リスボン建築トリエンナーレ2007レポート

清水裕二

ポルトガルの首都リスボンで、第一回リスボン建築トリエンナーレが5月31日から7月31日にかけて開催されている。会期中、展示やイヴェントがリスボンの各所で随時行なわれるが、メインの会場では、ポルトガル展、世界各国が参加した国際展、建築系コースをもつ大学展、ザハ・ハディドなどの招待作家展などが一堂に展示されている。そのなかで、今回チームの一員として作品の制作にかかわった日本の展示を中心に国際展を概観してみたい。

ポルトガル・パヴィリオン
ポルトガル・パヴィリオン

メイン会場はEXPO'98リスボン博の会場跡地が整備されてできた国際公園内、アルヴァロ・シザ設計によるポルトガル・パヴィリオンである。海のように青く広がるテージョ川を背景に、大スパンに軽やかに掛け渡された布のごとく薄いコンクリートシェルに覆われた大空間の下、テーマカラーの青に塗られたOSB(木質ボード)で構成された入り口を入り、受付を抜けると国際展セクションへと導かれる。今回は第一回とあって、知名度も低く予算も十分でない状態での開催で、国際展参加国はドイツ、カナダ、チリ、中国、スロヴェニア、スペイン、フランス、オランダ、アイルランド、メキシコ、モザンビーク、そして日本の12カ国にとどまった。出展した国々にも温度差はあり、残念ながら国際展と呼ぶにははばかられるレヴェルの展示も散見された。そのなかで、印象に残った国々をとりあげてみたい。

各国のUrban Void
今回の展覧会の全体テーマは"Urban Voids"。これに対して、各国はそれぞれの解釈でこのテーマに取り組んだ。はずなのだが、なかには建築の写真パネルをただ並べているだけでテーマに対して答えているのかどうか判じかねる展示もあった。この辺はまだステータスが確立されていない展覧会の悲しさか。一方で、国際建築展の老舗であるヴェネツィア・ビエンナーレのように各国のメジャー揃い踏みとはいかないが、逆にこれをチャンスととらえて若手を中心とした意欲的な展示もいくつかあった。

まずはアイルランド。首都ダブリンにおける、11のプロジェクトを紹介するパネルと模型でコンパクトに構成された展示は非常にわかりやすく、好感が持てた。工業を中心として一時代を築いた世界各地の都市と同様に、産業構造の転換など時代の変化によって、かつて都市の根幹を支えたインフラストラクチャーが当初の目的を果たせなくなったり、あるいは目的自体がもはや現代の社会的要求とずれてきたりして機能不全に陥った地域や空間が、ダブリン市内や周縁部に多く散在している。若手建築家たちは、それら虫食い穴のように空いた「void」を、新たな都市のファブリックへと織り直そうと試みる。周辺環境を分断するハイウェイに高架とトンネルを付加し、交通量の少ない週末は地上のハイウェイを人々に開放する提案や、非人間的スケールの大規模団地開発に、ダブリンの市街地のスケールを取り込んでコミュニティーを再生しようとする試みなど、アンビルドから実際に実現したものまでを等価に並置した展示となっていた。これらは似たような課題を抱える世界中の都市に通じる提案のひとつとして共感できる部分も多かったが、逆にダブリン(アイルランド)特有の問題や手法がもう少し伝わるようなプレゼンテーションであってもよかったのではないだろうか。

アイルランド展示風景
アイルランド展示風景

次にメキシコ。同じサイズの木箱にキッチュな住宅の模型やTシャツ、液晶モニターなどが並び、一見フリーマーケットのような雑然とした印象だが、そこから、大国アメリカと国境を接し、経済的に依存するメキシコの構造的問題が浮かび上がる。アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの映画「バベル」でも端的に描かれていたように、メキシコの非合法移民はアメリカ社会に深く根ざし、二つの国に分かれて暮らす家族は珍しくない。家族が一人、また一人とアメリカに出稼ぎに行き、その仕送りによってメキシコ国内に立派な家が建てられるが、住まうべき家族はもはやそこに集うことはない、という皮肉な状況を「void」と捉えている。ポップな表現のなかに痛烈な社会批評が隠された展示は、各国展示のなかでも出色であった。

メキシコ展示風景
メキシコ展示風景

ほかにも、有名な客家の円形住居に現代性を加味した提案を行なっていた中国や、国内の再開発プロジェクトのパネルと模型を大量に並べたオランダの展示などが目をひいた。

中国展示風景 オランダ展示風景
左=中国展示風景
右=オランダ展示風景

日本チームの4つの「Void」
さて、日本チームの展示について。日本は五十嵐太郎氏をメインキュレーターとし、「『TOKYO REVOLUTION』アーバン・ヴォイドを刺激し、東京を変革せよ」というテーマを掲げ、4チームが東京を題材とした展示を競った。彦坂尚嘉+新堀学チームは、「超一流日本美術を結集させた巨大美術館構想」。ロラン・バルトが指摘したように、東京、いや日本の中心には広大な「void」=皇居が鎮座している。その、都心にぽっかり空いた「void」に、日本美術の粋を集めた巨大美術館を建設するという大胆な提案。国宝級の美術品のカラーコピーが展示用に与えられた壁をはみ出して貼られ、破天荒なパワーを放って圧巻。南泰裕+国士舘大学南研究室チームは、東京都心のリサーチとプロジェクトの提案として、堀や高速道路、緑地といったさまざまな「void」をマッピングし、それらの空間を活用する提案を示した。首都高速道路に絡んで地下から地上を貫いて東京を横断する"Horizontal skyscraper"のパネルと模型は迫力があった。井坂幸恵+田井幹夫チームは、写真家と建築家が二人一組となって東京の住空間を鮮やかに切り取る。そこには、単なる建築写真とは違った私的な空気感が醸し出されていた。北川啓介+宇野享+井澤知旦/NAC(名古屋建築会議)チームは、東京のなかで普段人々に意識されていない場所や現象を「void」と定義し、そこに「パラサイト(寄生)」することで、高密度な空間のなかに大量の人、モノ、情報、エネルギー、廃棄物等が集中する東京ならではの状況をユーモアたっぷりに逆照射する。ポール状の模型はさまざまな仕掛けがなされて、見る人に覗いたりしゃがんだりといったインタラクティヴな行為をうながす。

彦坂尚嘉+新堀学チーム 井坂幸恵+田井幹夫チーム
南泰裕+国士舘大学南研究室チーム 北川啓介+宇野享+井澤知旦チーム
日本チーム展示風景
左上=彦坂尚嘉+新堀学チーム/ 右上=井坂幸恵+田井幹夫チーム
左下=南泰裕+国士舘大学南研究室チーム/ 右下=北川啓介+宇野享+井澤知旦チーム
すべて筆者撮影

印象残す日本の展示
全体を通してみると、第一回ということもあって様子見といった感じの無難な展示が多く、リスボン建築トリエンナーレ独自の色や方向性はまだ見えてこなかった(これから回を重ねることで徐々に出てくることであろう)。そのなかで、上に挙げた国々は全体テーマに対してそれぞれ真摯に取り組み、特色を出していた。とりわけ日本は、各国が全体としてまとまった表現へと収斂してゆくなかで、それぞれのチームが違った切り口で東京を表象し、それらが全体として東京という都市の多様性や力強さをも想起させることにも成功しており、際だった印象を残す展示であった。リスボンを出発する日の朝、テレビのニュースでリスボン建築トリエンナーレがとりあげられ、各国のなかで日本の展示と五十嵐氏のインタヴューがピックアップされていた。一般メディアにとっても日本の展示が関心をひいたことの証左であろう。会期の終わりには参加国から賞が選ばれるとのこと。日本チームが有力な候補であるのは間違いない。

リスボン建築トリエンナーレ公式Webサイト URL=http://trienaldelisboa.sapo.pt

[しみず ゆうじ・愛知淑徳大学現代社会学部都市環境デザインコース・名古屋建築会議]


200706


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