない(「デジタル・ファブリケーション」の「デジタル」とはコンピュータ制御、というくらいの浅い意味でしかない)。本当に物質を「デジタル(離散)」として扱いうるのならば、人工物をいつでも素材(もしくは最小単位)にまで戻せる可逆性を備えなければいけない。「デジタル・ファブリケーションの逆はデジタル・リサイクリングである」と言われるが、「加工と接着」というアナログな処理ではなく、「組立と分解」というデジタルな処理を制御することがこれからの課題となる。「組立と分解」を等価に扱うことのできる双方向/可逆的システムが生まれれば、リサイクルやリユースを加速し、資源循環型社会に資することになる。そのときファブリケーション技術は、たんなる奇抜なかたちの造形マシンではなく、「人工物の生態系」を再構成するための別の大きな価値を持ち始めるはずだ。

スクリプトや図面を〈シェア〉する

さてソフトウェアの話に戻るが、アーティストやデザイナーがプログラミングを学ぶ際に、いきなり複雑な構文から入る必要はなく、またゼロからすべてを独力でスクラッチする必要もない。ProcessingGrasshopperはすでに、ネット上でオープンにソースを公開し交換共有する、コード・カルチャーと深く結びついている★4。こうしたコミュニティにおいて、コードやスクリプトというのは、たんに「コンピュータへの命令の記述」=スクリプトというのみならず、自らの「デザイン思考を時系列に編集・記述した脚本」=スクリプトという意味を持っている。このスクリプトの2重性についての議論については『Code: Between Operation and Narration』(Andrea Gleiniger + Georg Vrachliotis)に詳しい。つまりこうした場で交換されているのは、デザイン思考の形式的外在化である「プロセス・モデル」であるとみたほうがよい。「プロセス・モデル」における「スクリプト」は、「プロダクト・モデル」における「図面」に相当する、ひとつの「共通フォーマット」である。
一方で、こうしたプロセス・モデルから生成される最終的なプロダクト・モデル=製造用データを公開共有しようという動きもある。その代表例がFabLabで開発中の〈FabMoments〉である[図2]。昨年オランダでは、この〈FabMoments〉プラットフォームを利用したデザインコンテスト「(UN) LIMITED DESIGN★5」が開催された。このタイトルは、「UN」を、括弧にくくりつつ、しかしあえて残すことで、「無限=UNLIMITED」を前提としたデザインから「有限=LIMITED」を前提としたデザインへのシフトを暗にうながすものである。ここに10年以上前に久保田晃弘氏が行なっていた「有限設計ワークショップ」との見えない繋がりが感じられる。このコンペでは、「何をつくるかを決めてから、素材を決め、その加工法を決める」という従来の設計の順序を反転させ、「加工法を定め、素材を決めてから、何をつくるかを決める」ことが推奨されている。そして、できあがったプロダクトは、Fashion, Form, Food, Fusionという「〈衣・食・住〉+融」、まさに家政型文化の象徴ともいえる4つのカテゴリに分類されているのである。

FabMoments
2──FabLabのシェアリング・システム〈FabMoments〉
出典=http://fablab.waag.org/fabmoments

FabLabは社会を映し出す

こうした試みに参加するには工作機械が必要となるが、まだ敷居は高い。大学や研究所で工作機械が導入され始めているが、専有されている場合が多く、市民には開放されていない。しかしいま本当に必要とされているのは、日常から生まれる生活文化と、これからの新しい技術とが、正しいかたちで結ばれることなのである。その回路を提供しているのがFabLabである。FabLabは、「デジタル・ファブリケーション」技術に、ソーシャルでオープンな文脈からアプローチする。そしてこれは、インターネットがもたらした文化の良質な部分を、もの(フィジカル)の領域にまで敷衍・展開させようとする運動であるといってもよい。〈ソーシャル・メディア〉〈オープン・ソース〉〈クリエイティブ・コモンズ〉といった、Do It With Othersの文化がリアルな生活にまで降りてくるとき、なにが起こるだろうか。
昨年8月、筆者が訪れたアムステルダムのFabLabは、まちの中心部に位置する歴史的な古城のなかにあった。歴史的な地域資源(ストック)を自分達でリノベーションしながら活用していることもいかにもFabLab的であると思われた[図3]。文化資源を過去から現在に「引き継いで」いる場所には、〈シェア〉という概念が馴染む。スクラップ&ビルドが工業型文化の象徴であるとすれば、ストック&リノベーションには家政型文化に通じる態度がある。

アムステルダムのFabLab
3──アムステルダムのFabLab。古城を転用している

パーソナル・ファブリケーションからソーシャル・ファブリケーションへ

ニール・ガーシェンフェルドはFabLabが生み出す社会を「パーソナル・ファブリケーション」と呼んだ。しかし私はFabLabを日本で紹介する始めての拙稿であえて「ソーシャル・ファブリケーション」という呼称を用いた★6。ここでの「ソーシャル」の意味は二つある。ひとつはネット上のソーシャル・メディアや、ソーシャル・ネットワークと同様「社交」という意味であり、「人と人のつながりや、そこでの共有・派生・進化」に価値を置くという態度である。もうひとつは、現実の世界や社会で起きている格差や諸問題から眼を逸らさないという意味の「社会的」である。
私は、FabLabが地球規模で普及したことによって、それがまるで「補助線」のように機能し、各国の現状が明るみに出たように感じている。同じ工作機械(レーザーカッター、ミリングマシン、ペーパーカッター)が設置されているにもかかわらず、インドやアフリカのFabLabでつくられるものと、アメリカやオランダのFabLabでつくられるものはまるで異なるのである。途上国では、「生活に必要なものを自分たちで作り出す」ことでオルタナティヴな近代化が起ころうとしており、一方、先進国では「マーケットの論理では生まれることのない、しかし自分で欲しいものを、自分自身でつくる」ことが成熟社会にける新たな自己実現やクリエイティヴィティのかたちになりつつある。
これから日本でもさまざまなFabLabのかたちを模索していくことになるが、そのなかで私自身はFabLabが地球規模のネットワークであることを活用した展開を率先していきたいと考えている。「先進国」と「途上国」を横断し、国境を越えて、必要とする場所に必要とする技術を送り届けることが目標である。そこで重要になるのが、デザインプロダクトの輸送/流通の問題である。同じ工作機械を備えているのだから、原理的には、データを送れば別の場所でも同じものがつくり出せるはずである。しかし実際には、各国で使える「素材」や「資材」は異なる。ゆえに、目的に応じてプレ・ファブリケーションとオンサイト・ファブリケーションを組み合わせる必要がある。出発地から目的地までのデザインプロダクトの「送りかた」や「運びかた」、そのマネジメント手法を再考してみようというのが、私の提案する「ワールド・ワイド・ロジスティクス」というキーワードである。

〈技術と社会〉〈ウェブとフィジカル〉の統合をめざして

以上の内容をまとめると下図のような4象限を描くことができる[図4]。縦軸にIT(情報世界)とフィジカル(物質世界)、横軸にテクノロジー(技術)とソーシャル(社会)を置くと、〈アルゴリズミック・デザイン〉〈デジタル・ファブリケーション〉〈オープン・ソース〉〈ワールド・ワイド・ロジスティクス〉の四つの要素がそれぞれ布置される。私は、FabLabを通じて、本来バラバラであった、この四つの要素を統合することを試みたい。2020年までに、ここに新たな産業と職能が生まれていることを目標のひとつとしたい。

4──FabLabに関連する四要素

★1──Fabricate 2011(Digital Fabrication Conference):URL=http://www.fabricate2011.org/
★2──この問題は次の文献(拙訳)にて指摘された。コスタス・テルジディス『アルゴリズミック・アーキテクチャー』(田中浩也 監訳、荒岡紀子+重村珠穂+松川昌平 訳、彰国社、2010)
★3──(FAB)BOTS展については下記を参照。「なんでも自分たちで作ろう、パーソナル・ファブリケーションの実践」(CBCNET):URL=http://www.cbc-net.com/topic/2010/10/fabrication-laboratory-dhub-barcelona/
★4──OpenProcessing:URL=http://www.openprocessing.org/ Grasshopper:URL=http://www.grasshopper3d.com/
★5──(UN) LIMITED DESIGN:URL=http://unlimiteddesigncontest.org/
★6──拙稿「3次元プリンタが変える未来──デジタルデザインからソーシャルファブリケーションへ」(『広告』2009年11月・1月合併号[特集:2020年をデザインする、博報堂、2009]所収)


たなか・ひろや
1975年生。博士(工学)。慶應義塾大学環境情報学部准教授、FabLab Japan 発起人、Fab Association アジア地区代表、How To Make Almost Anything 2010修了者(http://fab.sfc.keio.ac.jp/howto2010/)。共著=『いきるためのメディア』ほか。共訳=『アルゴリズミック・アーキテクチュア』ほか。


201105

特集 パーソナル・ファブリケーション──(ほぼ)なんでもつくる


〈ものづくり2.0〉前史──有限設計ワークショップからFabLab Japanまでの15年
ソーシャル・ファブリケーションに向かって
──テン年代のクリエイティヴィティ

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