宣伝する声──街頭宣伝放送

大門信也(法政大学大学院環境政策研究所特任研究員)
こんな経験はないだろうか。街を歩いていると、交通音や雑踏、あるいは店頭から漏れ聞こえるJポップのあいだから、ふと古びた雰囲気の女性のアナウンスが耳に飛び込んでくる。不思議に思い、あたりを見回すと、電柱に小さなスピーカーが括りつけられていた......。
大都市近郊の街や地方都市では、しばしばこのような「街頭宣伝放送」が流されている。電柱に取り付けられたスピーカーから特定のエリア一帯に放送するという形態が典型である。これらは、スピーカーの型も、取り付けの方向も高さもまちまちであることが多く、そこから聞こえる音は、放送内容の特徴(古臭さ?)とあいまって、独特の音響体験を遊歩者にもたらす★1
以下、この街頭宣伝放送の現在と過去を眺めてみたい。

街頭宣伝放送の現在

まず現在の放送の状況を観察しよう。例えば、東京都町田市の駅前では、典型的な街頭宣伝放送を聴くことができる。
放送内容は、主に周辺地域の商店の宣伝[Tr.01]であるが、合間に、放送業者からの広告募集[Tr.02]や、警察からのお知らせ[Tr.03]や発信主体が明言されない啓発[Tr.04]が挿入される。これらは、装置の設置規格が統一されていないため、遊歩者の位置によって音量も聞こえ方もかなり異なってくる[Tr.01, 05, 06]。周辺の空間特性も、反響など、その音像の形成を大きく左右していると考えられる。また、暗騒音(対象となる音源の背景を形成している音環境のレヴェル)レヴェルに合わせているためか、静かなエリアでも、他の音源の間に放送が埋もれる場合もある[Tr.07]。当然、身体の移動とともに音像はリアルタイムに変化していく[Tr.04, 08]。このように街頭宣伝放送は、後景から前景へ、前景から後景へとうつろいながら、街路を移動する遊歩者の空間体験を形成していく。
以上は、2009年7月12日午後15時頃に行なった観察にもとづく記述である。同じ沿線では、下北沢南口でもこうした放送を確認できる。また現在は取り外されたようだが、新宿東口交差点付近に見える、JRのガードに備え付けられたスピーカーが商店の宣伝を行なっていた[図6]
1──スピーカー付き電柱
Tr01──広告サンプル
Tr02──広告募集
Tr03──警察の放送(Tr01-03=4車線道路沿いのスピーカー直下にて[図1])


2──防犯カメラと街頭宣伝スピーカー
3──放送にショートディレイがかかるエリア
Tr04──児童の安全を啓発する放送(人通りの多いエリアにて[図2])
Tr05──ショートディレイのかかった宣伝(4車線道路から20mほど離れた人通りの多いエリアにて[図3])

4──[左]スピーカー付き電柱とビルディング/[右]スピーカーの近景(図1と違うタイプ)
Tr06──低い暗騒音に埋もれる宣伝(人通りの少ないエリア・車道に面したスピーカーから10mほど離れた地点にて[図4])

5──[左]スピーカー付き電柱。配線の中に埋もれてスピーカーが見えない/[右]埋もれたスピーカーの近景
Tr07──低い暗騒音に埋もれる宣伝──路上フォークロア演奏・米軍機との競合(人通りの少ないエリアにて[図5])
Tr08──移動と音像変化(図3付近から図1のスピーカー直下へ移動)

6──新宿東口交差点付近、スピーカーのあったJRの壁(工事中)

1950年代の街頭宣伝放送

「私のアルトも"騒音"?」

ある地方都市の商店主によれば、街頭宣伝放送は、戦後のどさくさで業者が電柱にスピーカーを取り付け、はじめたものだという★2。しかし日本が復興期から高度経済成長期へと転換していく1950年代の中ごろになると、「都市騒音問題」として批判にさらされていた。
図7-1は、1953年9月4日『朝日新聞』東京版に掲載された、当時の渋谷駅前に点在するスピーカーを示した写真である。また図7-2は、1953年10月の『朝日新聞』東京版の投書欄に添えられた街頭放送用スピーカーの挿絵である。図7-3は、1953年11月26日の『朝日新聞』東京版の「はたらく笑顔」の欄である。宣伝を生放送している女性アナウンサーを紹介している。
このように、1950年代前半には街頭宣伝に関する資料を多く拾い上げることができ、とくに1953年ごろには放送への批判が最高潮に達していた様子がうかがえる★3
7-1──「騒音──野放しの渋谷駅付近」
引用出典=『朝日新聞』1953年9月4日夕刊、3頁、東京 1段 47頁

7-2──声欄の挿絵
引用出典=『朝日新聞』1953年10月3日朝刊、3頁、東京
7-3──私のアルトも"騒音"?
引用出典=『朝日新聞』1953年11月26日朝刊、8頁、東京

都市の音を計測する──音響学者たちのフィールドワーク

一方、こうした都市の音の問題は、音響学者たちの「測定技術の向上」という課題とも響き合うものであった。
1952年末から1953年にかけて、日本音響学会騒音対策委員会によって東京で大規模な実測調査が行なわれた。その第3回目として1953年の秋に、渋谷と高円寺と下北沢をフィールドとした街頭宣伝放送の実測調査が実施されている。
図8は、その成果をまとめた論文の抜粋である★4。これらは、当時JIS規格も定まり、技術の確立してきた騒音計をフルに活用した成果である。図8-2を見ると、音響学者たちが、いかに手間をかけ、都市のサウンドスケープを「客観的」に記述しようとしたかがわかる。
8-1──街頭放送の測定結果(実線は街頭放送のレベル変動を破線は暗騒音のレベル変動を意味する)

8-2──渋谷駅の測定結果

8-3──道玄坂測定結果
8すべて引用出典=松村+五十嵐、1953

騒音を定義する──騒音防止条例

そして、50年代中盤以降、騒音防止条例が全国の自治体で設置されるようになる。この条例は、騒音を物理的指標で定義した法令として、日本で最初のものである。以下は、いくつかの条例での騒音の定義である★5

 横浜市:暗騒音(その附近で自然の状態の平均音を言う)を超え公衆に迷惑及ぼす程度の音をいう。
 東京都:音響機器又は楽器から発する音で知事の定めた音量の基準を超えるもの並びに音声動作音及び作業音等で付近の静穏を害すものをいう。
 京都市:音響機器から発する音で条例の定める音量の基準を超えるもの及び作業音、動作音等で著しく周辺の静穏を害するものをいう。

都市的地層の断面を覗く

1990年代、公共空間でのマナー放送や地域の防災無線などを中心とした、拡声器騒音の問題が指摘され[BG.09・中島, 1996]、街頭宣伝放送は再びその存在を問われる状況になった。筆者の印象では、この時期、街頭宣伝放送は細々と行なわれていた。しかし再開発が進められた2000年代の中盤になると、宣伝形態の多様化も含め、その存在感が再び増してきたように感じられる。
都市空間は、資本流動の増大とともにその変化の速度を速めてきた。多くの(特に若い)遊歩者、あるいは消費者にとって、この街頭宣伝放送は、そのような都市空間に突如露出した「古い地層」として立ち現われてくるものであろう。それは、都市の見えざる層を垣間見せる存在として、音の路上観察におけるひとつの興味深いインデックスになると考えられる。


★1──このほかに、街路に立ち並ぶ街灯に放送装置が組み込まれ、そこで商店の宣伝が行なわれる場合もある(渋谷センター街のFMラジオのような放送がもっとも目立つ事例であろう)。また電柱スタイルは、専門業者によるものが多いが、こうした最近のスタイルは商店街振興組合の事業の一環として行なわれていることが多いようである。
★2──2000年7月23日A商店街副理事長へのヒヤリングにもとづく。
★3──『東京都議会月報』3(22), 3(26), 6(55), 6(63)(東京都議会議会局法制部企画課 編、1950a, b, 1953, 1954)など.また、大門信也+永幡幸司「拡声器騒音研究はどのように行われてきたか──1950年代前半における拡声機放送の社会問題化を中心に」(『サウンドスケープ』3、pp.55-64、2001)
★4──松浦尚+五十嵐寿一「街頭放送について」(『日本音響学会誌』9(4)、1953、pp.237-244)
★5──都市問題編集部「資料:各都市の騒音防止条例比較表」(『都市問題研究』7(2)、pp.108-113、1955)

だいもん・しんや
1976年生まれ。環境社会学、サウンドスケープ論。法政大学大学院政策科学専攻博士後期課程修了。博士(政策科学)。法政大学大学院環境政策研究所特任研究員。


200906

特集 サウンド路上観察・序説


音の路上観察へむけて
城南島海浜公園周辺のサウンドスケープ
宣伝する声──街頭宣伝放送
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