ピックアップ・サプライヤーの活用

大島哲蔵

Benthem Crouwel 1980-2000, 010publishers, 2000.

William Turnbull, Jr.: Buildings in the Landscape, William Stout Publishers, 2000.

A+T18: Tony Fretton

Gerhard Richter: Forty Years of Painting, D.A.P./Distributed Art Publishers, 2002

Documenta11 Platform5: The Catalog

Okwui Enwezor

Donald Judd: Late Work, PaceWildenstein, 2002.

Portraits Wolfgang Tillmans, D.A.P./Distributed Art Publishers, 2002.

日本の書籍流通は周知のように、取次ぎ会社という卸業者がかなりの部分まで取り仕切っている。書店も出版社も、便利さと引き換えに特色のある業態(品揃え)を手放したと言えるだろう。余り知られていないが、洋書の卸し会社というのも存在し、最近では商品を直輸入していない「洋書店」が増える傾向にある。つまり独自の取り扱いタイトルが減るわけだが、幸か不幸かその種の洋書を買い求める人も減少している。こうしたシステムは海外では未発達で書店は出版者と直接取り引きしているのが実状だから、品揃えのバリエーションに開きが大きく見て回る楽しみが拡大する。

ただ各国から膨大な数の本が毎日出版されるのだから、一書店の担当者がそれらに眼を光らせるといっても限度がある。そこであるジャンルの新刊に企画段階からリサーチをかけて、一定部数を良い条件で引き受けて世界中の取引先に斡旋するような業態が成り立つ。今のところ建築専門という会社はないが、'Art & Architecture'もしくは'Visual Books'という切り口で活動している2社を今回は紹介してみたい。

こうしたやり方の先鞭を付けた会社がオランダ(アムステルダム)にあるのは、それ自身が興味深い。ヨーロッパの産品や情報を中継して来た地理的、歴史的要因と符合するし、最近の当地での建築表現も同じく媒介的であるからだ。会社の名前は'IDEA BOOKS'といって、以前は社長の個人的コレクションがそのまま取扱い商品にもなるという具合だった。その当時はユニークな出版をゲリラ的に繰り出すマイナーな版元が結構多かったから、こうした中継ぎをしてくれる会社の存在はそれなりに重宝だった。しかし容易に予想されるように、この方式は矛盾を抱えている。つまりこの「中継ぎ」が広く受入れられて各国に伝搬すればする程、ユニークであるはずの商品が陳腐化することが避けられない。

それでもオランダのデザイン界が活性化するのと軌を一にして、この会社の取扱い商品(必然的に多種多様な版元の刊行物)は世界の関連書店の店頭を彩り豊かなものにした。一例を挙げると、以前は一部の有名書店しか扱っていなかった010(ゼロテン)publishers(在ロッテルダム)という個性的な出版社の商品など、今ではかなり普通に見かけるようになった。ちなみに最近の同社の注目タイトルはスキポール空港関連の諸施設で高名な『Benthem Crouwel 1980-2000』(¥10,170)、それに『Droog Design2. Experiences』(¥6,600)あたりだろうか。それ以外の出版社では、少し前のリリースになるが『William Turnbull, Jr.:Buildings in the Landscape』 (William Stout, ¥11,000)が良いと思った。もちろんチャールズ・ムーアと「シーランチ」で共働したあのターンブルの始めての本格的作品集である。

もっと最近のタイトルでは『A+T18: Tony Fretton』(¥4,800)が注目される。これは雑誌(スペイン)の特集号だが、エル・クロッキー並のクオリティを保持している。トニー・フレットンはイギリス建築界の次代を担うホープと目され、アルヴァロ・シザの係流にあると自認しているようだが、私見によるとかなり異なった資質をもつ。またオランダの先年亡くなった聖職者、ドム・ファン・デル・ラーンの設計した修道院を知らない人は、『Dom Hans van der Laan:Complete Works』(Architectura &Natura,¥6,600)を手に入れるべきだろう。アート関連では『Georges Rousse1981-2000』(Bartschi-Salomon Ed., ¥10,050)が興味深く、この人の「廃墟アート」はゴードン・マッタ=クラークの延長線上にあることが確認できる。

よく似たポリシーで健闘しているのが、アメリカ(N.Y.)の'D.A.P./Distributed Art Publishers'で、ヨーロッパの個性的出版社やアメリカの販路の限られた版元をネットワーキングしている。ここのカタログはなかなか出来が良くて、各ジャンルの新刊書に付された解説文を読むとその年度の表現界での動向がある程度まで把握できる。ちなみに最新の'Spring/Summer 2002'カタログのトップは『Gerhard Richter:Forty Years of Painting』(¥14,500)が取り上げられ、この展示会はこの春から来年にかけてMOMAを皮切りに全米を巡回する予定となっている。遂に彼が世界の一級品として認められる時代がやって来たということである。私達がリヒターの薄いカタログを輸入して怪訝そうな顔付きの関係者に紹介し始めてから、もうかれこれ20年が経過している。

5年毎に開催される'ドクメンタ展'は、6月8日から9月15日までカッセルで開かれるが、今回の話題は何と言ってもナイジェリア生まれの黒人アートディレクター、Okwui Enwezorが統括することだろう。そしてそのキーワードは'diaspora(国外離散)'とのことで興味深いが、果して現代芸術祭として成功するかどうかは別問題である。出版は少し先になるが(6月)、事前に発行されるエディションは『Documenta11 Platform5:The Catalog』 (Hatje Cantz,¥9,600)としてまとめられ、展示作品を掲載するヴァージョン『Documenta11 Platform5:The Exhibition』(同、¥8,700, july)も告知されている。

このD.A.P.社も半期ごとに20タイトル程の建築書を扱うが、今期は残念ながら突出したものが見当らない。それでも長らく絶版になっていた『Donald Judd:Architecture』(Hatje Cantz,¥6,700)が3月に再版されるのは朗報だろう。内容も少々見直されるとのことだが、はっきりしたことは記されていない(旧版の邦訳書はキャラリー・ヤマグチで取り扱っている。e-mail:y74@jade.dti.ne.jp, ¥2,500)これまで出版されたほとんどのタイトルが品切れになっているジャッドの新しいカタログもアナウンスされている[Donald Judd:Late Work』(Pace Wildenstein,¥3,900)]。また『Greg Lynn & Hani Rashid:Architectural Laboratories』(NAI Pub., ¥5,700, july)も人によっては注目度が高いかも知れない。ところでニューウエーブの写真家、ティルマンスがポートレート集を出したようで、例図の人物はどこかで見た顔だなと思ったらコールハースその人だった(これがそのまま表紙になるとは限らないが)。最後にそのデータを掲げておく一『Portraits Wolfgang Tillmans』(D.A.P., ¥7,800, march)。

[おおしま てつぞう・建築批評家]


200204

連載 海外出版書評|大島哲蔵

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