ARCHITECT TOKYO 2009──アート・ギャラリーで建築展を開くという試み

藤村龍至(建築家)

概要:6つのギャラリーによる6つの建築展

この夏、東京に点在する6つのコンポラリー・アート・ギャラリーにおいて、6つの建築展が開催されている。題して「ARCHITECT TOKYO 2009──6つのギャラリーによる6つの建築展」。参加するギャラリーは中目黒の「青山|目黒」、銀座の「ギャラリー小柳」、東神田の「TARO NASU」、そして清澄白河に集まる「タカ・イシイギャラリー」「小山登美夫ギャラリー」「hiromiyoshii」の6つである★1
それら6つのギャラリーで行なわれる「個別展示」のほか、全体の「共通展示会場」が表参道GYRE内のギャラリー「EYE OF GYRE」に用意され、全体のインフォメーション・センターの役割を果たす★2。「EYE OF GYRE」では別企画の展覧会「ARCHITECT JAPAN 2009──ARCHITECT 2.0」も開催されている★3
筆者は「ARCHITECT TOKYO 2009」においてhiromiyoshiiで開催されている「生成の世代」展のキュレーションを担当したほか、「ARCHITECT 2.0」展のキュレーション、「ARCHITECT TOKYO 2009」展共通展示の会場構成などを担当し、同プロジェクトに広く関わることとなった。
各ギャラリーの展示企画はそれぞれの個性を生かし、バラエティに富んでいる。まず、全体の企画内容を概観してみよう。
ARCHITECT TOKYO 2009

「青山|目黒」は長坂常を中心に若手のクリエイターを起用し、ホテルをモチーフとしたインスタレーション「HAPPA HOTEL」を開催する。「ギャラリー小柳」は《table》や《四角いふうせん》などのアート作品も記憶に新しい石上純也の《KAIT工房》、および建築家宣言を行なったアーティスト杉本博司の《護王神社──アプロプリエイト・プロポーション 雛形》ほかを紹介。「TARO NASU」はギャラリーの設計などで馴染みの深い青木淳を起用し、「夏休みの植物群」を開催する。
「タカ・イシイギャラリー」は平田晃久を起用し、アルミのピースを連結させ、炎のようなダイナミックな造形をもつインスタレーション「Flame frame」をオフィス・スペースに展開する。「小山登美夫ギャラリー」は鈴木布美子をキュレータに起用し、「建築以前、建築以後」と題し、菊竹清訓伊東豊雄、妹島和世、西沢立衛妹島和世+西沢立衛/SANAAの5組という、菊竹以降の一連のスクールを系譜的に紹介。「hiromiyoshii」は筆者を含むメディア・プロジェクト・チームであるTEAM ROUNDABOUTをキュレータに起用し、「生成の世代」と題して藤本壮介中山英之中村竜治吉村靖孝藤村龍至dot architects山崎清道といった設計プロセスに特徴のある1970年代以降生まれの作家を紹介する。また、共通展示会場となる「EYE OF GYRE」では各ギャラリーの展示から抜粋的に9作品が紹介される。
GYREでは別企画の展覧会「ARCHITECT JAPAN 2009──ARCHITECT 2.0」が、TEAM ROUNDABOUTキュレーションのもと、古谷誠章ヨコミゾマコト日建設計MVRDV竹中工務店隈研吾NTTファシリティーズなどの建築家のプロジェクトが展示されている。また、写真表現を行なう中央アーキ樋口兼一、メディア・アートの徳山知永、インスタレーションを行なう伊庭野大輔藤井亮介といった作家の作品も紹介され、アーティスト集団mashcomixとTEAM ROUNDABOUTとのコラボレーションにより生み出された「戦後日本建築史マンガ」が3点展示されている。

7月31日にはGYREでの「ARCHITECT TOKYO 2009」共通展示、および「ARCHITECT JAPAN 2009──ARCHITECT 2.0」展各ギャラリーにおいて、続いて翌8月1日には各ギャラリーで「ARCHITECT TOKYO 2009」個別展示において、それぞれオープニング・レセプションが行なわれ、出展作家やキュレータ、ギャラリストなどの関係者のほか、建築関係、美術関係のメディア関係者、コレクターなど大勢の来場者で賑わった。各展示はほとんどのギャラリーで8月一杯行なわれる★4

「ARCHITECT TOKYO 2009」会場分布


★1──「ARCHITECT TOKYO 2009」個別展示・会場
○青山|目黒(東京都目黒区上目黒2-30-6)
出展者=長坂常ほか
URL=www.aoyamahideki.com
○ギャラリー小柳(東京都中央区銀座1-7-5-8F)
出展者=石上純也、杉本博司
URL=www.gallerykoyanagi.com
○TARO NASU(東京都千代田区東神田1-2-11)
出展者=青木淳
URL=www.taronasugallery.com
○タカ・イシイギャラリー(東京都江東区清澄1-3-2-5F)
出展者=平田晃久
URL=www.takaishiigallery.com
○小山登美夫ギャラリー(東京都江東区清澄1-3-2-7F)
出展者=菊竹清訓、伊東豊雄、妹島和世、西沢立衛、妹島和世+西沢立衛/SANAA
キュレーション=鈴木布美子
会場設計=西沢立衛
URL=www.tomiokoyamagallery.com
○hiromiyoshii(東京都江東区清澄1-3-2-6F)
出展者=藤本壮介、中山英之、中村竜治、吉村靖孝、藤村龍至、dot architects、山崎清道
キュレーション=TEAM ROUNDABOUT
URL=www.hiromiyoshii.com
★2──「ARCHITECT TOKYO 2009」共通展示・会場
会場:EYE OF GYRE(東京都渋谷区神宮前5-10-1)
URL:www.gyre-omotesando.com
★3──「ARCHITECT JAPAN 2009──ARCHITECT2.0 WEB世代の建築進化論」
出展者=古谷誠章、ヨコミゾマコト、隈研吾+NTTファシリティーズ、日建設計、MVRDV+竹中工務店、中央アーキ+樋口兼一、伊庭野大輔+藤井亮介、徳山知永
キュレーション=TEAM ROUNDABOUT
コラボレーション=mashcomix、越澤太郎
★4──TARO NASUの展示は9月5日まで。タカ・イシイギャラリーの展示は12月末まで。EYE OF GYREの展示は30日まで。そのほかの展示は8月29日まで。開廊時間、休廊日等は各画廊に問い合わせのこと。

考察:資料保存か、商品流通か

なぜ今、現代美術のギャラリーが建築展を開催するのか。今から20年ほど前、表参道にあった東高現代美術館では、当時の若手建築家である妹島和世、隈研吾といった作家を紹介する建築展が開催されたという。今回の一連のアート・ギャラリーの動きは、それ以来の大規模な建築展の開催であると言える。
きっかけは美術界の国際的な動きと連動している。近年、ポンピドゥー・センターをはじめとする国際的な美術館が建築模型や建築家の作品をコレクションしたり、アート・バーゼルを始めとする海外の大規模なアートフェアにおいて著名なギャラリーが建築模型や建築家の作品を出展したりする例が増えているという。
それに対し、日本国内では公的な機関において建築資料をコレクションしようとする動きがまだ起こっていない。現状では、海外の美術館にコレクションされるか、建築事務所の倉庫に眠り、いつしか捨てられてしまうか、どちらかである。
資料保存をめぐっては、これまでもたびたび議論されてきた。日本建築学会でも資料保存のあり方をめぐって議論が行なわれてきたし、建築博物館の設置を求めた運動なども起こっている★5。しかし、その費用を誰が負担し、運営を誰が行なうのか、結論の出ないまま、問題が先延ばしにされてきた。

今回、6つのアート・ギャラリーは、独自に企画した建築展を同時開催することでマーケットを開拓し、貴重な建築資料が無秩序に海外流出したり、廃棄されることを防ごうと呼びかける狙いがあるという。アート・コレクターにとっては領域外でわかりにくい作家のプロフィールや作品の価値も、いくつかの企画がまとまって開催されることで、横断的に眺めることができるいい機会となるだろう。
他方、建築資料がギャラリーで展示されるということは、美術品として扱われることを意味する。今回のギャラリーではほとんどの模型にプライスがつけられ、販売が行なわれている。美術界では普通であるこうした動きも、建築界ではあまりない試みである。ほとんどのギャラリーにとって建築模型に値段を付けることは初めてに近いだろうし、建築家にとっても自分の作品に値段をつけられ、横並びに展示されることはほとんど初めての経験である。
オープニング・レセプションの様子

今回の企画に際して、建築家には2つの対応が見られた。ひとつは模型を販売用に再制作する人と、手持ちの模型を整えて出展する人である。前者は自らの作品を「美術品」として流通させることに意欲的な「攻め」の姿勢であり、後者は今回の機会を建築資料の保存の手段のひとつとしてとらえる「守り」の姿勢である。
展示においても、通常の美術展のようにキャプションも解説もなく、よりスタティックに展示をまとめたギャラリーもあれば、通常の建築展のようにより説明的に作品を並べた建築家もおり、姿勢の違いがみられた。
資料としての保存可能性か、商品としての流通可能性か。両者は決して相容れないものではなく、むしろ両立されるべき目的であると思う。美術の枠組みで「資料保存」を求めるならば、まず美術品として「取引」されなければいけないからである。
筆者はこうした美術界の動きを、ひとつのリアリティとして受け止めている。公共プロジェクトが激減し、実績主義によって組織系設計事務所に独占されてしまっている以上、アトリエ派の作家にとって、「美術」は残された最後の活動領域であるとも言えるからである。こういう作家主義の世界があり、作品の国際的な取引が活発に行なわれているという美術界の動きを建築家が学ぶことは悪いことではない。そのような新しい動きが今、美術界の仕掛けによって、まさに建築界にも導入されつつあるということである。

とはいえ、浮き足立つにはまだ早い。実際に美術マーケットがどれだけの価値を認め、どれだけの建築作品が実際に「流通」されるのか、現時点では未知数であるからである。美術界であれ、建築界であれ、マーケットと上手につきあい、自らのメッセージを確実に届けることがあらゆる作家にとって重要であることは変わりがない。
建築関係者にとっては、建築資料の保存について、作家としてのスタンスについて、多くを考えさせられる夏となるだろう。美術界の動きに刺激されて、建築資料の保存について建築界からも新しい動きが生まれるかも知れない。今回の企画に協力し、出展を行なった建築関係者のひとりとして、ここから何か生産的な展開が生み出されていく必要を感じる。

hiromiyoshiiの展示風景
写真すべて、撮影=藤村龍至建築設計事務所


★5──『建築雑誌』2008年5月号、第1特集「建築資料をのこすということ」

ふじむら・りゅうじ
1976年生。建築家。東京工業大学大学院博士課程単位取得退学。現在、藤村龍至建築設計事務所主宰。東京理科大学、首都大学東京、日本女子大学非常勤講師。PROJECT ROUNDABOUT共同主宰。作品=《BUILDING K》《UTSUWA》など。編著=『1995年以後──次世代建築家の語る現代の都市と建築』など。
http://www.ryujifujimura.jp/
http://www.round-about.org/


200907

特集 建築とアートの新しい関係


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