空き家プロジェクトの可能性

山本想太郎

空き家プロジェクト
「妻有」という地域名称は、新潟県南部の十日町市、津南町のエリアを示すものである。稲作を主体とした農業が主要産業であるこの地で2000年に始められた『大地の芸術祭──越後妻有アートトリエンナーレ(http://www.echigo-tsumari.jp/)』も、この夏に第3回目を迎えている。そして今回のトリエンナーレにおける主な企画のひとつとして、『空き家プロジェクト』が展開された。
進行する過疎化(十日町市では年間700〜800人のペースで人口が減少している)、高齢化、そして中越地震や大雪災害など、さまざまな理由によってこの地には多くの空き家や廃校が存在している。このプロジェクトを簡単に説明すれば、居住者を失ったそれらの建物をアート空間として改修し、(必ずしも全物件ではないが)そのオーナーを募る、という企画である。アドバイザーに棟梁・田中文男氏、設計に安藤邦廣氏、中村祥二氏、プロスペクター、そしてもちろん各アーティストといった多くの関係者によって、60余件の空き家でアートが展開される大規模なプロジェクトとなった。私はこの企画に調査段階から参加し、最終的にはアーティスト達とコラボレーションをしながら10数件の改修設計を担当した。その過程で見えてきた地域活性化の可能性と、そこにおけるアートの持つ意味についてここに記したい。

地域とのコミュニケーション
この地における空き家の調査は、まだ中越地震の傷跡が色濃く残る2005年の4月から始められ、情報の寄せられた空き家を訪れて、聞き取り、実測が進められた。ここでまず痛感させられたのは、このような地域における建築行為とは、地域とのコミュニケーションそのものにほかならないということである。ここで建築工事が行なわれ、アートイベントが行なわれ、そして最終的に新たな居住者が来るかもしれないということは、小さな集落にとっては一大事であり、まずそのことを受け入れられるかどうかということが重要となった。これは都市におけるような、表面的なコミュニケーションとはまったく異なった、極端に言うと敵か仲間かというような本能的なコミュニケーションに近いともいえるだろう。このプロジェクトを大規模に実現するために第3回のトリエンナーレを待たなければならなかったのは、まさにそのためであった。

倉谷拓朴氏
職人さんと作業する倉谷拓朴氏

トリエンナーレの総合ディレクターである北川フラム氏は「アートは、赤ん坊のようなもの」と言う。地域、それも民家という一番生活に近い位置に突然アートを挿入することは、住民の方、アーティスト、主催者などが、まるで赤ん坊を育てるように面倒をみなければならないということを意味する。そこにおいて生まれるコミュニケーションにある程度の確信を持って、北川氏はこの企画をたてたのである。アートを受け入れるという最初のハードルさえ越えれば、そこで行なわれる活動によって地域住民と関係者に独特の精神的なリンクが発生するさまを、私も目の当たりにしてきた。実際に、大工や職人はもちろんのこと、その他の地域の方の多大な協力によって製作されたアートも数多い。活動が停止していた空き家という場所に活動の息吹が吹き込まれることだけでも、喜んでくださる住民の方は多かった。そういう意味では、教育研修の場として活動が継続されることになる倉谷拓朴氏の作品《名ケ山写真館》や、みかんぐみによる《BankART妻有》などが今後どのように活動していくのか興味深い。

BankART妻有 名ケ山写真館
左=BankART妻有
右=茅葺き中の名ケ山写真館

来訪者とのコミュニケーション
いわば全員が関係者である地域とのコミュニケーションと比較して、こちらはかなり姿が見えにくい。しかし最終的に家のオーナーとなる、あるいは少なくとも「住む」という感覚でこの場所に接してもらうためには、このコミュニケーションのかたちを想定することが重要となる。
はじめは単なる来訪者としてこの地を訪れた私が、空き家に接して抱いたのは不安感を含んだ「面白すぎる」という印象であった。築年代もバラバラで、中途半端に新建材が用いられているものも多く、古い民家も何度も移築・改築が重ねられてその骨格すら原形をそのまま残すものは少ない。いわゆる古民家とは一線を画するこれらの家は、しかしあまりにリアルな田舎での暮らしと時間をそのまま示していた。つまりそこには強烈なストーリーがすでに存在していたのである。建築家の青木淳氏は《青森県立美術館》の空間において、意匠構成に厳密なルールを設けることによって建築と美術のストーリーの干渉が起こらないように配慮したと述べていたが、ここの民家はまさにその対極のような奔放な状態であった。この場をどう変更すればよいのか、あるいはその必要はあるのだろうか。
アーティストたちも多かれ少なかれ似たような印象は抱いていたようである。アイシャ・エルクメン氏の作品となった《池沢の家》においては、中越地震の傷跡をそのまま残す室内を巡回する通路を設計したが、これなどはそのような感情のストレートな表現でもある。しかしアーティストたちと議論し、建築空間とアートを一体とした改修を進めていくなかで、アートという存在自体が私たちの空き家へのアプローチを大きく助けていることにも気づかされた。特に力のあるアートは、見るものと空き家との距離を急速に縮める作用をする。非日常的なアートによって相対化された空き家は、単に「面白い」という対象から、日常性・身体性をともなった「家」へと還元されるのである。このコミュニケーションの感覚は、人の意識を本来の意味でこの地へと呼び寄せるものとなろう。第1回からこのトリエンナーレに参加しているクリスチャン・ボルタンスキー氏は、その集大成ともいえる《最後の教室》において、かなり具体的に地域の物品を用いた前回までとは異なった、抽象的な「記憶」の表現を行なっているが、これもまたこの地域を身体に吸収しえた結果ではないだろうか。
現代住宅においても、多くの場合その外部への情報伝達は日常性とはかけはなれた形で行なわれざるをえない。ここにおいてアートという存在が示した「日常化」作用は、建築表現における可能性をも拡張しているように私には思えた。

池沢の家 最後の教室
左=池沢の家/右=最後の教室

地域活性化とアート
地域活性化という言葉は、政治・経済的な側面を含め、さまざまな観点で測られる。しかしその根底にあるのは、人がその地域に住むかということであり、ある程度過疎化してしまった地域では、新たな居住者を呼べるかということになろう。
上述した二つのコミュニケーションは、アートの存在が空き家を感覚する窓口となるという点で共通している。そして優れたアートの持つ根源性、本質性は、見るものが都会人であるか地域住民であるかということを超越していく。つまり空家プロジェクトにおいては、地域住民にとっての空き家、来訪者にとっての空き家という本来まったく異なるはずの感覚が、アートという異物の挿入によって同調しうる可能性を示せたと考えている。そしてこの感覚の同調こそ、本当の意味での地域活性化へと繋がる潜在力となるのではないだろうか。

当間高原の小屋 旧三ツ山分校
左=当間高原の小屋
右=旧三ツ山分校

[やまもと そうたろう・建築家http://park16.wakwak.com/~prospector/


200608


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