「エレメント」オープン記念レクチャー

セシル・バルモンド(建築構造デザイナー)
この展覧会のテーマは、私たちを取り巻く自然そのもの(私たちもその一部なのですが)について、また、私たちが自然のしくみを抽出し、抽象化していく途中においての、私たちの本質、本性としての自然についてです。本日はこの展覧会の構成がどのようなものであるのか、また、これまで私が取り組んできた研究と仕事にどのような影響を与えてきたのかについてお話しします。

自然の本質──Branching、Folding、Packing

©Prestel Verlag,
Munich-Berlin-London-New York 2007
自然を見るとき、私たちはさまざまなものの外観、あるがままの姿を見ていますが、私の場合トスカーナの畑のような場面を、写真に残す、あるいは画像化することによって、その本質を抽出し、抽象化させるプロセスが始まります。さらに見たものをスケッチし、外観のさまざまな形状や特徴を残していくことによって、ただの外観よりもさらに深いレベルで、それが組み立てられている組織そのものを見ることができるようになります。
私はこの日、このトスカーナの畑を3、4時間ずっと見つめていました。そうすると、この畑の底から、だんだんと木材のようなものが見えてくるようになりました。そして点在する干し草の束が、木目のように見えてきました。このようにして新たな次元を抽出し、抽象化された木材のさまを、この情景に重ねていくことによって、私にとっての新たなリアルともいえる"内なるかたち"が浮かび上がってきたのです。

©Prestel Verlag,
Munich-Berlin-London-New York 2007
庭の植物を望遠レンズを通して見ると、光の粒子そのものが見えてきます。そして、本質そのものを抽出し、抽象化させている、原子と喩えられるようなものへと辿っていくことが出来ます。
写真は、ブランチング・ストラクチャー(branching structure 分岐構造)を通じて、葉がエネルギーを求めネットワークを構成している様子です。ブランチング・システム(分岐システム)は、自然のもっとも偉大な発明のひとつです。私たちが日々の生活で頼っているライフラインにおいても、大いに活用されています。例えば生活の根幹を支えている電気もそうです。エネルギーの供給網や道路網なども、ブランチング・システムに依存しています。分岐の間隔が小さくなればなるほど、そのあいだからネットワークが生まれてきます。まさに植物の科学的、物理的なさまざまな反応が、エネルギーそのものを生み出していきます。私たちは周囲をとりまくネットワーク構造に、実は大いに依存しているのです。

©Prestel Verlag,
Munich-Berlin-London-New York 2007
かたや炎を見ていると、一見ブランチング・システムのように見えますが、実はフォールディング・システム(folding system 折りたたみのシステム)です。エネルギーを求め続けている熱のベクトルと、冷気の溜りとで構成されることによって、折りたたまれたシステムになっています。そして、この熱を帯びたところは動的なエネルギーそのものであり、冷気を帯びているところはエネルギーのポテンシャルを抱えているところです。この両者があることで、炎は燃え盛るわけです。エネルギーのポテンシャルをもった冷気のよどみがなくなれば、炎は消えてしまい、存在しなくなります。

©Prestel Verlag,
Munich-Berlin-London-New York 2007
水流を見てみましょう。先ほどの熱にあたる動的なところは、水の流れそのものであり、冷気にあたるところは、静かに澱んでいる渦のように見えているところです。このよどみは、ポテンシャルとしてのエネルギーたりうるところであり、大事なことは、動的なところばかりをみてしまうと、エネルギーのポテンシャルを見逃してしまい、また逆にそちらばかりを見てしまうと、動的なところを見逃してしまうということです。そして、自然のなかにおいては、いずれもひとつのものに集約できる性質のものではなく、すべてのものが総合的であり、双方が絶妙に依存しあった相互関係と、バランスの取れた力関係のなかで成り立っているということです。
私たちが目の当たりにしている自然という大きな情景のなかには、先ほど述べたブランチング・システム、フォールディング・システム、さらに、その根底にはパッキング・システム(packing system 包括システム)というものが存在しています。

自然に隠された数列

絵を描くことによって、ものの本質を導き出し、抽象化させていくという行為は、原始時代からずっと続いてきたことで、民俗的な風習のなかにも見出されます。近代に至るまで、私たちはこのような抽象化の営みを続けてきました。この抽象化をさらに突き詰めていくことによって、幾何という学問へと踏み出していきます。それをさらに突き詰めていくと、数学で使われているさまざまな記号へと至るのです。
このようにして、私たちはまわりを取り巻く実際の物理的な世界そのものから秩序を見出し、幾何学へ、さらに記号へと変換させていきます。シンボルを元にすることで、コードを編み出し、このコードに基づいて、外的な形を創り出すことができるようになります。何かを創る際、もう一度観察し、想像力を働かせ、再び抽象化の過程にたどりつくのです。大きな円環を描いて元に戻っていくような営みといえるでしょう。

私たちは、外在する世界──例えばこれは自然ということもあり得ますし、私たちがつくり出した建築物なども含めることもありますが──を見つめ、新たなものを創りだそうとする時、さまざまなことを考え観察し、想像をめぐらせます。そして今度はそれを組織立てているものは何であるかを考え、そのなかにあるパターンを取り出します。それが、内なる世界(internal)と外にある世界(external)を繋ぎ合わせています。両者をつなぐ道は決して単純なものではありません。幾つものルートがあり、そこにはデカルト的な、またノンリニアな領域、さらに物質的な領域が存在しています。
ここで重要なことは、アイディアの段階から最終的な形を創り出すまでの過程で、どれだけのコンテンツを含められるかということが作品の強さに影響を与えるということです。あまりにも多くのものを持ち込んでしまうと、最終的に生まれてくる成果があまりにも誇大で、中身が詰め込まれすぎたものになってしまいます。一方、コンテンツが少なすぎてしまうと、非常に内容の乏しいものになってしまいます。これが丁度良いものになっていると、私たちの求める好ましさというものが得られますが、これは決められた法則や科学によって求められるものではありません。あくまで私たちの経験と、そのなかから生まれてくる勘や本能といったものから内発的に出てきます。そしてそれは、システムやその根底にある組織を理解し、内容や本質を他と見比べることで、はじめて可能となります。


自然の植物の葉がどのように生えていくかということは、アイディアから外的な形が創り出される道筋を考える上で極めて興味深い事象です。実はこれには、「3」という要素が関わっています。まず、「1・2・3」という3枚の葉が生まれます。続いて同じく「4・5・6」という3枚が生まれます。できるだけ太陽を存分に浴びることが出来るように葉の位置が定まっていくわけですが、出発点が微妙にシフトしながら螺旋が描かれていきます。
ヒマワリの種の配置にも、3の倍数という原則を見出すことができます。外側へ向かう線の一本一本をたどっていくと、非常に興味深いことに、ちょうど「8」や「13」といった間隔になっていることがわかります。これらの「5」「8」「13」「21」という系の数字はフィボナッチ数列なのです。また、そこから導き出されるものが、黄金比ということになります。
バラの場合にも「3」という数字が花弁の配置の基本となっています。花弁が規則的に集合したバラはパッキング・システムを持っているといえ、同時にフォールディング・システムのうえに構成されているのですが、それを自然が行なっているわけです。

今回の第一展示室では、上から垂れ下がるバナーが、森のような体験を皆さんに提供しています。バナーの森を抜けると、レシプロカル・グリッド(相互関係にあるグリッド)という作品があります。ここでは、「パッキング・システム」「フォールディング・システム」、「ブランチング・システム」について考えていきます。レシプロカル・グリッドは未来の神殿であり、未来のコードを示しています。

第二展示室は、新たなコードから生まれてくる新しいフラクタルスペースを紹介しています。入口から入ると、フラクタルの洞窟、フラクタルの川、フラクタルの岩、フラクタルの雨、フラクタルの風になっています。ここで、「川」「風」「岩」という言葉を使っていますが、これはメタファーであり、自然が私たちに示し与えてくれるものを表現するために、あえて使っています。

Prime Floor
これは素数の川です。素数と素数の間隔、どれだけ数字があいているのかということをプロットし、構成したものです。素数というものは、数学的空間を構成するなかでは、明確なポイントとなる点ですが、これらの数字の差をみていくと、ここにもフォールディングを見出すことができると分かりました。
何が素晴らしいかというと、素数の基本的な性質については、本当のところだれも理解していないけれども、このようにプロットしていくと、なんらかのリズムを見出すことができるのです。そして私が興味深く思うのは、音楽そのものをどうやって楽譜に記すのかということ、例えばバッハのフーガが思い起こされるということです。

Prime Wall
そして、壁に描かれているものもまた素数から導き出された図です。ここではフォールディングではなく、パッキングになっています。2から何千という偶数だけを辿りました。すべての偶数は、素数を組み合わせることで誕生するものです。その意味でパッキングなのです。麦畑の上を風がそよぐ眺めが思い起こされます。あいだがバラバラにあいたような文様ができてくるのですが、これらの根底には組織立った体系があるのではないかと感じさせられます。

《H_edge(ヘッジ)》

H_edge(imageC6)
第二展示室の始めの部分に話に戻すと、入口のところにあるのが、洞窟、《H_edge(ヘッジ)》と呼んでいるものです。「hedge」とは、生け垣のような「境界」という意味です。
概念上、《H_edge》の最初の形は1×1の完璧な立体です。次にそのまん中に穴を穿ち、それぞれの面を完全に9分割します。そして、面に穿った穴と同じプロポーションを保ちながら、残されている面にもまた穴を空けていきます。そうすると、またしても9×9という原則に基づいた新しい形状が生まれていきます。それを何回も繰り返すことによって、最終的には、一連のこうした穴によって構成されている欠片が残されることになります。そして、この穿たれた穴すべてを「0」とし、面として残ったところを「1」とすると、それぞれの面において「0」が圧倒的な存在感を持ちだします。言い換えると、これはヴォイドによって構成される組織ということになります。そして、ここにはデザインの余地を見出すことができます。大きなヴォイドは出入り口になり、小さいところは窓になります。

では、これを物体化させるとどうなるのかということに興味をおぼえました。そして、まずはピクセル化させました。先ほどの図のように、立体であったところにヴォイドをつくることで、物理的に存在する面とヴォイドという構成に変わりました。次に、ユニットとなったピクセルを鎖とプレートへと変換させました。鎖がテンション(張力)、プレートがコンプレッション(圧力)となって、鎖を支えるという構成になっています。鎖に緊張をかけていき、引っぱっているあいだにプレートを架けてつくります。[プレートに刻まれた]小さなフックの摩擦だけでお互いに接続させています。鎖はステンレススチールで、これはイタリアで作られた規格品です。これにテンションを掛けることによって、ちょうど1mm伸びます。ここにプレートをはめ込み、チェーンのテンションを解放します。
時には、雨のしずく、光そのもののしずくのようにチェーンが強く光り輝くこともあります。また時には、プレートだけが宙に浮かび飛び交っているかのように見えることもあります。何にもつなぎとめられておらず、ジャングルのような情景に見えることもあれば、宝飾品のような美しい瞬間に見えることもあります。
この《H_edge》の魅力を考えてみると、結局これを把握しきることは不可能であるということそれ自体が魅力ではないかと思えます。内包する穴によって構成されているという曖昧性が、極めて興味深いことだと思います。そして、これは最終的に何かひとつのものに還元されてしまうものではなく、あくまでも、すべての要素が融合した、総合体としてのフォルムとなっています。コンプレッションブレースとテンションラインという単純な構造であり、最も原始的なユニットのアイディアに基づきながら、曖昧な性質を持った総合体なのです。

H_edge

《Danzer(ダンザー)》



3D Tiling
白と黒の《Danzer(ダンザー)》と呼ばれる岩があります。基本となるのは、三角形四つで構成されている四面体です。これはパッキング・システムであり、興味深いのはそれぞれの形状が、自分自身の形とほかの三つの形を同時に備えているということです。まず、出発点として見ていくと、自分の子として自分と同じ形状のものを抱えていますし、またその中には、ほかの三つの形状もパッキングされ、備えられています。どんなタイルからはじめたとしても、このようにしてパッキングを始めることが出来ます。この作業を永遠に繰り返すことができます。

左から第一世代第二世代へと続いていきますが、この過程を繰り返していくと、もはや目で追うことができないほどの、無限で無数のものへと変化していきます。スケールが無いので、目に見えるものから、目に見ることが到底かなわないような無限に微細なものへと至ります。親の世代に子の世代を詰めるという作業の繰り返しで、このようなシステムが刻み込まれているため繰り返しは永遠に続きます。

Danzer photo:Alex Fradkin
これはシカゴで展示したときの様子です。興味深いのは、これはただのインスタレーションではなく、この中にフォルムとスペースといった建築的なポテンシャルも備えているということです。

端のほうにしがみついている第八世代、第一〇世代を残していくと、パヴィリオンのようなフォルムが現われてきます。これを中から見上げると、結晶のような天井ができあがります。もしこの内側を鏡張りにしたら、息を呑むような空間が広がることでしょう。また、この形のなかにいくつかの切り目を入れることもできます。そういった角度の入れ方によって、建築的なヴォリュームを構成することもできます。


これは、講堂のためにつくったものです。表面に発生しうるさまざまな幾何の関係を示すために、このように色分けされています。パッキングの中身を全部取り出して中を空洞にし、すべての面をネガとして見ていった場合、実に美しい効果が生まれます。また、今のイメージをポジで見ていった場合にも、ここでご覧いただけるように、実に美しい形状を見て取ることができます。壁から天井へと続いていますが、ここでは、四つの基本的な形状だけに基づき、外皮全体に展開されていくような形状をみることが出来るわけです。

なぜ私がこういった四面体に対して興味を寄せているのかというと、鉱物であれなんであれ、私たちの周りにある自然界が、四面体に基づいてパッキングされ、構築されているからです。例えば水晶の結晶も、実は中はきっちりと四面体によってパッキングされています。先ほどご覧いただいた《Danzer(ダンザー)》の四面体をひとつとってきて、ヴォリュームを切り取っていくと、そこからタワーの形状を切り出していくこともできるのです。

切り取った部分が、建築物の吹き抜けやアトリウム空間を構成することになります。これはメキシコで一番高いタワー《Torre Reforma》ですが、これを考えるとき、私はヴォイドと固体のフォルムの関係を見ながら、流線にそって大きな吹き抜け空間を構成しました。この吹き抜け空間はあまりにも巨大だったので、中二階的な新しいヴォリュームスペースを設けました。このようにして、各階の間取りを見ていくと、階によっては吹き抜け空間であるヴォイドが大半を占めることもあるため、設備関係を隅にまとめています。

実際のプロジェクトへ





photo:Christian Richars
7年前、パッキングに興味を持つことから出発したこの研究テーマは、いまでははるかに深いテーマとなり、空間の定義や、ヴォリュームといった建築的なことへの探求へと変わってきています。
これらの形は、三角形という形状に基づいていることから、三角形が本質的に備えている耐震性や強度が得られます。
このような考えに基づいてつくられる実際のプロジェクトは、第三展示室(コリドール)で見ることができます。私たちは、まず自然から多くの本質を見ることができます。自然から抽出し、抽象化し、組織化させていく。フォールディング、ブランチング、パッキング、ノッティング(knotting 編む)などのシステムを把握し、応用することによって、最終的には第三展示室に展示されているようなプロジェクトへと至るわけです。

例えば《コインブラの歩行者橋》は、途中で分割された二つの部分によって構成されており、極端に外側に寄せられた二つの橋桁によって支えられています。
この橋は、日の光の移り変わりによって、非常に面白い現象をみせてくれます。日の当たる側が強く浮かび上がる時、反対側の半分は、陰になって消え去ってしまったかのように見えます。このように、興味深い、ありえない光景を見ることができます。真ん中で切ったらこの橋は崩落します。二分割された橋がお互いを支えあうことで成り立つような関係です。そういった状況に私は興味を持っています。ここでは、ひとつの半分がもうひとつの半分に完全に依存し、両立することで初めて、この状況が成立しているわけです。これが相互依存の原理です。安定のために、ひとつのものが他のものに完全に力をあずけています。これは、フィードバックしあう関係の最も原始的なかたちです。
手すりは折りたたみ(フォールディング)の構造によって構成されています。通常橋というものは、何かをまっすぐに通すためのものですが、人の通り方など流れそのものを変えていくことで、両端を開放することができました。そして、横方向への拡張と広がりを見せることが出来ました。これによって、一気に急いで渡らせるのではなく、歩みをゆっくりとさせる効果を生み出すことが出来ました。こんなにも気持ちがよくて素敵なところなので、急ぐ必要はないですしね。
日が沈むにしたがって、本当に素敵なことがおきます。このように、両端の欄干が炎に包まれたかのような鮮やかさを見せます。また、夜になると光の通路となり、幻想的なリボンのような情景を生み出します。

最新プロジェクトである、数カ月前にフィラデルフィアで開通したばかりの橋の様子も今回展示しました。先ほどの橋とはまったく違った言語を使っています。編み込み(ウィーヴ)の構造が採られています。通常の橋のように梁といえるようなものやいわゆるつぎ目はありません。
この橋は、スチール、木材、そしてポリカーボネイトでつくられています。重量は40t。夜のあいだに一気にこれを吊り上げて、線路の上に架けました。ペンシルヴァニア大学構内の歩行者用の橋で、周囲のランドスケープから立ち上がるように紐をつむぎだし、これを編み上げ、橋として架けたのです。そして向うの端に届いたところで、これを解きほぐし、反対側にある駐車場へと流れ込ませています。


photo:Alex Fradkin
これがコンセプト図ですが、このあたりの景観に存在する要素をつむぎ合わせて構造とし、このような螺旋状の橋にするということを考えました。
実際の地形に当て嵌めると、土手として高いところから段々と螺旋をつむぎだしていき、反対側へと架けています。一連のマスタープランはランドスケープアーキテクトとしても知られるボストンに本拠地を置くササキ・アソシエイツです。10カ年計画で取り組んでいます。まず橋を架けましたが、これからの5年間で、私が組み立てた計画を実行していくことになっています。
これまでに、色々なラッピングのあり方を研究してきました。ここでは、ちょうど巻きつけられ、織り上げられているような形状、これが真ん中で強くお互いに絡み合い、両端で解きほぐされていくような形状にしています。
現時点では、土手の工事はまだ終わっていません。いま見ることができるのは、この歩行者用の橋だけですが、これは単に何かを向こう側へ流すための経路なのではなく、これは進化する途中にある建築のための通路と考えられています。
またこの橋も、日の光が面白い効果を生み出しています。凹凸があるために、光を全面にあびるところ、日陰になるところができるので、ひとつの連続した線に見えてくるところはありません。

『a+u』(臨時増刊号 2006, 11)で発表した《ツイスト(バタシー発電所区域再開発計画 オフィス)》も似たような構成になっています。真ん中で緊張が最も高まり、ここが再開発地域へのエントランスになっています。このアトリウムも、同じように構造が引っ張られツイストがかけられています。ですから、この吹き抜け部分のアトリウムの中に支える柱はありません。編み上げていく、織り上げていくといえるような構造に、私は興味を持っています。ここでは、フォールディング、ノッティングという二つのシステム、要素が見られ、それらを同時に組み合わせて考えていくところにも面白さがあります。

Twist, London

これは皆さまよくご存じの伊東豊雄氏のプロジェクトです。ここでは、アルゴリズムがこのような美しいプロジェクトへと結びつきました。

これは、ダニエル・リベスキンドによる《ヴィクトリア&アルバート美術館 増築》のためのアルゴリズムです。すでにお気づきのことかと思いますが、このアルゴリズムは実はパッキングなのです。これはパッキングとフォールディングを同時に行なっています。

そしてこれは、《ケムニッツ・スポーツスタジアム 2002(Chemnitz)》のための屋根部分ですが、これはランドスケープとして位置づけられます。ここでは、ブランチングとフォールディングを用いています。回転し続ける旋回運動によって、美しい形状が生み出されるのです。この屋根をご覧いただくと、始原的、あるいは原初的といえるようなものが感じられます。また、有機的な自然のものとも感じられます。
なぜかといえば、ブランチングやフォールディングといった、本当に一義的な、始原的な特性を備えているからです。
この形状は、実は植物の茎を顕微鏡で見たときのものと重なります。真ん中にある形状が維管束で、それを細胞壁が取り巻いているように見えます。
しかし、最初から植物を模倣したいと思っていたわけではなく、力学的な方向から、形を導き出すためのアルゴリズムをデザインしていった結果なのです。
この形状には、ルールの繰り返しから生まれてくる厳密さや効率性がありますが、それがちょうど自然の進化の結果をそのまま真似ているように見えるのだと思います。
こういった、アルゴリズムにまつわるさまざまなものを見ていくことで、ひとつ明らかになることは、構造のなかにおける関係性というものは、あくまでも相互的であるということです。すなわち構造のなかにおけるエレメントは、すべてほかのものに依存し、支えられているのです。


photo:Ulrich Rossman

V&A Spiral, London

Chemnitz Studium, Chemnitz

新たなアルゴリズムに向けて



このことは、数学の世界では、極めて特異な素晴らしいものへと結びついていきます。サポートシステムをすべて数字の「1」に置き換えてみましょう。すると、「5/3」「8/5」......といった、フィボナッチ数列が現われてきます。
というわけで、最初にお話した植物の育ち方、成長の仕方へとまた戻ってきました。このようにして、植物がフィードバックを繰り返しながら生長していくように、数列自体もまた、つねにフィードバックを続けることによって生まれてくるものだと気がつきます。次の数字を満たすために、その前の数字を生かし、進んでいく。まるで、1歩退くことで2歩進んでいくような感じです。これこそが、成長の真実、秘密なのではないかと思います。8を5で割り、13を8で割る......こうして少しずつジャンプを繰り返していくことで、残された数字は、黄金分割、黄金比へと至ります。これがパッキング・システムなのです。




Institue of the PEN
では立体ではどうでしょうか。この図では、それぞれのエレメントを色分けしていきました。先ほどの《Danzer(ダンザー)》のように、それぞれのキューブは、自身と他の二つの形を内包し、それらは黄金比の関係にあります。植物の生え方にみられるような、スパイラルが現われてくるように見えてきます。このように、形状そのものを集合として見ていくとき、極めてデカルト的な立体の形状が現われてきます。ですが、内部は極めて穏やかで美しい空間となっています。
ちなみに、これは中東のプロジェクトで、内部の様子です。ここにもパッキングがあるということを示すために、図ではあえて色を残してあります。これは連続的なものであり、つねに変化は続き得るもので、コンクリートのテクスチャーにパターンを被せていくこともできます。また、螺旋の目になるところを見上げると、たしかなスパイラルを見ることができます。
断面図は極めて興味深いものになっています。壁は互いに支え合っていくような関係になっています。そして、下にある出発点の親世代からいくつかの世代が発生し、最終的に、天井近くはフラクタル化されたような形状になります。
そして、パッキングのシステムは、レシプロカル・グリッド(reciprocal grid)──相互に支えあっているという意味での相互主義的なグリッド──になっていますが、これこそが、第一展示室に下がっているバナーの配置や、続くグリッド作品の根幹となっています。このグリッドシステムは、外在的に表現することも出来ます。中東のプロジェクトでは、親世代からフラクタル化された天井に至るまでのあいだに、幾つかの変化を見ることが出来ます。
このように、システムが全体として、生命を生み出し続けていきます。反復していく、繰り返し続けていくということが、フラクタルの本質でもあります。

ここに書いてある簡単な数式(zの2乗+c)が、フラクタルが発見されるフィードバックそのものです。このフィードバックを繰り返すことによって、このように驚くような見事な形状が生まれてきます。
ちょっといじると、対称性をもつまったく違った形状が生まれてきます。大切なことは、どこを出発点とするかというローカリティであり、反復をしていくなかでの厳密さです。そして形状は、カオスに満ち溢れた形状に至ることもあれば、極めて対称性の強い形状になることもあります。
右側の図はDNA図です。よく見ると、フラクタルなものが発見されるはずです。


このドットは、非線形のものですが、美しさに満ちあふれています。一見すると、単純な反復に基づいているように思われるかもしれませんが、第二展示室で経験した素数の床や壁と同じように、微妙なシフトやズレをみせています。しかしこの根底を支えているものは厳格なグリッドであり、それらが成長のためのフォルムでもあるのです。







最後に、最新のリサーチをご紹介します。これまでの経験から、単純なリサーチであると思われてきたものが、最終的には建築のプロジェクトへと発展していくということがあるからです。
今までとは異なり、ひとつのアルゴリズムではなく、四つのアルゴリズムを使い、先ほど紹介した四面体のように、自分自身と、ほかの三種類の四面体を内包しているようなものをつくろうと考えました。そこで、四つのアルゴリズムのそれぞれに、類似するパーツを入れ込みました。それぞれのなかに小さなシンメトリーが生まれています。繰り返しますが、これは幾何的な形ではなく、シンプルなアルゴリズムです。
四つのアルゴリズムを全て稼動させると、そこにアルゴリズムの相互性というものが出てきて、驚くべきことに結晶にも例えられるような形状を生み出しました。これは極めて美しく、実際にモジュールのように使うことが出来ます。塩の結晶のような構造ですが、今までにない、新しい種類の結晶です。
これを立体に落とし込み、隣合っているものを見ながら成長せよと命じたとします。すると、同じ環境設定に基づいて、無機的な結晶の世界から、こういった有機的なものへの変化を見ることができました。同じデータを異なったルールで使っていくと本当に驚く結果になりました。
このように、植物のような、むしろ動物にも見える形状が現われます。このディテールは現われた形状を自らフィードバックし続けることによって生まれたものです。私がこの取り組みを通じて、つねに認識し続けていることは、私たちが知っていることは、私たちが知らないことよりも、はるかに少ないということです。俗にランダムと呼ばれるものから、私たちはなにかを想像するとき、まずランダムなどこかから出発し、いろいろと思いをめぐらし、そして推測を始めます。何かを生み出していく、実在のものをつくっていく過程において、私たちは偶然の道をたどっていくことになります。ひとつのことが、また別のことへと私たちを導いていきます。これは確率の問題に関わってきます。
ランダムなところから出発し、偶然の産物として、あるイベントにたどり着くわけですが、経験を重ねたデザイナーであれば、自分の勘と本能に従って事象を選んでいくことになります。しかし、この偶然の構造は、すべて厳格なアルゴリズムによって導かれています。
だからこそ、私は研究を続けています。研究の内容に対しての理解を深め、自分自身のもっている本能、勘をさらに研ぎ澄ますことで、高めていくことが出来るのです。知られざるものから、知っているものの領域へといたる道筋に広がるのは、さまざまなパターンと、さまざまな組織です。
抽出し、抽象化されていくものに対し、私たちがコード化し、認識する過程も、こういった未知から既知へのあいだの領域に存在しています。
さて、はじめの方のスライドでご説明したとおり、私たちはものを見つめる時、それを観察するということを通して、思いをめぐらしていきます。そこから何かを創り出そうとする際、思索と想像を重ねながら、パターンを見出していく過程が重要になります。それを本能でするにせよ、厳格な方法論を適用するにせよ、この過程がかたちに命を込めていく、あるいは動的なかたちを作る方法なのです。

リサーチから形へ

これが、私たちが目指していく、究極の抽象化です。リアルな世界を見ていき、深く観察することから、私たちは抽象化させてヴァーチャルな世界をつくっていきます。そしてその過程で、私たちは自らのコードを生み出していくことになります。
そして、そのなかに創り出すエレメントのすべての戦略(strategy)を見出すことができるのです。フォールディング、ブランチング、パッキング......そのほかにも無数に存在します。
今回皆さまにご紹介しておりますこの展覧会がなんであったのかといえば、最終的には、クリエイティビティのエレメント(本質)そのものではないかと思います。ありがとうございました。

2010年1月16日、東京オペラシティリサイタルホール
逐次通訳=横田佳世子(イディオリンク)
*講演会内容はウェブサイト掲載にあたり編集したものです。


エレメント 構造デザイナー セシル・バルモンドの世界

会期:2010年1月16日(土)〜3月22日(月・祝)
会場:東京オペラシティ アートギャラリー(3F ギャラリー1・2)
時間:11:00─19:00(金土は11:00─20:00)
休館日:月曜日(3月22日は開館)、2月14日(全館休館日)
関連URL:http://www.operacity.jp/ag/exh114/


セシル・バルモンド(Cecil Balmond)
1943年生まれ。建築構造家。スリランカ出身。英国サウサンプトン大学卒業後、1966年、オーブ・アラップに入社。レム・コールハースやダニエル・リベスキンドら著名な建築家の作品の構造設計を担当。現在、ペンシルバニア大学教授。主な構造設計作品に《カーサ・ダ・ムジカ》(レム・コールハース、2003)、《CCTV新社屋》(OMA、2008)など。


201003

特集 展覧会「エレメント 構造デザイナーセシル・バルモンドの世界」をめぐって


「エレメント」オープン記念レクチャー
セシル・バルモンドから未来の建築を見る
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