オランダ建築界の世界戦略

大島哲蔵

Architecture in the Netherlands: Yearbook, NAi Publishers, 2001.

The Sonneveld House:An Avant-Garde Home from1933, NAi Publishers, 2001.

Meyer en Van Schooten Architects/Vol.1, NAi Publishers

J.J.P. Oud:A Poetic Functionalist1890-1963/The Complete Works, NAi Publishers

Claus and Kaan Architects, NAi Publishers

The Art of Architecture Exhibitions/Presenting Architercture, NAi Publishers

Europan 6; In Between Cities,Architectural Dynamics and New Urbanity, NAi Publishers

The tificial Landscape: Contemporary Architecture, Uruanism , and Landscape architecture in the Netherlands, NAi Publishers

Netherlands Architectural Institute(NAi)──オランダ建築協会(ロッテルダム)の活躍が目立っている。オランダ建築の広告塔とも言うべき団体の提灯持ちをするのは気が引けるが、ここの刊行物は興味深いものが目白押しなので避けて通るわけにはいかない。まず毎年出ている『Architecture in the Netherlands Yearbook』(旧い年度のものは¥6,000位、00/01は¥8,200)だが、これは記録として貴重である他に傾向分析にも活用できる。巻末にはその年度に挙行された主なイヴェント(コンペや受賞を含む)がリストアップされていて、エディトリアルも良くできている。ここが発行する本の体裁はすべて異なり、ブックデザインの実験を抜け目なく兼用している。彼らにとって出版物は建築設計に匹敵する自己表現の機会であり、デザイナーと組んで新機軸を開こうと試みる。タイムリーな展示会や講演会を企画し、それに附随した出版活動も旺盛に展開している。本部の建物は1993年に竣工したが、これはコンペでヨ・クーネンが制したものだ。特徴的なのは図書館なみの資料が揃っていることで、閲覧スペースも実にぜいたくである。明らかにフランクフルトの建築ミュ−ジアム(ウンガース作)とは異なるポリシーを打ち出そうとしているのが解る。この組織の沿革には詳しくないのだが、勢いが出て来たのは80年代ということになろう。多分、産学民協同で上り調子のオランダ建築界をバックアップしようというのだろう。フランスにも同じような組織----Institut Francais d'Architecture----があるが、小回りの利いた展開力に関してはNAiが断然リードしている。

もちろんクールハース効果が大きく貢献していることは間違いない。もともとこの人自身が(実作ではなく)『錯乱のニューヨーク』で認知されたように、印刷媒体による建築表現の重要度を彼が体現したことが、こうした方向性に大きく舵を切らせた。『S, M, L, XL』で彼と協働したブルース・マウの活躍ぶりは最近出版された『Life Style』(Phaidon刊、 ¥11,800)に詳しい。今日活躍している若手(その多くがOMAの出身)の多くも、やはりメディア戦略に長けている。そして建築の情報化というより情報化された建築から巧妙に発信力を引き出すために、この組織が貢献した。こうした動きがかなり政策的に遂行されたことは誰の目にも明らかであり、職能団体が下手に自己宣伝するのではなくプロモート組織に委託していることが成功につながっている。

2001年の新刊で注目されるのは『The Sonneveld House:An Avant-Garde Home from1933』(¥5,400)である。マルト・スタムと組んでファン・ネレ工場(1926-30)を世に産み出したブリンクマン&ファン・デル・フルーフト事務所が、その後どのような作品を設計したのかは興味ある問題だが、今回この住宅(ファン・ネレ工場の幹部だったゾンネフェルト氏の住居)が復元されて'Museum home'一その作業自体もNAiが担当した一となったのを機に資料をまとめて出版されたのがこれである。名作と言われるファン・ネレ工場を設計する上でのイニシャティヴが、スタムにあるのか勤務先の事務所にあるのかはよく取り沙汰されるが、この住宅を見ると一スタムは20年代の終わりにはこの事務所との共働を清算した一ベースに存在した技術力や解決の的確さはこの事務所の持前であり、より大胆な着想の冴えと、極端さも辞さない構えはスタムのものであったことが判明する。ゾンネフェルト邸は、他の国では経済の悪化と全体主義の台頭による建築表現の保守化が顕著であるにも関わらず、健康な質の高いモダニズムを維持している。この国の実質主義はこの時代から一貫しているのだ。

つぎに『Meyer en Van Schooten Architects/Vol.1』(¥9,000)が過激である。内容もさることながら、装丁が常識では考えられないやり方をしている。ここまでやると、なぜそれでも建築なのかとか、よく作品集などという古典的世界にとどまったものだな一と変なところで感心してしまう。もちろん作品の中味(ハイテク系)も決して人後に落ちない出来ではあるが。それから『J.J.P. Oud:A Poetic Functionalist1890-1963/The Complete Works』(¥15,300)が見のがせない。この人はこれまで満足すべき出版物に恵まれなかった作家で、いきなり決定版が出たことになる。アウトについては、前半のスタイリッシュなモダニズムと後半の折衷的なスタイルの齟齬が評価を曖昧なものにして来たが、この本を参照してみれば建築的に一流の実力をもつことは一目瞭然である。

まだ実際には手にとっていない(秋-冬の新刊)のだが、期待できそうなタイトルとして『Claus and Kaan Architects』(¥13,500.-)と『The Art of Architecture Exhibitions/Presenting Architercture』(¥5,400.-)がある。前者は普通に見えるが実は入念な考えに裏打ちされた表現を成就させている興味深い作家で、後者はいかに建築は「展示会」なる形式のもとでコミュニケートされるのかを扱っている。出版企画のタイムリーさと工夫のあるリリースには感心するばかりだ。なお例年フランスから出ていたユーロパンも、今回は扱う内容がオランダ関連ネタであるせいだろうか『Europan 6 ; In Between Cities, Architectural Dynamics and New Urbanity』(¥5,400)としてNAiから出版予定(12月)である。少し前に出たもので改めて推薦したいのはやはり『Yona Friedman:Structures serving the unpredictable』(¥5,400)と、昨年フレークした『The tificial Landscape: Contemporary Architecture, Uruanism , and Landscape architecture in the Netherlands』(¥9,900)で、ここの出版方針は流行りものだけでないということを暗に示してくれている。

日本にこうした建築プロモート組織が見当らないことは驚くべきことである。官庁と業界、そして学会は別の点では常に癒着して来たが、こうした肝心のところでは何の芸もないのである。成功した企業や建築家も個別利害には敏感だが、ここで問題にしている懸案の解決に寄与することが結局は自身を「歴史化する」近道だとは考えない。
そんな知恵のないことでは、世界のマーケットに寄せてもらうことはできても、リードできるわけがない。建築の質やモラルの話以前に、体勢の整備が進んでいないのだから話にならない。

[おおしま てつぞう・建築批評家]


200201

連載 海外出版書評|大島哲蔵

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