日本の建築のつくり方

佐藤淳(構造家)

佐藤淳──私は木村俊彦構造設計事務所に4年半ほど勤めて独立しました。木村俊彦さんは一昨年亡くなられましたが、渡辺邦夫さん、新谷眞人さん、佐々木睦朗さんなど、木村事務所出身の先輩たちが大活躍しています。木村さんのことをご存じない方も多くなってきているのですが、個人の構造事務所が建築家とコラボレーションして建築をつくるというスタイルを確立させたことをぜひ知っておいてほしいと思います。
私は木村事務所の最後のスタッフで、独立して10年経ちましたが、現場の進め方、建築家とのやり取りなど、いまだに木村事務所のやり方が染み付いているなと感じます。今日はそんな、私の設計手法をご紹介します。日本の建築のつくり方にはよい部分がたくさんあります。海外メディアから取材を受けることも多く、日本の建築家と構造エンジニアのコラボレーションが注目されています。両者が同じ建築学科で学ぶという状況は世界的にみれば特殊ですが、そのことで自然なかたちで言葉を共有することができ、コラボレーションを実現しています。そうした設計の現場、工事の現場のよいつくり方を失わないようにしていかなければいけなりません。
私は特にさまざまな素材を扱いますが、建築は多様な素材──鉄骨や木やRCの他、アクリル、ガラス、カーボンなど──を多様な形状と工法で使います。このとき、すべての性質を知ることはできませんが、知らないとつくれないわけではありません。現実的にはつねに〈見切り発車〉をしています。心配な点は労力をかけて解析や実験をして確認すればよい。的を射た検討ができれば慎重になり過ぎる必要はありません。また、現場には愛すべき職人たちもいますから、顔を合わせて相談し、声を聞くことも大切です。

芦北町とのコラボレーション

佐藤──はじめにご紹介するのは《地域資源活用総合交流促進施設》という多目的ホールです。熊本県の芦北町にあります。建築家は高橋晶子さん+高橋寛さん/ワークステーションです。竹カゴのように、厚さ120mmの帯状の集成材を半分ずつ相欠きにして、交互に編むように組むことでドーム屋根をつくっています[図1]

1──《地域資源活用総合交流促進施設》内観

屋根伏図です[図2]。このアメーバーのようなかたちに沿って、RCが立ち上がっていて、その上に木のドームが載っています。RCの曲面壁が内側方向に平面的にアーチ状になり、ドーム屋根が開くように働くスラスト(外力)を抑えています。RCは圧縮に強いという性質とうまくリンクした形状です。幅36m×長さ45mの平面の上に、斜めに屋根が架かっています。断面図です[図3]。屋根はペラペラに見えるので、シェルの形式は材料効率がよいということがわかります。交差部の詳細です[図4]。相欠きしたところにラグスクリューを打っています。上から打っていて、下からは見えません。

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2──《地域資源活用総合交流促進施設》屋根伏図
3──同、断面図
4──同、交差部詳細図

この「編んだような構造」のきっかけは、ドイツに留学してきた大学院生の話を聞いたことです。約25mの長さを厚さ2cmの材で架け渡せるとのことでした。地震などを考えるともう少し厚みが必要ですが、「やってみたいね」と話していたら、ちょうどこのプロジェクトの話が入ってきましたので、こちらから高橋さんたちに提案して実現に向かうことになりました。
設計が始まってから、その大学院生たちが東京の用賀駅のイベントで架構をつくる機会がありました。一辺8mの正三角形平面で、三方向に木の帯を編んでいます[図5]。幅30cm、長さは12m、厚さ2.3mmの合板を3枚重ねたものです。これらの帯状の合板を現場に運び、端部の曲げには結構な力がいりますが、人力で編むことができています。平面がどんなものであれ、カゴのように編んだシェルはお互いに噛み合い、重なりの部分は曲面上の測地線に沿って落ち着くという性質があります。応力を伝え合わないので接合の必要はなく、熊本でのラグスクリューは念のために打っているくらいです。

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5──用賀駅イベントでの架構

この設計を進めていたころ、《地域資源活用総合交流促進施設》の体育館脇にトイレ棟をつくりました。幅4m×長さ16mの長方形平面に、厚さ9mmの板を垂れさせるように架け、放物線状になった状態で端部を固定しています[図6]。幅30cm×長さ約7mのスギ丸太から引いた一枚板を編むことでできています。「編んだような構造」の提案に対し、芦北町役場の人たちから実際につくれるのかという声が出ましたし、高橋さんたちも若干イメージがあやふやという状態で始まりましたが、こうして小さなスケールの実物を2例お見せすることができ、話がスムーズに進みました。

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6──トイレ棟の現場風景

これはドームの構造的な理想形状の検討で、かつてガウディもやった懸垂模型です。糸を垂らし、その交点にクリップを付けて重りにしています[図7]。意外でしたが、頂点が尖った放物線やカテナリーではなく、楕円に近い曲線になりました。一応比較したグラフがあり[図8]、川口衞先生には「こんな差は微々たるもので、取るに足らない」と一笑されてしましたが、理想的な状態を追求したいので、楕円で進めていました。
ところがいざコストを試算すると予算の3倍オーバーで、計画が危機的な状況となりました。集成材をつくってくださる山佐木材の方に相談すると、楕円はそれぞれ曲率が違うため型が膨大に必要だとわかりました。球面なら予算内に収まるというんです。設計期間の終盤でしたが、慌てて風や地震の解析、座屈解析をやり直しました。最終的に半径40mの球面となりました。やはり楕円よりも球面のほうが若干曲げが大きくなるので、理想からは少しずれるのですが、材の厚みも120mmのままでよいことがわかりました。

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7──懸垂模型
8──曲線検討グラフ

敷地は20mくらい盛土のある高台で、まわりを山に囲まれ、隣に既存の大きな体育館がある場所でしたので、複雑な風の状態になることが予想されました。さらに熊本は台風も頻繁に通過するということで、風洞実験をやりました[図9]。煙を流してみると、ドームを超えて風が巻き込んでくる部分に一番大きな応力が発生することが分かります。ドームは、重力に対しては懸垂模型で理想形状にできるのですが、一方で地震や風という横力に対してはどうしても弱くなります。このときも風圧の偏荷重による座屈がもっともクリティカルな状態でした。でも実験や計算の末、幸い、大丈夫だとわかりました。
また、いちおう交差部の強度試験もやりました。これが破断状況ですが[図10]、ラグスクリューで打った部分がわかります。交差部分が剥離して脆性的に壊れるのではないことがわかりました。噛み合っているおかげで圧縮がどれくらい効くかを検証してみると、繊維が直交方向だったので効果は微妙でしたが、63mm程度、つまり+5%の厚みの性能アップが確認できました。

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9──風洞実験
10──交差部の強度試験

これは長さ10mの集成材を型に押し当てて曲げているところです[図11]。集成材のほぼ最大サイズです。厚さ20mm×幅900mmですので、迫力がありますが、ドーム状に36mを掛け渡すとペラペラに見えます。
これは地組したユニットです[図12]。長さは長いもので10mくらい、幅は3.6mが基本ユニットです。クリアランスをテストしながら検討を進めました。

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11──集成材を曲げているところ
12──地組したユニット

こうして屋内を総足場にして組み上げてジャッキダウンします[図13]。球面なので曲率は一定ですが、材同士は直交しません。相欠きの刻みの角度がかなり大変だったのですが、松下・佐藤建設工事共同企業体と山佐木材の技術力により、見事にできました。ジャッキダウンでの沈みは予想8mmぐらいのところ、外した直後に5mm沈んだだけだったので安心しました。その後現場が続いていた間計測し、クリープで約2cmほど沈んだ後は概ね落ち着いています。
上棟後、とりあえずジャンプしてみたところです[図14]。この赤い点がドームの頂点です。RCのシェルは微動だにしないかもしれませんが、木のシェルはやや柔らかく、少しの揺れを感じることができます。解析上は上下動の周期が0.6秒なので、シェルとしては比較的長いと思います。上下動の応答解析をしてみましたが、弾性範囲という結果でした。

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13──屋根のジャッキダウン直後
14──上棟後、ドーム頂点でジャンプ

こうして無事にカゴを編んだような構造を実現することができました。本当に編むのとは違った、このシェルならではの独特の形態になったと思います。この芦北町では、たまたまこの多目的ホールの1年半前くらいに、スギの丸太を使った小さな2階建ての小学校《熊本県芦北町立佐敷小学校》をつくる機会がありました。そのときから好意的な役場で、地域の方もたいへんよくしてくださいました。ですから、高橋さんたちからこのプロジェクトのお話をいただいたときは、「芦北町ならもう一回やりたい」という思いました。
また、熊本県の木材は比較的質がよく、ヤング率が高く、かつ材の曲がりの少ないものが入手できます。熊本県林業研究指導所には佐敷小学校のときも丸太の実験をやっていただきましたし、《地域資源活用総合交流促進施設》の曲げ試験もやってくださいました。役場の方々は実験の必要があることがわかると、試験体の木材を調達したり、そのための費用を町から捻出したりと非常に協力的で、現場に入ってからも楽しんで見てくれました。完成してからも何度も役場の方にお会いしましたが、喜んでくださり幸せなプロジェクトだったと感じます。
これまでもいろいろな建築家の方から、カゴ状に編んだ構造ができないかという話はありましたが、なかなか実現できずにいました。そんななか、このプロジェクトが成功したのはそうした幸運な状況がいくつも重なったおかげです。日本の建築のつくり方の好例だと思います。

ヴェネツィア・ビエンナーレ──建築技術の可能性を見せる

佐藤──次は「ヴェネツィア・ビエンナーレ」でのプロジェクトです。2010年は妹島和世さんが総合ディレクターをされて話題になりましたが、私は石上純也さんの展示の構造設計で2008年と2010年に関わりました。
2008年は、日本館で独自の植物を育てる温室を四つ点在させるというアイデアです。温室と言っても、空調とか湿度コントロールを機械に頼らず、ガラスで被われた環境によって少しだけ違う植物を育てる《Extreme Nature》という提案でした。
これは初期の模型ですが、申し訳程度に針金の柱が建っています[図15]。フレームをなくしたガラス構造も可能なのですが、そうするとガラスが厚くなって存在感が出てしまいます。ここではまず超高張力鋼を使いました。鉄骨量は少ないので、多少お金を使ってもいいだろうと。柱脚も柱頭も剛接合にして座屈長さを短くし、ガラスを引張ブレースとして効かせています。
このときは、柱の長期曲げをなくし絶妙な配置を見つけるためのソフトウェアをつくりました。柱をマウスで動かすと瞬時に計算がされて、その都度リアルタイムで安全率が色で表示され、膨大なスタディを可能にしました[図16]。それらの結果、高さ最大5.85mの建物の柱は32mm角、高さ1.9mのものは16mm角という部材で実現できました。

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15──《Extreme Nature》の初期模型
16──柱の配置スタディをするためのソフトウェア画面

梁の制作の様子です[図17]。日本でつくってコンテナで運び、現地で組み立てます。鋼材はWEL-HARD500、もしくはWEL-TEN780というものすごく強い鋼材です。引張強度が16.7tf/cm2で、通常よく使われるSS400に比べて4倍強く、かつ溶接できるという優れものです。それを一本一本溶接するのは手間なので、厚さ16mmの板からレーザーカットで刳り抜き、梁の格子をつくっています。短い柱が付いていますが、現地に運んだ後、溶接して継ぎ足しています。

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17──梁の制作現場

このとき、柱の長期曲げをなくすことを思いつきました。単なるラーメン構造でも長期荷重でわずかな曲げモーメントが発生してしまいますが、これをなくそうということです。同時に、梁がたわむ分だけあらかじめむくりをつけます。石上さんは《テーブル》(2005年、構造:小西泰孝)の例もありましたので、「ムクるのは当然」だと(笑)。手順としては、柱をピンにして荷重を乗せて梁が水平になったところで溶接して固定することが考えられますが、柱頭と柱脚共にピンで建て方をするのは精度が出しづらい。また、ガラスを載せた後に溶接するとガラスが割れてしまうので、その手順ではできません。そのために考え出したのがこれです[図18]。鉄骨に比べてガラスの重量が支配的なので、まず柱を垂直に、梁も水平につくり、溶接して固定します。そして、ガラスを載せたときと同じ変形になるような荷重を載せてから、梁をバーナーで炙って水平に矯正します。バーナーで炙ったところが焦げたような状態になっていますが、鉄骨は熱を入れると縮むので、キャンティレバーで出っ張っているような部分は上側を、単純梁で支えている状態の部分は下側を炙りました。この炙りは技術がいるもので、現場に行ってくれた鉄骨ファブのなかでも一人の職人にしかできないというものでした[図19]
荷重をリリースすると梁が跳ね上がります。見事に二方向に曲率が施され、概ね6cmほどうねっています[図20]。その後、荷重と同じ重さのガラスを載せます。梁は水平になり、柱はもともと梁と90度に溶接されていますから垂直に戻ります。柱に曲率が入っていないということは曲げが発生していない状態です。

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18──上図:「荷重を載せると梁がたわむ→たわむぶんだけムクっておけば荷重を載せたときに水平になる。柱の上下ともヒンジであれば、柱に曲げモーメントは発生しないが、不安定。座屈に抵抗するため荷重を載せた状態で溶接したいが、ガラスを載せた状態では溶接できない」下図:「荷重のない状態でまっすぐ組む→荷重を載せた状態を想定する→同じ変形状態になるようおもりをぶら下げる→梁が水平になるまでムクる→おもりを外すと梁がはね上がる→荷重を載せると梁が水平になる。柱は自然にまっすぐになり曲げが発生しない」

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19──梁を炙って水平に矯正する
20──荷重を外して梁が跳ね上がる

ガラスの間にはアルミの目地を仕込んでいます。これもこのとき開発したもので、極めて目立たないようにT型の金物でガラスを接着しています。接着剤はセメダインY620という製品で、200kgf/cm2の接着強度を発揮できます。コンクリートと同じくらいの強さですが、硬化すると透明になるうってつけの製品です。このときは3カ月限定でしたので大丈夫でしたが、荷重がかかった状態で放置すると劣化してしまうので、恒久的な建物で使うにはもう少し改善が必要です。曲げ試験をしましたが、接着剤の部分はびくともせず、ビス留めしたアルミの材が曲がってくれます[図21]。これもそう危険な壊れ方はしないということで使えるものだとわかりました。柱と格子状の梁のラーメン構造にガラスがブレースとして付いています。ガラスは最終的に厚さ8mmです。内部に土が入り植物を植えて完成しました[図22]

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21──アルミ目地
22──完成後の展示風景

2010年も再び石上さんと組んでインスタレーションをつくりました。石上さんの提案は《architecture as air》、大気に溶け込むほど儚い、極細の架構で空間をつくれないかというものです。発想のきっかけになったのが、φ0.9mmで、ヤング率が4000tf/cm2というスチールの2倍くらいの硬さを誇るカーボンです。もう少し太いとさらに硬くできるかもしれませんが、カーボンでほぼ最高の硬さです。これを、ACMという日本の会社が唯一つくれると言ってくださいました。石上さんは柱の高さを6mにしたいと言っていましたが、制作上3.8mが限界でした。この細いカーボンは窯で焼くのですが、その窯の大きさの限界です。いくらヤング率が高くても3.8mを自立させるのは難しく、なんとか建てられないかと、ジャングルジム状にするとか、足元を剛接合にするなどいろいろ考えましたが決め手がありません。途方に暮れていたころに私が、「カーボンナノチューブくらいの細い糸でブレースにしたらほとんど見えないでしょ?」とぼやいたら、「それはアリかもしれない」ということになりました。それで細い糸を探して見つかったのが、ポリアリレート繊維というもので、φ0.02mmでした。もともと繊維をよってあるのですが、それを石上事務所の所員の方がほぐして使っています。近くでも見えず、後ろに黒い洋服を着た人が通ったりすると辛うじて見えるくらいです。とはいえ、φ0.02mmに対しφ0.9mmのカーボンはかなり太いものですから、ブレースとして効くのかという解析をしました[図23]。実際、高さ3.8mの柱を13カ所留めなければならず、さらに4方向に向かって張るので、計50本ほどで自立します。座屈荷重5gでしたが、幸い梁は2gぐらい、柱も上のほうだけ考えると2gぐらいなので、可能性がなくはないと(笑)。日本で一本だけモックアップを建てて計測してみるとほぼ5gで座屈し、なんとかいけることがわかりました。しかし、設営期間は3週間だけで、そのあいだにこの柱を44本建てなければいけない。私は2008年のときは現地で指示ができたのですが、2010年は費用も時間もなく、遠隔操作しかできませんでした。建つということは証明でたので、あとは時間との勝負だと。どうしてもやると言うならやってみてくださいと伝えました。到底時間が足りないとは思っていましたが、驚いたことに一旦は見事に44本建ちました。

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23──座屈解析画面

その後、開会3日前に石上事務所から「全部倒れました」と泣きの連絡が入りました。「寄りかかるように何本か倒れることはあっても、全部一度に倒れるはずがない」と言ったら「ぐしゃぐしゃです」と。最初はなにが起きたかわかりませんでした。夜間の防犯カメラの映像で発覚したのですが、なぜかトップライトが空いていたらしく、そこから野良猫が紛れ込んでしまったようです。仕方がないので、柱の下のほうは少し余力があるので、張る糸の数を少し減らす提案をしましたが結局安全を見てもとのままで、開会までに20本が修復されました。開会日に審査があり、幸い金獅子賞をいただくことができました。その後、豊田市美術館で再現されて、去年の12月まで3カ月間ほど展示され、私はそこで初めて見ましたが、ちゃんと建っていました[図24]。ヴェネツィア・ビエンナーレは、新しい建築を世界中の人たちが見せ合うお祭りです。これらは建築とは言えないかもしれませんが、建築技術の可能性を見せることもわれわれの活動のひとつだと思っています。

建築を実現させるために
──見切り発車/実験/協力体制と信頼関係

満田衛資 ──はじめに〈見切り発車〉というお話もありましたが、エンジニアであっても、設計のプロセスのなかで完全にゴールが見えているわけでありません。一方で、最近はBIMのようにつねに状態を確認しながら設計を進める方法もあります。もちろん可能ならばあらゆる情報を知っておいたほうがよいと思っていますが、〈見切り発車〉の利点もありますよね。

佐藤──そうですね。実際に建築をつくるプロセスでは、つねにデータを共有するのはなかなか難しいし、必要を感じていません。案を練る段階では、くだらないスケッチをしているときや、こういうふうに考えられないかとか、少し違った発想が入り込んだときに、なにかが生まれることがたくさんあります。不確定要素を保持しながら設計を終えるということも大事で、それをもとに現場で相談をしながらつくります。時間もお金も制限があるなかで、未解明な要素すべてをチェックしきれませんので、的を射た検討をしたうえでの〈見切り発車〉は必要です。構造を考えるうえで、本来ならば、スパン、ピッチ、高さ、階高などの厳密なデータが必要ですが、僕はいちいち建築家に詳細を聞かずにとりあえず計算を始めます。さまざまなパラメータを頭に描きながら、まずはザッと計算をしてまずは建築家に提示します。建築家も十分にイメージできていなかったりしますから、そうしたこちらからの投げかけから始まることもあります。これも〈見切り発車〉といえますね。

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佐藤淳『佐藤淳構造設計事務所のアイテム』
(INAX出版、2010)

満田──最近刊行した『佐藤淳構造設計事務所のアイテム』という本のなかでも、〈実験〉という言葉がよく登場します。わからないことがあったときに実験をするというのはまっとうなプロセスですが、なかなか実現は難しく、たぶん多くの構造設計者は、うらやましい/よくやるなという意見が半々だと思います。実験するためには、建築家や建築主の理解をえるのが難しいと思いますが、どのように実現させているのでしょうか。

佐藤──私は実験が好きなので、普段から「このプロジェクトはなにか実験に結び付けられないか」と思っています。計算や文献で調べても腑に落ちないことは、モックアップをつくって潰してみるとわかりやすい。そのためには、お施主さんに必要性をわかってもらい費用を捻出しないといけないし、場合によっては自分の報酬から出すこともあります。実験のための規模や時間、どういった施設が必要なのかをなどをつねに考えていると実験のイメージが出てきて実現に近づきます。大学の先生には「こんなプロジェクトがあって、こんな実験がやってみたい」と言うと、気さくにやってくださるケースも多いですし、論文に結びつくような内容であれば、大学院生たちに手伝ってもらったりもします。

山口陽登──《地域資源活用総合交流促進施設》は、役所の方と良い関係を築けたそうですが、逆にうまくいかないこともありますか。

佐藤──建築をつくるプロセスを、そのプロジェクトに関係するすべての人──役所、施工者、建築家、お施主さん、市民──が理解し、協力体制をつくり、腹を割って話せるような信頼関係がないと、工夫を凝らした建築はほとんど実現しません。私がこういった特異な建築をどんどんやっているような印象があると思いますが、もちろんうまくいかないケースも多々あります。役所には、初めから喧嘩腰の威圧的な人や設計者を下請業者扱いする人がいて、私も度々大げんかをしています。ちょうど先日も、東京の港区役所があまりにも威圧的なので私が降りてしまったプロジェクトがありました。ほかにも葛飾区役所や新潟県上越市役所などいつくか似た例があります。先方も私のことをよく思っていないと思いますが......。役所の担当の方々は、トラブルに対して実際に対処されているので、なるべく無難につくりたくなることは理解できます。ただ、トラブルを回避するために一緒に考えていく体制をつくればよいのであって、エンジニアや建築家や施工者が持てる技術を駆使してうまく建物をつくろうとしているのに、それを萎縮・停滞させるような態度は解決に繋がりません。それらの活動が萎縮してしまっては、たいへん大きな社会的損失です。こういう、「あの役所のあの人の態度に疑問を感じる」「威圧的なことを言われた」「審査の考え方がおかしい」ということは、設計者側からきちんと発信して、改善すべきことです。そういう方々は国の側から改善を指導しないと変わらないので、そのための働きかけをすることが大切です。

★──本稿は、2011年2月26日(土)に行なわれた、archiforum in OSAKA 2010-2011(シリーズテーマ:誰がために建築は建つか) 第10回:佐藤淳「多様な素材による多様な形態を並列に見る」(コーディネーター:満田衛資、山口陽登)をもとに構成したものです。
archiforum ウェブサイト=http://www.archiforum.jp/


さとう・じゅん
1970年生。構造家。東京大学特任准教授、佐藤淳構造設計事務所顧問。構造設計を手がけた作品=《公立はこだて未来大学研究棟》《四角いふうせん/Balloon》《武蔵野美術大学美術館・図書館》ほか。共著=『20XXの建築原理へ』『ヴィヴィッド・テクノロジー──建築を触発する構造デザイン』ほか。


201104

特集 構造と建築


日本の建築のつくり方
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