大名古屋展──パラサイトがまちを変える?!

磯達雄

パラサイト・アーキてくちゃ

セレモニー

アングラ

ヴォイド

パチカフェ

写真:清水裕二

展覧会の会場には主催者のひとり、五十嵐太郎氏によるマニフェストが掲げられていた。
「われわれは怒っている。何に? そう、名古屋という現状に」。
あの温厚で知られる五十嵐氏がブチ切れだ。しかも「われわれは」ときた。名古屋に住み始めてまだ2年もたってないのに(このあたりが氏の建築オルグとしての才能なのだろうな......)。
怒りのホコ先が向けられたのは、名古屋の建築文化の、あまりのトホホさ加減である。東京、大阪に次ぐ都市圏なのに、見るべき建築が本当に少ない(だから『建築MAP名古屋』も発行されない)。愛知万博というビッグイベントが控えていながら、完成を楽しみにさせる建築プロジェクトはひとつもない(中部新空港の設計者名を、いったい何人が知っているというのか)。にもかかわらず市は、15年前のデザイン博を実績に「デザイン都市」を気取っている。
自分も、名古屋には大学生のときに5年間だけ住んでいた。だから状況のひどさは理解できる。でも感じていたのは怒りというよりも、絶望だった。
「僕らも仲間うちで『つまらないねえ』と言い合っていたんですよ。でも年齢ももう30代の後半ですから、批判しているだけではダメ。つまらないのは、お前らがつまらないからだろうと返されてしまう」と言うのは展覧会事務局代表を務めた愛知淑徳大学助教授の清水裕二氏。五十嵐氏と同じで、大学の先生として呼ばれ、名古屋で暮らすようになったクチだ。彼らと地元の若手や東京、大阪からのUターン組から、問題意識を共有する建築家、研究者が集まって、名古屋建築会議(NAC)が結成された。1年前のことである。すでに商店街の活性化や雑誌への寄稿などで動き出しているが、今回の展覧会は、彼らの活動を広く一般の人にアピールする最初の機会となる。
サブタイトルは「パラサイトが名古屋を変える?!」。現在の建物やインフラを更地に戻して新しい都市を計画するのではなく、すでにあるものを生かしながら、それに寄生するように都市を変えていこうとのねらいを表したものである。会場は「パラサイト・アーキてくちゃ」「セレモニー」「アングラ」「段ボールハウス」「ヴォイド」「パチカフェ」といったサブテーマから構成され、加えて現代美術の分野から、アー・ユー・ミーニング・カンパニーと池田朗子氏が、都市をテーマとした作品を設置して、展示に奥行きを与えた。
掲げられたサブテーマは、フィールドワークによって発見した名古屋の特性を表わすキーワードである。展示では、その特性を模型や映像を使って表現したり、それをふまえての提案を行なったりしている。
たとえば「パチカフェ」ではパチンコと喫茶店に着目する。名古屋がパチンコの本場なのは有名だが、喫茶店のことはあまり知られてないかもしれない。コーヒーを注文すると頼みもしないのにクラッカーがついてくるとか、モーニングセットがやたらに豪華だとか、名古屋には独自の喫茶店文化がある。展示では名古屋にある喫茶店「コメダ」を紹介。町を歩くとあちらこちらで出くわす大手チェーンなのだが、ドトールやスターバックスとちがって店構えもバラバラで、家具やインテリアも自宅の応接間のようなゆるーい感じ。展覧会の会場には、「コメダ」から本物のソファとテーブルがもちこまれ、独自のまったりとした雰囲気が再現されている。都市文化論では、パリやウィーンで若いアーティストが集まって芸術談義を繰り広げたエピソードをもとに、カフェという施設が象徴的に語られたりもする。だが、これに「喫茶店」を代入すると、一挙に別の都市像が現われてくる。
いっぽう「セレモニー」では冠婚葬祭を取り上げる。名古屋人がド派手な結婚式を挙げるのはご存知のとおりだが、どうせだったら、もっとおおっぴらにやってしまえばと、ここでは名古屋城の空堀や、栄の「オアシス21」といった公共空間で結婚式をやることを提案。また、地下鉄駅と直結した葬祭場など、セレモニー建築のユニークなビルディングタイプを報告している。たとえばサラリーマンが営業に向かう途中で、ふらりとお葬式に寄るなんていうことが名古屋ではどうやら実現しようとしているのだ。しかも壁には、電光ニュースを流すような大きな表示装置が取り付けられている(これでお葬式の日時を告知したりするのだろうか?)。
ふと思う。この建物は東京にあったら、『メイド・イン・トーキョー』に収録されていたのではないか。『メイド・イン・トーキョー』とは、塚本由晴氏らが東京を探して集めた、機能に忠実であるがゆえに逆にヘンテコな格好となって現われた建築群のガイドブックである。しかし名古屋では、どうやらこれは特段、珍しいことではなく、普通に受け入れられているらしい。考えてみると、名古屋には当たり前のようにみんな使ってるけど、じつはおかしな施設がほかにもいろいろある。
たとえば、この展覧会の会場となった愛知芸術文化センターだって、オープンして初めて来たときには、美術館の展示室に至る長いエスカレーターに乗りながら、デパートみたいなところだなあと思ったものだった。これが繁華街の中心に堂々と建っているのが名古屋なのである。もしかしたらこの街は、まるごと「メイド・イン・トーキョー」なのかもしれない。「東京カフェ」だの「メイド・イン・トーキョー」だの、面白いものを見つけると「東京」と付けた名札を貼って、何か新しい発見をしたかのように喜んでしまう人たちは、たまに名古屋を訪れて、驚いたり反省したりしてみるとよいだろう。
大名古屋展は、名古屋を面白くする活性化策を独自の道で探るだけでなく、東京を中心とした都市論のあり方に(ボソッとだが)ツッコミを入れている。その意味で、名古屋人ではない僕にも十分に楽しめる展覧会であった。

★大名古屋展──パラサイトがまちを変える?!
 会期:2003年12月9日(火)-12月14日(日)
 会場:愛知芸術文化センター地下2階アートスペースX
 主催:名古屋建築会議[NAC]
 共催:愛知芸術文化センター企画事業実行委員会
 協力:高橋綾子(キュレーター)

★『10+1』本誌では、31号より名古屋におけるフィールドワークの様子を「大名古屋論」として掲載しております。そちらもあわせてご覧ください。(mdr)

[いそ たつお・エディター/ライター]


200401


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