城南島海浜公園周辺のサウンドスケープ

金子智太郎(東京芸術大学美学専攻博士後期課程)+滝山聖士(東京大学大学院学際情報学府博士課程)
東京近郊には多くの飛行場があり、その周辺地域では飛行音が日常のサウンドスケープの一部になっている。そして、飛行音をめぐる騒音問題の長い歴史がある。一方、飛行機ファンにとってこの音はフェティッシュの対象かもしれない。この各論では、音と環境の絡み合いを記述するために飛行音を選んだ。
飛行音は大きく、幅広い周波数を含み、連続していて、空間を規則的に移動する。そのため、音の位置を観察しやすい。また、ある程度同じ場所でつねに鳴っている。音が特定の場所でどのように聞こえるのかを記述するとき、これらの特徴が特に重要になる。
観察を行なったのは東京都大田区の城南島海浜公園周辺である。城南島は東京湾に面する埋立地で羽田空港に近く、発着する飛行機を間近で見ることができる公園として知られる。

城南島海浜公園

城南島までJR大森駅から京急バスでおよそ30分。大田市場を一周し、城南島四丁目バス停で下車すると海浜公園はすぐ目の前にある。公園は城南島の東端にあり、一辺およそ450メートルのL字型だ[図1]。園内にキャンプ場、スケボー広場などもあり、南東側の海岸にはボードウォークと人工砂浜が伸びている。このボードウォークは羽田空港に発着する飛行機を観賞するのにうってつけだ。公園南端は空港の北東側の滑走路から約1キロの距離になる。
当日は飛行機が城南島上空を北から南に抜け、北東側の滑走路に着陸していた。空港の南西側の滑走路からは南に向かって飛行機が離陸した。離着陸の方向や使用する滑走路は風向きによって決まるらしい。当日は南から風が吹いていた。録音を終えて帰り支度を始めたころに離着陸の方向が反転し、飛行機が城南島上空を南から北に通過するようになった。
1──城南島の位置:城南島は空港真北の埋め立て島。東端の緑色が海浜公園

地点A:城南島海浜公園南端

公園に到着してまず、ボードウォークを通ってもっとも飛行機と空港に近づける公園南端、地点Aに向かった[図2-A]。車輪を出した飛行機がおそらく500メートルほど先の上空を3分と間隔をあけずに通過していく。轟音を響かせて滑るように横切る機体の大きさのために、風景の遠近感が狂うように感じる[図3]。騒音計は最高78デシベルを記録した。地下鉄車内や間近で聞くピアノ程度の音量だが、音圧や音の移動も組み合わさって生まれる圧迫感は独特だ。北西側では工場が間欠的に大きな金属音を立てている。海にはときおりボートがエンジン音を響かせていた。
地点Aでしばらく観察を続けると、飛行機が突然現われるように感じることに気づいた。機体が目前を通過するときの音量の割に接近するときの音が聞こえない。この地点の北側、飛行機がやってくる方向に高い工場があり、この建物の脇から飛行機が現われる。この建物が視覚的にだけでなく、聴覚的にも飛行機の接近を覆い隠しているようだ。
次いで、空港から定期的にうなるような音が聞こえることに気づいた。南西側の滑走路から飛行機が離陸するときの音だろう。1キロも離れた場所で鳴っているとは思えない低音だった。南に離陸する飛行機のエンジンの排気口が城南島を向くために、このような響きになるのかもしれない。
2──城南島の拡大地図:A-Cは観測地点を示す

3──地点Aからの風景

下は地点Aでの録音から抜粋した音声ファイル、波形、スペクトログラムである★1。飛行機が眼前を右から左に通過する方向、南西を向いて録音した。風の音、虫や鳥の声、工場騒音が常時聞こえている。飛行音は周波数スペクトルに明らかだ。録音では突風と空港から聞こえる離陸音が判別しづらい。音声波形の大きな変化が突風(2:00、4:00付近)、一定の変化が離陸音(0:15、1:30、3:20付近)である。これらの音は非常に低いため、音声スペクトログラムでは形の変化ではなく、低周波部分の色の変化として表われる。

録音:地点A

音声波形:地点A

音声スペクトログラム:地点A

地点B:城南島海浜公園東端

地点Aでの録音後、ボードウォークの反対の端、L字型の角に位置する場所、地点Bに向かった[図2-B]。北東におよそ450メートルの移動だ。この程度の距離で飛行音の圧迫感は大きく減少する。騒音計は最高65デシベル、やや騒がしい会話や乗用車車内程度の音を記録した。
この場所に移動して、飛行機が城南島周辺の上空を左回りに回り込むことがはっきりした★2[図4]。飛行機は城南島の東側から現われ、北東に向かう。そして、城南島の北で左回りにターンし、島の上空を抜けて羽田空港に至る。この移動を地点Bから目で追うことができた。
飛行コースは音にもあきらかだった。飛行機が突然現われるように感じられた公園の南端とは違い、飛行音はゆっくり大きくなり、持続しながら周囲を北東から南西に180度旋回する。北にある機体は建物の切れ目から垣間見えるだけだが、音は建物にある程度遮られながらも、まさに周囲を取り巻いていく。地点Aから500メートルほどの移動で飛行音の配置が大きく変化した。一方、離陸音はほとんど変わらなかった。
4──着陸機の飛行コース
地図図版すべて出典=Google マップ(2,4は筆者が一部加工)

5──地点Bからの風景:飛行機の移動に合わせてパノラマにしてある

下は地点Bの録音から抜粋したファイルとデータ。録音は展望広場付近で、飛行機が眼前を右から左に大きく回り込む方向、北西を向いて行なった。冒頭に聞こえる持続音はボートのエンジン音。離陸音(1:45、3:50、5:10、最後のものは突風と混ざっている)が飛行音とほとんど同じ音量で聞こえてくる。

録音:地点B

音声波形:地点B

音声スペクトログラム:地点B

地点C:城南島飛行コース南端

最後に城南島上空を通過する飛行機のコースの真下でもっとも南の場所、つまり飛行機の高度が最も低くなる地点Cに移動した[図2-C]。地点Aから約400メートル西の路上である。北から南に向かう飛行機の文字通り真下に位置し、機体の腹を見上げることができる[図6]。車が頻繁に通過し、東側のリサイクル工場がたえず金属音を立てていた。
飛行コース真下の音の圧迫感は強烈だ。耳をつんざくような音の巨大な波が周囲を呑みこみ、押し流すような印象だった。騒音計は最高93デシベルを記録した。防音保護具が必要な工場内や、パチンコ店内程度の音量とされるが、音塊が高速で迫る印象はほかの何とも比べ難い。この地点での飛行音の推移は、地点AとBの中間と言えるかもしれない。飛行機が間近に現われる前から予兆のように鳴り響き、圧力をともなって頭上を通過する。
6──地点Cからの風景

下は地点Cの音声ファイルとデータ。北を向いて頭上を前から後ろに通過する音を記録している。録音でも音の圧迫感が伝わるだろう。風は比較的穏やかで、離陸音(1:00、3:00、3:40付近)が大きく響いた。右側から工場騒音がたえず聞こえている。

録音:地点C

音声波形:地点C

音声スペクトログラム:地点C

城南島海浜公園周辺のサウンドスケープ

今回観察した3つの地点はおそらく1キロも離れていないが、各地点の飛行音の配置は劇的に変化する。地点Aでは眼前を横切り、地点Bでは大きく取り巻くように移動する。地点Cでは頭上を、というより周囲一帯を浸すように音が通過していった。飛行機が周囲を大きくターンしてから通り抜けるという城南島の位置のために、狭い範囲のなかでこのようなヴァリエーションが生まれている。加えて、離陸する飛行機のエンジン音、ボートのエンジン音、工場が発する金属音、公園の動植物や利用者の音などが城南島海浜公園周辺のサウンドスケープを構成している。


★1──レコーダーはSony PCM-D50(地点A、B)、Roland R-09(地点C)。また地点Cはバイノーラルマイクadphox BME-200を使用した。音声波形は横軸が時間、縦軸が音の強さ(振幅)を示している。音声スペクトログラムは横軸が時間、縦軸が周波数(音の高さ、10Hz-22kHz)、色の明るさが音の強さを示している。音声波形およびスペクトログラムの描画にはソフトウェアAudacityを用いた。
★2──城南島周辺の飛行コースは、国土交通省東京空港事務所周辺環境課による「飛行コース公開ホームページ」(https://www.franomo.mlit.go.jp/)に詳しい。

かねこ・ともたろう
1976年生まれ。美学、聴覚文化研究。東京芸術大学美学専攻博士後期課程在籍。東京工芸大学非常勤講師。共著=『iPhone x Music__iPhoneが予言する「いつか音楽と呼ばれるもの」』。

たきやま・まさし
1981年生まれ。生態心理学、サウンドデザイン。東京大学大学院学際情報学府博士課程在籍。


200906

特集 サウンド路上観察・序説


音の路上観察へむけて
城南島海浜公園周辺のサウンドスケープ
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