「東京-ベルリン/ベルリン-東京」展評

暮沢剛巳

1868年に明治維新によって天皇親政が始まった日本と、1871年に帝政が成立したドイツ。この年代的な符合からもわかるように、他の欧米諸国に比べて近代化の遅かった日独両国は、その後もどこか共通点の多い近代史を歩んできた。それは政治のみならず文化についても言えることで、ユーゲントシュティールやノイエザハリヒカイトなどの動向が日本の美術に少なからぬ影響を及ぼした一方、ドイツ美術もジャポニスムから大きなインパクトを受けるなど、両国の相互交流には決して軽んじられないだけの歴史的な厚みがある。にもかかわらず、その影響関係を解明しようとする試みは、今までほとんど為されてこなかった。パリやニューヨークといった他国の都市の陰に隠れて目立たなかった上、両国が第2次大戦での決定的な敗北を喫したこともまた、回顧的な視点の導入を妨げていた大きな要因に違いない。その意味でここに取り上げる「東京-ベルリン/ベルリン-東京」展は、広く文化史的な観点からは長らく待望されてきた企画といえるだろう。

「東京-ベルリン/ベルリン-東京展」
インスタレーション:フランツ・アッカーマン《ゴールデン・トゥリー》 2006
Courtesy: Tomio Koyama Gallery, Tokyo
写真手前:ニナ・フィッシャー& マロアン・エル・ザニ《共和国クラブ》 2002
Courtesy: Galerie EIGEN + ART Leipzig / Berlin

日本とドイツ/相互交流の歩みを概観
本展は全体で11のセクションから構成されている。そのなかでも今回は、都市論の文脈を意識しつつ第3章、第4章、第9章の展観をごく手短に紹介しておきたい。
第3章「美術と建築の新しいヴィジョン」は、後に日本文化の「伝道師」となるブルーノ・タウトをはじめ、エーリヒ・メンデルスゾーンやハンス・ペルツィヒらの建築が鮮烈な印象を残す。第1次世界大戦に敗北した後に登場した彼らの作品は、みな復興への強い意志を内に宿したものであり、そのダイナミックな構造が、従来の伝統の更新を試みた石本喜久治、堀口捨己、滝沢真弓、森田慶一、山田守、矢田茂らの「分離派建築会」にも強い影響を与えたことが看取される。一方、大正デモクラシーの自由な雰囲気に沸き立っていた日本も、1923年には関東大震災で甚大な被害を蒙ってしまう。《帝都大震画報》に再現されたその惨劇はさながら地獄絵図のようでもあるが、その片隅に描かれた浅草稜雲閣は、どこかメンデルゾーンの《アインシュタイン塔》に酷似している。
両者の濃密な参照関係は、第4章「ベルリン・ダダ、東京の『マヴォ』とロシア革命の影響」にも等しく窺えよう。1917年に勃発したロシア革命は、敗戦に打ちひしがれていたドイツにもほどなくして重大な影響を及ぼし、ベルリンには反体制的な気風のダダが一気に花開いた。とりわけ、従来のブルジョワ的な価値観を皮肉ったジョージ・グロス《社会の柱石》の痛烈な嫌味は今にも通じるものがある。そして、この気風を直に味わった1人が、当時ベルリンに滞在していた村山知義であった。このセクションに展示されている一連の村山作品は、23年に帰国した村山が「意識的構成主義」を提唱して前衛グループ「マヴォ」の創設に参画した当時の熱気をたたえているかのようだ。
第1次大戦では明暗を分けた両国も、第2次大戦ではともに決定的な敗北を喫することとなった。第9章「復興の時代」からは、その両国が似たようなプロセスを経て戦後復興を遂げていく様子が伝わってくる。ホルスト・シュトレンペル《ドイツの夜》と古沢岩美《憑曲》は、ともに重厚な画面のなかに終戦直後の沈鬱な空気を凝集しているし、同様の特質がウィリー・レイマーやシャルゲスハイマーの写真にも認められる。当時のドイツ写真は作家の主観性を強調した「サブジェクティヴ・フォトグラフィ」の文脈で語られることが多いのだが、戦後の荒廃した都市景観を凍結保存したかのごとき冷徹なリアリズムは、土門拳や木村伊兵衛のそれにもどこか似てはいないだろうか。
もちろん、他のセクションにも興味を引かれた展示が多かった。「ブリュッケ」や「バウハウス」などの著名な動向に着目するのは当然として、「シュトゥルム木版画展」や「独逸国際移動写真展」といった、一般に広く知られているとは言いがたいイヴェントにもスポットを当て、美術史のみならず都市の交流という観点からもその重要性を指摘していたのも斬新だった。マックス・ベックマン《花》など、個別にも秀逸な作品も多かった。しかし、例えば第5章「モガとモボ」に関しては、ほぼ同時期に横浜・馬車道駅のコンコースを用いて行なわれていた展示のほうが土地の記憶と結びついていた分より鮮烈だったし、第10、第11章にいたっては、両国の現代美術の一方的な紹介にとどまっている観が強く、企画意図が徹底されていないのではとの疑念を拭えなかった。6月のベルリン巡回時に予定されているという大幅な展示替えに際しては、ぜひとも再考して欲しい部分である。なお、このセクションの一角につい先日他界したナム・ジュン・パイクの作品が展示されていたのは、日独両国をまたにかけて活躍したこの無国籍アーティストの業績を回顧できるという点で予期せぬ幸運でもあった。

「東京-ベルリン/ベルリン-東京展」
写真左:佐伯春虹《茶苑》 1936個人蔵、アメリカ
写真右:古賀春江《窓外の化粧》 1930 所蔵:神奈川県立近代美術館

以上2点
「東京-ベルリン/ベルリン-東京展」展示風景
2006年1月28日〜5月7日
写真:渡邉修
写真提供:森美術館

「二都展」の系譜のなかで
2つのメガロポリスを対比し、その芸術交流の軌跡を描き出した「二都展」といえば、かつてポンピドゥー文化センターで実施された「パリ-ニューヨーク」展(1977)、「パリ-ベルリン」展(1978)、「パリ-モスクワ」(1979)、「パリ-パリ」(1981)のシリーズが真っ先に想起される。もちろん、主催者もそのことは誰に指摘されるまでもなく強く意識していただろう。だが、ポンピドゥーのシリーズがいずれも20世紀初頭という比較的短い期間のなかに、二都市間の横断的・越境的な影響関係を探ろうとしていたのに対して、大規模な国際交流イヴェントである「日本におけるドイツ」の一環として企画された本展の場合は、対象としている期間が約120年以上の長きにわたり、扱っている対象もほぼ造形芸術だけに限定されるなど、企画のテンションは明らかに控えめであり、両都市間の交通に独自のパサージュを開こうという意欲は希薄であったように思う。そういえば会場の一角では、《ベルリン8時間観光ツアー》と題する作品も上映されていた。ここに「本展は日独両国の近現代美術にスポットを当てた啓蒙的な展覧会で、関心のある方には是非ドイツにもいらしていただきたいと思います。リラックスして楽しんでください」という主催者のサインを見るのは穿ちすぎだろうか。

[くれさわ たけみ・美術批評]


200603


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