コンパクトなインパクト──Birkhauser社の新刊をめぐって

大島哲蔵

Transeuropehalles, The Factories: Conversions for Urban Culture, Birkhauser, 2002.

Werner Frey, Post-War Modernity in Switzerland, Birkhauser, 2002.

A Work for Roche Basel: Architecture by Herzog & de Meuron,Wall painting by Remy Zaugg, Birkhauser, 2002.

Peter Sulzer, Jean Prouve Highlights 1917-1944, Birkhauser, 2002.

Hans Zwimpfer, Peter Merian Haus Basel, Birkhauser, 2002.

R 128 by Werner Sobek, Birkhauser, 2002.

von Gerkan Marg and Partner: Architecture 1999-2000, Birkhauser, 2002.

Danielle Pauly, Barragan: Space and Shadow,Walls and Colour, Birkhauser, 2002.

Cedric Price, Re: CP, Birkhauser, 2002.

スイスのバーゼルを本拠に活動するビルクハウザー社の出版物については、これまで何度か言及する機会があった。さして大規模な組織ではないが、的確な出版ニーズの読み込みと高い編集能力で今や建築書出版の名門と言える地位を占めている。タイムリーに売れる本と社会的意義の認められる出版、ロングセラーと少々の実験的企画をうまく組み合わせて、安定した商品ラインアップを実現している。近年のスイス建築界の充実ぶりと合理的で勤勉な業務の遂行が、その成功の背後に認められる。流通に関しての判断も素早い。御承知のようにスイスは未だスイスフランを通貨採用しているが、同社のカタログではすべてユーロ表記に切り換えられている。彼らの出版が先ずヨーロッパ全域をマーケットにしてることからすれば当然の処置とも言えるが、これだけ決断が素早い例は珍しい。

彼らの成功の秘訣は徹底した少人数で担当責任を分担し、ストックや発送業務などでは機械化を早くから推進した点だろう。そして組織体制に弛みやたるみがなく、あくまで需要中心の姿勢の上にネクストマーケットを投企しようとする。成熟した低密度社会は基本的にこうでなくてはならない。会議を何回も開いて一般的な結論しか得られない合議制と、スタッフに年間の出版点数と売り上げノルマだけ課して、後は実績で判断するのとどちらが有利なのかは今や歴然としている。ともかく日本的な出版体質の対極に位置することだけは確かである。

今年に入ってからの新刊で推薦できるタイトルは、先ず『The Factories: Conversions for Urban Culture』(¥7,400)が挙げられる。これはもっぱらモノクロ写真を使って、建築的処理よりもどのような経緯で元工場が文化施設に生まれ変わったのか、その運営はどうなっているのかが解説され、従って日本では余り人気がなかったのだが、重要な論点を提供していることに変わりはない。世界の趨勢はむしろこのような場合でも建築家のイニシアティブを必要としない方向に傾いていることが判明する。そして既にヨーロッパの中小都市では、産業遺跡を改装した文化拠点作り(演劇、コンサート中心)が実績を積み重ねている。

次に『Post-War Modernity in Switzerland』(¥6,240)は第二次世界大戦から70年代初めまでの「谷間の時期」にチューリヒで活躍した4人の建築家を取り上げている。筆者はABC構成主義の「その後」を取材する目的で数年前に当地の建築を見て回った経験があり、その折に本書に紹介されているジャック・シェーダーのフロイデンベルグに建つ州立高校を見学したが、地味ながらも地域の共有財産となる建物で今だに忘れられない。これは広い意味でABCの波及効果の一つで、この時期のモダニズムの更新があってこそ、その後のスイス建築の隆盛が約束されたというわけだ。

『A Work for Roche Basel: Architecture by Herzog & de Meuron,Wall painting by Remy Zaugg』(¥5,670)はポンピドゥーセンターでの展示計画以来、共働を積み重ねているコンビの最新の成果である。建築共々興味深いが、むしろこのような包括的で徹底した建築とアートの関係構築が可能になったところに驚きを覚える。ロッシュ社の寛容さと余裕に少々あきれてしまうが、厳しい企業世界戦略が背後に存在することも容易に見て取れる。

『Jean Prouve Highlights 1917-1944』(¥8,140)も悩ましいタイトルである。この出版は全4巻として刊行中(2巻までが既刊)だが、前半期の作品のハイライトとして再編集された。全集は誰もが好著と認める内容なのだが、少し高価なのと嵩高さに買い控えが目立った。それなら抜粋すれば良いようなものだが、何か本格的に調べたり実際に制作の参考に供する場合には、抜粋では役に立たないことが多い。

『Peter Merian Haus Basel』(¥6,240)は個人的に見逃せない。というのも、これは故ドナルド・ジャッドがボリューム分節や表層トーンの決定をアドバイスした「遺作」に当たるからで、他にロニ・ホーンやフランソワーズ・モレレなどが各所でアート制作している。個人的には何人かの芸術作家を建築設計に関与させるやり方は好きではないが、スイスの近代的ビルのガランとしたたたずまいを考えると、まだしも表情が出て来るのかなと思う。

ヨルグ・シュライヒと並んでドイツの構造設計家を代表するヴェルナー・ソベックが設計したエコハウス(シュトゥットガルト)を紹介する『R 128 by Werner Sobek』(¥4,600)は誰にも薦められる。この必要にして十分な近代的空間は、エネルギーと空気のコントロールを最小限の環境負荷で実現した、今日的テクノロジーの住宅適用に関する模範と言えよう。設計家なら誰でも挑戦したくなる課題をこれだけ高度のレベルで解いた例は、他にほとんど知らない。

大手事務所に勤務する設計スタッフがしばしば参照しているのが『von Gerkan Marg and Partner: Architecture 1999-2000』(¥12,830)である。たった3年間で分厚い作品集が出来上がってしまうという、目を見張る勢いで建てまくっている。まだこれからの出版になるが『Barragan: Space and Shadow,Walls and Colour』(¥11840)は、今年が生誕100周年に当たるバラガンに新しい角度からアプローチする内容とのことだが、類書の多い中でどれ位新鮮な論点が提供できるのだろうか?美しいだけの写真の羅列は、もうそろそろ御免こうむりたいものだ。それから何と言っても面白そうなのが『Re:CP』(¥6,240)であり、Reとはレシピ、CPとはセドリック・プライスである。AAスクールから出ていたモノグラフが大分前に売り切れになった現在、彼の真価を知るにはこのタイトルだけが頼りということになる。紹介記事に載っていた彼の言葉を転記しておくが、このような言い方はなかなか出来るものではない。(英国で一般的なハイテク表現に皮肉を込めて)「テクノロジーは確かに解答なのだが、それでは設問とは一体何だったのか?」

[おおしま てつぞう・建築批評家]


200205

連載 海外出版書評|大島哲蔵

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